388:新たなる久遠神通流
書籍版マギカテクニカ4巻、7/19(月)に発売となります。
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二刀流という戦い方は、実際の所あまり有効であるとは言えない。
最初から片手で扱うことを想定している武器であればまだしも、両手武器を片手で扱えばどうしても無理が出てしまう。
特に刀は、両手それぞれの力加減が重要となるため、片手で扱えばどうした所で威力は落ちてしまうのだ。
無論、鍛え上げた膂力があれば、片手であっても相手を斬ることに不足はない。
しかし、両手での扱いに比べればどうしても劣る――そして、それを補うだけの価値がもう片方の刃にあるかどうかは、正直微妙な所だろう。
しかし、その上で尚、緋真は二刀流という戦い方を選択した。
構えも堂に入っているし、一朝一夕の付け焼刃ではないだろう。
いつ練習していたのかは知らないが、こいつは最初からこの状況を想定していたようだ。
「《術理装填》、《スペルエンハンス》【ファイアジャベリン】」
刀を前に、そして小太刀を後ろに。
炎を纏い燃え上がるのは、刀ではなく小太刀の方だ。
先ほども見たが、どうやら緋真は、《術理装填》に小太刀を利用するつもりであるらしい。
半身になった緋真は、その体で小太刀の刀身を隠している。
アリスの戦いに着想を得たか、小太刀は不意討ちに使うため、その出方を隠すつもりなのだろう。
尤も、それならそれで、こちらは相応の対処をするまでだ。
「――ッ」
歩法――縮地。
緋真との距離を一気に詰める。
片手でしか刀を保持できない関係上、今の緋真は防御が手薄だ。
並の剣士が相手であれば、緋真は今の状態でも流水を成功させるだろうが――
斬法――剛の型、竹別。
――普段でさえ難しい俺の剛の型は、今の緋真に受け流し切れるものではない。
「っ……!」
案の定、緋真は流水ではなく、回避することで俺の攻撃に対処してきた。
縮地による移動に惑わされることもなく、きっちりとタイミングを合わせて回避した緋真は、そのままこちらへと向けて小太刀による刺突を放ってきた。
それを打ち払おうとし――咄嗟に、回避を選択する。
瞬間、小太刀より伸びた炎の槍が、俺の頭があった場所を貫いて行った。
(……成程)
納得感を覚えつつ、俺はそのまま緋真へと接近しつつ一閃を放つ。
俺の回避の内に小太刀を引き戻していた緋真は、袈裟懸けの一撃を小太刀を使って逸らして見せた。
あまり大きく逸らせてはいないが、若干の回避行動を含めてギリギリのタイミングで攻撃を躱している。
僅かでもズレれば俺の刃が直撃するというのに、大した胆力だ。
「しッ!」
「くくく……ッ!」
俺の攻撃を避けると共に、緋真は刀による横薙ぎの一閃を放ってくる。
例え片手であったとしても、直撃すれば大きなダメージは避けられない。
その一撃を後退して回避すれば、連動して放たれた小太刀より炎の槍が飛んでくる。
炎については《蒐魂剣》で消し去りながら、俺は改めて緋真の姿を観察した。
最初と同じ構えに戻した緋真は、静かにこちらの出方を観察し続けている。
やはりと言うべきか、コイツの動きは、普通の二刀流であるとは思わない方が良さそうだ。
(小太刀がサポートかと思ったが……下手をすると、小太刀の方がメインということもあり得るな)
今の緋真の戦法は、刀を通常の攻撃に利用しつつ、小太刀に《術理装填》を使って戦うというスタイルだ。
魔法による強化がかかっていれば、本来威力が低いはずの小太刀も十分な破壊力を発揮できる。
緋真の魔法攻撃力を考慮すれば、現状では刀より威力が高くなっていたとしてもおかしくはないだろう。
「成程、よく考えたもんだ」
「威力が足りないなら足す……この世界でなら、そんなこともできますから」
「道理だな」
緋真は、久遠神通流の型にこだわっているわけではない。
この箱庭特有の技術を取り入れ、更に新たな形へと昇華させようとしているのだ。
それが久遠神通流の将来を見据えてのものなのか、単純にできそうだからやってみただけなのかは分からないが、この応用力こそが緋真の強みだと言えるだろう。
選択肢が増えれば増えるほど、そして時間を与えれば与えるほど緋真は強くなる。
今の緋真がどこまで完成させているのか――その全てを見てみたいと、心底から思った。
「《蒐魂剣》、【断魔鎧】」
「っ……!?」
流石に緋真の魔法は痛いため、そろそろ防御を固めておくことにする。
しかし、緋真はどうやらこのテクニックを知らなかったらしい。
まあ、別行動している間に手に入れたテクニックであるし、それは仕方のない話だが。
とはいえ、緋真も《蒐魂剣》を扱える以上、このテクニックの効果は容易に想像がつくだろう。
同時に、その威力を当てにしていた緋真にとっては厄介な代物であるとも言える。
尤も、緋真の魔法攻撃力はかなり高く、【断魔鎧】でも完全に防ぎ切れるわけではないだろうが――
「やっぱり覚えてましたか、新たなテクニック……」
「レベルも上がったもんでな。そっちこそ、スキルは色々と成長しているんだろう?」
「……ええ、それなら見せてあげます! 【フレイムフィールド】ッ!」
俺の言葉に対し、緋真は強い語調で新たな魔法を発動した。
瞬間――俺たちの戦っているこのエリアの一部が、燃え上がる炎に包まれた。
「……ッ!」
【断魔鎧】のお陰で、直接触れる炎はすぐに消え去っている。
しかし、それはあくまでも一部の炎だけであり、動き回ればまた炎に接触することになる。
そうすれば、【断魔鎧】はどんどんとその効果を浪費してしまうことになるだろう。
以前に覚えていた魔法であるが、あまり使用する機会は無かった。しかし、まさか【断魔鎧】に対してこれほど効果的な魔法があったとは――!
「《術理装填》! 《スペルエンハンス》、【ファイアエクスプロージョン】!」
次いで、緋真は新たな魔法を発動する。
かなりの魔力が籠っている辺り、恐らくはこれが新しく習得した魔法だ。
名前からして、恐らくは爆発を発生させる魔法。その効果を、緋真は右手の刀の方へと発動させた。
「ッ……《練命剣》、【命輝一陣】!」
緋真に先に動かれるわけにはいかない。そのため、牽制としてまずは生命力の刃を撃ち放つ。
炎の中をかき分けるようにして飛翔した輝きは、しかし刀の振り上げによって打ち砕かれた。
どうやら、刀の威力もかなり上昇しているらしい。持っている武器の性能差もあるかもしれないが、あの魔法の威力はかなりのものと見た方がいいだろう。
「《蒐魂剣》、【断魔斬】!」
しかし、僅かながらにでも時間は稼いだ。
構えた刃には青い光が収束し、眩く輝き始める。
あらゆる魔法を打ち消す青い光。これで、周囲の炎ごと緋真の一撃を打ち消す。
「はあああっ!」
「おおおおッ!」
緋真は、左手の小太刀を頭上へと放り投げ、両手で持った刀を大上段に構える。
対し、こちらは脇構えに太刀を構え、重心を低く腰を落とす。
放つのは、大きく弧を描く広範囲への一閃――
斬法――剛の型、輪旋。
青い軌跡は周囲に広がり、眼前で爆裂した炎と正面からぶつかり合い――溢れ出た炎の一部が、こちらの身を叩く。
どうやら、【断魔斬】ですら完全に消し切れる威力ではなかったようだ。
(武器の差がここで出てくるとはな……!)
緋真はフィノを仲間にしていた。恐らく、装備品に関しては最高の状態で仕上げてきていることだろう。
新たな魔法と、武器威力の差。出し惜しみせずに魔法を使っていることもあるだろうが、攻撃力面では明らかに緋真の方が上だ。
消し切れなかった分に関しては、何とか【断魔鎧】が受けきってくれたようではあるが、おかげで【断魔鎧】も消滅してしまった。
しかし、【断魔斬】の効果はしっかりと周囲に及び、【フレイムフィールド】による効果も消滅している。おかげで、こちらも動きやすくはなった。
「『生奪』」
再び、緋真へと距離を詰める。
落ちてきた小太刀をキャッチした緋真は、同じくこちらへと向けて駆けだしたが――その動きに、俺は眉根を寄せた。
動きは陽炎であるのだが、走る緋真の姿が歪んでいるように見えるのだ。
あれは、纏っている《炎身》の影響か。まさに文字通り、炎が発する陽炎によって動きを見づらくしているのか。
しかし――
「その程度で捉え切れないと思ったか?」
「ッ……!」
歩法――縮地。
緩急をつけて近寄ろうとする緋真に対し、こちらは一気に距離を詰める。
陽炎の狙い所は、速度を変えた直後だ。
流石にあまり連続して速度を変えることは俺でも難しく、今の緋真にできるような芸当ではない。
瞬時に距離を詰めた俺は、緋真の位置を確実に捉えて一閃を放つ。
対する緋真は小太刀によって一閃を受け流そうとするが、流石にそれだけで受け流せるほど俺の一閃は甘くはない。
受け流し損ねた緋真は僅かに体勢を崩し――続く一閃が、緋真の肩を斬り裂いたのだった。





