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464:麓の集落跡











 霊峰の麓、登山道の入口にある集落。

 村というには小さく、ただ単純に、山に登る際の準備をするための集落といった風情だろう。

 だが、そんな小さな目立たない集落であるにもかかわらず、そこには徹底的な破壊の痕が見て取れた。

 この状況を見るに、悪魔共は手加減などなく本気でこの地を潰しにかかったものだと考えられる。

 かつての聖都シャンドラを思わせるこの様相に、俺は無言で眉根を寄せた。



「もともと人が常駐していたのかどうかは知らんが……これは、生き残りはいないだろうな」

「何でそう思うんですか?」

「この攻撃跡だが、家が内側から爆散したような状態になってる。上空から攻撃し、屋根を貫通して室内で爆発した痕跡だ。つまり、少なくとも上空から襲撃してくる戦力がいたことになる」



 この状況で航空戦力を相手にしたとなれば、まず逃げることすらままならない。

 集落の周りには同様の破壊跡がないことから、逃げる相手への追撃は無かったものであるとも考えられる。

 予想では、上空からの攻撃を含む奇襲、それによって逃げる間もなく壊滅したといったところか。

 仮に生き残りがいたとすれば、目を盗んで森に逃げるぐらいしかないだろうが――どちらにせよ、その痕跡を探すことも追うこともできはしない。



「火の魔法ではなかったことは不幸中の幸いだが……これじゃあ、ロクな情報は残ってないだろうな」

「広くはないんだし、探すだけ探してみたら? 運が良ければ何かしら残ってるかもしれないわよ」

「ま、そうだな。シリウス、セイラン、でかい瓦礫は集落の外に持ち出してくれ。細かい部分は俺たちで調べてみる」

「クェ」

「グルルッ!」



 俺の指示を受けて、シリウスとセイランが動き出す。

 シリウスは器用に前足を使って、セイランはその嘴で瓦礫を咥えて空輸していく。

 セイランはともかく、シリウスはまるで重機のような効率だ。

 この光景をエレノアに見せたら、シリウスに手伝いをさせるよう依頼してきそうなところである。

 まあ、シリウスの手は鋭い鉤爪が付いているため、瓦礫を片付けるのはともかく建材を持ち運ぶには向かないのだが。



「さて、手分けして探すとするか」

「具体的には何を探します?」

「アイテムの類はいいから、資料だな。本とか紙とか、残っているかどうかは分からんが、とにかく情報が欲しい」



 尤も、その資料を俺たちが活かせるかと聞かれるとそうでもないのだが。

 とりあえず概要程度は確認し、後はアルトリウスに丸投げしておけばいいだろう。

 まずは、シリウスがざっと大きな瓦礫を片付けた建物から確認する。

 ここは上空からの魔法攻撃が直撃したらしい場所で、内部は地面まで抉れているような状況だ。

 この威力からして、少なくとも伯爵級以上の悪魔によって襲撃を受けたものであると想像できる。



(この小さな集落を潰すのに、伯爵級ねぇ……)



 男爵級や子爵級――いや、それこそ名無しの悪魔ですら十分だと思われるような規模の集落に、伯爵級の投入。

 それほどの実力者が常駐していたのか、或いは悪魔たちがこの地をそれだけ重要視していたのか。

 まあ、この山の重要度を考えると、それもあり得なくはない話だとは思うが。



「ふむ……流石に、直接爆破された家だと何も残ってなさそうだな」

「紙くずとかはありますけどね。粉々ですよ、粉々」



 緋真の言う通り、元は本だったと思われる残骸が散乱している。

 生憎と、このありさまでは情報を読み取ることは不可能だろう。

 伯爵級クラスの魔法攻撃を受けたのであれば、それも当然だろうが。



「そうなると、狙い目はある程度原型を残している建物ですかね?」

「ああ、屋根は吹き飛んでいるが、壁はある程度残っているのもあるからな。まあ、期待できるかどうかはまた別の話だが」



 恐らくは横から攻撃を受けたであろう家は、屋根が吹き飛んでいるがそれ以外の部分は残っている。

 あれならば、何とか家の中のものが残っている可能性はあるだろう。

 とりあえず、最初の家を一通り確認し――けれど、目ぼしい情報は得られないままその場を離れた。

 やはり、爆散してしまっている家からは何も得られない可能性が高いか。



「あまり広くはないし、手分けした方が良さそうではあるな」

「片付いている所ならいいですけどね……もう撤去されてるところあります?」

「ああ、一つか二つぐらいは片付いているようだぞ」



 シリウスが大きい瓦礫を、セイランが中ぐらいの瓦礫を運び出すことで、近くにある家はある程度片付いている状況だ。

 そちらは屋根と正面の壁は崩れているが、それ以外の部分は残っている状況である。

 また、その隣は七割方消し飛んでいるが、残りはまだ原型を留めている部分もあると言ったところか。

 あちらの方が探す部分は少なそうだし、俺が担当することにしようか。



「よし。緋真とアリスはあっちの原形をとどめている方を探してくれ。ルミナはシリウスとセイランに片付ける場所の指示だ」

「お父様のお手伝いをしなくてもよろしいのですか?」

「あれぐらいの規模なら何とかなるさ。それより、次に探す場所を片付けておいてくれ」



 それほど広くないとはいえ、片付けにはそれなりに時間がかかる。

 より効率的に動くには、全体を俯瞰して確認できる者がいた方がいいだろう。

 そちらについてはルミナに任せつつ、俺は一部が残っている家の方を探索する。

 大きな瓦礫が片付いているとはいえ、中は砕けた壁やら屋根の破片でごちゃごちゃの状態だ。

 これを細かく調べるのは、中々骨が折れるだろう。



「本棚でも残っていればいいんだが……流石に、そう上手くはいかないか」



 破壊された建物であるが、徹底的な破壊というわけではない。

 恐らく、この場にいた現地人を狙ったものであるのだろう。

 建物やこの集落そのものの破壊ではなく、人間を狙うというのは、リソース集めを行う悪魔らしい動きだ。

 許しがたいことではあるが、それは奴らの習性でもある。

 俺たちの手の届かなかった場所で行われたことは防ぎようもないし、起こってしまったことは甘んじて受け入れる他ないだろう。



「お父様!」

「っと……どうしたルミナ、何かあったか?」



 今はこの場にはいない悪魔への怒りを募らせていたその時、上空から声がかかった。

 輝く翼を羽ばたかせたルミナが、少し慌てた様子でこちらにやってきたのだ。

 不測の事態が発生したかと思ったが、周囲に敵の気配を感じるわけではない。

 果たして何があったのかと、ルミナへ向けて問いかければ、彼女はある方向を指差しながら続けた。



「先ほど瓦礫をどかしたところから、気になるものが出てきました。見てください!」

「ふむ……分かった、案内してくれ」



 ルミナの様子からも、尋常ではないものを見つけてしまったことが分かる。

 果たして何があったのか、若干の不安を覚えつつも俺はルミナの示した方向へと足を進めた。

 そちらにあったのは、念入りな破壊が行われたと思われるクレーターだ。

 他の家とも違う、人間を狙ったものとは思えない攻撃の痕跡。

 一体何が起こったらこんなことになるのかと眉根を寄せ――そこに、ルミナが再び声を上げた。



「その中心です、お父様」

「中心? あれは――」



 ルミナが示したクレーターの中央には、確かに何かが埋まっているようであった。

 何か黒い物体。何かが砕けた破片のようなもの。

 それが何なのかと眉根を寄せ――その正体に思い当たった瞬間、俺は息を飲んでクレーターの中へと飛び降りた。

 バランスを崩さぬよう、斜面を滑りながら中央へと向かい、そこに埋まった黒い物体に触れる。

 黒く、硬い岩。砕けた破片の一部だけであるが、元はもっと大きく、これは根元の部分だけが残っているような状態なのだろう。



「これは、石碑なのか」

「はい……破壊された石碑に違いありません。悪魔たちは、石碑を破壊する手段を保有しているようです」



 ルミナの出した結論に、俺は深く溜め息を零した。

 予想していたとはいえ、厄介な事態だ。恐らく、悪魔たちは支配した領域にある石碑をすべて破壊してしまっていることだろう。

 であれば、今後奴らの領域を攻めるにあたり、拠点の防衛は非常に困難になる。

 結局のところ、自分たちで石碑を用意しなければ先へは進めないということだろう。



「……シリウス、この石碑を掘り返してくれ。一部だけでも、何かしら研究の足しにはなるかもしれん」

「グルゥ!」



 鋭い爪を地面に突き刺し、掻き出すように石碑の破片を掘り起こすシリウスの姿を眺めつつ、俺は思考を巡らせる。

 とりあえず、一度戻ったらエレノアにこの一部を渡してみることとしよう。

 石碑が作れるなら御の字、作れなかったその時は――また、考える必要があるだろう。

 この土地の難しさを再認識し、俺は再び深々と嘆息を零したのだった。











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― 新着の感想 ―
[一言] >アルトリウスに丸投げ 大変便利なアルトリウス様w >石碑を破壊する手段 まあ、そうですね、さすがにそう簡単にはいかないでしょうね……
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