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366:怒れる恐竜











 ディノタイラントであるが、実際の所安全に倒す方法が無いわけではない。

 こいつはこれまでの恐竜系と同じく、飛び道具の類は持っていない魔物だ。

 そのため、コイツの攻撃が届かない高度まで昇ってから魔法を主体に攻めれば楽に勝てる相手ではある。

 尤もその場合、魔法攻撃をまともに持たない俺には殆ど経験値が入らないことになるだろうが。

 今回は餓狼丸の経験値貯めも目的であるし、そもそもそのような戦い方では面白みも何もない。

 結局の所――



「こうして直接殴り合うのが一番だってなぁ!」



 大口を開けて噛みつこうとしてくるディノタイラントの一撃を大きく回避し、その頭へと一閃を叩き込む。

 生命力を纏うその一撃は、鱗を砕き肉に届くが、それでも傷は浅いものでしかない。

 強靭極まりない肉体を持つディノタイラントのHPからすれば、雀の涙程度のダメージだろう。

 だが、それでもダメージは少しずつ蓄積する。慎重に攻撃を当て続けたおかげで、ディノタイラントのHPは少しずつでも削れてきている状況だ。



「ったく、餓狼丸を解放したい所なんだがな……! 《奪命剣》、【咆風呪】!」



 こういった、とにかく頑丈な相手には、防御力を無視することができる攻撃が適している。

 【咆風呪】もそうだが、餓狼丸の持つ吸収効果などは特に相性のいい能力だろう。

 と言っても、ここで経験値を消費してしまっては意味がないため、我慢するしかないが。

 思わず胸中で舌打ちしつつも、俺はディノタイラントの動きを見てその足元へと接近した。


 ディノタイラントの攻撃パターンは、それほど多彩とは言い難い。

 巨大な顎を使った噛みつき、大きく足を振り上げての踏み付け、尻尾による周囲の薙ぎ払い、頭上に跳躍してのボディプレス、そしてタックルのような体当たりと言ったところか。

 どれもこれも、直撃すれば俺にとっては即死級だ。シリウスならばある程度耐えられるだろうが、それでも何発も受けきれるような攻撃ではない。

 とにもかくにも、攻撃は受けないように注意しなくてはならないのだ。



「《練命剣》、【命輝閃】……!」



 体を丸めた動きから、次に行う攻撃は尻尾による薙ぎ払い。

 これは攻撃範囲が広く、距離を取っているとむしろ対処が難しい。足元まで潜り込み、下を潜ってしまった方が安全だ。

 ついでとばかりにディノタイラントの軸足に接近し、そこへと向けて刃を叩き込む。


 斬法――剛の型、白輝。


 踏み込みと共に神速で振り下ろされた太刀は、先ほどまでよりも確かなダメージを与える。

 その瞬間、先程までとは異なり、ディノタイラントはぐらりとその体を傾かせた。

 軸足にダメージを受けたことで踏ん張りがきかず、バランスを崩したのだ。

 そして、そんな絶好のタイミングを見逃す仲間たちではない。



「光よ、刃となりて!」

「ケエエエエエエエエエエエッ!」

「グガァアッ!?」



 薙刀に眩い光を纏ったルミナと、全身に嵐を纏ったセイラン。

 その二つの攻撃はディノタイラントの胴に叩き付けられ、その体を横倒しに地面へと押し倒した。

 ディノタイラントの巨体に押し潰されぬように移動しつつ、俺は頭の側へと移動する。



「《奪命剣》、【命喰牙】」



 既に一本は突き刺しているが、二本目の【命喰牙】を出現させてディノタイラントの首へと突き刺す。

 少量とはいえ防御力を無視したスリップダメージだ。刺しておいて損はない。

 黒い短剣はディノタイラントの強靭な防御力を無視してその体に突き刺さり――それとほぼ同時に起き上がろうとした巨体を、近づいてきたシリウスが押さえつけた。

 重量が非常に重いシリウスは、攻撃ではなくただ相手を押さえつけるためだけにディノタイラントの体へと体重をかけている。

 さしものディノタイラントとは言えども、シリウスの重さは簡単に振り払えるようなものではなかったらしい。

 地面で暴れ回りながらも、この暴君は起き上がれずにいた。



「畳み掛けろ! 《練命剣》、【煌命閃】!」



 上空のルミナたちへと告げながら、餓狼丸へと生命力を注ぎ込む。

 だが、それが完了するよりも速く、ルミナたちは攻撃のために行動を開始していた。

 掲げた薙刀に目を眩ませるほどの光を収束させたルミナは、まるで流星が落ちるかのように空から一直線に降下してくる。

 それと並ぶのは、嵐と雷を纏うセイランだ。落雷の如きその効果は、猛禽が獲物を狙う時の姿にも似ている。

 そんなテイムモンスターたちの一撃は――動けないディノタイラントを相手に外す筈もなく、その頭へと叩き付けられた。



「ガ……ッ!?」



 衝撃音の中に掻き消される苦悶の鳴き声。

 しかし、その結果を見届けるよりも速く、俺は自らの一撃をディノタイラントの首へと叩き付けた。


 斬法――剛の型、中天。


 何の小細工もない、ただ真っ直ぐと刃を振り下ろす。

 黄金の軌跡を描いた一閃は、ディノタイラントの首に確かな傷を負わせ、血を噴出させた。

 先ほどまでの微々たるものとは違う、確実なダメージだ。

 だが――急所に対する度重なるダメージですら、ディノタイラントを仕留め切るには至らなかったらしい。



「グ、ガアアアアアアアアアアアアッ!!」

「グルッ!?」

「ッ、何だ!?」



 突如として、ディノタイラントの体が膨れ上がる。

 一瞬爆発でもするのかと思ってしまったが、どうやらこれは突如として筋肉が隆起したものらしい。

 盛り上がった筋肉が刀による傷を塞ぎ、血を止めてしまったのだ。

 一体どんな生態をしているんだと文句を言いたくなる所だが、変化はそこまでに留まらない。

 ディノタイラントは筋肉が膨れ上がると共に、熱を帯びたようにほんのりと赤く染まり始めたのだ。

 赤く染まった眼には、留まるところを知らぬ憤怒と殺意が込められている。どうやらこの化物は、怒り狂うと大幅に強化される性質を持っているらしい。



「ゴアアアアアアアアアアアッ!!」

「グ、ガアアアッ!」

「シリウス、無理をするな!」



 シリウスによって押さえつけられているディノタイラントは、その鋭い爪も重さも関係ないとばかりに暴れ回り、尾を使って何度もシリウスの体を叩いている。

 勢いづく姿勢ではないが、それでも完全にダメージを抑え込めるわけではなく、シリウスの体にも傷がついてしまっている状況だ。

 攻撃しているディノタイラントの尾にも《斬鱗》によるダメージが響いているが、ディノタイラントは全く意に介した様子はない。狂暴という言葉すら生温い暴れっぷりだ。

 下手をすれば手痛い反撃を受け、シリウスがやられかねない。そう判断した俺は距離を取りつつ、一旦シリウスも下がらせた。

 本当ならば押さえ込んだ状況のまま仕留め切りたい所であったのだが、流石に無理であるようだ。



「グルルルルルルルルル……ッ!」

「仕切り直しか……何とも言えんな、こりゃ」



 ディノタイラントの体力は確かに削れてきてはいる。

 先ほどの攻撃で、半分を割ることには成功した状態だ。

 しかし、今のディノタイラントは怒り狂い、そして拘束も解かれてしまっている。

 果たして、状況は有利になっているのだろうか。何とも言えない所ではあるが、ここで尻込みしていても始まらない。



「ルミナ、セイラン、もう一度上に上がれ。そして今度はシリウスもだ」

「しかし、それではお父様が……!」

「構わん、何とかする。ただし、今度は刻印の使用を許可する。タイミングを見て使え」

「……! はい、分かりました!」



 ルミナの言う通り、俺が一人だけ地上に残った場合、ディノタイラントの攻撃はほぼ俺に集中することになる。

 こいつの攻撃は一つ一つが即死級の威力を持っているし、正直マトモに戦いたいような相手ではない。

 だが、怒り狂い暴れ回るディノタイラントを相手に、シリウスに接近戦をさせるのはあまりにもリスクが高い。

 そしてそれは、レベルが高いとはいえ耐久力に優れているとは言えないルミナやセイランも同様だ。

 可能な限りリスクを軽減し、その上で効率的に戦うしか道はないだろう。

 俺の指示に従い、ルミナたちは上空へと舞い上がっていく。その様子へは視線を向けず、俺はじっとディノタイラントへと注意を向けつつ餓狼丸を構え直した。



「さてと……今度は仕留め切ってやらんとなぁ」



 重要なのはタイミングだ。

 いかなディノタイラントとはいえ、刻印を込めたルミナの魔法は十分に通用するはずだ。

 この巨体であるし、当てることはそう難しくは無いのだが、効果的に当てられるかどうかはまた別の問題だ。

 先ほどのように、何とか大きな隙を作ってやらねばなるまい。その為には――



「今度は起き上がれないようになるまで斬り続けてやるよ」

「ガアアアアアアッ!」



 口から出ている煙は、一体何が所以のものか。

 赤く染まりつつある体を膨れ上がらせ、ディノタイラントは鋭く叫ぶ。

 痛みすら感じるその咆哮に、俺は笑みを浮かべながら地を蹴ったのだった。











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― 新着の感想 ―
[良い点] モンハンのイビルジョーが脳裏に浮かびました。 ゲームの戦いを文章で描写するなら、こうするのか、と感心して読んでいます。
[一言] おお、紅蓮モード…ゲフンゲフン、赤くなって三倍速…はともかく攻撃力上昇のついでに火を噴きそうですねw
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