373:マップ確認
「ふむ……上々だな」
漁夫を狙ってきたプレイヤーを全て片付け、そう独りごちる。
太刀ではないとはいえ、分類が刀の武器を手に入れた以上、普通のプレイヤー相手に負ける理由などありはしない。
襲い掛かってきた連中は一人残らず返り討ちにし、彼らの持っていたアイテムは全て奪い取った。
残念ながら新たな刀は無かったものの、防御面と回復面は充実したと言って良いだろう。
できれば高ランクの刀が欲しい所ではあるのだが――まあ、それは探していく他に道はあるまい。
(耐久度のこともあるし、しばらく刀は温存だな)
このエリア内で拾える武器にも、一応耐久度が設定されている。
無理に使い続ければ、破損して使えなくなってしまうのだ。
これには一応救済措置が用意されており、一つは生産施設を利用して耐久度を回復させる方法がある。
だが、仲間がいない俺には取れるはずもない手段だ。これについては考えても仕方がない話だろう。
そしてもう一つは、落ちているアイテムの中に含まれている『修復の骨粉』だ。
これがあれば、施設を利用せずとも武器の耐久度を回復させることができるらしい。
尤も、結構レアなアイテムらしく、これだけ倒してようやく一枚手に入っただけだ。
今後のことを考えると、もう少し数が欲しいところである。
と――
『ファーストステージ、ラウンドオーバー。エリアの縮小を開始します』
ふと響いたアナウンスを聞き、俺はすぐさまメニューを操作してマップを表示した。
このイベント内においては、マップ機能はイベントエリア全体のマップが表示されるようになる。
見てみれば、マップが巨大な円によって区切られており、そのエリア境界へと向けて徐々に赤いエリアが迫ってくるところであった。
ここから時間をかけて、この円で区切られたエリア以外が赤く染め上げられるのだ。
実際にそのエリア際を見ているわけではないため詳しいことは分からないが、この赤いエリアに入ってしまった場合は徐々にダメージを受けてしまうらしい。
「……若干西寄りだな」
エリアを見た感じ、中央よりは西側に寄ってきている。
今いる場所は次のエリアに含まれているものの、次も同じようになる保証はない。
可能性を考えるならば、俺も西側へ――次のエリアの中央付近を目指して移動しておくべきか。
まあ、どこに向かうにせよ、一か所に留まっていることのメリットはあまりない。
装備、アイテムが潤沢に揃っていて、これ以上戦うメリットが少ないというのであればまだしも、今はまだまだ装備も足りていない。
もっと質の良い武器や、『修復の骨粉』が欲しい所だ。
「とりあえず、次に行くとするか」
既に、周囲にプレイヤーの姿は無い。
俺がここにいることが知れ渡ってしまったのか、或いは単純に移動したのか。
何にせよ、既に漁られているであろうこのエリアに留まっていても、得をすることは何もないだろう。
ここはさっさと、次にアイテムを漁れそうな場所を探して移動するべきだ。
(そうなると、どこに移動するかだな)
マップを開きながら西へと移動しつつ、次の行き先を思案する。
このマップは、このフィールドを実際に上空から撮影した画像を使用しているらしく、拡大すればきちんと建物なども確認することができる。
まあ、流石にリアルタイムではないため、他のプレイヤーの姿を見ることはできないが。
ともあれ、アイテムが落ちていそうなランドマークについては、ある程度目星をつけることができるのだ。
教会で拾ったアイテムを鑑みるに、大きなランドマークにはそれだけレアなアイテムが配置されている可能性が高いように思える。
同時に、他のプレイヤーが集まってくる可能性も高い。
「強いアイテムを拾えるか、或いは多数の敵と戦うことができるか――どっちにせよプラスだな」
他のプレイヤーを倒せば、そいつらが持っていたアイテムを奪うことができる。
変に走り回ってアイテムを集めるより、よほど効率の良い収集方法だろう。
まあその場合、武器の耐久度についてはどうしても減っている状態になってしまうわけだが。
それでも全く手に入らないよりはマシであるし、ランドマークを狙うのは間違いではあるまい。
そうなると、今度はどこに移動するかが重要だ。
次のエリアの中央までは、多少は距離がある状況である。そこまで移動するのに、いくつかランドマークを経由することが可能だろう。
とはいえ、あんまりのんびりしていたら次のエリア収縮が開始されてしまうわけなのだが。
「……とりあえず、近場から順番に辿ってみるか」
どこに何があるのか分からない以上、ここで悩んでいても結論は出ない。
案ずるより産むが易し、とりあえずは近い場所にあるランドマークを目指して移動することとしよう。
他のプレイヤーもそちらへ向けて移動した可能性もあるし、急いでいけば追い付けるかもしれない。
さて、そうと決まればさっさと移動するとしよう。何もない場所をのんびりと歩いていても仕方がない。
「成程、これはこれで面白いもんだ」
これまでのゲームプレイとは異なる、新たなルールの上での戦い。
果たしてどんな展開になるのか、予想することもできない。
この先の展開に期待しつつ、俺は最初の集落を後にしたのだった。
* * * * *
「最初はいい感じね」
「結構運が良かったですね。物資も揃ってきましたし」
「うーん……二人ともめっちゃつよ」
一方、マップでは中央から離れた僻地に降りた緋真たちは、近くに降りたプレイヤーの殲滅を完了し、アイテムの確認を行っていた。
高い隠密能力を持つアリシェラは、プレイヤー相手でもその能力を発揮することができる。
彼女の奇襲によって一人を失った相手のチームは、そのまま緋真によって素手で制圧されることとなったのだ。
「短剣は結構落ちてるのよね。弱い武器扱いなのかしら?」
「武器のリーチはやっぱり、あるのと無いのとでは違いますしね」
のんびりとした様子の二人ではあるが、彼女たちの戦闘に慣れていないフィノにとっては驚きの一言である。
一人欠けていたとはいえ、全員が武器を持っていたチームを、緋真はたった一人で、しかも武器も持たずに殲滅してしまったのだ。
そもそも戦闘をあまり得意としていないフィノにとっては、最早異次元の領域である。
「刀も手に入りましたし……生産施設を目指してみます?」
「んー……一応、同種の装備があればグレードアップできるみたい」
「となると、ある程度はアイテムを集める必要があるわね。薬の方も似たような感じみたい」
「それじゃあ、適当に戦いつつアイテムを集めて、いいのが集まったら生産施設ですかね」
『龍の庭園』内の生産施設では、武器の耐久力回復に加え、装備のグレードアップを行うこともできる。
耐久力回復については特に制限なく行うことができるが、装備のグレードアップ――ランクを上げるためには、同じランクの装備を複数集める必要がある。
同種の武器を探すのにはそこそこ手間がかかるため、必要数はそれほど多くは無い。
とはいえ、普通にランクの高い装備を探すよりはよほど簡単であることは間違いないだろう。
「けど、何でこんな遠くのエリアを選んだの? 結構移動しないとダメだよね?」
「そんなに凄い理由じゃないけど……一つは、序盤に先生とかち合わないようにするため。先生はこの手のルールのセオリーを知らないから、どうせど真ん中に降りるだろうし」
「あー……中央は阿鼻叫喚だねぇ」
「先生と一緒の場所に降りた人たちはご愁傷様ってことで」
普段から行動を共にしているだけあり、どのような動きをするかは容易に想像がついている。
そして、クオンとの戦いを目標とする緋真にとって、途中段階で彼と接敵することは避けたかったのだ。
「先生と戦うのなら、もっと後半……万全の装備を整えた状態で挑みたいの」
「装備面で先生さんに勝つ、と……でも、向こうも結構な数のアイテムを集められるんじゃないの?」
「まあ、それはそうだろうけどね。それでも、質では間違いなくこっちが上回れる筈よ」
それはその通りだと、フィノは頷く。
全ての装備を万全な状態で整えるには、やはり生産スキルによる補助が必要だろう。
アリシェラもそれについてはあらかじめ聞いており、理解しているつもりだった。
だが――彼女に思い当たる理由は、それしか無かった。しかし、緋真の口ぶりではまだ理由があるように思える。
「で、他にも理由があるの?」
「ああ、はい。これは単なる予想なんですけど……」
その真意に関する問いかけに、緋真は軽く肩を竦めつつ答えた。
――どこか、苦笑じみた笑みを浮かべながら。
「……先生を狙ってくる人たち、一斉に集まってくると思ったので」