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399:金龍王との対話












 色々と予想外のものを目にし、口を噤む。

 金龍王――真龍たちの長。銀龍王と青龍王の姿を見ていただけに、その姿はドラゴンのものであるとばかり思っていた。それがまさか、人間の姿に化けて顕れようとは。

 だが、ドラゴンの姿よりも話がしやすいことは間違いなく事実だろう。

 その辺りの配慮は他の龍王には無かったものであり、尚更彼女の異質さが際立っている。

 成程確かに、他の真龍たちとは違う。龍王たちは元より上位者の視座であったが、彼女のそれは、更に上にあるのかもしれない。



「さて、話を始める前に――庭師共よ、来い」



 俺たちを前にした金龍王はゆっくりと前に進み出ながら、高らかに手を二回叩く。

 その瞬間、彼女の両脇に、白い翼を生やす二人の少女が姿を現した。

 以前見たことのある、運営のAI。だが、かつて見たのはGMと同席していた姿だけだ。

 庭師ガーデナーという名前からも、何かしら箱庭計画との関連性を疑ってはいたのだが……どうやら、このAIたちはこちらの世界サーバ側に属する存在であったようだ。



「妾の領域は、MALICE共からも見通すことはできぬ。しかし、念には念をというやつだ」

「……MALICEのことを知っているとは」

「無論、妾は奴らの正体、その来歴まで熟知しておる」



 天使たちを伴って俺たちの前までやってきた金龍王は、その場でぱちんと指を鳴らす。

 その瞬間、財宝の山の中からふわりと浮き上がった大きな長机と人数分の椅子が、俺たちの前に整然と並べられた。

 どうやら、座れということらしい。想像していたものとは異なる展開に困惑しつつも、俺たちは金龍王の勧めるままに席に着く。

 長い机の端、貴族でいえば当主が据わるような席に着いた金龍王は、その両脇に天使を侍らせながらにやりと笑う。



「さて、改めて自己紹介をするとしよう。妾は金龍王、真龍たちの長であり、世界の守護者だ……ああ、楽に話してよいぞ。礼儀など、人の理に拘泥はせぬ」

「……既に知っているようだが、クオンだ。こっちは弟子の緋真」

「うむ、お主たちのことはよく見ていたぞ。近しい匂いであると思ったが、やはり番であったか」



 そういうところの表現はドラゴン的なのか、思わず眉根を寄せてしまう。

 だが、この超然とした態度のドラゴンには何を言っても無駄だろう。

 軽く肩を竦め、受け流すに留めておく。



「私はアリシェラ、こっちの子たちはクオンのテイムモンスターよ」

「うむ。お主らに預けた眷属もよく育っておるようだな。妾としてもあまり見ぬ姿だ、大義であるぞ」



 その言葉に、思わず眼を見開く。

 どうやら、俺やアルトリウスが手に入れた真龍の卵は、金龍王が提供したものであったらしい。

 とはいえ、納得はできる話だ。金龍王は管理者側に近しい存在であり、運営が卵を手に入れるルートとしては自然なものに思える。

 まあ、これまでは運営がゼロから生成したものなのかと思っていたのだが――まあいい、気になる話ではあるが、今回の主題はそこではない。

 目的はあくまでも金龍王の血を手に入れること、そして彼女の真意を問うことだ。

 このドラゴンの目的は一体何なのか、それを確かめなければならない。



「さて、自己紹介も済んだことであるし、話をするとしようか。妾がお主たちを呼んだ理由は気になっておろう」

「……否定はしない。ここまでに聞いた話を総合すると、あんたは俺をここに呼び出すためだけに、あんな大掛かりなイベントまで用意したってことになる。何だって、そんな回りくどい真似をしたんだ?」



 銀龍王の言葉が真実であるならば、金龍王は銀龍王を容易に癒せるにもかかわらず、あえて放置してイベントの種にしたのだ。

 そこまで回りくどいことをする理由とは、果たして何なのか――そして、そうまでして俺を呼び出して、一体何をしようというのか。

 俺の疑問を受け、金龍王は美貌に浮かべた笑みを深くする。まるで、聞かれることを待っていたと言わんばかりの表情だ。



「先ほども言ったがな、英雄よ。お主は、MALICEから監視されている――否、正確に言えば、奴らの頂点が個人的に注目しているのだ」

「MALICEの頂点……魔王とかいう存在か」

「然り。奴らは度し難い侵略者ではあるが、多くの制約に縛られておる。そのうちの一つに、『箱庭側がルールに従っている限り、MALICE側も従わなくてはならない』という制約があるのだ」



 金龍王の言葉に、思わず仲間たちと顔を見合わせる。

 これまで、全く聞いたことのないよう話だ。

 まさか、悪魔の側にそんな事情があったとは。



「要するに、こちらがルールから逸脱せぬ限り、奴らは戦力を小出しにして攻めてくるしか無いのだ。悪魔共にとっては、それが最も効率よくリソースを得られる手段であるが故にな」

「あまりイメージが付きづらいのだが……具体的には、どんなルールなんだ」

「簡単に言えば、イベントなどの正規の手段を取らずに、お主ら異邦人を強化してはならぬのだよ。もしそれを行えば、行った分のリソースを奴らも自由に使えてしまう。それで公爵やら大公やらを自由に動かされてしまっては困るであろう?」



 何となく思っていたことではあるが……どうやら、運営や管理者たちが、アルトリウスなどを強引に強化しないことにはそういう理由があったらしい。

 つまり、このような回りくどい方法を取った理由は――



「俺を正式な形で呼び出すために、イベントまで主催したってことか」

「流れだけを言えばそういうことだな。しかし、お主は更に特別だ。お主は、奴らから注目されているが故にな」

「それは、俺が向こうの世界で奴らを退けたからか?」

「然り。お主は奴らにとって特別だ。全ての箱庭の中で、唯一MALICEを退けた世界。その立役者となった二人を、奴らは特別視しておるのだよ。そうである以上、本当に大義名分がなければ、お主をここまで連れてくることはできなかったのだ」



 ああも回りくどい方法にしたのは、MALICEの――悪魔の目を躱さなくてはならなかったからか。

 下手に呼び出してしまえば、過分な干渉だと判断されて悪魔共を強化されかねなかったと。

 ルールに従っているという割には、随分と面倒臭い判定基準だな。



「何にせよ、回りくどい方法を取ったのはそういった理由だ。正式な方法で呼び出した以上は奴らも文句は付けられんし、庭師の目隠しがある以上、奴らの覗き見もできん。これでようやく、ゆっくり話ができるというわけだ」

「……真龍の長というのも、随分と制約が多い身なんだな」

「否定はせんよ。妾はこの世で最もアドミナスティアーに近しい場所に位置しておる。奴らが警戒するのも当然だ」



 女神は、この箱庭の管理者だ。そこを悪魔に押さえられてしまえば、こちらは問答無用で敗北だろう。

 そこに近しい金龍王は、あまり女神の近くから離れられないということか。

 銀龍王や青龍王の主張も分からないではないが、こうして金龍王の視点を知ると状況の難しさも理解できてしまう。何ともまぁ、難しい状況だ。



「とりあえず……金龍王側の事情については理解した。その上で尋ねるが、俺を呼び出そうとした理由は何だ?」

「理由としてはいくつかあるが……重要なのは、お主に我らの陣営を理解して貰うことだ」



 どうやら、金龍王もこちらが持っている懸念は理解していたらしい。

 箱庭計画の情報を持っているといっても、俺が知っているのはあくまでもアルトリウスからもたらされた情報だけだ。

 特にこちらの世界サーバに属する女神や金龍王の事情は把握できていない。

 果たして、彼女らの思惑はどこにあるのか。それを知るのに、これ以上の機会は存在しないだろう。



「女神の存在、真龍や精霊の立場――そして、悪魔との戦い。互いを知らぬままに戦いを続けることは、いずれ確執を生みかねん」

「随分と、人間の機微に詳しいんだな?」

「女神の受け売りだ。そういった点については、あ奴の方が詳しいものでな」



 金龍王の視点は超越的であったり、かと思えば人間に寄り添うものであったりとよく分からなかったが、人間よりの意見は女神からの助言であったらしい。

 余計に女神という存在が気になってきたが、それについてはいずれ説明して貰えるだろう。

 重要なのは、彼女の言う通り意識を共有することだ。俺たちは同じ陣営で戦ってはいるものの、互いのことをほとんど知らない状態だ。

 真龍たちと肩を並べて戦うことになるのであれば、互いの立ち位置を理解しておくに越したことはない。



「では、話をするとしよう。せっかくの機会だ、存分に語り明かそうではないか」



 そう告げる金龍王は、実に楽しげな表情で身を乗り出す。

 正直どう対応していいかが良く分からない存在なのだが、話は間違いなく有意義なものだ。

 ここは、腰を据えて話をすることとしよう。











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― 新着の感想 ―
[一言] >番 ニヤニヤw 女神が人間よりとはまだ珍しい…ああ、サーバー管理者だからか。 さすがに人間を知らないと管理者なんて出来ないからな…… まあ、イベントはプレイヤーの底上げの為とは思いまし…
[一言] 師匠って性格的に上位者属性とは相性が悪いイメージで、うっかり地雷が爆発する可能性もあってヒヤヒヤしていたんですが、相手が想像以上に人間の機微を分かっている感じで良かったですね。ナイス女神。 …
[良い点] 番という表現に緋真ちゃんが茹で上がってそうですw
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