447:人魔大戦:フェーズⅠ その15
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多少小細工した所で、この悪魔たちの転移を止めることはできない。
面倒極まりない話ではあるが、素直に正攻法で戦うしかないということだ。
だが、一方で相手にはそのような制約はない。相手の土俵の上で戦っている以上は仕方のない話ではあるが、中々に不利な状況だ。
事実、この悪魔たちは己の有利を理解しており、それを戦略に組み込んで戦っているのだ。
「ルミナ、セイラン、シリウス! 周りを押し留めておけ!」
周囲は増え続ける悪魔に囲まれている。徐々に遠慮のなくなってきたらしい悪魔たちは、俺たちへと向けて魔法やら射撃を放ってきている状況だ。
それほど強力な攻撃というわけではないが、断続的に邪魔が入る状況は、格上の侯爵級悪魔との戦いにはよろしくない。
本来であればこう言った邪魔の入らない環境での戦いが望ましいが、こいつらの能力からしてそのような状況を作る方が困難だ。
そのため、ルミナの《精霊召喚》やセイランの《亡霊召喚》を用い、可能な限り手数を稼いでこれらに対処するしかない。
不利な状況ではあるが、今はこうして対処するしかないのだ。
歩法――陽炎。
遠慮なく暴れ回るテイムモンスターたちを尻目に、俺は再び侯爵級悪魔たちへと向けて駆ける。
最大限にまで高まった餓狼丸の攻撃力ならば、こいつら相手にも十分に通じる威力となっているはずだ。
だが、それでもこいつら二体を同時に相手をすることは難しい。
十分な技量を持つことに加えて、非常に高い連携技能を有しているのだ。雑な攻撃では相手の隙を作るどころか、こちらの隙を突かれるだけになってしまう。
「《練命剣》、【命輝一陣】」
生命力の刃を放ち、相手の視界を僅かに塞ぐ。
相手が一人ならばここで虚拍を使うだろうが、生憎とこいつらは二人組。
例え片方の意識の外に潜ったとしても、もう片方からは丸見えなのだ。
故に、多少視界を塞ぐことができたとしても、相手の死角へと向けて移動する程度のことしかできはしない。
だが――
(やはり、俺を追ってくるか)
ゼリオとポラリス、二人の悪魔の視線は、すぐさま俺を捉えて固定される。
一瞬見失って周囲を見渡すも、他のメンバーのことなどは目にもくれていない。
ただひたすら、俺のことを警戒し続けている。或いは――俺のことを観察している。
「……!」
歩法――縮地。
摺り足で一気に距離を詰め、刃を振るう。
それに対してゼリオは瞬時に反応して俺の一閃を受け止め、それとほぼ同時にポラリスが俺に対する光の魔法攻撃を放ってくる。
「《蒐魂剣》、【因果応報】」
斬法――柔の型、刃霞。
しかし、俺の刃は手元で翻り、円を描きながらポラリスの魔法を斬り裂いた。
魔法を斬り裂いた刃は、その刀身に吸収した魔法を宿し、眩く輝き始める。
その刃を翻し、俺はゼリオの太腿に一筋の傷を与えた。
防御が間に合わなかったらしいゼリオはそのダメージに一瞬顔を顰め――しかし、さしてダメージを受けた様子もなく行動を再開する。
きちんとダメージは与えられていることを確認したが、やはり侯爵級悪魔、この程度では有効なダメージにはなり得ない。
(……こうも注目されていると、流石にやり辛いな)
魔王――マレウス・チェンバレンから何かを伝えられたか。或いは、あのデルシェーラからの差し金か。
こいつらが何を考えてこのような行動を取っているのかは不明だ。
尤も、何にしたところで碌な理由ではないだろうが。
何にせよ、これはこちらにとって有利にも不利にも働く要素である。
不利な点は、俺の攻撃を警戒され過ぎているため届きづらいということ。
そして有利な点は、俺に対しての警戒が多いため相手の動きを読みやすいということだ。
ゼリオがダメージを受けた瞬間、ポラリスはそれをカバーするためにこちらへと刃を向け――その瞬間、何かに気づいて瞬時に転移を行った。
その理由は単純に、アンヘルがゼリオに対して攻撃を仕掛けようとしていたからだ。
(察知が早い。何かしらのスキルか、魔法か――感知能力を持っている)
先ほどから、俺の動きに対しても中々行動が早い。
あのアンヘルの奇襲に対して一瞬で迎撃態勢に移った辺り、何かしらの仕組みがあるのだろう。
こうして正面から相対することになると、ステータスの劣る俺たちでは対処が難しい。
尤も――それだけで攻撃が終わるのであれば、だが。
「《練命剣》、【命輝練斬】」
「『フィーア』」
アンヘルが止まったことにより、ゼリオはこちらへと攻撃を仕掛けてくる。
しかし、それと同時に横合いから放たれた弾丸が、その手首を撃ち抜いた。
その衝撃によってゼリオの攻撃は僅かに逸れ――その刹那に、俺は更に深く前へと踏み込む。
斬法――剛の型、刹火。
翻る黄金の一閃。生命力を練り固めて造り上げられた刃はゼリオの脇腹を襲い――けれど、寸前で出現した黒い障壁によって受け止められる。
この反則じみた反応速度は何とかならないものかと舌打ちしつつ一歩退き、反撃とばかりに放たれた一閃を流水で受け流す。
それに続くように転移して襲い掛かってきたポラリスに対しては、横合いから緋真による一閃が叩き込まれるも、白いシャムシールによって受け止められてしまった。
(どちらかというと防御が堅牢、攻撃能力はそこまでではない。つっても、直撃を喰らえばそれでお陀仏だが)
どのような力の使い方をしていたとしても、この悪魔たちが侯爵級であることに変わりはない。
素の攻撃力だけでも、俺たちを殺して余りある威力を有しているのだ。
当たってしまえば結果は同じという意味では、過剰な火力など有ろうが無かろうが大差はない。
緋真の攻撃を受け止めたゼリオへと追撃を放つも、今度はそちらが後退して俺の攻撃を回避する。
瞬時に位置を替えながら戦闘を行うゼリオとポラリスは、俺たち四人がかりの攻撃にすらほぼ完璧に対処をして見せているのだ。
(しかし――)
消耗を考えず、ひたすら二体の悪魔に対して攻撃を繰り返す。
緋真は二振り目の刀を抜き放ち、アンヘルとランドはまるで武器が宙を飛び交うかのように様々な武器を入れ替えながら攻撃を続ける。
だが届かない。僅かな手傷を負いながら、しかしそれらもすぐさま回復しつつ二体の悪魔は戦闘を続ける。
このままでは、やがて抑えきれなくなった周囲の悪魔たちによって押し潰されることになるだろう。
――そう、このままでは。
「っ……!?」
異変は、ポラリスが俺の攻撃を防いだ瞬間に発生した。
突如として体を揺らした彼女の胸から、黒い刃の切っ先が出現したのだ。
それが一体何であるかは、考える間でもない。突如として姿を現した赤い影は、幼い容貌に似合わぬ凄惨な笑みで告げる。
「すっかり油断してくれたわね。おかげで、やりやすかったわ」
刃を抜き、噴き出た返り血の一部を拭いながら、アリスは笑みと共に距離を取った。
そして――ふと、不可解そうに眉根を寄せる。
「……私、そっちには刺していないのだけど?」
大きなダメージを負ったポラリスへと追撃を放とうとしていた俺は、その言葉に眉根を寄せる。
そしてゼリオの方へと一瞬だけ視線を向けて、思わず眼を見開いた。
アンヘルと斬り結んでいた黒い方の悪魔、その背中にはまさにアリスが刺したものと同じ傷がついていたのだ。
少しずつ塞がって来てはいるが、それは間違いなくアリスによる攻撃であった。
それを目にしたランドが、鋭い視線を向けながら強く声を上げる。
「シェラート! こいつらは恐らく、ダメージを二人で分割している! 二体の悪魔じゃない、一体の悪魔が二体に分裂しているんだ!」
『――然り』
――その言葉の直後、これまで声を上げていなかった黒白の悪魔が、同時に口を開いた。
声が響くタイミングは完全に同時。声色は異なっているというのに、全く同じ声音の言葉が響き渡る。
『我が能力は分裂。その力にて相手をしていたが――そろそろこの姿も潮時のようだ』
「……周囲の悪魔が増えていたのも、それが原因か」
倍化ではなく、分裂。恐らく、ここまで出現していた悪魔たちにも、先程のようなダメージの共有はあったのかもしれない。
尤も、あれだけの数がいる中ではその仕組みには全く気づけなかったが。
『改めて名乗ろう。我が名はゼリオポラリス――侯爵級第十四位。その力、今ここで示して見せよう……《化身解放》』
その声の瞬間――二体の悪魔の体が、白と黒の魔力によって包み込まれる。
二つの光は勢いよく空へと射出され、螺旋を描くように交じり合いながら上空へと登ってゆく。
そして――強烈な魔力の波動と共に、それは姿を現した。
「……天、使?」
「ハッ……どう見ても化物だろうが」
二対四本の腕、二対四枚の翼。
全ての手には先程と同じシャムシールが握られ、翼は右側が黒で左側が白に染め上げられている。
対し、顔を覆う黒と白の仮面はその色合いが左右逆だ。
そんな異形の姿を見せつけるのは、身長が三メートルほどはあろうかという巨人。
確かに、天使のようにも見える見た目だが……それに呼称するならば、堕天使と言った方が適切だろう。
異形の姿をさらした悪魔、ゼリオポラリス。その怪物は、俺たちの居る地上へと向けて一気に突進してきたのだった。





