392:再度の依頼
書籍版マギカテクニカ4巻、7/19(月)に発売となりました!
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『金龍王――我ら龍の長は、非常に特殊な立ち位置にある存在だ』
「というと?」
『我ら龍王は、世界の調整役である。力のバランスを保ち、世界を存続させることこそが、女神より下された我らの使命だ』
どうにも要領を得ない話ではあるが、一応前から聞いていた内容と合致する。
今の所は理解できない話ということもないし、とりあえずは黙って続きを聞くとしよう。
『しかし、金龍王はそれとも少し異なる。あの方は、女神と直接の繋がりを持つ存在なのだ』
「……この話と、女神に関係があるのか?」
『無論。何故なら、それこそが今回『龍の庭園』を開いた最たる理由なのだから』
何というか、説明下手なタイプのドラゴンだ。
上位存在らしいというべきか、視座が違うように思える。
いまいちわかり辛いのだが、要するに今回のイベントは、金龍王と女神が組んで開催したということなのだろうか。
元々は銀龍王の怪我を癒すことが目的だと聞いていたし、実際に銀龍王は重傷を負っている様子ではあるのだが、そことは話が異なるというのか。
首を傾げる俺たちの様子に、見かねたらしいヴォルタークが横から声を上げた。
「つまりだな、クオンよ。銀龍王の負傷は、単なる口実に過ぎんということだ」
「……本来の目的は金龍王側にあり、その目的を満たすための口実に、銀龍王が使われたと?」
「その通り。金龍王は、その気になればさっさと銀龍王を癒すことは可能なのだ。悪魔が蠢動しているこの状況で、銀龍王を放置する合理的な理由などあるわけがない」
以前は金龍王の性格上の問題だと説明されたが、どうやら実態は異なるらしい。
銀龍王が負傷したことは事実だし、それを癒さなければならないこともまた事実。
だが今回の騒動は、その実情を金龍王が利用しようとしたがために起こったということなのだろう。
「でも……どうしてそんなことを? 悪魔がしばらく動かないといっても、この状態の銀龍王を放置するなんて……」
緋真の疑問は俺も感じていたものだ。一体いかなる理由があれば、銀龍王を放置してまでこのようなイベントを開催する必要があったのか。
その問いに対し、再び声を響かせたのは銀龍王の方であった。
『言ったであろう。金龍王は、元より女神と通じている。故に知っていたのだ』
「……一体、何を?」
『貴公の存在だ、異界を救いし英雄よ。此度の催しは全て、貴公の実力を測り、かつ貴公を正式に呼び出すがための茶番である』
その言葉に、目を見開いて絶句する。
金龍王は、最初から俺のことを知っていたというのか。それも、このゲーム内の俺ではなく、向こうの世界の俺のことを。
そして、そんな俺を正式な形で呼び出すために、こんな盛大な催しまで起こしたというのか。
「……もし俺が負けていたらどうするつもりだったんだ?」
『さてな。それは金龍王のみ知ることだ。しかし、貴公が勝ち上がることを確信していたようであったがな』
成程、金龍王は随分と厄介な人柄――龍柄? をしているようである。
しかし、今の断片的な情報だけではその真意、というか更に先の目的までは読み取れず、眉根を寄せて黙考する。
ともあれ、金龍王は女神、つまりはこの箱庭を管理する者から俺の情報を受け取っていたということだ。
それがどの程度の情報なのかは分からないが、逢ヶ崎グループとの交渉で出た情報には間違いないだろう。
彼らはこちらの箱庭でMALICEを退けたことを交渉材料にしていた筈だから、俺やジジイのことを知っていたとしても不思議ではない。
そして、その情報が金龍王に伝わっているのであれば――成程確かに、今後のことを考えれば、話をしておくべきだろう。
(銀龍王が世界の真実をどこまで知っているのかは分からないが……金龍王は確実に知っている。だからこそ、こんな盛大な茶番を用意したんだ)
どのような話をするつもりなのかは分からないが、事情を知っている存在と話をしておくのは重要だ。
それも、俺たちの世界側ではなく、こちら側の世界に属する存在だ。
俺もまだ、裏側の全てを把握しているわけではない。だからこそ、アルトリウスたちだけでなく、こちらの世界に属する者の話も聞いておくべきなのだ。
尤も、金龍王がどこまで話をするつもりなのかは分からないが。
「それで……結局俺は、どうすればいい? ただ金龍王の元に向かえばいいのか」
『うむ……あの方は、貴公が訪れる時を待っている。目的を果たせば、血を分け与えてくれることだろう』
「それなら、戦闘は無いと考えていいのか? 青龍王からは、戦うための準備としてアイテムを貰ったんだが」
『いや、それに関しては青龍王の懸念通り、戦いを覚悟しておくべきだろう。あの方が、貴公のような英雄を呼び出してただで終わるとは思えぬよ』
いい加減、英雄と呼ばれるのは勘弁して欲しいところではあるのだが、それ以上に金龍王の性癖も何とかして欲しいところだ。
本当に、ただ話をするためだけに呼び出したのであれば、それだけに収めて欲しいのだが。
戦いそのものを否というわけではないが、流石に餓狼丸を強制解放しなければいけないような戦いはそうそう行いたくはない。
その事前準備のためにどれだけ苦労すると思っているのか。
しかしながら、この状況では行かないという選択肢もない。銀龍王の傷は癒さなければならないし、今後のことを考えれば金龍王と顔を合わせておくに越したことは無いのだ。
「……状況は承知した。とりあえず、金龍王に会いに行った上で交渉し、血を分けて貰って来いと……そこに変わりはないってことだろう?」
『然り。我らの都合に付き合わせてしまうことは申し訳ないが、よろしく頼みたい』
凍り付いているため動くことはできないようだが、銀龍王の声の中には懇願の色が見て取れた。どうやら、彼も上司の命令には逆らえないらしい。
裏側の事情についてはいくらか明らかになったものの、結局やることは何一つ変わってはいない。
成長武器をもう一段階強化し、そして解放可能な程度に経験値を貯めた上で金龍王の元へと向かう。
厄介事の気配は感じるが、同時に重要な話を聞けそうな予感もある。これを見逃すわけにはいかないだろう。
「……了解した。行先は、あの空に浮かんでいた岩の塊で間違いないんだろう?」
『然り。金龍王が住まうのは、空を旅する浮遊島である。あの上では目立つ場所に住んでいる故、迷うことはないだろう』
ここにきて、随分とファンタジーな要素が出てきた物だ。
空の果てに浮かぶ浮遊島、そこに住まうのはドラゴンたちの長か。
経緯こそは面倒なものだが、その光景は是非とも目にしてみたいものだ。
「分かった。それでは、準備ができたら向かわせて貰うとしよう。悪いが、万全を期するために少し時間は貰うがな」
『構わんとも。存分に準備を行い、挑むがいい』
怪我をしている当の銀龍王からも許可は貰ったことだし、きっちり成長武器の準備を終えてから進むこととしよう。
どのような戦いが発生するのかは分からないが、決して楽なものにはならないだろう。
その他の装備についても、できることがあるならやっておくべきだ。
「それじゃあ、そろそろ戻らせて貰いたいが――」
『ああ、しばし待て。そこの龍の子よ』
この洞窟の入口辺りで控えている騎士に、再び道案内を頼もうとしたところで、銀龍王が声を上げた。
その言葉は、間違いなくシリウスに向けられている。どうやら、真龍であるシリウスに興味があったようだ。
『《小型化》か。どれ、見せてみよ』
「グルルッ!?」
刹那、凄まじい魔力が膨れ上がる。
そしてそれと同時、《小型化》によって縮んでいたシリウスの体が、一気に普段のものへと変貌した。
危うく衝突しかけて、慌てて距離を取るのだが、銀龍王はこちらを気にした様子はない。
何と言うか、彼は本当に大雑把だな。
『成程、剣龍……色は似ているが、我が眷属ではないか』
「あんたの一族は、氷の真龍だったか」
『然り。氷の龍種の頂点に立つのが我である。故にこそ、我が一族から新たなる龍王が生まれ出でることはないが』
「……えー、つまり、同種の真龍の中から二体の龍王が生まれることは無いということか」
『そうだ。故に、貴公には期待をさせて貰うとしよう。欠けた龍王の座、是非とも埋めて貰いたいものだ』
今の所、龍王の半数が欠けている状態にある。
悪魔共も無視はできないが、女神の手足とも言える真龍たちの数が減った状況は望ましくない。
とはいえ、目の前にある龍王の姿からも理解できるが、今のシリウスとは隔絶された力を有している。
シリウスをこの領域まで育てるには、果たしてどれほどの時間が必要になるだろうか。
正直想像もつかないが、世界的には必要なことなのだろうし、こちらとしてもシリウスを強くすることに異存はない。
どれほど時間がかかるかは分からないが、その目標へと向けて育てていくことにしよう。
「まあ、俺には他の真龍を育てている余裕は無いから、他の属性についてはおたくのところの龍育師に頼む。俺はこいつを、限界まで育ててみるさ」
『うむ、期待しているぞ。では、我はまたしばし眠る。次に会うのは、貴公が血を持ち帰った後になろう』
言いたいことだけ言い切って、銀龍王は目を閉じた。
どうやら、宣言通り本当に眠ってしまったらしい。
実際、かなり消耗はしているのだろうが、何ともマイペースなドラゴンだ。
「ええと……とりあえず、話は以上ってことで?」
「ああ、告げるべきことは告げた。苦労を掛けてしまうが、金龍王との対話は任せる。こちらから余計なことをして、あちらの機嫌を損ねるわけにも行かんからな」
「成程……では、吉報をお待ちください、ということで」
話には聞いていたが、銀龍王だけではなく、金龍王も結構癖のある性格であるようだ。
青龍王のようにマトモで丁寧な真龍は他にいないのだろうか――と思ったが、残る赤龍王も黒龍王も中々面倒そうな性格であるらしい。
せめて、金龍王が噂よりもマシな性格であることを期待しつつ、俺たちは地上へと戻ってログアウトしたのだった。