359:素材を求めて
特に急ぐ旅というわけでもないため、魔物との戦いを求めて地上を移動する。
シリウスも空を飛べるため、飛行して移動すればそれほど時間はかからないのだが、今回はシリウスの育成も目的に入っているからな。
ゆっくりと敵を倒しながら目的地まで進むこととする。
ちなみにであるが、シリウスは空中戦をした場合にも中々優秀だ。
ルミナやセイランのように小回りが利く訳ではないが、直線のスピードはそれなりに速く、しかも空中で体当たりするだけで相手は地面に叩き落されることになる。
なにしろ、シリウスは非常に重い。この重さで空を飛んでいるのは何かの冗談かと思うほどだ。
それが空中でぶつかってくれば、大抵の飛行物体は耐えられないだろう。
「……本当に、どうやって飛んでるんだかな」
聞こえないように小さく呟きながら、シリウスの姿を観察する。
ワイバーン系などの飛行型の亜竜の場合、その鱗は頑丈ながら非常に軽量だ。
そのため、軽戦士系のプレイヤーの防具素材として非常に優秀であるとエレノアから聞いた覚えがあった。
実際、ワイバーンはあの巨体の割には随分と軽く、空中における機動力の高さにも納得ができる。
だがシリウスの場合、むしろ見た目以上に重いのだ。これでどうやってあんなスピードでの飛行を可能にしているのかと思ってしまうが、恐らくは魔法なのだろう。
(ここまでくると何でもアリだな……)
このゲーム内特有の要素が絡んできてしまうと、法則性など考えても難しい。
現実として、シリウスは飛べるし、空中で戦うこともできる。
とりあえずは、可能なことを見極めて、どのように活用するかだけを考えておけばいいだろう。
差し当っては、もう一段階進化させる所からか。
「レベルが上がり辛いからな……まだまだ先は長い、と」
そう呟いたところで、こちらに近づいてくる気配を察知する。
噂をすれば影と言うべきか、どうやら上空からの襲撃のようだ。
「お父様。エアロワイバーンが二体、フレアワイバーンが二体です!」
「ワイバーンも数が増えてきたな……仕方ない、上がるぞ」
地対空戦では中々に面倒な相手だ。
ここは素直に、空中戦で相手をしておくべきであろう。
俺は軽く嘆息してセイランの背中に跳び乗り、すぐさま足で合図を送った。
瞬間、全身に力を込めたセイランは、勢い良く地を蹴って空中へと舞い上がっていく。
ルミナとシリウスもまたそれに倣うように空中へと舞い上がり、迫るワイバーンの群れへと向けて一直線に飛び出した。
向かってくるのは、緑色のワイバーンが二体、赤いワイバーンが二体である。
どちらも既に戦ったことのある魔物だが、ワイバーン四体が群れている場面には初めて遭遇した。
面倒だが、とりあえずは数を減らしておくことの方が先決だろう。
「【ミスリルエッジ】、【ミスリルスキン】、【武具精霊召喚】、【エンハンス】、《剣氣収斂》」
とりあえず武器を強化するが、空中戦においては餓狼丸は扱い辛い。
届かないわけではないのだが、やはりリーチが少々短いのだ。
小さく嘆息しつつ、俺は背中の野太刀を引き抜いた。
魔法による強化を受けた野太刀であれば、ワイバーンの鱗程度は容易く貫けるだろう。
問題は、空中でワイバーンに接近することのリスクだ。下位とはいえ亜竜、流石にそうそう容易い相手ではない。
――尤も、それで手を拱いてしまうほど、こいつらを相手にした経験が少ないというわけでもないのだが。
「行きます!」
「ケェェッ!」
まずはルミナとセイランが魔法を放つ。
空を駆ける光の槍と雷の矢は、眩い軌跡を中空に描きながらワイバーンたちへと殺到した。
機動力が高いワイバーンたちは、防御面についてはあまり優れているとは言えない。
こうして飛び道具による攻撃を行った場合、ワイバーンたちは防御ではなく回避を選択するのだ。
そして――
「ガアアアアアッ!」
「グギャァッ!?」
隊列を崩して離れたフレアワイバーンに、突撃したシリウスが食らいついた。
長い首に牙を突き立て、鋭い爪でがっしりとその身を掴んでいる。
シリウスの場合、翼と前足は別になっているため、相手を掴んでいても平然と飛行することが可能なのだ。
一方で、ワイバーンは頭がフリーになっていないと殆ど攻撃手段がない。
あの距離では魔法も使えないだろうし、多少被弾した所でシリウスが落ちるということもない。
とりあえずあの一体は詰んだものとして、残る三体がシリウスの邪魔をしないように援護をする必要があるだろう。
「《練命剣》――【命輝一陣】!」
「ギッ!?」
シリウスを引きはがそうと向き直っていたフレアワイバーンへと向けて、生命力の刃を飛ばす。
機動力が高いワイバーンではあるが、ホバリング状態からでは素早く動けるというわけではない。
一度動きを止めてしまったフレアワイバーンは俺の攻撃を受けて硬直し――
「グルァアッ!」
――勢いよく振り抜かれたシリウスの尾、その先についている刃が、フレアワイバーンの首を薙ぎ払った。
大きく弧を描き、しなりながら遠心力を味方につけた一撃。まるで輪旋のようなその一閃は、フレアワイバーンの長い首を深く斬り裂く。
相手もそれだけで絶命することは無かったようだが、その大きなダメージに鮮血を噴き出しながら動きを止めている。
無論のこと、その大きな隙を見逃すことなどありはしない。
「『生奪』!」
俺の意志を汲んだセイランが大きく翼を羽ばたかせ、一気に加速する。
それと共に構えた刃にて、俺はシリウスの付けた傷へと刃を走らせた。
正確に傷をなぞった一閃はフレアワイバーンの首をさらに深く抉り、千切れかけた首が落ちる。
そしてそれとタイミングを同じくして、フレアワイバーンの首を咥えていたシリウスが大きく翼を羽ばたかせ、相手の体を地面へと向けて叩き付けた。
元々のダメージに加え、墜落のダメージだ。既に虫の息のフレアワイバーンであるが、シリウスは手を抜かずに追撃を仕掛けようとしている。
あちらは最早気にする必要はないだろう。
「セイラン、ルミナの援護だ!」
「クェエッ!」
一方、ルミナは二体のエアロワイバーンを相手に時間稼ぎを行っている。
魔法による牽制と薙刀による攻撃によって少しずつダメージを与えているが、流石に二体同時に狙われていては攻撃に集中できないらしい。
だが、ルミナは現状傷らしい傷を受けた様子はない。どうやら、エアロワイバーンの攻撃を的確に捌き切ったようだ。
思わず小さく笑みを浮かべつつ、俺は更にセイランを加速させた。
「ケエエエッ!」
セイランの叫びと共に、周囲に雷の弾丸が浮かび上がる。
紫電の煌めきを残して飛翔した弾丸は、エアロワイバーンの一体の体を打ち据え、その身を一瞬だけ硬直させる。
それを確認した瞬間、ルミナは一気にもう一体のワイバーンへと肉薄した。
どうやら、この瞬間を待ち構えていたようである。
「《奪命剣》、【咆風呪】!」
硬直したエアロワイバーンへは、《奪命剣》の一撃をお見舞いする。
この攻撃は防御無視であり、例え空中で放ったとしても威力の減衰は無い。
黒い呪いの風に包まれたエアロワイバーンはその体力を削り取られ――嵐を纏うセイランの前足が、その頭部を叩き砕いた。
『《死点撃ち》のスキルレベルが上昇しました』
『《回復適性》のスキルレベルが上昇しました』
『《背水》のスキルレベルが上昇しました』
耳に届いたインフォメーションに、とりあえず安堵の息を吐き出す。
どうやら、ルミナも速やかにエアロワイバーンを片付けていたようだ。
ゆっくりと地上に降下しながらステータスを確認し、ふと気づく。
どうやら、《死点撃ち》と《回復適性》が進化可能なレベルに到達したようだ。
「このスキルも《強化魔法》と同じく、Lv.50で進化だったのか」
とりあえず、特に悩む必要もないし、さっさと進化させてしまうとしよう。
《死点撃ち》の上位スキルは《致命の一刺し》、《回復適性》の上位スキルは《回復特性》になるようだ。
効果自体はそれほど変化はしていない様子であるが、《致命の一刺し》には低確率での即死効果が、《回復特性》には状態異常回復の高速化が追加されたようだ。
即死はともかく、状態異常回復は中々に便利かもしれない。
「……とりあえず、即死については確かめてみるしかないか」
わざわざ低確率と書かれているのだから、それほど期待するものではないのだろう。
とりあえず、意識して使ってみて、どの程度の確率なのかを確かめておくこととしよう。
これから厄介な敵と戦いに行くのだから、新たなスキルは少しでも把握しておかなくては。
呑竜が逃げる前に即死は発動することを期待しつつ、地上で待っていたシリウスと共に、俺たちは目的地への進行を再開したのだった。
■アバター名:クオン
■性別:男
■種族:人間族
■レベル:74
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:47
VIT:34
INT:47
MND:34
AGI:22
DEX:22
■スキル
ウェポンスキル:《刀術:Lv.45》
《格闘術:Lv.15》
マジックスキル:《昇華魔法:Lv.10》
《降霊魔法:Lv.36》
セットスキル:《致命の一刺し:Lv.1》
《MP自動大回復:Lv.26》
《奪命剣:Lv.38》
《練命剣:Lv.38》
《蒐魂剣:Lv.39》
《テイム:Lv.51》
《HP自動大回復:Lv.24》
《生命力操作:Lv.54》
《魔力操作:Lv.56》
《魔技共演:Lv.34》
《エンゲージ:Lv.19》
《回復特性:Lv.1》
《高位戦闘技能:Lv.14》
《剣氣収斂:Lv.28》
《識別:Lv.41》
《背水:Lv.13》
《走破:Lv.13》
サブスキル:《採掘:Lv.15》
《聖女の祝福》
称号スキル:《剣鬼羅刹》
■現在SP:42