382:要塞の探索
巨大なランドマークであるこの要塞は、その大きさだけあり、かなりの広さを誇っている。
その割には階段の数が少ないようで、内部まで入り込むと移動がかなり面倒になってしまうようだ。
まあ、外に出るだけならば窓から外に出ればいいだけの話なのだが、内部の探索はそれなりに骨である。
この構造上、奥まった場所の探索はかなりしづらいはずだ。これならば、もしかしたらまだ探索されていないアイテムはあるかもしれない。
序盤の慌ただしい状況では全てのアイテムを探索しきることは難しいだろうし、その後も奥まで探索しているかどうかは怪しいところだ。
できることなら有用なアイテムが残っていて欲しいところであるが――
「そこだああっ!」
「――――」
廊下の角から突如として姿を現し、こちらへと槍を突き込んでくるプレイヤー。
しかし、その気配はとうの昔に察知している。小さく嘆息を交えながら、俺は突き出されてきた槍へと刃を添えた。
斬法――柔の型、流水・渡舟。
突き出された槍の軌道を逸らしながら、その柄の上へと刃を乗せる。
そのまま滑らせた一閃は、交錯の間際に攻撃してきたプレイヤーの首を斬り裂いた。
HPが尽きて倒れ伏すプレイヤーは放置し、コイツが飛び出してきた廊下の先へと向かう。
見れば、その廊下の先にはこちらへと弓を向けるプレイヤーの姿があった。
どうやら、先程のやつが不意討ちをして即座に退却、反撃のために追ってきた相手を一網打尽にする戦法であるらしい。
「まあ、不意打ち上等ではあるんだが……わざわざ声をかけてくるなよ」
歩法――烈震。
前に倒れながら地を蹴り、残る二人のプレイヤーへと向けて一気に距離を詰める。
慌てた様子で矢を放ってくるが、その一撃は生憎と、姿勢を低くした俺の頭上を通り過ぎて行った。
そして、もう一人のタンクらしきプレイヤーが立ちはだかり、こちらへと楯を向けてくるが――生憎と、この狭い室内ではあまり意味がない。
俺は小さく苦笑を零しつつ、地を蹴って跳躍した。そして、そのまま三角跳びの要領で壁を蹴り、天井を足場にしながら二人の背後にまで回り込む。
「はぁ!?」
「ちょっ、まっ――」
無論のこと、待つわけがない。
そのまま振り返ろうとする弓使いの首筋に刃を添えた俺は、腰の回転と共にその刃を振り抜いた。
斬法――柔の型、零絶。
この狭い室内では、刃を大きく振るう類の剛の型は扱い辛い。
別段使えないというわけではないのだが、柔の型を使用した方が効率が良いのだ。
そういう意味でも、デューラックが戦刃を相手に室内戦を選んだのは正解だっただろう。
首を裂かれて倒れ伏したプレイヤーを横目に、タンクのプレイヤーへと肉薄する。
既に諦め気味らしい彼の動きは緩慢で、こちらとしては面白みが少ない。
奇襲という戦法自体は間違っていないのだから、せめて反撃された時の対処ぐらいは準備していて欲しいものだ。その意志を込めて、俺は相手の楯を掻い潜るようにしながら鎧の隙間へと刃を添えた。
「ふッ」
「ごふっ……」
斬法――柔の型、射抜。
柄尻を叩いて撃ち出された一撃は、そのプレイヤーの内臓を抉り、HPを砕け散らせる。
それによって、倒れていた三人のプレイヤーは光の粒子となって消滅した。
首を斬り飛ばした手応えがあるのに、首が繋がっている図というのは何とも違和感が強いのだが、こういったシステム上は仕方が無いのだろう。
軽く溜め息を零しつつも、俺は彼らから手に入れた戦利品を確認した。
「まあ、こういうシステムだし、仕方のない話なんだろうが――お?」
一通り確認し、俺は見慣れぬアイテム名に目を瞬かせた。
弓を使っていたプレイヤー、彼が持っていたそのアイテムの名は『武器保管庫の鍵』。
その実態については、名前の通りなのだろう。この要塞内のどこかにあるという、武器保管庫の扉を開けるための鍵だ。
保管庫はいくつかあるが、その場所については定かではなく、また扉を開けるための鍵がどこにあるかも明らかにはなっていなかった。
彼らも偶然手に入れたのだろうが、果たしてこの保管庫は既に開けられてしまった後なのかどうか。
このアイテムの扱いにしばし黙考し――とりあえず、懐に収めることにした。
「無駄足になるかもしれんが、他に当てもないしな」
既に保管庫を開けられてしまっている可能性は高いが、もしかしたら手つかずである可能性もあるし、全てのアイテムを持ち出されてしまっているとも限らない。
とりあえず、探しておいても損はないだろう。
(そうなると、要塞のマップが欲しいんだがな)
現状、マップを開いてもイベントエリア全体のものしか表示されない。
この要塞内の詳細なマップは、現状確認することができないのだ。
まあ、分からない以上は適当に歩き回る他に道はない。とりあえず、適当に当たりを付けて進んでみるしかないだろう。
そういうレアな要素の類であるし、もっと奥まった場所にあると考えるべきか。
「……しかし、まだ戦ってるのか」
ちらりと窓の外を見れば、建物の外で戦闘を繰り広げているプレイヤーの姿が目に入る。
これまでこの要塞内で動いていたプレイヤーだけではなく、エリア収縮によって移動してきたプレイヤーも入ってきているらしい。
おかげで、いつまで経ってもこの要塞内での戦闘は終わる気配がない。
そして、その戦闘音を聞きつけた他のプレイヤーが集まってくる――何とも愉快な悪循環だ。
「あそこでやり合うのも面白いんだがな」
堂々と目立つ場所で戦い、集ってくる他のプレイヤーを纏めて相手取る。
それはそれで実に楽しそうであるし、収縮までの暇をつぶすのにもいいのだが、今はそれよりも保管庫が気になっている。
運よく手つかずであれば、少々やってみたいことがあるのだ。
果たして上手くいくかどうか――期待は薄いが、やるだけやってみることとしよう。
* * * * *
「はい、これでフルセットね」
「うん、ありがとう、フィノ」
収縮エリアの端にある生産施設。その周囲にいるプレイヤーを殲滅し、施設を確保した緋真たちは、思う存分己の装備の強化に勤しんでいた。
とにかくエリア際を走り回って集めに集めた装備を利用し、装備の強化を行ったのだ。
結果として、緋真とアリシェラはついに最終目標――Sランクの装備に到達したのである。
『修復の骨粉』についても潤沢に準備されており、防具カードについても限界まで強化された状態だ。
これ以上の装備強化は不可能であり、緋真たちの戦闘準備はようやく整ったと言える。
「それで……あとは、先生さんを探しに行くの?」
「そうだね。早いところ、先生に挑みたいと思う。これ以上の準備はできないだろうし、逆にこれ以上時間をかけたら先生がどんどん強くなるだろうし」
緋真は、クオンが敗れるという可能性は一切考慮に入れていなかった。
実際のところはアンヘルやランドという、強力なプレイヤーが彼に挑んでいたのだが、緋真の既存知識にあるプレイヤーではクオンに届くとは一切考えられなかったのである。
彼は今でも確実に生き残っていると、緋真は疑うことなく信じながら続ける。
「早く先生に挑みたい……けど、できれば邪魔が入らない状況の方がいいよね」
「このイベント形態だからねぇ……横槍一切なし、なんてのは難しいんじゃない?」
「そうだね。何とかしたいけど……そこはまぁ、まず先生の所在を確かめるところからかな」
「だよねぇ。とりあえず、移動しないと」
フィノの言葉に、緋真は軽く肩を竦めて同意する。
挑むも何も、相手を見つけることができなければ何も始まらないのだ。
緋真は受け取った刀を装備して、フィノを伴いながら施設の外へと足を踏み出す。
そこには、積み重なったアイテム袋を脇にどけるアリシェラの姿があった。
「そっちも終わった? 作って貰った短剣はいい感じだったけど」
「はい、終わりましたよ。見張りありがとうございます」
「装備の作成を邪魔されるわけにはいかないしね。けど、これで準備は完了したんでしょう?」
「ええ、これで先生に挑めます」
「了解。それなら、早速クオンを探しに行きましょうか」
軽く埃を払いながら立ち上がったアリシェラに、緋真は頷きながら歩き始める。
目指すは、次なる収縮エリア。ただし今度は、エリアの際ではなく、中央を目指して進んでいく。
果たして、勝負の行方はどうなることか。予想もつかぬその先へ、緋真は緊張と決意を滲ませながら足を踏み出したのだった。





