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349:謁見の約束












「ほほう……これがソードドラゴンか。話には聞いていたが、実物は初めて見たぜ」

「……いきなり何だ」



 帝都のテイマーギルド、その広い敷地に入った途端、建物内から飛んできたのは口髭を蓄えた壮年の男性であった。

 見た目の割に動きは随分と若々しく、機敏にシリウスへと近づき、その姿を矯めつ眇めつ眺めている。

 テイマーギルドの職員であることは間違いないのだろうが、いったい何者なのだろうか。

 驚くべきは、恐ろしい姿のシリウスに対して、全く怯んでいないことだろう。

 全身を刃に包まれたシリウスは存在自体が脅威であると言える。だがこの男はシリウスを恐れることなく、それでいながらシリウスを不快にさせない適切な距離を保ちながら接しているのだ。

 どうやら、ドラゴンの機微に随分と通じている人物であるらしい。



(だが、それよりも――)



 動きを見ればわかるが、この男は随分と鍛えているらしい。

 年も年だというのに、動きに鈍っている部分が見受けられないのだ。

 流石にジジイほどとは言わないが、今も十分一線で戦えるだけの実力を有していることだろう。

 彼が一体何者なのかというのも気になるのだが――



「なあおい、あんた」

「とんでもなく鋭い爪だな……角も牙も、類を見ないレベルだ。まさに全身凶器、こいつは凶悪だな! しかし、どんなブレスを吐けるんだ? 属性龍じゃないもんなぁ」



 この男、シリウスに夢中になりすぎて、俺たちの声が耳に届いていない様子だ。

 随分とドラゴンのことが好きなようだが、このままでは話が進まない。

 そろそろログアウトしたい頃であるし、あまり無駄な時間を使っている暇もない。

 軽く嘆息し――俺は、餓狼丸の柄に手をかけた。



「っとぉ! おいおい、そう怒るなって! 悪かったよ!」



 その瞬間、男は弾かれたように反応し、こちらへと向き直った。

 軽くではあるが放った殺気を読み取った辺り、やはり結構な実力者であるらしい。

 いったい彼は何者なのか、その疑問を込めて、俺は改めて男へと問いかけた。



「それで、あんたは何者だ?」

「俺はオルランド、この帝都におけるテイマーギルドのギルドマスターさ。そして……同時に、風属性の龍育師でもある」



 その言葉に、思わず眼を見開く。

 龍育師――真龍を育成することを目的とした職業。

 その存在自体もかなり気になってはいたのだが、まさかこのような形で対面することになるとは思わなかった。

 とはいえ、納得でもある。テイマーに関係する以上、テイマーギルドに行けば会える可能性があるのではないか、とは考えていたのだ。

 尤も、それがまさかギルドマスターだとは思わなかったが。



「龍育師……直接お目にかかることになるとは思わなかった。俺はクオン、異邦人だ」

「ああ、通信装置で話は聞いてるよ。聖王国で公爵級悪魔を討ち、女神様から真龍の卵を下賜された英雄――とても信じられないような話だが、どうやら間違いはないらしい」



 英雄という言葉には眉根を寄せざるを得ないが、経歴そのものは間違っているというわけでもない。

 どうやら、オルランドは俺の経歴そのものにはあまり興味はないらしく、今の言葉も単純にハオロナから聞いた話をそのまま口に出しただけのようだ。

 どうやらこの男、ドラゴンにしか興味はないらしい。



「なあなあ、ソードドラゴンはどうやって戦うんだ? 《強化魔法》系統ってことは、やはり物理攻撃がメインなのか?」

「あ、ああ。刃と頑丈さを生かした肉弾戦がメインだな」

「ほう、やはりそうか! 鱗も大したもんだが、この爪で掴まれたらひとたまりもないだろうな、ははは! それでそれで、ブレスはどんな感じなんだ!?」

「あー、斬撃を伴う衝撃波、みたいな感じか」

「成程なぁ、そこはちょっと風属性に似てるな。実際に見てみたいんだが――」

「おい、ギルドマスターだっていうんなら、俺に用事があるんじゃないのか? 無いなら帰らせて貰うぞ?」

「おっとっと、待ってくれ待ってくれ! 俺が悪かったよ!」



 どうにもお調子者な様子のオルランドに、思わず嘆息を零す。

 龍育師というだけあって、ドラゴンを愛しているのかもしれないが、個人的な興味は後回しにして貰いたい所だ。

 オルランドの方も状況は逼迫しているのか、俺が帰ろうとすると慌てて引き留めてきた。

 やはり、銀龍王の傷は決して軽視できるようなものではないらしい。



「改めて、ようこそ帝都のテイマーギルドへ。あんたには是非、銀龍王様の助けになって欲しい」

「詳しい話はまだ聞いていないんだが……やはり、傷の状況は良くないのか?」

「正直な所、あまりいいとは言えないな」



 果たしてそこは話していい所だったのだろうか。

 適当なのだかきちんとしているのかはよく分からないが、とりあえずは予想していたものと近い状況にあるらしい。

 焦っているわけではないため、今すぐにどうにかなるほど危険な状態というわけではないようだが、それでも予断を許さぬ状況ではあるらしい。

 ともあれ、そうならば銀龍王の傷を癒す必要があるわけだが――



「しかし、何故俺たちに話を持ってこようとするんだ? 生憎と、傷を癒す方法に心当たりはないぞ?」

「ああ、それに関しちゃ問題ない。元々、どうすりゃいいかは分かってるんだ。こっちにゃ手の届かない場所にあるってだけでな」

「それで協力者を探していた、と」

「そういうこった」



 龍王の傷を癒せるほどの何かというのも気になるが、大国ですら手の届かない場所とは一体何なのか。

 公爵級を討ったという点が評価されているのは分かるが、まさかあれと同じレベルの難易度を求められたりはしないだろうな?



「それで、俺たちに何を依頼したいんだ?」

「とりあえず、まずは陛下に会ってほしい。俺も方法は分かるが、具体的な進め方が分かるのは陛下だけだ」

「シェンドラン帝国の、皇帝……」

「こちらから話は通しておくが、いつだったら都合がつく? 陛下も忙しいんでな」



 悪魔との戦いの後であるし、忙しいのは仕方あるまい。

 元より今日はこの後でログアウトするつもりだったし、翌日ログインした後にしてくれた方が助かるというものだ。

 とりあえず今の時間から計算し、何時間後になるかという旨だけを伝えれば、オルランドは得意げな笑みを浮かべて了承した。



「了解だ、その時間なら恐らく問題はないだろう」

「ああ。だが、こっちは礼儀作法とかそういうものは分からんぞ?」

「その辺は問題ないさ、正式な謁見ってわけでもないんだ。そもそも、あの人はその辺にはあんまり厳しくないからな」

「変なことにならんのなら、それでいいんだが……」



 テイマーギルドを見学している仲間たちの方を確認し、眉根を寄せる。

 緋真にせよアリスにせよ、礼儀作法に詳しいというわけではない。

 もしも公の場に出る必要があるならば、アルトリウスにすべてを任せたい所だ。



「陛下が気にするのは、どちらかというと個人の強さの方さ。その点、公爵級を討ったっていうアンタはそれだけで気に入られるだろうよ」

「それはそれで怖いんだがな」



 一体何を要求されるのか、今のうちに確かめておきたい所ではあるのだが、生憎とオルランドも答えるつもりはないらしい。

 やはり、実際に皇帝に会ってみるしかないというわけだ。



(……まあ、仕方ないか)



 悪魔との戦いのために、銀龍王の力が失われることは避けたい。

 今、俺やアルトリウスが真龍を育てているのも、いずれは龍王の領域に達する力を手に入れるためだ。

 新たに手に入れる前に失ってしまっていては元も子もないのである。

 面倒な気配を感じ取ってはいるが、この依頼は受けざるを得ないものなのだ。

 正直な所、公爵級を倒した実力を期待されても困るのだが。



「……一応あらかじめ言っておくが、公爵級悪魔を倒せたのは、あくまでも異邦人全体が力を合わせた結果だ。俺一人では倒すことは不可能だった」

「分かってるよ。単騎で公爵級を討てる人間がいてたまるもんか。それでも、あんたはその中心人物の一人だったんだろう」

「それは……否定しないが」



 俺たちが主体となっていたことは紛れもない事実だ。

 その認識であれば外れているというわけでもないし、とりあえず妙な期待まで抱かせることはないだろう。

 この男が余計なことを言わなければ、であるが。



「それじゃあ、さっき言った時間になったらここを訪れる。案内はよろしく頼むぞ」

「分かってるさ。こっちこそ、よろしく頼むぜ」



 さて、果たして何を頼まれることになるのやら。

 期待と不安、それぞれを半々に抱きながら、俺たちはテイマーギルドを後にし、ログアウトしたのだった。











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