374:ランドマークを巡って
目についたランドマークを巡りながら、少しずつ西へと向かう。
既に漁られている建物は多いが、まれに全く触れられていない建物も存在している。
とはいえ、あまりいいアイテムは落ちていないのだが、それでも多少は使えるアイテムも手に入った。
特に、『修復の骨粉』が二つ手に入ったのは大きいだろう。これだけあれば、しばらくはこの刀を使う余裕があるだろう。
「もうちょっといい武器が欲しい所ではあるんだがな……」
移動中に一度他のパーティと接敵したが、やはり少々火力不足である印象は否めない。
とはいえ、他のプレイヤーもあまり防御力が高い状況であるとは言えないため、しっかり攻撃力を上げておけば普通に倒し切れるのだが。
正直、もう少し接敵するかと思ったのだが、今の所他チームの気配は感じられない。
こういったゲームのセオリーは良く分かっていないのだが、果たしてどのように動くべきなのだろうか。
「緋真がいたら教えてくれたのかもしれんが……ま、仕方あるまい」
今頃あいつはどのように動いているのだろうか。
こういったゲームの戦い方も、あいつはある程度知っている様子だった。
普段であれば、そういった話はあいつに尋ねるのだが、今の状況ではそれも分からない。
というか、あいつもそれを承知の上で俺に話さなかったのだろう。
無論のこと、それについて否定するつもりはない。俺に対して少しでも有利な状況で戦おうとするのは当然であるし、それも含めて楽しみにしているのだから。
とはいえ、こちらが不便であることもまた否定はできないのだが。
「さてと……どうしたもんかね」
あまり具体的な行動方針もなくうろついていては、イベントの攻略にも良いとは言えない。
俺は金龍王にできるだけ派手な戦いを見せないといけないわけだから、のんびりとした試合展開は好ましくないのだ。
戦うにしても、それなりに苦戦するような強敵と出会いたいわけなのだが――
(フィールドも広いからな。そうそう都合よくはいかんか)
エリアが縮まってきているとはいえ、まだまだ行動できる範囲は広い。
多数の参加者がいると言っても、この広いフィールド上で接敵する可能性はあまり高くは無い。
もう少しエリアが縮まってくれば話は別なのだろうが、しばらくはこんな状況なのだろう。
後半になれば否応なしに戦うことになるのであれば、あまり焦る必要は無いのか。
「とはいえ、退屈なことに変わりはないんだがな……」
アイテムを探索する楽しみもあることはあるが、そればかりというのも流石に飽きる。
そろそろもう一度ぐらい、誰かと接敵したい所だが――
「……お?」
ふと、遠くから声が耳に届く。
三人分の、男の話し声。噂をすれば影と言うべきか、他のプレイヤーが接近してきたようだ。
ちょうど退屈していた所であるし、いいタイミングで近づいて来てくれたものである。
しかし、どこかで聞いた覚えのある声だが、果たしてどこだったか。少々気になりはしたものの、のんびり隠れている理由もない。退屈しのぎに、戦って見ることとしようか。
そう考えながら、漁っていた建物から外に出ると、ちょうどその声の主たちが近付いてくるところと出くわした。
そして、目の当たりにした彼らの姿に、思わず眼を見開く。
「うおっ!? はははは、《剣鬼羅刹》! こんな所で出くわすとはな!」
「お前は……『クリフォトゲート』のマスターだったか」
斧を持った大男、確かライゾンという名のプレイヤーだったか。
結構前のイベントで、何やら妙な言い争いになった相手であったが――まさか、このイベントの最中に再会することになるとは思わなかった。
ライゾンは俺と正面から鉢合わせしたにもかかわらず、まるで怯んだ様子はない。
以前、『クリフォトゲート』の連中は結構脅かしてやった記憶があるのだが、それを意に介さず接してくるとは。
「あーっと……これはアレか? ここであったが百年目、って奴か?」
「……何だ、以前の御礼参りでもするつもりか?」
「いやいや、そう睨まないでくれよ! 俺としちゃ、お前には結構感謝してるんだぜ?」
からからと笑いながら告げてくるライゾンに、思わず眼を瞬かせる。
まさか、そのような言葉が飛んでくるとは思っていなかったのだ。
ライゾンの横に並ぶ二人は複雑そうな表情を浮かべているものの、彼自身は結構友好的な雰囲気でこちらに話しかけてくる。
「俺は正直よ、あんたの言うNPCがどうこうって話はよく分からなかったんだ。実感もわかねぇしな。けどよ、あんたたちの言った通り好感度が足りねぇってのを考えて行動すりゃ、色々と上手く行ったんだ。おかげで、レアな武器も手に入ったんだぜ?」
「……成程? 特に、俺に対する恨みは無いと」
「俺は特にな。まあ、うちの連中の中には色々思うやつはいるみたいだけどよ。特にマーベルのやつは脱退しちまったしな」
マーベルと言うのは、確かあの時絡んできたサブマスターだったか。
どうにもあちらの方が悪意のありそうな印象であったが、奴はその方針に耐えられなかったということか。
何ともまあ、どろどろとした内情であるが――正直あまり興味は無い。
それよりは、このライゾンの方がまだ興味は持てる相手だ。
「まあとにかく……あんたに恨みとかそういうものはない。だが、あんたに挑みたい気持ちがあるのも事実だ。せっかくの祭りだ、楽しんだ方が得だろう?」
「くはは、それはそうだな。それならまぁ……やり合うとしようか」
刀を持ち上げ、笑みと共にそう告げる。
戦意を昂らせた笑みを向ければ、ライゾンもまた斧を持ち上げ構えた。
そして、傍に控えるライゾンの仲間もまた、それぞれの装備を構えてこちらへ向ける。
一人は盾と剣を構えた鎧姿の戦士、もう一人は杖を持った魔法使いだ。
戸惑った様子ではあるものの、その姿は堂に入っている。
「《蒐魂剣》、【断魔鎧】」
どちらかと言うと脅威なのは魔法使いであるため、魔法の対策を行っておく。
見た目からして、ライゾンがアタッカーであり、盾持ちの剣士がタンクと言ったところか。
であれば――まずは、この壁を何とかするとしよう。
「簡単に崩れてくれるなよ」
歩法――縮地。
即座に盾持ちの相手へと肉薄し、盾の表面に手を振れる。
唐突に目の前に現れた俺に、盾のプレイヤーは一瞬硬直する。
その隙に、俺は直接衝撃を叩き込んだ。
打法――侵震。
「づッ!?」
腕に直接衝撃を受けた戦士は、その痛みに動きを止める。
だが、そこに対する追撃を放つよりも早く、ライゾンによる援護が入った。
振り下ろされる斧の一撃は回避して一度距離を取り、それまで詠唱していた魔法を発動する。
「【ミスリルエッジ】、【ミスリルスキン】、【武具精霊召喚】、【エンハンス】、《剣氣収斂》」
相手は達人というわけではないが、十分高レベルのプレイヤーだ。決して油断できるような相手ではない。
故に、十分な準備を以て戦わせて貰うとしよう。
「《ブーストアクセル》、《ビーストロアー》! 《破壊撃》!」
対し、ライゾンは全身に赤いオーラを纏い、また武器にも同じく赤黒いエフェクトを纏いながら振り下ろしてくる。
そのスキルの性質は分からないが、自己強化と攻撃系のスキルであることは間違いないだろう。
正面から受けても面倒であるし、俺は地を蹴ってその場から退避した。
振り下ろされた斧は地を叩き、その場を陥没させながら粉砕する。
(成程、正面からは受けきれんな)
恐らく、攻撃力に特化した構成になっているのだろう。
一撃の威力だけで見れば、俺よりも高い可能性はある。
防御力の低い俺が受ければ、一撃で倒される可能性は十分にあるだろう。
「《練命剣》、【命輝一陣】」
土煙が上がる中、俺は捉えた気配へと向けて生命力の刃を飛ばす。
茶色の煙を真っ二つに斬り裂いた黄金の刃は、一直線にライゾンへと向かい――しかし、直前で割り込んだ盾によって弾かれた。
【命輝一陣】はエフェクトこそ魔法っぽいが、その性質は物理攻撃だ。
故に、楯による防御は正しい選択であると言えるだろう。
「《スペルエンハンス》、【ゲイルスラッシュ】!」
直後、お返しとばかりに風の魔法が飛んでくる。
上位の風の魔法はあまり経験がないが、性質は俺の放った【命輝一陣】と似たようなものだろう。
だが、その速さは凄まじい。発動のタイミングを目視していなければ、俺でも完全な回避は難しいかもしれない。
しかしながら、俺へと迫った風の刃は、俺の纏う蒼い光に触れた瞬間に消滅した。
「なっ!?」
普通に《蒐魂剣》で防ぐこともできたが、こちらが防御や回避の動作を取らずに対処したという事実を相手に突き付けられることは大きい。
事実、魔法を全く意に介さなかった俺を見て、魔法使いは完全に委縮してしまった。
これで、あの魔法使いの行動には心理的に制限を掛けることができる。
仲間の援護に徹するか、あるいはもっと強力な魔法を使ってくるか――どちらにせよ、行動が分かり易くなれば、その分こちらも動きやすくなるというものだ。
「クランマスターというだけあって、少しは骨がありそうだな……さあ、続きと行こうか」
笑みと共に、俺は告げる。
そして緊張しながらも戦意を失うことのないライゾン達に対し、俺はその表情のままに戦闘を続行した。





