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438:人魔大戦:フェーズⅠ その6











 断続的に爆発音が響き渡る戦場。

 いい加減耳も慣れてきた頃ではあったが、あまり耳慣れぬ音が聞こえてきたのは、フィノがそろそろ爆弾を投げ切るという頃合いであった。

 爆発音は爆発音なのだが、これまで聞こえていたものとは異なる、もう少し音圧の低い音だ。

 何かと思い視線を向けてみれば、俺たちがいる場所とは門を挟んで反対側、門の左手側の方で、悪魔たちが外壁に取り付き始めている姿があった。

 どうやら、ついにあのキルゾーンを突破する悪魔が現れ始めたようだ。

 こちら側はフィノやルミナたちの攻撃があったためにまだ取り付くことはできていないようだが、反対側はそうも行かなかったのだろう。

 となれば――



「アリス、向こう側に降りるか?」

「私も言おうと思ってたところよ。ここにいるだけじゃ暇だからね」



 どうやら、アリスもそろそろ暴れたいらしい。

 実際、ここにいるばかりでは俺もアリスも暇だったからな。

 ここいらで、そろそろ直接戦っておきたいところだ。



「ふむ……フィノ、そろそろ終わったか?」

「ちょっと待ってー! これで終わりだからー!」



 俺の問いかけに対し、フィノは頭上に掲げた巨大な樽を揺らす。

 先ほどまで投げていたものよりも更に一回り大きいそれこそが、どうやら最後の一発であるようだ。

 だからこそ、フィノはきょろきょろと周囲を見渡し――最も多く悪魔が集まっている場所へと向けて、勢いよく放り投げた。

 《投擲》のスキルでも取得していたのか、かなり狙いが正確になったフィノの爆弾は、狙い通り集団となっている悪魔の頭上へと落下し、派手な爆発を巻き起こす。

 最後に、それなりの数を稼げたことだろう。



「よし、終わったな。緋真! お前はルミナとセイランを連れてこっちで戦闘を続けろ!」

「ちょっと先生!? そっちはどうするつもりなんですか!?」

「俺はアリスとシリウスで向こう側の対処を行う! 定期的に補給しろよ!」



 俺の言葉に多少言いたいことはあったようだが、両側を抑えることの重要性は理解しているのだろう。

 広範囲に高い戦闘能力を発揮できるルミナとセイランを連れていれば、こちらもまだしばらくは持たせられるはずだ。

 その間に、俺たちで向こう側の戦線を押し戻す。外壁に張り付かれている現状は何とかせねばなるまい。



「セイラン、こっちのことは任せるぞ。好きに暴れ回れ」

「クェエ!」



 上機嫌な様子で声を上げるセイランに、こちらも笑みを浮かべる。この様子ならば、心配する必要はないだろう。

 そのままセイランを壁側へと寄せ、俺とアリスは外壁の上に着地する。

 他のプレイヤーからの視線を集めることとなったが、まあ気にする必要はないだろう。

 そして、同じくこちらに降りてきたシリウスからフィノが離脱し、その座席となっていた鞍をシリウスの首元から取り外す。



「姫ちゃんたちの補給はこっちで手配しておくから、こっちのことは心配しないでね」

「助かる。こっちのことは任せたぞ」

「あいあい、そっちも頑張ってね」



 とりあえず、『エレノア商会』からの補給があれば、緋真たちがガス欠に陥る心配はないだろう。

 今の形式で戦闘を続けている限り、悪魔たちもそうそう壁まで接近することはできない筈だ。

 爵位持ちが出てきた場合はその限りではないが……それまでは、可能な限り被害を抑えるべきだろう。

 フィノには軽く手を振り、俺とアリスは門の左手側へと向けて走り出す。

 壁の上は大砲を扱うため広くスペースが取られているものの、プレイヤーの数が多くそこそこ混雑している状況だ。

 向こう側に到着するには、若干の時間を要することになるだろう。



「シリウス、先に行け! 存分に暴れてこい!」

「グルルルッ!」



 俺の言葉に上機嫌な唸り声を上げたシリウスは、その鋼鉄の翼を羽ばたかせて門の左手側へと飛翔していく。

 程なくして聞こえた地響きは、シリウスが勢いよく悪魔の頭上に着地したことが原因だろう。

 その様子を確かめるため、俺とアリスは外壁の上を一気に駆け抜けていく。

 と――門の上を越えようとしたそのタイミングで、俺の耳に声が届いた。



「押し返してください!」

「――――っ!」



 響いたのはアルトリウスの声。返答するほどの時間の余裕は無かったため、軽く手を振るに留めてそのまま先へと進む。

 果たして、アルトリウスはどこまで俺の動きを想定していたのか。

 それに関しては謎であるが、あいつからのお墨付きがある以上は何ら躊躇する理由はない。

 このまま、存分に獲物を狩らせて貰うとしよう。



「【ミスリルエッジ】、【ミスリルスキン】、【武具神霊召喚】」



 餓狼丸を抜き放ちながら魔法を発動し、攻撃力を高める。

 雑魚悪魔程度であればこれでも十分だろうが、それでも数は多い。油断するべきではないだろう。



「さてと……どうする、アリス?」

「どうするも何も、決まっているでしょう?」

「くくく、そうだな。言うまでもない話だった」



 互いに笑い合いながら、シリウスが暴れる姿を視界に収める。

 壁を登ろうとする悪魔たちをむしり取るように爪で引き裂き、その牙で噛みついて引き千切る。

 尾を振れば先端の刃が地上の悪魔たちを纏めて薙ぎ払い、放たれる攻撃は鱗で弾き返して意に介すことも無い。

 正しく怪物の戦いっぷりに、俺は思わず笑みを浮かべながらも、その近くへと飛び降りた。



「よう、いい調子だなシリウス。そのまま存分に暴れるといい」

「グルルルッ!」



 俺のお墨付きを得てか、シリウスは更に上機嫌な様子で悪魔の群れの中へと突撃した。

 当然ながら無数の攻撃に晒されることになるが、当のドラゴンはまるで気にする様子もない。

 全身の刃を使って悪魔を引き裂きながら、ただ力の限り暴れるばかりだ。

 とはいえ、その刃の振るい方には久遠神通流の一部が見て取れるし、適当に振り回しているだけではないのだろうが。



「さて――《練命剣》、【命輝一陣】」



 シリウスが喜び勇んで敵陣に突撃したこともあり、壁に張り付いていた悪魔の一部は放置されている状態だ。

 そのうちの何体かを生命力の刃で斬り裂きつつ、俺は戦場の様子を確認した。

 現在この近辺は、キルゾーンを迂回してきた悪魔たちによって、横合いから攻撃を受けている状況だ。

 とはいえ、元よりあのキルゾーンは突破されることを前提に考えている場所でもある。

 であれば、攻撃を受けても対処が可能な程度には準備が整えられているのである。

 つまり、俺たちが手を出さずとも対処できるとは思われるが、それでも消耗することは事実。

 これから爵位持ちと戦うことを想定すると、この段階で消耗している余裕は無いということだろう。



「それなら、やることは単純か」



 ただひたすら、近づいてくる悪魔共を片付けてやればいい。

 実際、アリスも既に身を隠しながら、悪魔たちへと襲い掛かり始めているところだ。

 不自然に倒れている悪魔たちはその獲物となった連中だろう。

 実に速い仕事っぷりに苦笑しつつ、俺は悪魔の群れの方へと向けてゆっくりと歩き出す。



(壁に張り付いている悪魔もまだ多少はいるが、あの程度なら外壁のプレイヤーで対応可能。であれば――)



 俺がすべきことは、シリウスを避ける形で移動してきた悪魔への対処。

 そう決意を定め、一気に体を前へと倒した。


 歩法――烈震。


 土が跳ね、爆発するような音と共に前方へと向けて突撃する。

 シリウスに注意を払っていたらしい悪魔たちは、一応俺の姿にも気づいていたようではあるが、あまり脅威とも考えていなかったのだろう。

 奴らが俺の姿を認識した頃には、俺は既に奴らの懐まで飛び込んでいた。


 斬法――剛の型、輪旋。



「『生奪』」



 こちらの姿を捉え切れずにいた悪魔を胴から真っ二つに斬り裂く。

 緑色の血液を撒き散らして地面に崩れ落ちる悪魔を尻目に、俺は更に跳躍して正面の悪魔の顔面を蹴り抜いた。

 その衝撃に崩れ落ちた悪魔の顔面をそのまま踵で踏み砕きつつ、俺は笑みと共に刃を振るい、付着した血を振るい落とした。



「まだ餓狼丸を解放する必要もない。小手調べだ、順番に縊り殺してやるとしよう」



 たじろいだ様子の悪魔たちではあるが、俺が一人であることも理解しているのだろう。

 歪んだ笑みを浮かべ、一斉にこちらへと襲い掛かってくる。

 ああ、それでこそだ。そうでなければ面白くない。

 俺は笑みと共に、こちらへと向かってくる悪魔へと向けて足を踏み出したのだった。











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― 新着の感想 ―
[一言] いやあ、アルトリウスのお墨付きを貰って、アリスとシェラートさんがにっこり(血痕)して暴れられてご機嫌のようで読者もほっこりw
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