386:交じり合う戦線
書籍版マギカテクニカ4巻、7/19(月)に発売となります。
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「マリン!」
「分かっているとも! まったく、本当に無茶苦茶だなぁ!」
周囲のプレイヤーを潰しにかかる俺へと、アルトリウスはマリンと共に魔法を放ってくる。
降り注ぐ魔法は厄介ではあるが、距離が開いている以上は避けることもそう難しくはない。
だが、接近戦を行うには距離が離れすぎているし、近づこうにも俺が白影を使っているせいで追いつけない状況のようだ。
そうしている間にも、俺は集まってきている他のプレイヤーを狩り続ける。
ここまで生き残っているプレイヤーは粒ぞろいではあるものの、それでも俺とまともに戦えるほどのレベルではない。
俺は眼前に迫った相手を破山にて吹き飛ばしながら、インベントリから取り出した『修復の骨粉』を使用している太刀へと振りかける。
流石に、これだけの数を倒すと武器の耐久力も減ってきてしまうが、まだ何とかなるだろう。
(さあ、どうする? 俺を仕留めるのはそう容易くはないぞ。これだけの数を揃えたとしても、だ)
他のプレイヤーたちの動きは、徐々に精彩を欠いてきている。
数で攻めながらまるで攻撃が届かないこの状況に、徐々に押され始めているのだ。
これだけの数のプレイヤーがいれば勝てるとでも思っていたようだが、ロクに統率も取れていない連中で俺を仕留め切れるなどと思い上がるとは片腹痛い。
確かに、俺がアルトリウスたちと戦い続けていれば話は変わっていただろう。だが、大きく消耗することになったとしても、こちらの方が勝ちの目がある。
それに――俺の戦いに押され始めたプレイヤーの動きは、想像がついているのだ。
「くそっ……あっちは放置しろ、注意を引くな!」
「マジバケモンだろ、逆に笑えて来るわアレ」
どうした所で手の付けられない強敵は、よほど執着していない限りは後回しにする。
まだ俺を狙ってきているプレイヤーはいるものの、その数は徐々に減ってきている状況だ。
今の所、攻撃を受けた際に反撃する形で対処するよう動いている。そのため、周囲の連中も、手を出さなければ反撃されないと思いつつあるのだ。
そして、俺への攻撃密度が減ればどうなるか――当然、狙われるのは他の優勝候補だ。
それに該当するチームはいくつかあるだろうが、今現在最も目立っているのは、間違いなくアルトリウスであろう。
周囲の攻撃が集中し始め、しかしそれらはまとめてパルジファルによって防がれる。
あれだけの数に狙われているというのに、流石の防御力だ。
(まだアルトリウスの作戦は崩れていない。パルジファルがいる限り、あいつのチームが敗れることはない。面倒だが、やっぱり彼女を仕留める以外にないか)
とはいえ、彼女を突き崩すのは一筋縄ではいかない。
純粋な防御力の高さもあるが、彼女の戦い方は非常に巧みなのだ。
例えタイマンで戦ったとしても、彼女を倒し切るにはそれなりの時間を要するだろう。
そしてこの状況下であれば、その時間が致命的にもなりかねない。
アルトリウスたちにとっても厄介な状況なのだろうが、俺もアルトリウスたちを崩し切れる状況ではない。
さて、どうしたものか――そう考えた、瞬間だった。
「――――っ!」
――鋭い気配が、丘を駆け上がる。
色のない視界には捉え切れないが、それは俺もよく知る気配であった。
小柄な彼女は、誰の目にも映ることなく疾走し――パルジファルの背後から、その首へと刃を突き立てた。
「が……ッ!?」
「油断大敵よ、守護騎士様?」
強靭極まりない耐久度を誇るパルジファルは、突如として背後から襲い掛かってきたアリスの一撃を受けて尚、即死には至っていない。
強引に背中のアリスを振り落としながら槍を振るったパルジファルは、その柄で彼女の体を捉えて弾き飛ばすが、その一瞬前にアリスが放り投げたアイテムまでは反応しきれなかったらしい。
地面に落ちて割れたそれは、何らかの液体が入った小瓶。それが地面に触れて砕けた瞬間、中の液体は一瞬で気化し、周囲に煙を発生させた。
恐らく、毒の煙だろう。その様子を見ながら、俺はアルトリウスたちの方へと向けて駆けだした。
「さあ……一人は貰うわ」
弾き飛ばされて地面を転がったアリスは、即座に起き上がって駆けだす。
《上位毒耐性》を持つアリスは、自らが作り上げた毒煙の中でも関係なく行動することができる。
大幅にHPを削られ、毒までもを付与されたパルジファルは、既に瀕死の状態だ。
後一撃で仕留め切れるような相手を、彼女が見逃すはずがない。
狙うのは、毒の煙から抜け出そうとするパルジファル。その体目がけ、アリスは防御無視の一撃を叩き込み――
「――【ミラージュエスケープ】ッ!」
――標的であるパルジファルの体を、擦り抜けてしまった。
確かに一瞬前まで本物であったはずのパルジファルが虚像となり、その後ろにあった虚像が本物になったのだ。
どうやら、展開している幻と本物の位置を入れ替える魔法であるらしい。
直前で標的をすり替えられたアリスは、事態を把握できずに硬直し――その身を、パルジファルの槍によって貫かれた。
「ッ……流石!」
しかし、痛みを覚えぬアリスはそれでも尚、動きを止めることはない。
槍に貫かれ動けぬ状態のまま、彼女は手にあるナイフをパルジファルの顔面へと向けて投擲した。
その状態でまだ動いてくるとは思わなかったのだろう、パルジファルは咄嗟に左手でナイフを防ぎ――次の瞬間、その腕の隙間を縫って、アリスが残る左手から投擲した小型のナイフが彼女の首へと突き刺さった。
「ば、かな……アルトリウス、様……ッ!」
「っ……痛み分け、ね」
直後、二人のHPは完全に尽き、その場に崩れ落ちる。
予想外の展開ではあるが、こちらも足を止めることはない。
白影は解除し、通常状態に戻った視界の中、俺は煙の先にいるアルトリウスへと向けて駆け抜ける。
アルトリウスはパルジファルが倒されたこと、そして俺が近付いてきたことも理解しているのだろう。
苦い表情ではあるが、それでも逃げることなく剣を構え、こちらへと向けて駆けだす。
「【ルミナススライサー】ッ!」
「《練命剣》、【命輝閃】!」
斬法――剛の型、刹火。
アルトリウスが振り下ろす、光を纏う一閃。
けれど、こちらが振るう刃はそれよりも速い。生命力で輝く一撃はアルトリウスの脇腹に突き刺さり、その身を深く斬り裂く。
「――僕の負け、か」
小さく、しかし確かな悔しさの滲む声。
アルトリウスは本気で俺に挑み、その上で敗北した。
それが耳に届くことを感じながら、俺は息を整えつつ最後の一人へと向き直った。
「あー……見逃して貰うわけには?」
「ここで一人残っても興醒めだろう」
両手を上げるマリンであるが、彼女が油断ならぬ相手であることは理解している。
俺は即座に彼女へと距離を詰め、その首へと向けて刃を振るった。
曲者ではあるものの、武術方面については全く習熟している様子はない。
俺の動きを捉え切れなかった彼女は、抵抗することもできずにそのまま倒れ伏し、アルトリウスたちはそのまま消滅したのだった。
「さてと……良い感じに場も温まってきたようだな、アリス」
「いいけど……助けては貰えないわよね?」
「当たり前だろうが」
「せめてトドメを刺すのは勘弁してくれないかしら……一応、私もあなたたちの決着は見たいのだけど」
それに関しては、まあいいだろう。
アリスも一応は身内だ、この戦いから除いてしまうというのも気が引ける。
とはいえ、俺は同じパーティではないので、彼女を復活させることもできないのだが。
とりあえず彼女のことは放置しつつ、そのまま周囲の様子を確認する。
まだそれなりの数のプレイヤーが残っているが、かなり減ってきていることは間違いない。
今起こっているすべての戦いが終われば、このイベントは終結することになるだろう。
「とりあえず、仲間に救援のメッセージでも送っておけ。その間に他の連中にトドメを刺されないかは……まあ、運だな」
「……分かったわよ。緋真さん以外の相手は、早めに終わらせてよね」
その場に倒れたまま、アリスは深く嘆息を零す。
その様子に小さく笑みを零しつつ、俺は他のプレイヤーの殲滅へと足を進めたのだった。





