394:その先へ
書籍版マギカテクニカ4巻、7/19(月)に発売となりました!
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イベントを終え、あれこれと裏側の事情を聞かされた翌日。
今日もゲームにログインするかと準備していた所で、俺は蓮司に呼び止められた。
金龍王の件もあってやることは多いし、さっさとログインしてしまいたかったのだが、話を聞かないわけにもいかない。
「師範、昨日のイベントの件について話をしたいのですが……」
「構わんが、軍曹のことか? 厳太共々、罠に嵌められて脱落したんだったか」
あのおっさんは、森中に爆薬を仕掛けて起爆することで、蓮司たちのパーティを丸ごと吹き飛ばしたらしい。
まあ、結果として自分も巻き込まれて吹き飛ぶことになったわけだが、最後の最後に大きくポイントを稼いだことだろう。
しかしあの野郎、その爆薬は本来俺を標的に使うつもりだったということか。
森一つ吹き飛ばすような量の爆薬をどうやって用意したのかは知らないが、無理に追いかけなかったのはやはり正解であったらしい。
「もう一度勝負をしたいってんなら話をつけるが……」
「それにも興味はありますが、問題はそこではありません。本庄さんのことですよ」
その言葉に、俺は思わず嘆息を零す。
うちの事情をよく理解している連中には何かしら言われるだろうと思っていたが、早速来たか。
「錬成の儀についてか」
「ええ……師範、貴方はあれで錬成の儀を終えたとするつもりですか?」
「言わんとしていることは分かる。あいつが俺に善戦できたのは、あくまでもあのゲームの中だから。ゲームとしての要素を除いてしまえば、あいつはまだまだ俺には届かない――そういうことだろう?」
「その通りです。その状態で錬成の儀を終えたといってしまうのは、流石に時期尚早かと」
確かに、蓮司が言っていることにも一理ある。
明日香が俺に対してある程度持ちこたえることができたのは、魔法やスキルを上手く使いこなしていたからこそだ。
あれらの要素が無ければ、戦闘時間は半分にも満たなかったことだろう。当然、俺に奥伝を使わせるほどの展開も無かったはずだ。
そういう意味では、確かにあいつの実力はまだ足りていないと言われてしまってもおかしくはない。
だが――そもそもの話、視点が違うのだ。
(俺たちは、いずれあちらの世界で暮らすことになる。その時、久遠神通流は今のままであるべきではない)
魔法、スキル――この世界には存在しない、しかし向こう側には当たり前のように存在する要素。
その世界に移住することになれば、当然それを前提とした戦い方が求められることになる。
その時、久遠神通流は大きく姿を変えることになるだろう。
今回の戦いで緋真が見せた動きは、久遠神通流にとっては未来のあるべき姿なのかもしれないのだ。
まだまだ粗削りで、改善すべき点はいくらでもある。魔法やスキルは劇物だ。久遠神通流の在り方を大きく変えてしまうがゆえに、それを洗練させていくには多大な時間を要することだろう。
――その先駆けとして、明日香は適任であるとも言えるのだ。
(しかし……それを説明するのも難しいわな)
残念ながら、この事情を知るものは数少ない。
うちでは明日香と亜里沙、そして運営組の一部だけが知る事実なのだ。
それを説明せずに納得させようとしても、俺にはどう伝えればいいかが分からない。
だが、蓮司は適当に話を逸らして済むような男ではない。きちんと納得できる答えを得られなければ引き下がらないだろう。
となると――
「……ちょうどいいのかもしれんな」
「師範?」
「夜に話す。紫藤のご隠居に、『例の件について公表したいから人選を見繕ってくれ』と伝えておけ」
「は、はぁ……それが本庄さんの件に関係があると?」
「ああ、こちらも勝手に話していい内容ではないんでな。別で確認を取っておく」
そろそろ、上位の門下生たちには話してもいい頃合いかもしれない。
悪魔との戦いも近く、二つの世界の真実には徐々に近づいて行ってしまうのだから。
だが、信用する相手とはいえ、安易に話していい内容でもない。
とりあえず、こちらもアルトリウスには確認を取らなければならないしな。
さて――
「どうなることやら」
果たして、誰もが納得できる内容だろうか。
分からないが――まずは、できることから始めるとしよう。
* * * * *
「で……皆さんに話すんですか?」
「話さざるを得ないだろう。修蔵と厳太ぐらいならまだしも、蓮司を適当に説得するのは不可能だからな」
「まあ……幸穂さんはともかく、水無月さんはとことん追求してきそうですしね」
緋真の言葉に、俺は軽く肩を竦める。
あいつは一応、久遠家に連なる一族の出身であるため、古くからの慣習にそこそこ煩い。
まあ、柔軟さが無いわけではないため、決して話が通じないというわけでもないのだが。
だが何にせよ、適当な理由だけで説得しきれるほど容易い相手ではないこともまた事実だ。
「とりあえず、アルトリウスには確認した。向こうもご隠居のことは把握していたみたいだし、こっちで話す範囲は判断していいそうだ」
「紫藤家のご隠居ですか……あの人ちょっと怖いんですよねぇ」
緋真の言わんとすることには内心で同意しつつ、苦笑を零しながらフィールドを進む。
アリスは良く分かっていない様子だが、一度話をすれば理解できるだろう。
あの爺さんは、久遠家の古い妄執に取り憑かれているかのような人物だ。
箱庭の実験に参加した時から、その感覚は変わっていないのだろう。
あれに比べれば、まだジジイの方がマトモだと感じてしまうレベルだ。
「とにかく、夜には話をする。そこまで含めりゃ、蓮司たちも納得するだろう」
「逆に大変になりそうですけどね……こっちで生きることを前提に技術を磨くとなると、滅茶苦茶変わりそうですし」
「確かにな。スキルや魔法を組み合わせると、更に細分化されていきそうだ」
向こうの世界においては、俺たちはただ刀を振り、体を鍛えればそれでよかった。
しかし、こちらの世界では、そこに多種多様なスキルや魔法を組み合わせることになる。
昨日緋真が行ったように、それによって変化する業は千差万別でありながら強力だ。
俺は単純に素の攻撃力を強化するような形であるためあまり変化は無いのだが、緋真のような柔軟なタイプであれば久遠神通流は大きく変わることになるだろう。
「強くもなるし、弱くもなる。だが、それを考えるにも長い……本当に長い時間が必要になるだろう。だが、俺たちがこちらに移住する前提であるならば、お前が作り上げたスタイルは決して悪いものではない筈だ」
「……先生、もしかして、私のために説明してくれるんですか?」
「バカ言え、どっちにしろいずれは話さなきゃならん内容だったし、都合がよかったってだけだ」
肩を竦めてそう告げたが、緋真はにやけた笑みを崩さない。
その様子に嘆息し、しかしそれ以上訂正するのも面倒であるため、そのまま口を噤んで先に進むことにした。
何にせよ、やることは変わらない。今日の内に強化と準備を終わらせ、明日金龍王の元へと向かうのだ。
金龍王が住まう場所は、今もこの空の上に浮いたままとなっている浮遊島。
かなりの高度ではあるが、飛行騎獣ならばなんとか辿り着ける高さであろう。
銀龍王や青龍王の姿は目にしたが、果たして金龍王はどのような姿なのか。
「とりあえず、準備は進めるぞ。恐らく、金龍王との戦いはかなり面倒なことになるからな」
「はーい、了解です。っていうか、本当に戦闘になるんですか?」
「あの話を聞いた感じでは、可能性は高いだろう。どうにも、こちらの事情を気にするタイプではなさそうだ」
向こうの世界での俺を知っているというのもあるが、金龍王がどのような話をしてくるのかの想像がつかない。
だが、先のイベントを仕組んだ辺り、人間の事情はあまり気にしないタイプのように思える。
こうして考えると、現実に存在するドラゴンというものの在り方を考察してしまうが――ともあれ、人とは乖離した思考回路を持つ存在には違いないだろう。
正直な所、あまり関わり合いにはなりたくないタイプであるが、事情が事情だけに無視するわけにもいかない。
果たしてどのような意図があったのか、それも含めて確認しなければならないだろう。
「まあ、どんな展開になるにせよ、餓狼丸は成長させる必要がある。とっとと経験値を貯めておくぞ」
「了解です。紅蓮舞姫もレベルアップさせたいですし。ちゃっちゃと終わらせちゃいましょう」
色々と面倒事は多そうではあるが、今後の方針にも大きくかかわってくる可能性が高い。
心してかかるようにしよう。





