375:ライゾンとの戦い
このイベントにおいて、俺は基本的に不利な状況である。
他のチームは基本的に三人で編成されているのに対し、俺は一人だ。
単純な人数差の問題もあるが、このルールでは一度HPが尽きても他の仲間が救助すれば戦線に復帰することができる。
つまり、俺が一人仕留めたとしても残る内の一人が俺を足止めし、もう一人が救助すれば再び三人で戦うことができるのだ。
尤も、そんな悠長な行動を許すつもりも無いのだが。
「くっ、そ!」
「やるじゃないか。それなら、更にギアを上げて行こうか!」
破山によって吹き飛んだタンクに追撃を仕掛けようとしたが、ライゾンがカバーに入り、すぐさまタンクへと回復魔法が飛ぶ。
非常にバランスのいい組み合わせであり、その連携も十分に取れている。
レベルばかりで実力が伴っていないと軽視されがちな『クリフォトゲート』であるが、その上位陣は十分な実力を有しているらしい。
そうなると、レベルもステータスも高く、連携も取れるという最高ランクのプレイヤーに早変わりだ。
俺でも、そう簡単に崩せるわけではない。少なくとも、様子見をしながらの戦いでは詰め切れないようだ。
故に、更に攻め手を増やしていく。思った以上に、楽しめそうな相手だ。
「《練命剣》、【命輝閃】」
「【ライトニングクラッシュ】!」
俺の放った一閃に対し、ライゾンは魔導戦技を発動する。
紫電を纏いながら打ち降ろされる斧は、命中すればこちらの刀ごと体を両断してくるだろう。
ならば、それを正面から受けるわけにはいかないと、摺り足で体を移動させながら刃を翻す。
斬法――柔の型、刃霞。
ライゾンの一閃を回避しながら、手首だけで刃を返しつつ交錯する。
相手の放った一撃は空を切り、俺の一閃はライゾンの脇腹を浅く裂いた。
致命傷には程遠いダメージであるが、それでも少しずつダメージは蓄積してきているようだ。
そのままライゾンの横を通り過ぎて距離を取りつつ、次いで新たなテクニックを発動する。
狙うのは、回復を終えて戦線復帰しようとしているタンクの方だ。
「《奪命剣》、【咆風呪】」
刃から溢れ出る黒い風。防御力を無視して相手のHPを吸収する一撃は、逃れる暇を与えずタンクと魔法使いを飲み込んだ。
このテクニックは、威力こそ低いものの、その性能は強力かつ凶悪だ。
広範囲に放たれる防御無視のHP吸収攻撃であり、これを防ぐことはとても困難である。
《練命剣》を使ったことによるHP消費を回復しつつ更に前進、タンクへと向けて接近する。
「ッ……!」
【咆風呪】によってHPを削られながら、それでも相手もまた動きを止めることは無い。
彼もまた迎撃のために剣を振るい、袈裟懸けの一閃を狙ってくる。
だが――そんな中途半端な攻撃は、むしろ俺にとって都合の良いものでしかない。
斬法――柔の型、流水。
振り下ろされた一閃に刃を合流させ、軌道を逸らせながら受け流す。
そのまま相手の体勢を崩しながら背後へと回り込み、その背中へと己の肩を触れさせた。
打法――破山。
「ごはっ!?」
「うおぉ!?」
破裂するような音が足元より響き渡り、タンクの体が前方へと向けて吹き飛ばされる。
バイクに撥ねられたぐらいの衝撃はあるだろうが、それだけで体力が尽きるということは無かったらしい。
しかし、狙いはそこではない。吹き飛ばされたタンクの男は、こちらに向かってきていたライゾンに激突し、その場で動きを止めてしまったのだ。
そして、そこで足が止まったのであれば、最後の一人は完全にフリーとなってしまうということだ。
「《蒐魂剣》、【因果応報】」
歩法――烈震。
テクニックを発動しながら、魔法使いへと向けて駆ける。
向かってくる俺を目の当たりにして息を飲んだ魔法使いは、それでもこちらへと杖を向けて魔法を放ってきた。
「【トルネードブラスト】!」
発動したのは、俺を中心として巻き込む竜巻の魔法のようだ。
高速で向かってくる俺を確実に捉えるための選択か、あるいは他の作戦か、《遅延魔法》か何かで発動をキープしていたらしい。
だが、魔法が来ることを予測していた側からすれば、種類の違いでしかない。
すぐさま振るった刃にて魔法を吸収、己の刀に風の魔法を纏わせる。
そのまま、相手が反応しきる前に肉薄し――
「『生奪』」
斬法――剛の型、穿牙。
放った刺突にて、その心臓を貫いた。
底上げされた火力による急所への一撃は、魔法使いのHPを一撃でゼロにまで削り取る。
地面に倒れた魔法使いはそのままに、体勢を立て直した二人の方へと向き直る。
さて、残るは二人。一気に決めさせて貰うとしよう。
「《練命剣》、【命輝一陣】」
「くっそ、マジでやべぇなオイ!」
飛来した生命力の刃をタンクが楯で受け止める。
弾けた生命力は彼らの視界を一瞬だけ塞ぎ――その一瞬に、俺は前へと足を踏み出す。
歩法――縮地。
弾けた光を目晦ましに接近し、刃を振るう。振り上げた刃は、ライゾンの胴を斬り、ダメージを与える。
ライゾンがダメージを受けたことにより、タンクの方はそれをカバーするために割り込もうとして――俺はその相手の懐へと潜り込んだ。
血の気の引いた表情でこちらを見下ろす男に、こちらは軽く笑みを浮かべながら相手の胸へと手を触れさせた。
打法――侵震。
心臓と肺に直接衝撃を与え、その動きを止める。
そのままするりと相手の背後に回り込んだ俺は、鎧の隙間に刃を差し込んだ。
斬法――柔剛交差、穿牙零絶。
放った突きは鎧の隙間から相手の内臓を穿つ。
《致命の一刺し》によって上昇している弱点攻撃力は、潤沢なタンクのHPを一気に削り取る威力を有している。
「《練命剣》、【煌命閃】」
膝から崩れ落ちようとするタンクをライゾンの方へと蹴り飛ばし、その体を陰にしながらライゾンへと肉薄する。
――だが、死角を突いたはずのその動きを、ライゾンは正確に捉えて斧を振り下ろしてきた。
「そこだあああああッ!」
「……!」
まさか、俺の動きを捉えてくるとは。
前にも思った通り、こいつは才能面のみで見ればかなりのものを有しているようだ。
直感とはいえ、俺の動きを見切り、攻撃を置いてきたのは見事であると言えるだろう。
尤も――だからと言って、それを素直に受けるつもりも無いのだが。
歩法――陽炎。
唐突に加速し、ライゾンの攻撃をすり抜けるように回避する。
彼の攻撃が地を叩いた衝撃を背後に感じ取りながら、強く地を踏みしめて反転、大きく刃を振りかざす。
纏う黄金の輝きは、虚空に刃の軌跡を残す一閃だ。
斬法――剛の型、輪旋。
大きく弧を描く一撃が、ライゾンたち二人を纏めて巻き込み、生命力の刃にて斬り裂く。
二人は動きを止め――そのまま、ぐらりとその場に倒れ伏した。
「ははは……やっぱ、すげぇわ」
最後に残るのは感嘆の声。
その声を残滓に、ライゾンたちは光の粒子となって消滅した。
軽く息を吐き出してその様子を見送りつつ、笑みと共に告げる。
「お前たちも悪くなかったぞ、見直させて貰った」
その声は彼らに届いてはいないだろう。だが、抱いた敬意は本物だ。
彼らのクランが、未だ問題を抱えていることは否定できないだろう。
かつての問題も、そこから引きずっている確執もある筈だ。
だが、その全てが偽物ではないのだと、今回の件で理解することができた。
「またいつか、戦うことがあれば応じよう。お前たちなら、多少は楽しませてくれそうだからな」
思いのほか満足できた戦いに思わず笑みを零しつつも、俺は改めて彼らの残したアイテムを確認する。
高レベルのプレイヤーというだけあってか、ライゾンたちの持っていたアイテムは中々に優秀なものが多い。
流石に刀は持っていなかったが、防具系や回復系のアイテムはかなりいいものが潤沢に揃っているようだ。
Aランクの防御カードまで入っているし、これは中々にいい収穫だったと言えるだろう。
「さてと……色々セットするか」
これで防具系はかなり潤ったし、後は武器を何とかしなければなるまい。
耐久度はまだあるが、刀一振りだけでは不安が残る。
どうにかして予備の武器を、できればランクの高い武器を集めておきたい。
その為にも、さっさと次なるランドマークへ移動することとしよう。





