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353:コロシアムの決闘











『マイナーリーグランク戦、注目のメジャー昇格戦です!』



 さて、あれから何度かコロシアムで戦ってみたのだが、最初の予想はこちらに都合のいい方面に外れることとなった。

 リーグ参加についてはビギナーリーグからの参加だと思っていたのだが、いきなりマイナーリーグで登録することができた。

 というのも、ビギナーリーグは本当に初心者、それこそ戦いの経験が少ない若者を対象にしたリーグであり、ここに到達するまでレベルを上げている異邦人には相手にならないレベルだったのだ。

 そんな異邦人たちをビギナーリーグに放り込んでも、ただランクを荒らすだけで面白い試合にはなり得ない。

 そのため、異邦人は最初からまとめてマイナーリーグに放り込まれるようになったのである。



「……まあ、妥当な所ではあるんだがな」



 流石に、現地人の子供を相手にして悦に浸るような性格はしていない。

 多少なりとも戦いになる相手でなければ、コロシアムで戦う意味もないだろう。

 そういう意味では、異邦人でごった返しているマイナーリーグは多少はマシではあった。

 とはいえ、とんとん拍子で先へと進み、既にマイナーのランク1、メジャー昇格戦にまで辿り着いてしまったわけだが。



『彗星のごとくコロシアムに参戦し、全ての試合を十秒以内に終わらせてきた猛者! 彼を知る異邦人の中には試合放棄をする者が現れるほど! 調べによれば、彼こそが異邦人最強の剣士にして、公爵級悪魔を斬った英雄!』



 試合会場から見た観客席は、多くの観客によって埋め尽くされている。

 最初の頃の試合はまばらにしか観客が見えなかったのだが、今は多くの人々がこの試合を選び、閲覧しているのだ。

 メジャー昇格戦はそれだけ注目度の高い試合ということだろう。

 まあ、ここまで全く苦戦すること無く進んできてしまったのも原因のひとつであろうが。



『《剣鬼羅刹》! クオンの登場だああああああああああああッ!』



 アナウンスの紹介を、観客席からの歓声が塗り潰す。その声の中、俺はゆっくりと会場の中央へと進み出た。

 こういう前口上は、興行試合には必須というものなのだろうか。

 リアルで格闘技の試合も見たことはあるが、こういった口上は向こうもこちらも変わらないようだ。



『対するは、メジャーリーグランク10、重装歩兵のジャックスだ! 果たして、この剣鬼のメジャー入りを阻むことができるのか!』



 対戦相手は、大楯と槍を持った歩兵だ。

 剣闘士にはどうなんだと言わざるを得ない装備であるが、戦闘スタイルの坩堝となっているこの闘技場ではそれほど珍しい物でもないのだろう。

 まあ、それで人気を得られるかどうかはまた別の問題であろうが。

 実際、彼に対する声援はあまり多くはない。あの装備では派手な試合展開は無理だろうし、人気も得づらいのだろう。

 一応、顔を覚えてもらうためなのか、彼の装備している兜はフルフェイスではなく顔の出ているタイプだ。

 おかげで、彼のこちらに対する警戒はありありと伝わってくる。俺はその姿に苦笑を零しつつ、すらりと餓狼丸を抜き放った。

 対するジャックスは、槍を構えながらこちらへと大楯を向ける。その姿勢は様になっており、彼がただの偶然でここまで上り詰めたわけではないことを伝えてきた。



「ふむ……多少は楽しめそうか」



 マイナーリーグの試合は本当に退屈だった。

 異邦人が多く在籍している状況ではあるが、彼らは残らず俺のことを知っている。

 そのせいか、俺と相対しただけで委縮してしまうことも多く、戦いが始まる前に棄権してしまうものが現れるほどであった。

 ちなみに、棄権にはペナルティがあるため、素直に戦っていた方がマイナスは少なかっただろう。

 餓狼丸を正眼に、いつでも飛び出せるよう重心を落とし、じっとジャックスを見つめる。

 楯越しであるためはっきりとは見えないが、彼もまたこちらの様子を注視しているようだ。



『両者睨み合い、戦う準備は十分のようだ! それでは、ランク昇格戦――試合開始ッ!』



 歩法――烈震。


 開始の合図と共に、俺は一気に対戦相手へと突撃する。

 マイナーでの対戦相手は、半分近くがこれに反応できずに一撃で落ちてしまった。

 しかし、ジャックスはきちんとこちらの動きに反応し、こちらを串刺しにしようと槍を突き出してくる。



(そうでなければ面白くない!)



 斬法――柔の型、流水・渡舟。


 槍の穂先に刃を合わせ、逸らしつつその上に乗せる。

 そのまま槍の上を滑らせて相手に攻撃を放つのが渡舟であるが、今回は楯によって塞がれてしまっているため、その先まで刃を届かせることは不可能だろう。

 故に――俺は相手の楯へと向けて、肩から体当たりを放った。



「ッ……!?」



 本来であればあり得ない選択だろう。互いの武器からして、密着した距離は苦手である筈なのだから。

 しかしながら――密着した状況は、俺にとって苦手な距離にはなり得ない。


 打法――破山。



「おわぁっ!?」



 踏み込んだ足元から、地面を叩く破裂音が響き渡る。

 楯越しに叩き付けられた衝撃は、ジャックスの体を大きく仰け反らせてその体勢を崩させた。

 その隙に、俺は相手の足元にまで体を滑りこませる。虚拍ではないが、相手はこちらの姿を捉え切れていないようだ。

 であれば、ここで幕引きにするとしよう。



「しッ」



 斬法――剛の型、衝空。


 本来であれば頭上の相手に攻撃する業ではあるが、この位置からならば十分に応用できる。

 真っ直ぐに伸びあがった刺突の一閃は、仰け反った相手の首へと滑り込み、その喉を容赦なく貫いた。

 ジャックスが大きく目を見開いて驚愕するが、それ以上の反応を許すつもりはない。

 地を踏みしめ、腰を捻り、首を裂くように刃を払う。瞬間、派手な血飛沫が噴き上がり――ジャックスの体は、光の粒子となって消滅した。

 俺は経験がないが、これはそのまま控室に戻されることになるらしい。



『決まったああああああああ! 圧勝、マイナーリーグを勝ち上がった時と変わらぬ圧倒的な強さ! スキルすら使わぬその勝利に、文句のつけようなどありません! これが《剣鬼羅刹》、これが公爵斬りの英雄だああああああああああああッ!』



 実況と、響き渡る大歓声に思わず苦笑を零しつつ、俺は血を払った餓狼丸を頭上へと掲げた。

 瞬間、割れんばかりの拍手と歓声が、闘技場を埋め尽くす。

 こういった見世物の試合は、正直あまり興味は無かったのだが、決して悪い気分ではない。

 恐らく、ルミナも控室で大喜びしていることだろう。

 と――そんな俺の元に、コロシアムの職員らしき女性が駆け寄ってくる。

 刃を降ろしてそれを待てば、彼女は何やらマイクらしきアイテムを持ってこちらに声をかけて来た。



「クオン選手、メジャー昇格おめでとうございます! これからの意気込みを含め、コメントを頂けますでしょうか!」

「成程? そんなのもあるのか」



 勝利者インタビューとは、ますます興行じみている。

 いや、実際に興行なのだろうが……まあいい、折角の機会だ。これを利用させて貰うこととしよう。

 彼女からマイクを受け取った俺は、軽く音を確かめてから周囲へと向けて声を上げた。



『声援、感謝する。ここまでの試合を見て貰った所悪いが、俺はすぐにメジャーリーグに挑戦するつもりはない。少々、用事が立て込んでいるものでな』



 俺の放った宣言に、闘技場を包むのは落胆の溜息だ。

 このままメジャーに挑むこともやぶさかではないのだが、その前に帝国の各地を回っておきたい。

 今回も、軽い味見程度に参加しただけなのだから。

 とはいえ、このまま盛り下げてしまったのでは、世話になったコロシアムにも失礼だろう。一つ、派手に煽ってやるとするか。



『俺が次にここを訪れるのは、近く開催される『龍の庭園』の際だ』



 その宣言に、周囲がざわつく。プレイヤーだけでなく、現地人も『龍の庭園』の開催を知らされているようだ。

 あれだけ大掛かりな舞台なのだ、流石にそう頻繁に行えるようなものでもないのだろう。

 であれば、そちらをしっかりと観戦して貰いたいものだ。



『その試合、俺は一人で参加する。三人チームではなく、俺一人でだ』



 これは、緋真と別行動をとってから決めていたことだ。

 緋真たちとチームを組んでしまっては、楽に勝ててしまって面白くない。

 そして適当な誰かとチームを組むのも退屈になってしまう。

 であれば、一人で気ままに戦わせて貰った方が、こちらとしても楽しいのだ。



『参加者は俺に挑みに来い。最大のポイントを持つ俺を下すことができれば、勝利に近づくことだろう』



 俺や緋真の持つポイントは全プレイヤーでもトップだろう。

 俺たちを倒すことができるならば、そいつらが優勝に大きく近づくことは間違いない。

 ざわつき始める会場内。その全景を見渡し、俺は言い放った。



『俺は、お前たちの挑戦を待っている』



 瞬間――ガラスが砕けそうなほどの大歓声が、コロシアムを包み込んだのだった。











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― 新着の感想 ―
[一言] これはアレですね 村下位のドスファンゴの群に放流された至天のUnknownって言う感じ
[一言] 素晴らしい煽り、これは既にチャンピオンですわ。 大会ではクオン視点じゃなくて、それ以外の挑んでく側視点でも面白そう
[一言] 「俺は、お前たちの挑戦を待っている」 完全にラスボスの言動で草なんだ。でもこのイベントにおいては紛うことなきラスボスか。そういう目線でいくと今までのどの悪魔よりも、それこそディーンクラッド…
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