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378:本気の勝負












 全ての身体能力を解放し、ランドへと向けて駆ける。

 突如として加速した俺の姿に、驚きながらもアンヘルがインターセプトに入る。

 無論、そう動くことなど想定済みだ。移動した関係上、アンヘルはまだその巨大な武器を構え切れていない。

 俺に対する迎撃が間に合わなければ、彼女は近距離戦用の装備に切り替えるはずだ。



「『ツヴァイ』!」



 案の定、アンヘルは装備を二振りの手斧に持ち替えた。

 リーチの短い武器に切り替えたことで迎撃が間に合うようになった彼女は、素早く俺へと向けて斧を振り下ろしてくる。

 相変わらずの、動物じみた直感だ。しかし――その咄嗟の動作であるがゆえに、彼女の動きは読めていた。


 歩法――陽炎。


 最高速度から、一気に小走り程度の速さにまで減速する。

 それによって俺の位置を誤認識したアンヘルの攻撃が空を切る。

 その刹那、再加速した俺は彼女へと向けて刃を振り下ろした。



「『生奪』」



 アンヘルの左肩へと向けて、金と黒のオーラを纏う刀が振り下ろされる。

 しかし、それが命中する寸前、アンヘルの体が左へと向けて弾き飛ばされた。

 どうやら、ランドが後ろから蹴り飛ばしたらしい。

 その回転のままにランドが振るったのは薙刀だ。俺の胴を狙う横薙ぎの一閃に対し、こちらは即座に跳ね上げた一閃にて対処する。

 攻撃が命中しなかったこともあり、先程の魔剣の効果は続いている。まるで跳ね返ったように振り上げられた刃は、ランドの薙刀の柄に命中し、大きく上に跳ね上げた。



「ッ、アンヘル!」

「乱暴ですね、全く!」



 しかし、こちらがランドへの追撃を放つ前に、アンヘルから手斧の一本が投擲される。

 回避は難しくはないが、追撃の前にランドには体勢を整えられてしまった。

 だが、そこで動きを止めることは無い。こいつらに時間を与えれば、その分だけ連携されやすくなってしまうのだから。



「《奪命剣》、【咆風呪】」



 アンヘルへと向けて漆黒の風を放つ。

 広がりつつも防御力を無視するこの一撃は、回避することが非常に困難だ。

 それに加えて相手の視界を塞ぐことも可能であり、いろいろと便利な代物なのだ。

 例えアンヘルとはいえ、こちらの状況を把握できていなければ事前の対処などできるはずもない。

 アンヘルの視界を塞いだその一瞬で、俺は地面に突き刺さった手斧をランドの方へと蹴り飛ばした。



「ッ……!」



 しかし、即座に装備を換装したランドは、出現させた刀で飛来した手斧を弾き返す。

 その刃を振り切ったランドへ、俺は即座に肉薄する。対し、ランドは再び装備を変更、双剣を手にこちらへと斬りかかってきた。

 左による牽制の一閃と、それに連動して放たれる右の刺突――普段は剣など使っていないだろうに、その動きは大したものだ。

 しかし――



「剣で俺に勝てると思うのか?」

「まさか……!」



 斬法――柔の型、流水。


 一撃目を回避し、二撃目を受け流す。

 そして体勢を崩したランドの脇腹を、反転させた刃で薙ぎ払う。

 受けたダメージに呻くランドに追撃を放とうとして――そこに、強烈な殺気が叩き付けられた。



「一撃でも耐えられれば、それで十分だ」

「やってくれましたね、シェラート!」



 こちらへと振り下ろされるハルバードを横へと跳躍して回避しつつ、刃を構え直す。

 どうやら、足止めを受けてしまったことに苛立っているようだ、

 冷静さを欠いた方が不利になる、という考え方もあるだろうが、アンヘル相手にはそれも当てはまらない。

 こいつの場合、感情のままに動いていても普段とスペックが変わらないどころか、むしろ動きの鋭さが上がるのだ。

 ランドの方も、それを承知で手傷を負ったのだろう。本当に厄介な二人組である。



「はあああっ!」

「ッ……!」



 振り下ろされたハルバードを回避し、そして追撃に放たれたランドの矢を弾き返す。

 この二人を並ばせた状態で戦っていては、いつまで経っても倒すことはできないだろう。

 意表を突き、どちらかを落とさなければ倒し切れまい。



「故に――」



 遠くにいる軍曹を含め、多少のリスクを背負う必要があるだろう。

 そう判断し、俺は纏うテクニックを切り替えた。



「《練命剣》、【命輝鎧】」



 纏う光が、蒼から金へと変化する。

 その瞬間、ランドは即座に装備を変更した。

 俺の意図を察したわけではないだろうが、より効果的な武装を使うということだろう。

 両手に現れたのは、ハンドガンサイズの魔導銃。その銃撃を存分に発揮できるようにするため、アンヘルは俺の足止めをしようとハルバードを振るう。

 ――俺は、あえてそれを正面から弾き返した。



「えっ!?」



 既に耐久度がかなり削られていた刀は、アンヘルの攻撃力に耐え切れずに折れ飛ぶ。

 その行動が信じられなかったのだろう、アンヘルは驚愕に目を見開いた。そう、攻撃を振り終わったその刹那に。

 自らの武器を犠牲にするその行動に、ランドまでもが驚愕して動きを止めたのだ。

 ――刹那、あらゆる状況が動く。


 歩法・奥伝――虚拍・後陣。


 アンヘルの意識の空白、その僅かな隙間をこじ開けるように潜行する。

 アンヘルの体を楯に、ランドとアンヘル二人の死角になるよう移動しながら、俺は両手を押し当てた。

 ぞっとしたらしいアンヘルの視線がこちらを捉えるが――もう遅い。


 打法・奥伝――魄潰はくつい



「――――がっ」



 アンヘルが、その口から大量の血を吐き出す。

 そのままぐらりと傾いだ彼女の体を支えるように肩を貸し――強く足を踏み込んだ。


 打法――破山。


 地を踏み砕くほどの衝撃が、脱力した彼女の体へと叩き付けられる。

 その衝撃に吹き飛ばされたアンヘルは、ランドを巻き込んでその場に倒れ込んだ。

 すぐさまインベントリから二振り目の刀を取り出し――刹那、遠方より膨れ上がった殺気に身を捩る。

 その瞬間、空を裂いて飛来した弾丸が、俺の左肩を貫いた。



「ッ……!」



 流石は軍曹だ、この状況で尚俺への狙撃を成功させるとは。

 だが、これ以上の追撃を許すつもりはない。

 既にHPの尽きたアンヘルを押しのけ、ランドは立ち上がり――


 斬法――剛の型、穿牙。


 左手は添えず、右手だけで放った刺突が、ランドの胸を貫いた。

 彼は己を貫いた刃を掴み、目を見開いて、どこか苦笑じみた笑みを浮かべる。



「流石だな、シェラート……お前の勝ちだよ」



 ぐらりと、ランドの体が崩れ落ちる。

 まだ軍曹が残っているためその体が消えることはないが、この状態でもう一度トドメを刺せばそれで終わりだ。

 長引かせることも無いと、もう一度二人の心臓を貫く。

 それでトドメとなったか、二人の体は光の粒子となって消滅した。



「……流石はこっちの台詞だ。風林火山に加えて、奥伝まで切らされたんだ。プレイヤーとしちゃ、あんたたちが間違いなく最強だったさ」



 打法の奥伝、魄潰。両手で触れた相手に、左右同時に寸哮と同じ衝撃を叩き付ける業。

 二つの衝撃の相乗効果により、内臓のほぼ全てを叩き潰す、必殺の一撃だ。

 密着した距離でなければ放てないため、とてもリスクの高い攻撃でもある。

 己の体と武器を懸けなければ、アンヘルに対して決めることは不可能だっただろう。



「さてと、ここまでやってくれたんだ。あんたとも決着をつけてやるよ、軍曹」



 尤も、あの男のことであるし、直接俺の前に姿を現すかどうかは分からないが。

 だが、今更逃がすつもりも無い、必ず見つけ出して仕返しをしてやるとしよう。

 その為にも、まずはエリア移動か。



「……しかしこいつらの荷物、本当に武器だらけだな」



 特にアンヘルの持ち物など、重量級の武器だらけである。

 このイベントは、本来こいつらにとっては非常に相性のいい物であったはずだ。

 それこそ、優秀な装備が揃ってくる後半になるにつれて、手が付けられない存在になって行ったことだろう。

 そう考えると、序盤に戦えたことは運が良かったということか。



「ったく……次は味方で頼むぞ」



 まあ、プレイヤー同士の対戦をするようなイベントでもない限り、これ以上の戦闘は無いだろうが。

 軽く嘆息を零しつつ、アイテムを漁った俺はその場を後にしたのだった。











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― 新着の感想 ―
[一言] この打法の奥伝って、いわゆるるろ剣の二重の極みってことですよね
[一言] おお!ここで打法の奥義を切ったか! 一気に押し通さないと危険な相手でしたね! そして気付かれても狙撃を決める軍曹、そしてそのまま逃げ切る、厄介ですね…… しかしこれってもしかしてアレか?軍…
[良い点] 武人(兵士)同士の戦いにめっちゃワクワクしました。ありがとうございます。
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