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355:龍の教育











「なあ、シリウスよ」

「グル?」



 ディノレックスを倒し、ルミナから治療を受けているシリウスは、俺の掛けた声に首を傾げる。

 こうして見ると、中々にコミカルな姿に思えるものだ。

 シリウスは厳つい姿をしているが、こう見えて中々温厚な性格をしている。

 ただし、戦闘時は除くという注釈は入ってしまうのだが。



「お前、俺の業を使いたいのか?」

「グルゥッ!」



 俺の問いに対し、シリウスは勢いよく首を縦に振った。

 どうやら、コイツが戦闘時に魅せていた動きは、やはり久遠神通流の真似事であったらしい。

 別段、それに問題があるわけではない。むしろ、それによって戦闘能力が上がるのであれば、それに越したことは無いのだが――


「色々と使いづらいものも多いだろうに。わざわざそんなことをせずとも、お前は強くなれるだろう」

「グルルルッ」



 ドラゴンの体で久遠神通流の業を使うのは非効率的だ。

 まったく意味が無いとは言わないが、久遠神通流の真価を発揮するのは不可能だろう。

 先ほどの尾による一撃は、輪旋をイメージしたものであったはずだ。

 遠心力を利用したその一撃は、恐らく輪旋を真似した結果だろう。



(まあ、確かにその辺は扱い易くはあるんだけどな)



 今のところ見ているのは、穿牙と輪旋ぐらいだ。

 どちらも習得する難易度はそれほど高くはないが、使う際の危険度が高い業でもある。

 剛の型である以上仕方のない話ではあるが、少々隙が大きいのだ。

 まあ、シリウスの場合は耐久力に優れているため、多少隙を晒して反撃を受けたとしても問題は無いのだが。

 シリウスの尾を使った輪旋は、実際のところとんでもない威力であった。

 動きを止めていたとはいえ、あのディノレックスの頭を真っ二つに叩き割ってみせたのだから。

 これならば、上手いこと使うことができれば戦力として利用できるだろう。



「ふむ……どうしたもんかな」



 見て覚える分には構わないと思っていたが、シリウスはどうやら、思っていたよりも要領が良かったらしい。

 ある程度真似するだけであれば、別に放置していてもよいかと思っていたのだが、これならばある程度は教えた方がいいだろうか。

 まあ、俺が直接教えるわけにもいかないのだが。シリウス相手に直弟子云々を論じることはないが、そもそもそこまで付きっきりで教えてやるほどの暇が無いのである。



「……そうだな。シリウス、お前には術理の理念だけ教えてやる」

「グルゥ?」

「術理の成り立ちを、目的を知ることができれば、お前は自分で考えて業を適応できるだろう。直接教えてやることはできないが、それ位なら構わん」

「グルルルゥ!」



 俺の言葉に、シリウスは喜び勇んで唸り声を上げる。無邪気なその様子に、俺は思わず苦笑を零した。

 こうして仕草を見るとまだまだ子供なのだが、敵を前にすると勇猛果敢に飛び出していく。

 相変わらず、こいつは良く分からない性格をしているものだ。

 ともあれ、シリウスの回復は完了した。ディノレックスに噛みつかれた傷跡は流石に堪えたようであるが、だからと言って逃げ腰になるようなことはない。

 軽く体を振るって立ち上がったシリウスは、待ちきれないと言わんばかりにこちらへと顔を寄せてくる。

 撫でる程度ならいいのだが、抱き着くと《斬鱗》の餌食だ。俺はシリウスの首をぽんぽんと叩きつつ、先へと向けて再び歩き出す。



「……そう言えば、お前の鱗とかってどうなるんだ?」

「グル?」



 前々から気になっていた内容の質問ではあるのだが、どうやらシリウスも知らないらしい。

 シリウスの全身は刃に包まれている。鱗にしろ刃にしろ、加工することができれば優秀な武器となってくれるのではないだろうか。

 特に尾の先に延びている刃など、そのまま武器にできてしまえそうなほどだ。

 それほどまでに強靭なシリウスの肉体であるのだが、先程ディノレックスと戦った時に割れて落ちた鱗の一つを回収していたのである。と言っても、割れているため完全な状態ではないのだが。



「一応、お前の体の一部だろう? 治ったら消えるかと思っていたんだが」

「グルル」



 【アニマルエンパシー】の感覚からすると、どうやらこれは割れたのではなく、元から古くなって抜けそうになっていた鱗であるらしい。

 生まれてからまだ数日しか経っていないくせに、古くなった鱗とはどういうことか。

 《識別》を使ってみれば、一応アイテム化されていることは分かる。細かく割れてしまった鱗はともかく、自然に抜け落ちた鱗はアイテムとして取得できるということか。

 そう言えば、セイランの羽もちょくちょく抜け落ちていたが、あれもアイテム化されていたのだろうか。こいつらはかなり貴重な魔物であるし、アイテムとしても珍しかったのかもしれない。



「……まあ、羽は使い道がないしな」



 シリウスの鱗は金属素材として使えるかもしれないが、セイランの羽は俺たちの装備に使えるとは思えない。

 金には特に困っていないし、あっても無くても変わらなかったと思っておこう。

 シリウスの鱗――『劣剣龍の斬鱗』はそれほど数があるわけではない。シリウスが巨体とは言え、そうそう大量に抜け落ちるわけではないのだ。


 それに劣剣龍、つまりソードドラゴン・レッサーの素材ということは、さらに上位の素材も存在するということだ。

 であれば、収集するのはシリウスが更に進化してからの方がいいかもしれない。

 それを言い出したら第四段階に進化してからの方がいいのかもしれないが、流石にそれは遠すぎる。ドラゴンのレベルの上がり辛さも含めて、果たしてどれほど先になることやら。

 まあ、その辺りは先の楽しみに取っておくこととしよう。



「シリウスの回復は終わったか?」

「はい。結構削られていましたね」

「あれだけ格上の魔物を相手に、削られるだけで済んでいるんだから大したもんだがな」



 シリウスの回復を終えたルミナの頭を撫でつつ、すっかり元通りになったシリウスの姿に満足して頷く。

 先ほどは割れた鱗から血が流れだし、中々に痛々しい姿となっていたのだ。

 ディノレックスは単体の魔物としては非常に強力で、グランドドラゴンほどではないがかなりの戦闘能力を有している。

 レベルで圧倒的に劣るシリウスが、ほぼ単体で抑え込めていること自体がおかしいのだ。



「よし、それじゃあ先に進むとしようか。出会う敵は殲滅だ」

「はい。帝国領は石碑のある街が多いですから、サクサク行きましょう」



 流石大陸一の国家、都市の規模もこれまでの国の比ではない。

 その分だけ交通の便もいいのだが、一つ一つ回らなければならないのは面倒だ。

 とはいえ、石碑は解放しておいて損はない。さっさと回ってしまうこととしよう。











 * * * * *











「先生ってば、早速やらかしてくれましたね……」

「読めてた展開ではあるんじゃないの?」



 クオンと別行動をとった緋真は、早速イベントに向けた行動に移っていた。

 具体的にはレベル上げ、そしてもう一人の仲間の勧誘である。

 緋真の目標はクオンに挑むことであるが、それまでに他のプレイヤーに敗れてしまったのでは意味がない。

 大抵のプレイヤーが相手であれば、緋真は決して負けることはないだろう。

 だが、今回のイベント、『龍の庭園』はランダム要素が多い。油断していれば負けてしまう可能性もあるだろう。



「それで、緋真さん。もう一人は誰を誘うつもりなの?」

「実際、誘えば来てくれる人はいると思うんですよ」

「一応、私たちも優勝候補だものね」



 クオンという大きな壁はあるが、緋真とアリシェラのコンビもまた、優勝に近い位置にいるプレイヤーであろう。

 故に、仲間を探すこと自体は難しくは無いのだ――相手を選ばなければ、という前提ではあるが。



「ただ、知らない人と組むのはちょっと……面倒ですよね」

「まあ、それはね」



 緋真の言葉に対し、アリシェラは軽く肩を竦めて首肯する。

 自分たちのことについて、根掘り葉掘り聞かれるのは面倒だ。

 今回のイベントはチームでの行動がほぼ必須であるし、一緒にいてストレスを感じる相手は適切ではないだろう。

 であれば――



「となると、やっぱり『キャメロット』か『エレノア商会』の人がいいかと」

「それはその通りでしょうね。それで、誰を誘うの?」

「はい。それで、ここを読んでみてください」



 言いつつ、緋真が示したのは今回のイベント概要だ。

 若干屈んだ緋真が指先で示したのは、その中に記載されていた一文である。

 それを目にしたアリシェラは、納得して笑みを浮かべつつ頷いた。



「成程。となると、彼女かしら」

「はい、そのつもりです。早速勧誘に行きますか」

「いい返事が貰えるといいわね」



 言葉を交わしながら、二人は帝都の街並みを進んでいく。

 そこに投げかけられる視線や言葉など、二人は一切気にすることは無かった。











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