450:人魔大戦:フェーズⅠ その18
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アルトリウスが前線に出てきたということは、敵軍を駆逐する算段が付いたということだろう。
未だ敵の数が減る様子はないが、ここまで前線を上げられてきているということは、要塞には悪魔を寄せ付けていないということでもある。
まだまだ大砲も投石機も稼働してはいるが、既に白兵戦がメインへと切り替わってきているようだ。
周囲には『キャメロット』の大部隊。倍に増えた悪魔たちすらも駆逐し続ける彼らは、徐々にゼリオポラリスに有利な戦場を覆しつつある状況だ。
一方、その姿を目にしたゼリオポラリスは――
『――聖剣使い。目標確認』
――その言葉と共に、瞬時に姿を消した。
魔力の昂りと共に発動する転移魔法。その兆候を捉えられたのはいいが、奴の動きを止めるには距離が開きすぎている。
拙い、悪魔の目的は俺だけではない、アルトリウスも標的だったのか。
しかし、警告を飛ばす暇もなくゼリオポラリスはアルトリウスの背後へと転移し、その手の刃がアルトリウスの首を斬り落とし――その瞬間、アルトリウスの姿が蜃気楼のように掻き消えた。
『な――――』
「あれだけ転移を見せていたというのに、対策されていないとでも思ったんですか?」
瞬間、先程までアルトリウスが……否、アルトリウスの幻影が立っていた場所に、魔法陣が展開される。
そこから屹立したのは、鋭く尖った岩の杭だ。完璧に位置を調整されたその一撃は、ゼリオポラリスの胸を貫くその寸前で、交差された二振りの刃によって受け止められた。
そしてそれと同時に、先程まで見えていた幻影のすぐ近くからアルトリウスが姿を現す。
「ディーン」
「お任せを!」
アルトリウスの声と共に、燃え盛る剣を構えたディーンが飛び出す。
純粋な攻撃力の高いその一撃を、ゼリオポラリスは体勢を崩しながらもシャムシールで受け止めた。
だが、物理攻撃方面に特化しているディーンの攻撃は、重さそのものだけで言えば俺よりも強力だ。
その一撃により、完全に体勢を崩すことになったゼリオポラリスはその場に膝を突いた。
「《練命剣》、【煌命閃】」
歩法――烈震。
その姿を目にするよりも早く、俺はゼリオポラリスへと一気に踏み出す。
相手の動きが止まっている内に、更にダメージを与えておきたいが――やはり、ゼリオポラリスはこちらを視界に捉えている内は素早く反応してしまう。
だが、ディーンによって押さえつけられている状況では反応しても動けるわけではない。
ゼリオポラリスは攻撃を受け止めているものとは別の刃でディーンを斬りつけ、彼を後退させて逃れようとする。
――しかし、その攻撃は青白く輝く一閃によって弾き返された。
「感謝する、デューラック!」
「礼には及ばないとも!」
ディーンに対する攻撃をインターセプトしたのはデューラックだ。
彼はゼリオポラリスの攻撃を受け止めることはできずとも、その技量があれば弾き返すことぐらいは容易い。
敵の剣は二振りがディーンによって止められ、一振りはデューラックによって大きく弾かれた状況。
残り一振りでディーンを攻撃することもできるだろうが、そうすれば俺の攻撃が突き刺さるだろう。
そう判断したのか、ゼリオポラリスは残る一振りを俺へと向けて振り下ろしてきた。
歩法――陽炎。
無論、ただ真っ直ぐに振るわれるだけの刃など、躱すことは容易い。
減速した俺の眼前を通り過ぎた刃を踏みつけ、その峰を駆け上がりながら大きく跳躍した。
斬法――剛の型、天落。
本来ならば背中から刃で貫くところであるが、巨大な悪魔の体を俺の踏み込みだけで姿勢を崩させることはできない。
故に、俺は餓狼丸の刃を振るい、ゼリオポラリスの右上の翼へと一閃を放った。
軌跡に沿って大きく広がる【煌命閃】の一撃は、その翼を半ばから断ち斬る。
そして、その一瞬の後、ゼリオポラリスの体が掻き消えて後方で姿を現した。
「成程――」
やはり、転移は連続して行うことはできないらしい。
であれば、狙うべきは転移直後。そこで動きを止めることでより効率的にダメージを与えることができる。
そう考えると、やはり右の翼を両方潰したのは正解だっただろう。
奴の飛行は封じた。生憎と《時空魔法》を封じることは不可能だろうが、可能性はある。
『武勇には優れぬが、強力な武器を持つ。だが、それだけではないか』
「……妙に様子見ばかりと思ったら、俺だけじゃなくアルトリウスも観察対象だったか」
これまで、悪魔共は俺にばかり注目していた。
だが今回、奴らの標的は俺だけではなく、アルトリウスにも向かっていたらしい。
成程、確かにディーンクラッドにトドメを刺したのは俺であるが、奴をその直前まで追い詰めたのはアルトリウスだ。
悪魔共がそれを見ていたのであれば、アルトリウスが警戒されるのも納得というものだろう。
『だが、ここに主力は揃ったようだ。ならば……一気に潰すとしよう』
そう呟き、ゼリオポラリスは傷ついた体で魔力を昂らせる。
転移ではない、それよりも遥かに大きな魔力だ。
それは波動となって周囲に伝播、しかし俺たちには何ら影響を与えることなく、広く広く拡散していく。
そして――周囲で争う悪魔たちの気配が、一気に増幅した。
「これは……!」
『この距離では、最早かの聖剣は使えまい。そして、貴様のいないあの要塞はがら空きだ』
ゼリオポラリスの持つ、分裂の能力。
コイツはまさか、既に分裂させた悪魔を、更に分裂させることが可能だというのか。
分裂させた悪魔はダメージを共有するという性質があるが、それでも純粋な数の暴力は恐ろしい。
これだけの物量を、果たして捌き切れるのか――
『我が倒れたところで、この分裂は消えぬ。貴様らはここで倒れ、そしてあの都市は滅び去る。その剣を早々に使わなかったこと、後悔するが――』
「ああ、四倍程度でいいんですか?」
相変わらず淡々とした口調であったが、どこか得意げな様子の見えるゼリオポラリス。
その言葉に対し、アルトリウスはただあっさりとそう告げた。
思わず茫然としたらしいゼリオポラリスに対し、アルトリウスはさも当然と言わんばかりに告げる。
「貴方が悪魔を増やす能力を有していると分かった時点で、さらに増えることなど警戒していますよ。それで、四倍になった程度でいいんですか?」
「おい、アルトリウス――」
『ッ……舐めてくれたな。後悔するがいい!』
俺の制止も意味を成さず、ゼリオポラリスはさらに強く魔力を放つ。
それによって悪魔たちは倍、更に倍と凄まじい勢いで数が増えていく。十六倍にも達した悪魔は、既に地を埋め尽くすほどだ。
流石に、これではどれほどプレイヤーの数がいたとしても対応しきれるものではない。
どうするつもりかと、アルトリウスに問いかけようとし――その表情に、動きを止めた。
これだけの数を前にして、アルトリウスはただ不敵に笑みを浮かべていたのだ。
「そろそろかな。ありがとうございます、わざわざ的を増やしてくれて」
そう告げて、アルトリウスは軽く手を上げる。
その瞬間、周囲には先ほどと同じような、鋭い岩の杭が立ち並んだ。
まるで森にでもなったかのように、周囲には無数の杭が屹立していく。
その範囲はあまりにも広く、見渡す限りのエリアが岩の杭によって貫かれているようだ。
それは、先程アルトリウスの幻影があった場所から放たれた攻撃と同じ――恐らく、エレノアたちによって仕掛けられたトラップなのだろう。
彼女らの準備は、前にあった大砲や落とし穴だけでは済まなかったということだ。
「貴方の能力は悪魔を分裂させる。だが、その分裂したダメージは共有され、全ての分裂体に同じダメージが入る――ただ増えるだけなら対処のしようもありませんでしたが、ダメージの共有という効果があるなら逆に好都合だ」
岩に貫かれた悪魔たちは、その貫かれていない場所にもダメージを負い、次々と力尽きていく。
数が増えすぎたが故に、共有ダメージもその分大きくなり、許容できる範囲をオーバーしてしまったのだ。
アルトリウスは、奴の能力を知った時点で、この方法を考えていたのだろう。
「さて、これで余分な敵は減った……あとは、貴方を仕留めて作戦は完了だ」
『貴様、どこまで――』
「始めましょう、クオンさん。相手は手負いの獣です」
「分かってる、油断などしないさ」
例え敵の手勢を大きく削っていたとしても、未だゼリオポラリスは健在だ。
追い詰められたこの悪魔が何をするか、まだそれを読み切ることはできない。
慎重に、だが確実に、この悪魔を仕留めるとしよう。





