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508:急ごしらえの作戦











 『エレノア商会』のメンバーは生産系スキルに特化したプレイヤーが多い。

 戦闘系のみに割り振っている俺からするとあまり実感の湧かない分野であるのだが、どうやらそれだけでもレベルを上げることは可能であるらしい。

 そして、『エレノア商会』は単純なスキルレベルのみならず、純粋な技術力や発想力についても重きを置いている。

 スキルを育てるだけならば誰でもできる。だが、精緻な技術や独特な発想は、個々人の努力の中からしか生まれてこない。

 だからこそ、エレノアが選抜した彼らは、極めて優秀な技術を持った建築家であると想像できる。

 そんな俺の考えは、予想をさらに上回る形で裏切られることとなった。



「……現実感のない光景だな、これは」

「一応、以前に作ったことのあるものだから。設計図があるなら、作業に困るような点はないわ」



 既に三階建ての建物ぐらいの高さにまで組み上げられた物見櫓。

 ここまで組み上げるのに、およそ十五分程度の時間しか要していない。

 本来は一日以上の時間をかけて組み上げるような建造物を、あっという間に造り上げていくのだ。

 単純なスキルの効果だけでは説明できないような光景である。



「見事と言わざるを得ないな、こいつは。何から何まで効率化されている」



 物見櫓の建築資材となっているのは、先ほどシリウスが切り倒してきた森の木々だ。

 彼らはそれをスキルによって材木化し、それぞれの形状をパズルのピースのように加工、そして残るメンバーがそれを組み上げて行っているのだ。

 釘も使わぬその建築方法は、本来精密な計算の上で成り立っているもののはずだが、彼らは材木を一切調整するようなことも無く、スムーズに組み立てているのだ。

 分業化と精密性――これらは、訓練された兵士の動きのようにすら感じられるものであった。



「誉めて貰えるのは嬉しいけど、護衛は大丈夫なのかしら?」

「見ての通りだ。辺りの悪魔は退けているぞ」



 元々、俺たちだけでも悪魔を減らすことはできていたのだ。

 そこに『キャメロット』の戦力が加われば、少なくともこの周囲から敵を退ける程度は造作もない話である。

 後は上空から攻撃してくる敵を警戒するだけだが、そこは俺のテイムモンスターたちに加え、ラミティーズの部隊が応援に駆けつけてくれている。

 少なくとも、今押し寄せてきている程度の敵ならば、これで十分押し返せる戦力が揃っていた。

 それだけ、アルトリウスはこの状況を危険視しているということなのだろう。



「正直なところ、俺は大規模な殲滅には向かない。広範囲に効果を及ぼす攻撃をあまり持っていないからな。その辺はあいつらに任せておいた方が効率的なんだ。それに、突破された時の備えは必要だろう?」

「備えに一番強い戦力を置いておくのもどうかと思うけどね。それより、そろそろ完成しそうよ?」

「早すぎるだろ……作り始めて二十分も経ってないぞ?」



 早く進んでくれるのは都合がいい話ではあるが、驚嘆を通り越してシュールな光景であった。

 ずんぐりとした体格の地妖族ドワーフたちが、まるで飛び回るようにひょいひょいと櫓の骨組みを登っている姿は、最早変な笑いが込み上げて来そうな光景である。

 骨組みの上にはきちんとした足場と屋根が付いた物見台が取り付けられる。

 急造であるにもかかわらず骨組みは頑丈で、跳び回る地妖族ドワーフたちの体重でもまるで揺れる様子が見えない。

 性能だけを重視し、外観など気にしないものが出来上がるのかと思っていたのだが、複雑に絡み合うように組まれ、補強されている様は実に見事であった。



「急いでいるっていうのに、ちょっと凝ったわね……まあいいわ、とりあえずこれで完成。建物効果の発動も確認できたわ」

「そいつは何よりだ。さてと……高玉、準備はいいんだな?」

「ああ……大丈夫」



 エレノアの言葉を聞いて近付いてきたのは、口元を覆面で隠した獣人族ハーフビーストのプレイヤー、高玉である。

 射撃に優れた実力を持つ彼は、その弓ですさまじい距離を狙い撃つことができる。

 彼ならば、離れた森の中であろうとも、標的を狙い撃つことができるだろう。

 まあ、木々が邪魔になるかもしれないが、その時はまずその辺りの木々を破壊してやれば済む話だ。

 どうやら、観測手スポッターとなる索敵特化のプレイヤーも同伴しているらしく、二人体制での狙撃となるらしい。



「中々本格的だな……まあいいか。とりあえず、確認できているゲートの位置は送ってある。まずはそれを発見できるかどうか、確認してみてくれ」



 俺の言葉に頷いた高玉は、観測手スポッターを引き連れて梯子を登っていく。

 相変わらず無口な男であるが、実力は確かだ。その能力は十分に信用していいものである。

 ともあれ、これで前提となる条件を満たすことはできた。

 次は――



「セイラン、こっちに来い!」

「クェエ!」



 次々と雷を落として回っていたセイランは、耳ざとく俺の声を聞きつけてこちらへと降りてくる。

 状況を把握するためには、やはり上空から推移を観察した方がいい。

 高玉の狙撃の結果が、果たしてどのような影響をもたらすのか。

 それを見届けるためにも、俺は降下したセイランの背中へと飛び乗った。

 そしてすぐさまセイランに合図を送り、上空へと舞い上がる。

 高玉たちが物見台まで到着したのは、それとほぼ同時であった。



「よし……まずは位置が分かっているゲートを狙う。リコン、見えるかい?」

「ちょっと待ってくださいね。位置を調整しますから」



 どうやら、観測手スポッターのプレイヤー、鳥の獣人族ハーフビーストはリコンという名前らしい。

 何ともまぁ、そのままな名前を付けたものだ。最初から索敵特化にするつもりだったのだろうか。



「――見えました」



 何らかのスキルを発動しているのか、リコンの目は淡く水色に輝いている。

 その目は一直線に、アリスが発見したゲートの方向を捉えていた。

 俺がそちらを見てもただ森があるだけだが、どうやら彼女の眼には直接ゲートの姿が捉えられているらしい。



「マーキングを共有します」

「了解……僕にも見えた。行くよ」



 リコンからの情報を得た高玉は、成長武器である大型の弓を取り出し、淡く青色の光を纏っている矢を取り出す。

 どうやら、矢そのものも特別製であるらしく、鏃は透き通った結晶のような見た目をしている。

 消耗品にすら金をかけるのは中々に贅沢な話だが、重要な時に使う強力な兵器は準備しておいて損はない。



「《明鏡止水》、《デッドリーショット》」



 弓を引いた体勢で、高玉の動きはぴたりと止まる。

 これだけ大きな強弓だ、引くだけでもかなりの力を使うだろうに、その手には全くの震えもない。

 高玉はほんの僅かずつその照準を調整し――その動きが、完全に止まる。



「――《スペルクラッシュ》」



 そして――その言葉と共に、高玉の矢は放たれた。

 弧を描くように飛ぶ、蒼い軌跡。それは一直線に空を裂き、森の中へと吸い込まれ――



「着弾を確認。ゲート、破壊に成功しました」



 観測手スポッターは、高玉の狙撃の成功を報告した。

 弓を降ろし、けれど高玉は誇った様子もなく止めていた息を吐き出す。

 これ以上ないほどの完璧な成果、だが彼はそれを誇るでもなく、次なる標的へと向けて感情を鎮めているようだった。

 だが、そんな静寂を破るように、リコンの鋭い声が響く。



「っ……索敵に感あり! 森の中から、悪魔の群れが出現しています!」

「……クオン、貴方の方で対処を」

「了解。そちらは狙撃に専念してくれ。分かりやすい反応をしてくれたおかげで、ゲートの位置は探りやすくなっただろう?」

「ああ、僕にとっては都合がいい。出来る限り急ぐから、それまで敵を防いでくれ」



 どうやら、ゲートを一つ破壊されたことにより、悪魔たちは急ぎ攻勢を開始したらしい。

 厄介な状況ではあるが、おかげでゲートの位置は割り出しやすくなった。

 高玉ならば、一つ一つゲートを破壊していってくれることだろう。

 それをすべて完了させれば、こちらの勝利は一気に近付くはずだ。



「緋真、分散していく! 異常があればすぐに知らせろ!」

「了解! パルジファルさん、この辺りは任せます!」

「承知しました、ご武運を!」



 物見櫓の護衛はパルジファルたちに任せ、俺たちは周囲へと分散する。

 ゲートから悪魔が出現し始めたということは、この集落が包囲されているということだ。

 逃げ場は既に存在しない。ゲートを破壊しない限り、無尽蔵に増え続ける敵と戦い続けることになる。

 こちらも大量の戦力がいるとはいえ、いずれは息切れしてしまうことになるだろう。

 それまでに高玉が仕事を果たしてくれることを期待しつつ、俺は東へと向けて飛翔した。











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― 新着の感想 ―
[一言] ナイス高玉リコン! そしてこういう時が一番怖いのは爵位悪魔の襲撃だよねー……
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