452:人魔大戦:フェーズⅠ その20
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切断されて宙を舞う腕とシャムシール。そして、削り取られたゼリオポラリスのHP。
状況は進んだ。だが、だからこそ油断することはできない。
最後のHPのみを残すゼリオポラリスが衝撃から立ち直るよりも早く、俺はすぐさま地を蹴って悪魔から距離を取った。
(状況は――)
ゼリオポラリスからは意識を逸らさぬようにしながらも周囲の気配を捉え、状況を把握する。
巨大なゴーレムの内、一体は俺のテイムモンスターたちが受け持っている状況だ。
どうやら、それに加えてアルトリウスの真龍も力を貸してくれているらしく、見た目はロボットとドラゴンの怪獣大決戦だ。
残る二体は『キャメロット』が受け持っており、こちらに近づいてくる様子はない。どうやら、パルジファルたちが上手いこと誘導してくれているようだ。
問題は、後方より迫ってきている悪魔の群れだろう。相変わらず数が減ったようには見えない大群は、ゼリオポラリスの能力で数を増やしながら向かってきている。
あの群れがこの辺りまで到達すると、流石に厳しいものがあるかもしれない。
――地を揺らすような連続する砲撃音が響き渡ったのは、ちょうどその時だった。
「……エレノアか」
どうやら大砲の角度調整をしていたらしく、今は多くの大砲が北門正面、向かってくる悪魔の群れへと向けられている。
側面の防御をある程度捨ててでも正面に集中するということだろう。
まあ、悪くはない選択肢だ。あの殲滅力ならば、数の増えた悪魔の群れ相手でも十分に通用するだろう。
尤も、消耗品である大砲がどこまで持つのかという不安はあるが。
ここまでさんざん酷使してきているため、限界が近付いて来ていてもおかしくはない。
今は正面を抑えられるが、あまり時間的余裕は無いと考えた方がいいだろう。
「調子はどうだよ、捨て駒悪魔。蹲ってるだけなら、そのまま素直に死んでくれ」
『捨て駒か――ふ、ははは!』
最後のHPバーとなったゼリオポラリスは、俺の挑発に対し哄笑する。
そこに自嘲の色はない。どう考えても捨て駒にされたようにしか思えないこの状況に、ゼリオポラリスはそれでも笑っていた。
『構わぬとも、我らの存在はそれでいい』
「……お前、まさか」
己の存在を、MALICEとしての在り方を理解しているのか。
これまでの悪魔は、純粋にこの世界の人類の敵対者として存在していたように思える。
だが、ディーンクラッドは明らかにMALICEという存在としての意識を持っていた。
そして、それはこのゼリオポラリスも同様ということか。
『貴様らは、何も知らない。なにも理解していない。あの方々のことを――』
「……お前は、何を知っている」
『なにもかも。ふ、ははは……ここで滅び去る方が、幸福だというのに。これは慈悲だ、人間』
ゼリオポラリスの身から、魔力が溢れる。
これまでとはまた異なる魔力の発露。その力に、俺は咄嗟に距離を取った。
だが――
「そう、だから――」
「――ここで潰えた方が身のためだ」
――両側から襲い掛かってきた攻撃に、思わず舌打ちする。
ゼリオとポラリス、分裂した二体の悪魔。こいつらは、また二体に分裂してみせたのだ。
両側から挟み込むような一閃、ただで対処することは難しい。
「《練命剣》、【命双刃】!」
斬法――柔の型、流水・渦潮。
順手に持った餓狼丸と、逆手に持った生命力の剣。
それを手に持ち、体を回転させながら二振りのシャムシールを受け止める。
そのまま回転の勢いに巻き込んで受け流すが、流石にこの状況で完全に受け流すことは難しい。
こちらも、体勢を崩されてしまったが――
「先生!」
「また二人になるとは、性懲りもない悪魔ですね!」
ゼリオとポラリスが俺への追撃を放つ前に、緋真とアンヘルが割り込んできた。
二人からの攻撃を受けそうになった二体の悪魔は、光となって後方へと逃れる。
黒と白の二色の光――それらは後方で収束すると、再び先ほどと同じゼリオポラリスの姿が現れた。
「……また面倒な」
「これがゼリオポラリスの第三段階ってことですか」
要するに、自由に分裂と合体を繰り返せるということだろう。
攻撃を躱すこともできるし、ああいった奇襲も可能。本当に面倒臭い能力を持ち出して来てくれたものだ。
だが、分裂している間は両方のダメージが共有される。ある意味ではチャンスでもあるのだ。
であるならば――
「ランド、頼めるか!」
「ああ、フォローは任せろ」
接近してきたらしいランドに背中を任せ、俺は再びゼリオポラリスへと向かう。
先ほど見た感じ、合体している時のダメージも分裂時の状態に反映されているように思える。
そのため、分裂時も奴らは一振りずつしかシャムシールを持っていない状態だった。
特にゼリオについては右腕を失っている状態であったし、この状態で奴の体に傷を負わせるのには意味があるだろう。
「《スペルエンハンス》、【ファイアジャベリン】!」
初手は、緋真の放つ炎の槍。
真っ直ぐと襲い掛かったそれは、正面からゼリオポラリスの身へと直撃する。
だが、生憎と単純な魔法だけで有効なダメージを与えられるほど、侯爵級悪魔は甘い相手ではない。
無論、緋真とてそれは分かっている。重要なのは、奴の視界をほんの一瞬でも奪うことだ。
「ランド、合わせて!」
「あいよ!」
続けざまに響き渡る、三発の銃声。
それは後方から放たれたランドのライフルと、アンヘルが両手に持った二丁のハンドガンだ。
三発の銃弾は舞い散る炎の中を縫うように、全て同時にゼリオポラリスの顔面へと直撃する。
『ッ……!』
頑丈な悪魔らしい考え方だ。
大してダメージを受けないならば問題ないと軽視し、こうして視界を奪われているのだから。
「『生奪』」
「『ツヴァイ』!」
その視界を奪った一瞬で肉薄した俺とアンヘルは、互いの武器をゼリオポラリスの脇腹へと叩き込んだ。
だが、寸前で視界を取り戻したゼリオポラリスは、二振りのシャムシールで俺たちの攻撃を受け止めた。
《時空魔法》の力、流石の反応速度だ。だが――四つの腕の内の二つを失っている今のゼリオポラリスに、俺たちの攻撃は止めきれまい。
「しッ!」
次いで襲い掛かったランドが、足元から滑るようにゼリオポラリスへと刀での一閃を繰り出す。
それと合わせるように緋真が炎を纏う一閃を繰り出し――再び、ゼリオポラリスの体が分裂する。
それを確認した瞬間、俺とアンヘルは即座に左右へと別れた。
「ただ分かれた程度で――」
「何とかなるとでも思いましたか!」
斬法――柔の型、流水。
こちらへと襲い掛かってくるゼリオの一閃を流水で受け流し、そのまま返す刀の一閃を叩き込む。
しかし、ゼリオは加速した動きで身を躱し、深手に及ぶことを避けたようだ。
だがそれとほぼ同時、ゼリオの身にいくつもの裂傷が刻まれる。
ちらりと見れば、アンヘルが鉤爪の付いたガントレットでポラリスを殴りつけている所であった。
あいつ、本当に色々な武器を持っているな。
「《練命剣》、【命輝閃】!」
「ふん……!」
翻した刃をゼリオの身へと叩き込もうとし――しかし、その体が再び光に包まれる。
それと共に再び現れるゼリオポラリス。そちらへと大剣を持ったアンヘルと双剣を持ったランドが襲い掛かった。
ゼリオポラリスは前方に空間の歪みを発生させ、アンヘルの大剣を受け止める。
だがそれと共に、紅蓮舞姫の刃を青く輝かせた緋真が踏み込んだ。
「《蒐魂剣》!」
《時空魔法》は不可視のものが多いが、見えるならば《蒐魂剣》での対処も可能。
緋真の放った輪旋の一撃により、空間を歪ませる《時空魔法》の防壁を打ち消した。
『な……!?』
「だああああッ!」
その展開を読んでいたわけではなかろうが、アンヘルは躊躇うことなくその大剣を振り下ろす。
ゼリオポラリスは咄嗟にシャムシールでアンヘルの一撃を受け止め――それと同時に襲い掛かったランドの双剣により、左足に裂傷を負うことになった。
そうして僅かに動きの鈍ったゼリオポラリスへと向けて、一気に踏み込む。
歩法――烈震。
がくりと揺れたゼリオポラリスの体。
しかし、奴の目はまだこちらを捉えている。振るう刃からは不可視の斬撃が放たれ、こちらへと襲い掛かる。
だが――
「《蒐魂剣》、【因果応報】!」
『馬鹿な!?』
既に幾度となく目にしてきた魔法、攻撃の命中するタイミングは心得ている。
それを斬り払い自らの力へと変えた俺は、《練命剣》を交えた刃により、硬直したゼリオポラリスの腹を貫いたのだった。





