372:教会内の探索
教会の内部に入ると、すぐに広い礼拝堂の光景が目に入った。
ゴーストタウンと化していた町と同様、内部についても手入れされている気配はなく、荒れ果てた様相だ。
とはいえ、壁が崩れていたりする外の景色よりはいくらかマシではあったが。
そんな教会の礼拝堂では、現在八名のプレイヤーが入り乱れて戦闘を行っていた。
数からして、最低でも三チームが存在しているらしいが、まさに混戦状態である。
見た感じ、そこそこ戦い慣れている様子であるし、これならば多少は楽しめそうだ。
そう判断し、俺は先ほど奪い取った槍を取り出して構えた。
「『生奪』」
使い慣れた武器というわけではないし、正直な所、長物を持つならば薙刀の方が都合がいいわけだが――流石に贅沢は言っていられない。
例え槍であったとしても、武器であることに変わりはない以上、三魔剣を扱うことに不足はない。
槍が黒と金のオーラを纏ったことを確認し、俺はすぐさま入り乱れる八人のプレイヤーの中へと飛び込んだ。
「なぁっ!?」
「げッ!?」
俺の姿を視認したプレイヤーたちから、悲鳴のような声が上がる。
やはり俺のことは知っているらしいが――悠長に体勢を整えさせてやるつもりも無い。
獰猛な笑みを浮かべながら、俺は思い切り槍を振り回した。
斬法――薙刀術、輪旋・足削。
本来は薙刀で放つ一撃であるが、周囲の連中の足元を払う程度であればこれでも十分だ。
二つのオーラが軌跡を描き、まるで俺を中心とした円を構築するかのように黒と金が混ざり合う。
その範囲内に巻き込まれた四人のプレイヤーは揃って転倒し、運悪く刃に当たった者は足を斬り飛ばされることとなった。
どうやら、足の防具の防御力は後回しにしていた様子である。
だがまぁ、例え足が切れていようがいまいが、倒れたことに変わりはない。
「『生奪』!」
残っているプレイヤーたちも、まだ状況を理解しきれていないらしい。
であればと、俺はすぐさまスキルを発動、近場にいた相手へと向けて刺突を放った。
背中を向けていたプレイヤーは、こちらに気づいてはいたものの反応はしきれず、その胸を貫かれる。
一応、上半身の防御力は上げていた様子であるが、スキルで強化した一撃を完全に防ぎきれるわけではなかったらしい。
しかしながら、威力不足であることは否定できないようだ。今の一撃では、致命傷には届かなかったらしい。
ならば――
「【ミスリルエッジ】、【ミスリルスキン】、【武具精霊召喚】、【エンハンス】、《剣氣収斂》」
念の為待機させておいた魔法を発動、武器攻撃力を一気に強化する。
それと共に槍を引き寄せながらもう一度放てば、振り返った男の胸を今度は防具ごと貫いて見せた。
やはり、これだけ強化しておけば、今の段階の防御を貫くには十分なようだ。
最初から強化しておけばよかったと胸中で嘆息しつつ、俺は槍を引き戻しながら三度目の突きを放つ。
ただし今度は、心臓を貫かれて倒れた男の向こう側、コイツと相対していたプレイヤーの方である。
斬法――薙刀術、婉突。
柄をたわめながら、相手の防御を避けるように刺突を放つ。
槍の穂先は相手の構えていた剣を避けながら顔面へと突き刺さり、そのHPを全損させた。
そして槍を引き戻しながら半回転、起き上がってきたプレイヤーの顎を打ち据えて気絶状態にする。
そのまま槍を旋回させて周囲を牽制しつつ、俺は次なる獲物へと向けて接近した。
「くそっ、何だって師匠がこんな所に――」
「お前の師になった覚えは無いな」
時々疑問に思うのだが、何故一部のプレイヤーは俺のことを師匠と呼ぶのか。
まあ、緋真の師匠という意味合いなのは分かっているのだが、何とも微妙な気分になってしまう。
最近は緋真よりも俺自身のことの方が注目されてきているし、その呼び方もどうかと思うのだが。
ともあれ、彼らが俺の登場によって動揺していることは確かだ。その隙を見逃すわけにはいかない。
「『生奪』」
体を支点としながら槍を横薙ぎに振るい、横合いから一線を叩き付ける。
体そのものを支えとして利用した一撃には更に遠心力が加わり、ハンマーで殴りつけたかのような衝撃を与えることになるだろう。
相手は俺の一撃を何とか楯で防いだものの、完全には受けきれずに体が横へと傾いている。
その瞬間、俺はすぐさま槍を手放して相手へと接近した。
歩法――縮地。
衝撃に気を取られた瞬間であったからだろう、いつの間にか肉薄していた俺の姿に、鎧姿の男は大きく目を見開く。
だがそれには答えず、俺は楯の内側からその胸へと掌を押し当てた。
打法――侵震。
「ごぶ……ッ!?」
鎧越しに衝撃を叩き付け、その心臓を潰す。
呻きながら崩れ落ちるプレイヤーを尻目に、床に落ちた槍を蹴り上げて手に取り、後方へと向けて投げ放つ。
凄まじい速さで飛んだ槍は、背後から俺を狙おうとしていた斥候職らしきプレイヤーの顔面に突き刺さり、一撃で絶命させた。
そのまま崩れ落ちるプレイヤーからは視線を外し、その先にいる残りの二人へと視線を向ける。
「これで六人……」
一人は生きているが、足が切断されているため戦力外である。
残る二人はそれぞれ別チームのようで、状況に動揺してしまっている様子だ。
だがこちらは、相手が結論を出すまで待ってやるつもりも無い。
歩法――縮地。
出方を窺っている魔法使いらしきプレイヤーへと接近する。
加減など必要ない、一撃で撃滅する意思を込め、己の肩を押し当て――
打法――破山。
建物全体を震わせるような衝撃を、ただ相手の体に伝える。
その衝撃に吹き飛んだプレイヤーは、HPを消し飛ばされながら壁に叩き付けられることとなった。
それを見送りつつ、最後に残ったプレイヤーへと視線を向ける。
彼は引き攣った表情を浮かべ、ついに背を向けて逃げ出す。が――
「判断が遅すぎる」
逃げるのであれば、もっと早い段階で逃げておくべきだったのだ。
今からでは、とてもではないが俺の足から逃れることなどできはしない。
苦笑と共に地を蹴り――即座に追いついた相手を、地面へと叩き伏せた。
「が……ッ、くそ、ついてねぇ……」
「そうだな。運が無かったと思って諦めろ」
序盤に優勝候補と出会ってしまったのは、不運としか言いようがないだろう。
だからと言って見逃してやる理由もなく、俺はそのプレイヤーへと拳を振り下ろした。
打法――寸哮・衝打。
その衝撃にて心臓を叩き潰し、HPを全損させる。
これで、立ち上がれるプレイヤーはいなくなった。後は、足を切ったプレイヤーと気絶させたプレイヤーにとどめを刺し、戦闘終了である。
それなりの数がいたものの、やはりまだまだ満足できるような相手ではなかった。
だがそれでも、収穫としては十分だろう。
「さてと……戦利品の確認だな」
あんまり悠長にしていると、他のプレイヤーが接近してきてしまう可能性がある。
まあ、それも決して悪いわけではないのだが、確認している間ぐらいはゆっくりさせて貰いたい所だ。
とりあえず、これだけの数のプレイヤーがいたおかげか、アイテムの数は潤沢な様子だ。
回復アイテムの類はいいとして、まずは防御系のカードを確認する。
俺の装備は基本的に布装備であるため、カードスロットは多くはない。おかげで、全身に付与する分のカードは確保できたようだ。
尤も、Cランクが四枚、Bランクが一枚と、上位ランクのページはあまり数を稼げてはいないのだが。
とはいえ、防御面が充実したことは間違いない。スキルを含めれば、防御面は充実したと言えるだろう。
(それも重要だが、やはり――)
それを見つけて、俺は思わず笑みを浮かべる。
一人のプレイヤーが持っていたアイテム袋の中身。
そこに、お目当てのアイテムが一つ存在していたのだ。
■《武器:刀》打刀 ランクD
攻撃力:27
重量:5
耐久度:86%
付与効果:なし
製作者:-
どうやら少しだけ使ったらしく、耐久度は下がっているものの、お目当てである刀をようやく見つけることができた。
とはいえ、これ一本だけではやはり不安は残るし、他にも刀を手に入れておきたい所だ。
まあ、それには他の場所を探索しなければならないわけだが――
「……ふむ?」
そこまで考えた所で、俺は近づいてくる気配に顔を上げた。
どうやら、この建物内での戦闘が落ち着いたことを察知し、疲弊したプレイヤーを狙おうと襲撃を企てていたのだろう。
このようなシステムである場合、漁夫の利を狙うのは当然のことだ。
だが――それは、俺にとっても好都合である。
「さて、それなら……逆に、喰らい尽くしてやるとしよう」
笑みと共に、手に入れた刀を装備する。
十全とは言い難いが、戦うには十分すぎる。果たしてどこまで食い下がってくれるのか、楽しみにさせて貰うとしよう。