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472:騎獣の成長











 シリウスの進化後、その戦闘能力を確かめるために一度だけ魔物との戦闘を試みてみた。

 結果としては、最早ルミナによる介護がほぼ必要無くなるレベルでの強化だったと言えるだろう。

 シリウスは、ほぼ単騎で五体の魔物を相手取り、全滅させてしまったのだから。

 鱗の強度は以前よりも上昇しており、また肉体そのものの頑強さも増している。魔法抵抗力が向上したこともあり、並の魔物の攻撃ではびくともしない耐久力を手にしているのだ。

 そして、攻撃力については言わずもがな。相変わらず魔法攻撃は持っていないため、物理に耐性のある魔物を相手にするのは苦手のようだが、その耐性を貫くだけの攻撃力は手に入れたようだ。



(伯爵級までだったら、《化身解放メタモルフォーゼ》を含めてシリウスだけで相手をすることができるかもな)



 無論相性はあるだろうが、シリウスだけで圧倒できてしまう可能性は十分にある。

 流石は真龍、規格外の強さを誇る怪物だ。

 まだまだ先は長いが、今後の成長も存分に期待させて貰うとしよう。



「さてと……そろそろ騎獣を確かめに行くか」

「今日もそろそろいい時間ですしね」



 シリウスのレベル上げでそれなりに時間を使ってしまったし、騎獣の件を確かめたら今日はログアウトしておこう。

 そう決めた俺たちは、さっさとベーディンジアの牧場へと転移を行った。

 ちなみにではあるが、流石にシリウスは従魔結晶に戻している。

 今のシリウスは、大型の観光バスを優に超えるサイズとなってしまっている。

 人通りの少ないアドミス聖王国の街でもそのままでは外に出せないのだから、他の国では尚更だ。

 それに、あの巨体を誇るシリウスを牧場で表に出していたら、調教中の騎獣たちが恐慌状態に陥りかねない。

 《小型化》を使っていてもレッサードラゴン並みの大きさになっているし、他の騎獣たちを変に刺激しない方がいいだろう。

 それほどまでに、真龍の持つ力は強大なのだから。



(……まあ、シリウスがいようといまいと注目を浴びることには変わりないんだが)



 牧場には、騎獣を購入しに来た後発のプレイヤーたちの姿が見て取れる。

 だが、この場で多いのは、やはりベーディンジアに雇われている調教師たちだろう。

 そして、騎獣に関する知識を持つ彼らは、当然ながらセイランが尋常な魔物ではないことを見抜くことができるらしい。

 セイランを一目見た彼らは、一様に驚愕の声を上げながら硬直することとなった。



「ずっと連れ歩いてるからあんまり実感がありませんでしたけど……ワイルドハントって伝説上の魔物なんですね」

「俺もあまり意識はしていないからな、奇妙な感覚だ」



 ワイルドハントは特殊な進化条件を満たすことによって辿り着いた種族だ。

 あの試練を乗り越える必要があるだけに、やはりそうそう目にすることができる存在ではないということか。

 まあ、注目を浴びることには慣れているため、変に行動を阻害されない限りは咎めるつもりもない。

 さっさと緋真の騎獣について相談したいところではあるが、果たして悩みを解決することは可能なのか。

 それと、そもそも誰に相談すればよいのか――そんな悩みを抱いていたちょうどその時、前方から見覚えのある姿の人物が歩いてくるのが目に入った。

 否、正確に言えばその人物に見覚えがあるわけではない。覚えているのは、その人物が着ている服装だ。



「やあ、異邦人の人。凄い騎獣を連れているね」

「ああ……あんたは、従魔の巫女の一人ということでよろしいか?」

「うん、その通り。ま、規則で名前は明かせないから、適当に呼んでよ」



 以前この国で戦った時に話は聞いていたが、従魔の巫女は複数存在する。

 単純に言ってしまえば魔物に好かれやすい体質をした人間の集まりなのだが、どうやら彼女がそのうちの一人であるらしい。

 以前の巫女もそうだったし、名前を明かせないことについては今更聞くこともない。

 重要なのは、彼女が俺たちの悩みの解決に適した人物であるということだけだ。

 ボーイッシュな赤髪の巫女に、早速悩みを打ち明けてみることとしよう。



「では巫女殿、騎獣のことについて少し相談に乗っては貰えないか?」

「構わないけど、それほどの騎獣を持つ君が悩みかい?」

「持つが故に、ってところだけどな」



 言いつつ、俺は緋真へと合図を送る。

 目配せを受けた緋真は、小さく頷いて己の騎獣を呼び出した。

 何だかんだで長い付き合いとなっているペガサスは、随分と酷使されているが、それでも緋真に懐いている。

 そんなペガサスの様子を見て、従魔の巫女は嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 どうやら、騎獣を大切に扱う相手は好印象であるらしい。



「俺は《テイム》を持っているから騎獣も成長しているんだが、こっちの弟子の方は騎獣契約なものでな。流石に、ペガサスではワイルドハントについていくのは難しくなってきたんだ」

「ああ、それはそうだろうね。ペガサスは優秀だけど、伝説の魔物と比べてしまうのは流石に可哀想だ」



 俺の言葉に、従魔の巫女は苦笑交じりにそう返答する。

 そもそも、ワイルドハントの機動力について来れる魔物がどれだけいるのかという話だ。

 魔物のレベルとしても低いペガサスと比較すること自体が間違っている。

 だが、一緒に飛ぶ以上は気にしなければならない点なのだ。

 この問題を解消しなければ、緋真の空中戦における戦闘能力を向上させることは難しいだろう。

 そんな俺たちの悩みに対し、従魔の巫女は得意げな表情と共に声を上げた。



「だけど、機動力という話なら、何とかする方法はあるよ」

「ほう……是非聞きたい、どうすればいいんだ?」

「騎獣は、ある程度の経験を積むと能力を強化することができるんだ。勿論、それはテイムモンスターの成長や進化に比べると大きな強化とは言えないけど……それでも、一点に集中すればそれなりの強化にはなる筈だよ」



 従魔の巫女が告げた言葉に、俺は目を瞬かせてから緋真へと視線を向けた。

 俺は《テイム》を使っていたため関係のない話ではあるが、緋真は最初から知っていたのかと。

 そんな俺の視線に対し、緋真は少し困ったように眉根を寄せつつ声を上げた。



「一応、調べた時にそんな話があったのは確認していますけど、大きな上がり幅にはならないから買い替えた方が確実と言われてましたよ」

「うーん、それはちょっと正確じゃないな」



 だが、従魔の巫女は緋真の言葉に対し、あっさりと首を横に振った。

 緋真が持っていた情報は、ホームページなり掲示板なりで調べてきたものだろう。

 騎獣はかなりの数のプレイヤーが利用しているし、それなりに確度の高い情報が集まっていると思うのだが。

 しかし、相手は騎獣の専門家である従魔の巫女。その情報の方が確度は高いだろう。そう判断し、俺は従魔の巫女の言葉に耳を傾けた。



「騎獣の強化は、攻撃力、機動力、耐久力に対して能力値を割り振ることで行うんだ。能力値の量がどのように決まるかは単純で、騎獣に乗ってどれだけ戦闘を行ってきたかに影響される」

「あー……異邦人は騎乗戦闘をあまり行っていないのか」

「そのようだね。君たちはどうも、馬上での戦闘を習熟していないようだ。それに、より上位の騎獣に買い替えた方が効率的であるというのも、決して間違ってはいないからね」



 巫女の言葉に、成程と頷く。

 馬上での戦闘は、正直かなり難しい。俺でも、正直積極的に行いたいとは思えない戦いだ。

 無論、騎兵での突撃が強力であることは理解しているが、現代でそんな技術を持っている人間は滅多にいないだろう。

 そう考えると、『キャメロット』の騎兵部隊はどうやって集めてきたのかと疑問に思ってしまうが、今そこは問題ではない。

 とにかく、そういった理由で多くの能力値を得られた騎獣がこれまであまりいなかったということなのだろう。



「だが、そのペガサスはかなりの経験を積んできている。これならば、その子に多くの能力値を割り振ることができるだろう。流石に、ワイルドハントには及ばないだろうけどね」

「成程な……ちなみに、ペガサスの上位種は購入可能だったりするのか?」

「いや、何しろペガサスになった時点で引く手数多だからね。そこまで成長させられるほどの時間は無いんだ」



 どうやら、俺たちに取れる手段は、その騎獣の能力成長しか無いようだ。

 どの程度の成長になるのかは分からないが、決して無駄になるようなことはあるまい。

 素直に、その提案を受け入れることとしよう。



「説明感謝する。それで、どうやったらその能力値を割り振れるんだ?」

「それは我々、従魔の巫女の仕事さ。必要とあらば、この場でそのペガサスを成長させよう。当然、お金は頂くけどね」



 その言葉と共に、緋真の目の前に設定のウィンドウが表示された。

 どうやら、それでポイントを割り振って能力を成長させられるらしい。

 ポイントを変動させるごとに必要となる金額も示されているようだが、そこまで大きな値段ではないようだ。



「ふーん……まあ、機動力特化でいいですよね」

「そうだな。中途半端に耐久力を伸ばしてもあまり意味は無さそうだ」



 何しろ、相手にしているのが上位の悪魔ばかりなのだ。

 セイランですら、直撃を受ければ落とされてしまうであろう火力。多少ペガサスの耐久力を底上げしたところで、直撃に耐えられるはずがない。

 であれば、全力で機動力を高めて、相手の攻撃を躱すように動いた方が効率的だろう。

 俺の言葉に、緋真は納得した様子で頷いて、ペガサスの能力成長を決定させた。



「……うん、よし。これで君のペガサスは成長した。これからも、その子のことを大切にしておくれ」

「はい。何だかんだで、結構愛着もわいてますから。一緒に頑張ります」

「それがいい、よろしく頼むよ」



 料金を受け取った巫女は、そのままひらひらと手を振ってこの場を去っていく。

 前に出会った巫女とは随分と性格が異なっていたが、能力には遜色ないようだ。

 ともあれ、これで目的を達することはできた。明日は早速、成長したペガサスを試してみることとしよう。











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― 新着の感想 ―
[一言] >やあ、異邦人の人 この巫女はフランクですねw >『キャメロット』の騎兵部隊 馬スキーと騎乗スキーの集まりという感じ? いやもしかして元の世界でのプロってのもあるのか? >ペガサスの上位…
[一言] ペガサスは愛玩動物ではなく軍馬の類ですからね 愛着はあっても能力が環境に届かないなら鍛えるか変えるか 碌に鍛える手段はないが共通認識でしたので当然の判断かと 捨てるのではなく活躍できる環境の…
[良い点] この情報で掲示板が「また師匠(パーティー)か」ってなりそうですね
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