451:人魔大戦:フェーズⅠ その19
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右側の翼を斬られ、更には配下の悪魔たちを纏めて潰されたゼリオポラリス。
この悪魔の目的は、恐らく俺とアルトリウスを戦場に引きずり出すことだったのだろう。
ディーンクラッドを仕留めるに至った大きな要因は、間違いなく俺とアルトリウスの強制解放だ。
公爵級の怪物すら屠り得るその火力を再び観測しようとするものだったのか、或いはそれを正面から打ち破るつもりだったのか――それがどうなのかは不明だが、ゼリオポラリスの待ち続けていた状況がここにあるのは間違いないだろう。
そして、その上で行使した切り札が、あっさりと覆されてしまったことも。
「さあ、見せてください。貴方に策があるというのであれば――それを、正面から打ち破るまでだ」
『……舐めるな、人間が!』
アルトリウスの言葉に、ゼリオポラリスは大きく反応する。
それと共に発動するのは、未知なる《時空魔法》の魔力だ。
転移や加速、不可視の遠隔攻撃――どれも対処の難しい性質を持つ魔法だが、今度は何をしてくるつもりなのか。
警戒しながら身構えるのとほぼ同時、ゼリオポラリスが掲げた腕の先、空に三つの亀裂が走り、そこから巨大な影が姿を現した。
「ご、ゴーレム……!?」
「やけにメカメカしい姿だな」
そこから現れたのは、金属の体を持つゴーレムであった。
これまでに見たことのある岩石のゴーレムと違い、どこか西洋甲冑じみた外見をしている。
その体の内部からは魔力の光が漏れ、機械のような印象を強めているのだ。
その大きさは城壁の高さとほぼ変わらないレベルであり、恐らく十メートルは越えていることだろう。
『荒れ狂え、木偶人形。そして再び増えよ、我が配下――我が敵を蹂躙せよ!』
「はッ、ようやく分かり易くなったか」
歩法――烈震。
俺は地を蹴り、ゼリオポラリスへと向けて一気に駆ける。
この場には三体のゴーレムが、そして後方からは再び数を増やした悪魔が迫ってきている。
それよりも先に、ゼリオポラリスの動きを止めなければならない。
自身の戦力を転送する先ほどの魔法――これがある限り、奴の戦力はいつまでも尽きることはないのだ。
「シリウス、道を開け!」
「ガアアアアアアッ!」
俺の声を聞き、手持無沙汰な状況となっていたシリウスが力強く駆ける。
向かう先は俺や緋真の前方にいたゴーレム。その銀色の巨体へと向けて、同じく銀色の巨体を持つシリウスが襲い掛かった。
頑強極まりない拳を手で打ち払いながら、その巨体を強引に押し倒す。
だがゴーレムもそうそう容易い相手ではなく、己を押さえつけてくるシリウスを強引に打ち払った。
無論、その程度で諦めるシリウスでもなく、体を起こそうとするゴーレムへと再び襲い掛かる。
少々苦戦はするだろうが、三体の内の一体を足止めできるだけでも御の字だ。
(残り二体は『キャメロット』が攻撃を開始した。ならば――ゼリオポラリスをこちらで釘付けにする)
数を増やした悪魔が距離を詰めるまでには、まだ若干の時間がある。
それまでにゼリオポラリスを仕留めることは不可能だが、釘付けにして動きを止める程度ならば可能だろう。
無論、ゼリオポラリスには転移の魔法がある。ただ逃げるだけならば容易だろうが、奴の目的が俺やアルトリウスである以上、俺から完全に逃げるということも無いだろう。
あるとすれば、それは奴の命脈に刃が届く、その瞬間だ。
『魔剣使い……やはり来たか』
「無論、そのための戦いだ」
ゼリオポラリス相手に、純粋な速さは意味がない。
《時空魔法》による意識加速によって、こちらの動きが容易く捉えられてしまうのだ。
そのせいで、虚拍すらあまり意味を持たないのは個人的に納得のいかない点だ。
故に、俺は――正面から、刃を撃ち込んだ。
斬法――剛の型、白輝。
「シャアアアアッ!」
『ぬっ!?』
強く、地を砕かんばかりに踏み込みながら、一閃を叩き込む。
その一撃にて、ゼリオポラリスの持っているシャムシールの一振りを大きく弾く。
しかし、流石にステータスの高い侯爵級悪魔だ。一撃で相手の動きを止めるには至らない。
ゼリオポラリスは再びこちらへと攻撃を繰り出そうとし――
斬法――剛の型、白輝・逆巻。
返す刀の一撃で、弾いたシャムシールへと一撃を加える。
その瞬間、強烈な剛剣の連撃に耐え切れず、剣の一振りがゼリオポラリスの手から弾き飛ばされる。
その衝撃によってゼリオポラリスの体勢が僅かに崩れるが、それでも奴の攻撃が止まることはない。
対し、こちらは白輝を使ったためすぐには対処できない状況だ。
このままでは、防御できずにゼリオポラリスの攻撃を受けることになるだろう――そう、このままでは。
「――【緋牡丹】」
刹那、炎を噴き上げる緋真の一撃が、ゼリオポラリスの攻撃を迎え撃ちながら爆発した。
互いの距離を強引に開くような爆発に押されてゼリオポラリスの一撃を回避し――着地と当時に、俺は再びゼリオポラリスへと向けて駆けた。
爆発によって体勢を崩していたゼリオポラリスは、煙の中から飛び出してきた俺の姿に、仮面の奥で驚愕したらしい吐息を零す。
武器の一振りは遠くまで弾き飛ばされたようで、未だ奴の下左腕は素手の状態だ。
「《練命剣》、【命輝一陣】」
そんな奴の様子を観察しながら、俺はゼリオポラリスの顔面へと生命力の刃を飛ばす。
光を放ちながら飛翔した一撃は、迎撃のために振るわれたゼリオポラリスの一閃によって容易く掻き消されてしまった。
だが、それでいい。これはただ、ほんの僅かに相手の注意を逸らすだけでいいのだ。
「《奪命剣》、【咆風呪】」
振り下ろした刃から、黒い風が溢れ出す。
強敵相手であろうとも一律で体力を奪い取る呪いの風であるが、今はこの黒い闇こそが重要だ。
歩法――烈震。
迫る黒い風がゼリオポラリスを包み込み、その視界の一部を塞ぐ。
【咆風呪】のエフェクトは決してこちらの姿を完全に包み隠せるほど濃いわけではない。
だが、地面に近いほどその色が濃く、足元はほぼ見えないのだ。
その性質を利用して、俺は倒れ込むほどに体勢を低くしながらゼリオポラリスの横を駆け抜けた。
「《スペルエンハンス》、【インフェルノ】!」
『ち……ッ!』
直後、後方から緋真の放った炎がゼリオポラリスへと襲い掛かる。
対し、ゼリオポラリスは剣の内の一振りを前方へと向けた。
瞬間、奴の空間の前方が歪み、緋真の放った炎を受け止めて、掻き分けるように受け流す。
《時空魔法》による防御。性質までは確かめきれないが、目視できる魔法であれば《蒐魂剣》で対処可能だろう。
「《練命剣》、【命輝練斬】!」
テクニックを発動し、その瞬間ゼリオポラリスの感覚がこちらを捉えたことを察知する。
だが、奴は緋真の魔法を受け止めている最中だ。
その状態からは、こちらを迎撃することなどできはしない。
可能性があるとすれば転移だ。実際、奴もそれを考えて実行に移そうとしたのだろう。
奴がどこに移動するのか、それを捉えるために意識を集中しながら駆け抜け――その瞬間、ゼリオポラリスの体が揺れた。
「――――ッ!」
俺と同じように、黒い風の中に潜んでいたアリスが、一気に飛び出してゼリオポラリスの首へと刃を突き立てたのだ。
そのダメージによって魔法をキャンセルすることになった相手へと向け、俺も姿を現しながら一気に踏み込む。
予想外の場所から現れたアリスと、対処しなければならないと考えていた俺。そして、未だ燃え盛る緋真の魔法と、己が行おうとしていた転移魔法。
四つの要素を眼前に叩き付けられ、ゼリオポラリスは大いに混乱する。
だが、例えどれだけ混乱していたとしても、奴の意識加速はそれを収めるだけの時間を与えてしまうだろう。
――そこに、何の横槍も入らなければの話であるが。
『――がッ!?』
再び響き渡った、遠雷のような狙撃音。
それと共にゼリオポラリスの頭が揺れ、その体が仰け反る。
そのほんの僅かな時間稼ぎは、俺の刃を届かせるのは十分な時間となった。
「おおおおッ!」
斬法――剛の型、輪旋。
翻る黄金の一閃は、ゼリオポラリスの右下の腕を斬り落とすと共に、奴の二本目のHPを削り切ったのだった。





