491:鬼神の如く
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神殿の手前から、テイムモンスターたちは一斉に空へと飛び出す。
断続的な爆発音は続いているし、どうやら緋真たちは上手いことあの悪魔を相手に足止めを成功させたようだ。
その努力には、こちらもしっかりと報いなければなるまい。
そこそこに距離がある中、真っ先に蒼い髪の悪魔、エリザリットへと突撃したのはセイランだ。
嵐を纏いながら飛翔し、雷を帯びた爪をエリザリットの頭へと振り下ろす。
「うざっ……もう戻ってきたの?」
だが、エリザリットはあっさりとその攻撃を受け止めてしまった。
正確に言えば、攻撃を受けつつその衝撃を吸収し、柔らかく後方へと移動したのだ。
どうやら、奴の周囲には薄い膜のようなものが張られており、それが攻撃の威力を吸収してしまったらしい。
よく見れば、それは水の膜であるようだ。
「水属性の魔法使いか。正直、あまり戦ったことは無いな」
餓狼丸を抜き放ちながら、それの姿を眺める。
正直、悪魔は外見ではその能力を捉え切れないのだが、接近戦にはあまり秀でてはいないように見える。
だからこその、常時纏っている防御魔法なのだろう。
どの程度の強度なのかは分からないが――
「ガアアアアアアアアアッ!」
「あっぶな!?」
頭上から振り下ろされたシリウスの尾は、流石に更なる防御を張らなければならなかったらしい。
水の障壁によって攻撃を受け止めたエリザリットは、そのままさらに水の魔法を展開してシリウスを撃ち抜こうとし――その体を、巨大な光線が飲み込んだ。
ルミナが放ったそれは、エリザリットの体を障壁ごと飲み込み、後方へと向けて吹き飛ばす。
その様子を確認し、俺は大きく声を上げた。
「緋真、アリス、お前たちも行け! クエストを終わらせて来い!」
「っ、了解!」
二人で足止めをしていたとはいえ、アリスは正面切っての戦闘には向かないし、まともに相手をしていたのは緋真だけだろう。
そのせいもあってかそれなりにダメージを受けている様子であるが、戦闘を継続するのに支障は無いようだ。であれば、ここで体勢を立て直すべきだろう。
エリザリットが弾き飛ばされた隙を狙って神殿へと向かっていく二人を見送り、俺は改めてエリザリットの姿を見上げる。
ルミナの魔法の直撃を受けた悪魔であるが、どうやら周囲の膜を剥がす程度にしか効果は無かったらしい。
緋真たちも、ほぼほぼダメージは与えられていないようではあるが、まあ生き残ることを優先していたのであれば仕方のない話だろう。
「チッ……さっきといい今といい、良いところで余計なことをしてくれるじゃない」
「知ったことじゃないな。そもそも、余計なことに首を突っ込んできたのはそちらの方だろう?」
「フン、生意気なことをしてるロムペリアが悪いんじゃない! それで、あいつはどうなったの? バラバラに砕け散っちゃったのかしら!?」
どうやら、元々仲間であると言っても、そこに仲間意識などは無いらしい。
まあ、別に何でもいいのだが。こいつらの関係に興味などないし、そんなことを気にしている場合ではない。
だが、その勝ち誇った笑みを崩してやるのは面白そうだと、俺は笑みと共に左手の親指を立てて後方を示した。
女神の神殿の方角――そこにあるのは、神殿の扉の横で壁に背を預けてこちらを見ているロムペリアの姿だ。
しかし悪魔としての姿は失い、人間の一種族となった彼女は、エリザリットの視線を受けて挑発的に笑みを浮かべながら手を振っていた。
「は……?」
その姿を目にし、少女の姿をした悪魔は呆然とした表情で目を見開く。やはり、ロムペリアが真化に成功するのは予想外だったのだろう。
そんな姿に思わず口角が歪むのを感じながら、俺は動きを止めているエリザリットへと告げた。
「何故山を覆っていた雲が晴れていたと思う? 何故、この地を護る女神の眷属たる霊獣の姿が無かったと思う? 女神は最初から、ロムペリアを受け入れるつもりだったのさ」
無論のこと、女神とてただでそれを認めたというわけではないだろう。
ロムペリアが真化を行うに足るだけのリソースを自ら集め、その上で正式に試練を受けたからこその結末だ。
ロムペリアはそれだけの努力を重ね、その結果として今の結末を勝ち取ったのだ。
「人間になったからといって、これまでの経験が消えるわけじゃない。これまでに成したことは全て、あいつに返ってくる時が来るだろう。だが――それでも俺は、ロムペリアを一人の人間として評価しよう。悪魔、お前たちのようなゴミではなく、敬意を表すべき存在であるとな」
あの結論に達するまでに、多くの葛藤があったことだろう。
マーナガルムとの戦いや、帝国の北で俺に警告をしてきたとき――それ以外にも、多くの経験を積んできた筈だ。
元を辿れば、アルファシアでの出会いから始まっていたのだろう。それらの軌跡の全て、輝くほどの価値ある道筋だ。
「ロムペリアの歩む道には、最早お前は関係ない。指を咥えて見ていればいいのさ」
「……決めたわ。アンタは私が殺してあげる」
「初めからそのつもりだろうに。御託を並べているから隙が生まれるんだ――そんな風にな」
「グルァアアアッ!」
――瞬間、魔力を纏ったシリウスの尾が振り抜かれた。
流石に魔力の集中によってエリザリットも気づいた様子であったが、その一撃の効果を知っている筈もない。
軌道を読んで回避した筈のエリザリットは、シリウスの尾から伸びた魔力の斬撃をまともに受けて、雪原へと叩き付けられた。
魔法によってある程度防いではいた様子であったが、ダメージは免れないだろう。
「さてと、それじゃあ早速試してみるとしようかね――《夜叉業》!」
種族スキル、《夜叉業》。その効果は、回復魔法を受けなくなる代わりの攻撃力大幅強化。
その強化幅がいかほどであるのかは、目の前の悪魔がいい実験台になってくれることだろう。
スキルの発動と共に、俺の右手が赤黒い炎に包まれる。どうやら、真化の際に腕に刻まれた紋様が炎を発しているようだ。
その炎は餓狼丸にも伝わり、まるで血を帯びたかのような色に染め上げられる。
そして、額にはわずかな違和感――どうやら、額の上あたりから同じ色をした魔力の角が生えているようだ。
これ自体には意味が無いようだが、鬼の種族らしい要素ということなのだろう。
「【アダマンエッジ】、【アダマンスキン】、【武具神霊召喚】、《剣氣収斂》――さあ、行くとするか」
歩法――烈震。
雪煙を吹き飛ばし、水球を周囲に浮かべるエリザリットが姿を現す。
その小柄な体へと、俺は一切の容赦なく餓狼丸を振り下ろした。
瞬間、エリザリットは水の膜のような防御魔法を展開し――俺の刃は、水の膜を一撃で斬り裂いた。
「っ……!」
鋭い一閃は、先程のセイランの時のように後方へと弾かれることも無く、水の膜を斬り裂いてエリザリットの肩口へと刃を届かせた。
餓狼丸の刃は、《練命剣》や解放の力を乗せていないにもかかわらず、侯爵級悪魔にダメージを与えてみせたのだ。
どうやら、かなりの攻撃力上昇となっているようだ。
「人間、風情が……!」
「お前たちは人間を舐め過ぎなんだよ、悪魔風情が――《蒐魂剣》」
近距離で炸裂する水の魔法。
俺は即座に《蒐魂剣》で斬り裂いたが、生憎と衝撃までは殺し切れずに後方へと弾かれる。
そして、それと共に渦を巻くような水の刃が弧を描きながらこちらへと迫ってきた。
歩法――陽炎。
それらを回避しながら再び接近しようとするが、弾幕のように水の魔法が迫ってくる。
この悪魔は魔法に優れるタイプであるらしく、放つ魔法の量はこれまでの悪魔の比ではない。
生意気なガキにしか見えないが、侯爵級悪魔というだけはあるか。
「グルルル……ッ!」
だが、それらは俺に到達する前に、割り込んだシリウスによって受け止められた。
当然ダメージは受けたが、シリウスの体力の総量から比較すれば大したダメージではないだろう。
「まだまだだ、あいつらが戻ってくるまでに音を上げるんじゃねぇぞ」
シリウスの体を陰にしながら、エリザリットへと向けて駆ける。
まだまだ、新たな力の試しは済んでいない。侯爵級を相手にどこまで戦えるか、しっかりと試させて貰うとしよう。