004:レベルアップ
書籍版マギカテクニカ第2巻、9/19発売です!
情報は随時、活動報告やツイッターにて公開していきますので、是非ご確認を!
『【フリード】との決闘に勝利しました。賞品がインベントリに格納されます』
『レベルが上がりました。ステータスポイントを割り振ってください』
『《刀》のスキルレベルが上昇しました』
『《死点撃ち》のスキルレベルが上昇しました』
「お、おお?」
刀に血脂がついていないことを確認し、鞘に収めたのとほぼ同時。
俺の耳には、あのキャラクター作成の時に聞いたAIのものと同じ響きの声が聞こえた。
どうやらシステムメッセージのようだが、いったいどうすればいいんだ、これは。
チュートリアルをすっ飛ばしたせいかも知れんが、とりあえずは緋真に聞いておいた方がいいか。
「おい、緋真。何かレベルが上がったとか言われたんだが、どうすりゃいいんだ?」
「……何でゲームを始めてから一歩も動かぬうちにレベルが上がってるんですか、先生……とりあえず、移動しましょう。歩きがてら説明しますから」
「あー、そうだな、頼む」
どうにも、周囲の視線が集まりすぎている。
今更目立ちたくないなどと言うつもりもないが、流石に衆人環視の真っ只中でいつまでも立ち話を続けるのも居心地が悪い。
緋真に案内させて石碑の建っている広場から離れるように歩き始めれば、流石に周囲の人間がまとめて付いてくるようなことはなかった。
いや、一部興味本位で付いてきている奴はいるようだが、まあ気にするほどのことではないだろう。
一応、気づいているということを告げる意味でその連中がいる方向を睨みつけ、さっさとその場を立ち去るよう歩き出す。
とりあえず、少しは落ち着いたか。
「はは、大層なデビューになっちまったな」
「本当ですよ、もう……って言うか、レベル差が15以上開いている相手になんで勝てるんですか」
「逆に聞くが、お前、俺があんな奴に負けるとでも思ったのか?」
「……まあ、それもそうですよね」
現実における俺の実力を思い出したのか、緋真は乾いた笑みと共に嘆息を零していた。
だが、すぐに気を取り直したのか、軽く頭を振ると共に、いつも通りの表情を見せて声を上げる。
「それじゃあ、まずはキャラレベルから説明します。メニューのステータスを開いてください」
「おう、メニューオープン……で、ステータス、と」
■アバター名:クオン
■性別:男
■種族:人間族
■レベル:2
■ステータス(残りステータスポイント:2)
STR:10
VIT:10
INT:10
MND:10
AGI:10
DEX:10
■スキル
ウェポンスキル:《刀:Lv.2》
マジックスキル:《強化魔法:Lv.1》
セットスキル:《死点撃ち:Lv.2》
《HP自動回復:Lv.1》
《MP自動回復:Lv.1》
《収奪の剣:Lv.1》
《採掘:Lv.1》
サブスキル:なし
■現在SP:2
「ほう、何か色々と変わってるな」
「……うん?」
表示させた画面を覗き込み、緋真が疑問符を浮かべている。
最初の時と変わっているのは、レベルとやらが上がっていること、残りステータスポイントというものが表示されていること、スキルレベルがいくつか上昇していること、そして現在SPというのが増えていることだ。
これが何なのか、と説明を求めようと緋真へと視線を向けるが――何故か、こいつは両手で頭を抱えていた。
「おい、何だその反応は」
「……色々と言いたいことはありますが、とりあえず順番に説明します」
「お、おう」
そしてやたらと不機嫌なトーンになっている緋真に思わず気圧されつつも、俺は頷く。
そんな俺の様子を知ってか知らずか、緋真はまず欄の内、残りステータスポイントの部分を指差していた。
「本当に基本の基本ですが、このゲームでは、敵を倒して経験値を溜めるとレベルが上がります。そうすると、ステータスポイントとスキルポイントが2点ずつ配布されます」
「この一番下の奴がスキルポイントか。で、ステータスポイントの方はどう使うんだ?」
「六つあるステータスの内、任意のステータスを上げることができます。STRは筋力、VITは耐久、INTは知力、MNDは精神、AGIは速力、DEXは器用ですね」
「……どれを上げればいいのかよく分からんな」
「いくつかを優先的に上げて、他のステータスはまあ均等に少しずつ上げていくのがいいですね。極端に上げるのも強いことは強いんですが、やっぱりある程度は必要になるので」
詳しく説明を聞けば、おおよそ以下のような性質があることを教えられた。
STRは攻撃力に寄与。重い装備を装備する時などにも必要になる。
VITは防御力に寄与。総HPの上昇にも繋がる。
INTは魔法攻撃力に寄与。一部の魔法系スキルの習得条件にもなる。
MNDは魔法防御力に寄与。総MPの上昇にも繋がる。
AGIは素早さに寄与。一部の回避系スキルの習得条件にもなる。
DEXは生産成功率に寄与。遠距離武器の命中補正にも影響する。
「まあ、AGIは上げてもそこまで行動速度が上がるわけではありませんけど。先生が動く時だって、違和感はありませんでしたよね?」
「まあ、言われてみればそうだな」
「色々と考察はされているんですけど、今のところ人間の限界は超えられないというのが定説になってます。上げていればオリンピック選手みたいな速さで動けるようになるみたいですが、最初から動ける人の動きが制限されるわけでもないようですし」
「ふむ……まあ、下の二つはあまり上げすぎなくてもいいかもな。INTも微妙だが」
「……普通、INTは上げないといけないタイプなんですけどね。魔法の威力はINT依存ですから」
確かに、INTが上がれば魔法威力も上がる。ということは、《強化魔法》の上がり幅も上昇するかもしれない。
一応こちらも上げておくとするか。
防御については受け流せばなんとかなるだろうし――
「……STRとINT優先、次点で防御系、その次がその他。3:2:1の割合ってところか」
「妥当だと思います。割り振る場合は、そのステータスの表示をタップしてください」
緋真の言葉に頷き、俺はSTRとINTのステータスを上昇させる。
とりあえず、レベルアップのステータス処理はこれで完了だろう。
「さて、次はスキルか?」
「ええ、スキルです。スキルですが……何選んでるんですか先生!?」
「うおっ!?」
突如として詰め寄ってきた緋真に、思わず仰け反る。
が、俺の様子など意にも介さず、緋真はさらに詰め寄り、半ば密着するような体勢で喚き始めた。
「《刀》はまだ分かります、先生だから選ぶだろうなと思ってました。でも、なんでよりによって《強化魔法》なんですか……!?」
「お、おお? いや、魔導戦技とかいうのを使いたくなかったんで、使わんでも効果のある奴を選んだんだが」
「MT使わないって……先生、何でいきなりこのゲームのシステムに喧嘩売ってるんですか」
「勝手に体を動かされるぐらいなら、自分で強化して自分で斬った方がマシだろう」
「……そういえば先生、リアルでMTみたいなことできるんでしたね」
少しだけ落ち着いたのか、緋真は嘆息しながらその場から一歩下がる。
しかし未だ納得しづらいのか、緋真はじっと俺の刀を見つめた後に声を上げた。
「先生、一度《強化魔法》を使ってみてください」
「おん? 街中だが、使っても大丈夫なのか?」
「周囲に攻撃する類でなければ特に文句は言われませんから。確か、防具の防御力を上げる魔法がありましたよね?」
「ええと……」
スキル欄の中から《強化魔法》をタップする。
すると、二つの魔法の名前がその下に表示された。
■《強化魔法》シャープエッジ
武器の攻撃力を上昇させる。
強化の割合はスキルレベルとINTの値に依存。
■《強化魔法》ハードスキン
胴防具の防御力・魔法防御力を上昇させる。
強化の割合はスキルレベルとINTの値に依存。
「とりあえず魔法はあったが、どうやって使うんだ?」
「これを使おう、という感じで念じてみてください。視界の端にゲージみたいなのが表示されたら成功です」
「ふむ、やってみよう」
とりあえず、試してみるのは《ハードスキン》だ。
この魔法を使おう、とイメージしながら意識を集中させる。
すると、緋真の言う通り、視界の右上に青いゲージのようなものが表示されていた。
だが、そのゲージは見る見るうちに減り、黒い枠だけを残して消えてしまう。
ちょうどそのタイミングを見極めていたのか、直後に緋真は次の指示を飛ばしていた。
「ゲージがなくなったら、魔法の名前を唱えてみてください。口でですよ?」
「おう……《ハードスキン》!」
そう宣言すると同時、身にまとっていた服が青く輝き、そのまま淡い光を纏ったような状態となる。
どうやら、魔法は上手く発動できたようだ。
「で、その状態から、アイテムの装備欄を確認してみてください。胴防具に魔法がかかっているはずです」
「ふむ、装備欄ね」
閲覧したことはなかったが、とりあえず確認してみる。
どうやら、装備は右手、左手、頭防具、胴防具、腰防具、腕防具、足防具、アクセサリに分かれているようだ。
今の装備は全て《初心者の○○》といった表示がされている装備で、まあ全て初期装備ということなのだろう。
言われたとおりに胴防具を確認すると、確かに魔法の効果が現れている様子だった。
■《防具:胴》初心者の革鎧
防御力:5(+1)
魔法防御力:0(+1)
重量:5
耐久度:100%
付与効果:なし
製作者:-
「……魔法の効果ってのは、この括弧の中身か?」
「はい……見ての通り、《強化魔法》の効果って本当に微妙なんですよ」
これには流石に反論できず、俺は思わず口元を引きつらせた。
成長すればまだマシなのかも知れないが、現状は雀の涙でしかない。
まあ、他のを選んでも使わなかっただろうし、別に構いはしないのだが。
「長時間恒常火力が伸びるというメリットからMTもありませんが、正直なところ『強力な必殺技』という位置づけがされているMTが無いのは割に合いません」
「……まあ、別にいいだろ。首か心臓を斬れば死ぬんだしな」
「確かに、その点を考えると《死点撃ち》を持っていたのは不幸中の幸いでしたね。普通は殆ど狙えない外れスキル呼ばわりされますけど、先生なら当てられるでしょう」
どうやら、こちらは当たりではあったらしい。まあ、俺に限っては、という話らしいが。
弱点を狙うのなんざ、相手の体勢を崩してやれば簡単なことだと思うんだが、そんなに難しいモンかね。
「まあ、それは納得しました。先生ならまだ活かせるスキルでしょう……けど、何で自動回復系なんか持ってきたんですか!?」
「む? いや、回復手段は欲しいと思ってな」
「……いいですか? 回復は、回復アイテムを使えば間に合います。普通にNPCショップでも購入できますし、もっと性能のいいものを生産職が作っていたりもします。だから、回復手段でスキル枠を埋めるのは、余裕ができてからでいいんです! しかも微々たる量しか回復しない自動回復なんて……初期の貴重なスキル枠を割くのは勿体無さ過ぎます!」
確かに、初期のスキル枠はたったの五つ。
効果の薄いスキルのために割くのはいささか勿体無いと言うのも頷ける。
が――正直なところ、初期のスキルでは使えるものがほとんど無かったため、俺としては満足しているのだ。
「まあ、いいんじゃないか? 使えるスキルがあったら入れ替えればいい。どうせスキルなんて大して使いもしないからな、ポイントも余るだろう。何しろ、初期だって二つランダムにしたぐらいだし」
「見覚えのないスキルがあると思ったら、挙句の果てにランダムとか……! ああもう! マシンのことばかり考えてるんじゃなかった!」
終いには頭を抱え始めた緋真の姿に、俺は思わず苦笑を零す。
どうにも、こいつは固定観念に縛られすぎなきらいがある。
常識に縛られず、空気を読まないことこそが剣士としての一つの才覚であると言えるのだが。
普段はそこそこできているというのに、ここだとどうもセオリーというものを気にしすぎているのではないだろうか。
ふむ……鍛え直すか。
「ッ!? 先生、何か妙なことを考えてません!?」
「お? いい直感だな、その感覚を忘れないようにしておけよ?」
「質問に答えてないんですけど!?」
「それより、この《収奪の剣》はどうだよ? これぐらいは当たりじゃねえのか?」
詰め寄ってくる緋真をなだめすかし、俺は最後のスキルである《収奪の剣》を示してそう問いかける。
まだ試したわけではないが、この効果はかなり便利なスキルのはずだ。
だが緋真は、俺の問いに対し、僅かに表情を曇らせながら首を傾げた。
「……確かに、それは強いスキルだと思います。けど、そのスキル……私でも見たことがないんです」
「何? お前、一応このゲームでは上位のプレイヤーなんだろ?」
「はい。ですけど、そのスキルについては名前すら聞いたことはありません。ランダムとは言え、初期で取得できるスキルということは、この近辺で手に入るスキルなのでしょうけど……」
「ふむ……よく分からんが、まあ運がよかったということだな」
「相変わらずですね、先生。確かに、そのスキルはかなり強力ですから、きちんと鍛えたほうがいいかと」
色々と酷評はしてきたものの、それだけは保証して、緋真は頷く。
若干先行き不安なところはあるが……まあ、なるようになるだろう。
せっかく珍しいスキルを引いたんだし、作り直すというのも勿体無いからな。
「ほれ、他に説明はあるのか? 無いならとっとと敵がいるところに案内しろ」
「あ、はい。でも、その前に……先生、さっきフリードに勝利して、結構お金が手に入りましたよね?」
「おん? ……ああ、アイテム欄には結構な金額が書いてあるな」
額にして、537,643Z。相場はよく分からんが、少なくとも初心者が持てるような額ではないだろう。
決闘に勝利したら、相手の持ってる金を奪えるということか?
思いがけぬ臨時収入であるが、その話を聞いた緋真は、にやりと笑みを浮かべてみせた。
「――それでは、まずは装備を整えるとしましょうか」
■アバター名:クオン
■性別:男
■種族:人間族
■レベル:2
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:11
VIT:10
INT:11
MND:10
AGI:10
DEX:10
■スキル
ウェポンスキル:《刀:Lv.2》
マジックスキル:《強化魔法:Lv.1》
セットスキル:《死点撃ち:Lv.2》
《HP自動回復:Lv.1》
《MP自動回復:Lv.1》
《収奪の剣:Lv.1》
《採掘:Lv.1》
サブスキル:なし
■現在SP:2