417:青龍王と黒龍王の詳細
赤龍王の試練をこなし、帝国に戻るための帰路につく。
とはいえ、あの面倒臭い火口を登る必要はなく、山の麓にまで転送して貰ったのだが。
正直、山を下りるぐらいならしてもよかったのだが、この山の魔物は中々面倒臭い連中が多かった。
そういう意味では、結構楽をさせて貰ったと言えるだろう。
「さてと……次はどうするかね」
「青龍王と黒龍王は良いんですか?」
「全ての龍王を相手にするのもどうかと思うからな。それに、全員で強制解放を使っちまったし」
俺の返答に対し、緋真とアリスは頷いて同意を示す。
確かに、挑めないということはないだろう。しかし、龍王相手にも通じる手札である強制解放は、流石にこれ以上は使いたくない。
レベルが下がってしまった状態であるし、とりあえず一段階元に戻しておかなければならないだろう。
幸い、赤龍王との戦いでそれなりに経験値は貯まっているようであるし、そこまで時間はかかるまい。
「ところで、青龍王と黒龍王の試練の内容は分かったのか?」
「えーと、ちょっと掲示板チェックしてみますね」
緋真がウィンドウを開いて情報を確認している間、こちらは飛行の準備を整える。
とりあえず最寄りの街まで行って、石碑で帝国まで飛べばいいだろう。
聖王国に顔を出してもいいのだが、別段重要な用事があるわけでもない。
とっとと戻って、次なる行動への準備を整えた方が建設的だろう。
「あー……これかな? えっと……どうも、どっちもダンジョンアタック的な内容っぽいですね」
「ふむ? 赤龍王の火口降りみたいなもんか?」
「その後で龍王と戦うのかどうかはわかりませんけど、近いものではあるんじゃないですかね? ただ、黒龍王の方はかなり本格的なダンジョンっぽいですけど」
確かに、火口降りについてはあまりダンジョンというイメージではなかった。
かなり物騒ではあるが、障害物競走のようなものであっただろう。
尤も、途中でガーゴイルに襲われるような場面はあったわけだが。
しかし、本格的なダンジョンというからには、黒龍王のダンジョンはもっと別のものなのだろう。
「魔物も出るし、トラップもある。あえて特徴を言うのなら、ダンジョン全体が暗闇に覆われているって所ですかね。かなり面倒な感じです」
「成程な、それを攻略すること自体が課題ってわけか。その後で黒龍王とも戦うのか?」
「まだ辿り着いた人がいないので不明です。けど、『キャメロット』がこの攻略に当たっているらしいですよ」
「へぇ。それなら……まあ、何とかするか」
アルトリウスなら、例え難しい試練であったとしても何とかするだろう。
確かに面倒ではあるのだが、あいつならば勝ち目のない行動は取らない筈だ。
恐らく、何かしらの手立てがあって行動しているのだろう。
「それで、青龍王の方は?」
「そっちは結構赤龍王に近い感じなんですけど、青龍王の住処は海の底にあるらしくて、そこに辿り着くことが目標だそうです」
「はぁ、海に潜れってこと? 水中呼吸の魔法はあったけど、水圧に耐えられるってわけじゃなかったわよね」
「だからダンジョンアタックなんですよ。どんな方法を用いてもいいから、そこまで辿り着くことが青龍王の試練です」
海の底までとは、また難しいことを言うものだ。
どれほどの深さなのかは分からないが、容易く潜れる程度の深さならば、そこまで悩むこともないだろう。
果たして、どの程度の深さまで潜る必要があるのか――それを可能とする魔法やアイテムはあるのか。
分からないが、それは確かに試練と呼んで差し支えないものだろう。
「しかし、海底まで潜れと言われてもな……そっちは俺たちも手の出しようがないか。他の連中はどうしようとしてるんだ?」
「エレノアさん、というかあそこの研究班の人たちが色々試しているみたいですよ? 一応、少しずつ成果は上がっているみたいです」
どうしたものかと思ったが、確かにそういった試行錯誤はエレノアたちの得意とするところだろう。
どうやら、あいつらも思いがけない形で龍王の試練に参加することとなったようだ。
実際にエレノアたちが海の底まで行くのかどうかは知らないが、彼女ならそのチャンスを自分にとって利となるように活用することだろう。
「で、どうするんです? 一応、黒龍王の方なんかは協力できると思いますけど」
「いや、さっきも言った通り、参加するつもりはない。アルトリウスなら、自力で何とかするだろうからな」
向こうから協力の要請をしてきたならまだしも、勝手に横から手出しをするような真似はするべきではない。
あいつならば、きっと自力で試練を潜り抜けられるはずだ。
「とにかく、俺たちは一旦戻る。そしてレベル上げだ。金龍王も言っていたが、レベル100には何かしらの要素があるみたいだしな」
「流石に障壁が解除されるまでの残り期間でそれを何とかするのは無理でしょうけど……ま、できる限りの所はしておきましょうか」
アリスの言う通り、残り期間でそこまで強化することは流石に不可能だろう。
時間の許す限りレベルを上げて、障壁の解除に備えるべきだ。
そこまでに公爵や大公に挑めるような戦力を得られるかどうかは――まあ、流石に厳しかろうが。
「とりあえず、戻るとするか。ちょいと、フィノに用事もあったからな」
「了解です、行きましょうか」
何はともあれ、もうこの火山に用事はない。
帝国まで帰還することとしよう。
* * * * *
「それで……これが?」
「ああ、赤龍王、そして銀龍王の爪だ」
『エレノア商会』に立ち寄り、フィノの元を訪ねる。
商会のメンバーは青龍王の件もあってか、かなり慌ただしく活動している様子だが、フィノはその限りではなかったらしい。
まあ、ポーションとかアクセサリの開発を行っているようであったし、フィノにはあまり仕事は回ってこなかったのだろう。
何にせよ、彼女の手が空いていることはこちらとしても望ましい。
そんな彼女に対し、俺が取り出したのは二体の龍王から渡された巨大な爪であった。
大きさは、ただそれだけでアリスの身長以上はある。こんなものが手についているのだから、心底恐ろしい生き物だ。
「で、どうだ?」
「うん、言うまでもないけど、加工は無理だよ。極上の素材ではあるけど、全然歯が立たない」
軽くハンマーで叩きながら、フィノはそう口にする。
それに関しては、俺も予想していた通りだ。龍王の爪など、この世界においては最上級の素材だろう。
とてもではないが、今の段階のプレイヤーに何とかできるものであるとは思えない。
できたとしても、ずっと後のことになるだろう。
「確かに、加工してみたくはあるんだけどね……これなら、間違いなく最高の武器が作れるよ。でも、今だと無駄にしちゃうだけだと思う」
「それに関しては、仕方ないだろうな。だが、可能性はあると思っているんだ」
「……って言うと?」
「成長武器の強制解放。もしも生産特化の解放があるならば、コイツも何とかできるとは思わないか?」
俺の言葉に、フィノはその眠そうな瞳を見開く。
自分自身が成長武器を使う、というのは彼女にとって盲点だったのだろう。
「そっか……ハンマーの成長武器なら、生産で使えるかもしれないんだ」
「今までは戦闘特化のプレイヤーばかりが成長武器を取得してきていたと思うが、今の形式なら、生産職でも手に入る可能性はあるだろう?」
「ん、ポイント稼ぎを意識して頑張れば、何とかなるかもしれない」
流石に、今はフィノも成長武器を持ってはいなかったようだ。
とはいえ、俺の提案に対して興味は抱いてくれたらしい。
これなら、次の機会には成長武器を狙ってくれる可能性もあるだろう。
「……とりあえず、この爪は返しておくね。今はどうしようもないから……でも、加工できるようになったら、是非やらせてほしい」
「ああ、無論だ。その時が来たら、是非お前さんに任せるさ」
どれほど先のことになるかはまだ分からないが、可能性ができただけ良しとしよう。
炎の真龍たる赤龍王、そして氷の真龍たる銀龍王――炎と氷、相反する二つの属性の武器が、果たしてどのようなものになるのか。それが、今から楽しみで仕方がない。
その期待を胸に、俺たちは『エレノア商会』を後にしたのだった。