429:神霊魔法
「スキル進化に必要なポイントが20……? どんなスキルなんだ、こりゃ」
「うぇ、そこまでのポイントは初めて見ましたね。どんなスキルなんですか?」
「《降霊魔法》の上位だが、ちょっと確かめてみるか」
緋真の言う通り、そこまで大量のポイントを必要とするスキルはこれまでなかった。
プラチナのスキルオーブでしか取得できないスキルであったとはいえ、ここまで大量のスキルポイントを要求されることになるとは。
だが、逆に言えばそれだけ強力なスキルであるとも考えられる。
《降霊魔法》の進化先、その新たな名は《神霊魔法》。そのスキルの性能を確認し――俺は思わず沈黙した。
「……こりゃまた、随分と強力なスキルだな」
《神霊魔法》は、基本的にこれまでの《降霊魔法》と変わることはない。
装備を強化したり、精霊を召喚したりして戦うスキルであるということだ。
そして、レベルアップによってポイントを取得し、精霊を――この場合は神霊になるのか。とにかく、召喚した霊を強化することができる。
ここまでの点については、これまでの《降霊魔法》と何ら変化はないということだ。
大きな変更点は、その先にある性質である。
「《神霊魔法》は、EX段階になった精霊を、神霊へと進化させることができる。神霊化によって起こる影響は、純粋な能力の上昇、特殊能力の追加、そしてコストの増加だ」
「コストって……《降霊魔法》って元々めっちゃコスト重かったですよね」
「ああ、まぁ……それはその通りではあるんだがな」
《降霊魔法》のコストは、MPの50%を封印するというものだ。
これはスキルのコストとしては破格の重さであると言っても過言ではなく、魔法をメインに扱うプレイヤーの場合は運用が非常に困難なスキルでもある。
俺の場合は自己強化以外にMPを使うことは殆ど無く、使っても半分のMPで十分賄える範囲であるため、あまり気にしてはいなかったのだが――
「《神霊魔法》の場合、総MPの75%を封印することになる。とんでもなく重いな、こりゃ」
「ええ……そんなに封印しちゃって大丈夫なんですか?」
「ふむ……まあ、俺の場合は何とかなると思うぞ」
最初に自己強化でMPを使う以外は、《奪命剣》や《蒐魂剣》の発動に使用する程度だ。
しかも《蒐魂剣》は使えば自分のMPを回復できるわけだし、75%の封印でも運用は可能だろう。
考えるべきは、そこまでのコストを払って進化させる価値があるかどうかだ。
例え神霊に進化させなかったとしても、精霊のまま強化を続けることはできる。
まあ、その場合は《神霊魔法》に進化させることへのメリットが、そのポイントによる強化しかなくなってしまうわけだが。
「……神霊に進化させることによって得られる能力は、実際に進化させるまで分からないらしい。結構なハイリスクだな」
「うーん……大丈夫ですかね、それ?」
「正直なところ分からんが……まあ、MPの問題は何とかできるし、運が良ければ強力な能力が手に入るかもしれない。それに、そうでなくとも攻撃力は上がるんだ、無駄ってことはないだろう」
「25%の追加封印に見合う効果だといいわね」
皮肉ったアリスの言葉には肩を竦めて返しつつ――とりあえず、スキルの進化は決定する。
そもそも、スキルレベルがマックスになってしまっているため、このままではこれ以上スキルが成長しなくなってしまう。
神霊化を行うか否かに関わらず、スキル自体の進化は必要不可欠だ。
問題は神霊化であるが――恐らく、リスクを背負うだけのメリットはあるだろう。
悪魔との戦いにおいてどれだけのプラスになるのかは分からないが、その可能性に賭ける価値は十分にある筈だ。
そう決意し、覚悟を決め――俺は、【武具精霊召喚】の神霊化を実行した。
『――対象が指定されました。神霊化を実行します』
『――戦闘経験情報を算出します』
『――ポイントの振り分け情報を反映します』
『――【武具神霊召喚:断斬之神剣】を習得しました』
しばしのロードを挟んだ後、【武具精霊召喚】の呪文名が変化する。
名を、【武具神霊召喚:断斬之神剣】。布都御魂とは、また大層な名前を得たものだ。
この魔法が得た効果は、従来の攻撃力増加に加えてもう一つ。常時、攻撃対象の防御力にマイナス30%の補正を与えるというものだ。
これはつまり、《会心破断》のような防御力無視程ではないが、より頑強な防御力を持つ敵にもダメージを与えられる可能性が高くなるということである。
今後強力な悪魔と戦っていくにあたり、高い効果を発揮してくれることだろう。
「防御力のデバフ、ですか……常時30%はヤバい数字ですね」
「それほどか」
「そりゃ、常時自分の攻撃力が大幅に上昇してるのと同じですし。この書き方なら、相手のデバフ耐性も時間制限も関係ない感じですよね? おおよそ、常時発動の攻撃力上昇と同義ですよ」
緋真の説明を聞き、成程と頷く。
通常の攻撃力上昇に加えてその効果があるのだから、《神霊魔法》による攻撃力上昇は非常に高いと考えていいだろう。
実際に試してみない限りはその感覚は分からないだろうが、これはかなり期待できそうだ。
「これは、更にMPを封印するだけの価値はあるかもな……【武具神霊召喚:断斬之神剣】」
魔法を発動すると、俺のMPゲージの75%が灰色に染まり、どこからともなく現れた光が餓狼丸の刀身に宿る。
これまで、まるでダマスカス鋼のように複雑な紋様を描いていた光であるが、今は鎬筋に合わせて刀身に光が走っている状態だ。
重さや握った感覚には一切変化がなく、これまで通り扱うことが可能だろう。
これで普段以上に攻撃力が高まっているのだから、俺としても大変都合がいいスキルだ。
「ふむ、いい感じだな。早速、亜竜を相手に試してみることとするか」
「進化したセイランの能力チェックもありますしね。両方含めて、どれぐらい強化されているのかが楽しみです」
それに関しては俺も同じだ。
セイラン自身もかなり強化されており、戦力の上昇は非常に期待できる。
果たして、フォレストドラゴンやトニトルスドラゴンを、どのように処理できるようになっているのか。
より狩りの効率を上げ、レベルを上げやすくなっていれば楽しみだ。
――声が届いたのは、そんなことを考えていた瞬間だった。
『――黒龍王の試練が攻略されました』
『ワールドクエスト《真龍の試練》を達成しました』
『以降のイベントについて、公式ホームページをご確認ください』
「お……?」
「ああ、アルトリウスさんたち、やったんですね」
「思ったより時間がかかったわね」
響き渡ったアナウンス。それは、黒龍王の試練が攻略され、全ての真龍の試練が達成された通知であった。
これで、残る全ての真龍たちの参戦が決定した。ようやく、悪魔と戦う準備が整ったということだ。
つまり、奴らとの戦いの再開も、秒読みの段階に来たということだろう。
「緋真、次のイベントとやらは――」
「もう確認してますよ。先生も分かっているとは思いますけど、あの障壁が解かれて、悪魔との戦いが始まるみたいです」
「グランドクエスト《人魔大戦:フェーズⅠ》ねぇ……今までさんざん『進行しました』だのなんだの言ってたけど、ようやく本番ってこと」
思わず、口元が笑みに歪む。
それほど長い時間が開いたわけではないが、奴らとの戦いは久しぶりに感じる。
マレウス・チェンバレン――ようやく、あのクソアマに近付くことができるというわけだ。
「くく……まあいい、どう出るかについてはアルトリウスから連絡があるだろう」
「それまではレベル上げですか?」
「ああ、高位の悪魔が出てくるのは間違いないんだ、可能な限り強化しておくに越したことはない」
正直なところ、まだ公爵級相手に戦えるレベルではないと考えている。
侯爵級ならば戦えるかもしれないが、ディーンクラッド以上の戦力は迎撃が難しいだろう。
残り数日で、どこまで強くなれるかは分からないが――やれるだけやるしかない。
少しでも時間を有効活用し、奴らとの戦いに備えなければ。
「行くぞ、できるだけの準備をする」
「はいはい、了解です。目に物を見せてやりましょうか」
緋真の言葉に頷き、再び空へと舞い上がる。
ギリギリまで強化を重ね、悪魔共に全力を叩きつけてやることとしよう。
■アバター名:クオン
■性別:男
■種族:人間族
■レベル:86
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:53
VIT:38
INT:53
MND:38
AGI:24
DEX:24
■スキル
ウェポンスキル:《刀神:Lv.8》
《格闘術:Lv.27》
マジックスキル:《昇華魔法:Lv.23》
《神霊魔法:Lv.1》
セットスキル:《致命の一刺し:Lv.11》
《MP自動大回復:Lv.39》
《奪命剣:Lv.48》
《練命剣:Lv.49》
《蒐魂剣:Lv.49》
《テイム:Lv.61》
《HP自動大回復:Lv.39》
《生命力操作:Lv.66》
《魔力操作:Lv.67》
《魔技共演:Lv.41》
《クロスレンジ:Lv.5》
《回復特性:Lv.15》
《高位戦闘技能:Lv.28》
《剣氣収斂:Lv.44》
《見識:Lv.2》
《血の代償:Lv.3》
《立体走法:Lv.3》
《会心破断:Lv.12》
サブスキル:《採掘:Lv.15》
《聖女の祝福》
称号スキル:《剣鬼羅刹》
■現在SP:20