347:帝国での活動
書籍版マギカテクニカ3巻は、3/19(金)に発売となりました!
全国書店、ウェブサイト、また電子書籍でもご購入いただけます。
ご購入いただけた方は、是非巻末にあるURL、QRコードからアンケートにご協力ください。
HJノベルズ紹介ページ
http://hobbyjapan.co.jp/hjnovels/lineup/detail/263.html
https://twitter.com/AllenSeaze
ハオロナからの依頼を受け、国境の街を出発する。
色々と興味深い話は聞けたものの、結局のところ状況を正確に把握するには至らず。どちらにしろ、帝都に向かう必要があるということだ。
しかし――
「皇帝に会えとは、また随分な話だな」
「会おうと思って会えるものなんですかね?」
ハオロナより渡された紹介状は、帝都のテイマーギルドのギルドマスターに宛てられたものだ。
内容は確認していないが、おおよそ俺たちが事態解決の助けになることを伝えるような内容だろう。
龍育師という存在があるためか、この国に於けるテイマーギルドの地位はそれなりに高いように感じられる。
帝都のギルドマスターならば、皇帝と渡りをつけることも不可能ではないということか。
とはいえ、そう簡単に行くものなのかとは疑問を抱かざるを得ないが。
「事態解決に協力するのはやぶさかではないが、向こうがこっちを信用するに足る理由があるとは思えんからな」
「帝国だと、別に恩を売れている訳じゃないですからね。公爵級悪魔を倒したと言っても、この国だってそれと似たようなことはしてるんでしょうし」
この国に襲撃してきた悪魔は公爵級なのか、あるいはその上である大公級なのか。
どちらにせよ、俺たちの功績についてもこれでは効果が半減というものだろう。
彼らが龍王の力を借りていたとしても、それと同等以上の悪魔を退けたことはまず間違いないのだから。
「この国のトップがどんな人間なのかは知らないが、場合によっちゃ本題に入る前にひと悶着ありそうだな」
「面倒臭いわね……素直に従うの?」
「他にやることも無いからな。それに、帝国に恩を売るにはいい機会だろう?」
悪魔を退けるという恩を売ることはできないが、代わりに龍王を救うという恩を売ることはできる。
この大陸で頂点の国力を持つシェンドラン帝国、彼らに恩を売ることは、決して損ではあるまい。
この先我々が移住してきたとして、アドミス聖王国を移住先とするのであれば、シェンドラン帝国との密接な関係は避けられない。
今のうちに友好な関係を築いておいて損はないだろう。
「まあ、どちらにしろ今は暇なんだ、何か条件が付けられるにしても、ちょうどいい暇潰しになるだろうさ」
「気楽な物ねぇ。今はのんびりしていられるけど、またすぐに戦いになるのよ?」
「だからこそだ。息を抜ける時には抜いておく。長期戦には必要なことだぞ」
「へぇ……そういうものなのね」
長期にわたる戦場暮らしでは、時間が経てば経つほど精神に負荷がかかる。
だからこそ、軍人たちは僅かな娯楽であれ大事にするのだ。
支給されたタバコが高値で取引される辺り、随分と殺伐とした環境だった。
常に気を張っていては、長い戦いには耐えられない。だからこそ、息抜きは重要なのだ。
尤も、当時の俺は特に娯楽に興じることは無く、修行と瞑想に費やしていたのだが。
「とりあえず、他に明確な目的も無いわけだし、とりあえずは言われた通りにやってみるさ。後はレベル上げぐらいしかやることが無いからな」
悪魔との決戦に向けてレベル上げを行うのもいいのだが、明確な目的を持っていた方が行動しやすい。
レベル上げも忘れてはならないが、ただ単調に戦うだけではつまらないのだ。
――俺はシリウスがディノラプトルを蹂躙する様をぼんやりと眺めながら、胸中でそう呟いた。
「グルゥァアアアアアアアッ!」
鋭い爪で相手を引き裂きながら踏み潰し、鋭利な牙で噛み千切る。
後方から飛び掛かってくる相手は尻尾の刃で両断して吹き飛ばしてしまう。
半端な体当たりや噛みつきなどはシリウスには通用せず、逆にその鱗によって傷ついている状態だ。
やはり、個体としての力が大きくなく、魔法攻撃を持たないこいつらは、シリウスにとってはやりやすい相手である。
「シリウスのレベル上げだけを考えるなら、こいつらは都合がいいんだがなぁ」
「私たちのレベル上げにはなりませんよね」
ディノラプトルは、個体としてはあまり高い能力を有してはいない。
どちらかというと群れでの狩りを得意とするタイプだろうか。
俺たちとしては、別に群を相手にすることは苦としていないし、個体で見ると格下であるためあまりスキルを使わずに戦闘が終わってしまう。
スキルのレベル上げには向かない魔物であった。
「けど、えげつない戦い方ねぇ」
「正直、シリウスの……というかソードドラゴンの相手はしたくないな」
全身を鋭利な刃物に包まれた大質量のドラゴン。
一挙手一投足が相手に傷を負わせる攻撃となるのは、悪夢としか言いようがないだろう。
《硬質化》のスキルを使っていると物理攻撃はほとんど通らず、接近戦は爪や牙で十分な攻撃力を発揮する。
そして敵が離れていれば《ブレス》を使い、ダメージを負った相手へと向けて巨体を生かして突撃する。
頭部より伸びる鋭利な角に貫かれた魔物は、首を振るって投げ飛ばされ、そのまま絶命してしまうのだ。
これがさらに上位のドラゴンに進化すれば、この様相が更に強化されるというわけだ。
真龍云々以前に、末恐ろしいことである。思わず乾いた笑みを浮かべつつシリウスの暴れっぷりを眺め――俺はふと眉根を寄せた。
「うん……?」
シリウスの咆哮に紛れ、俺の上げた疑問の声は緋真たちに聞かれることは無かったらしい。
こいつらはシリウスの戦闘をただぼんやりと眺めているだけのようであるが、俺はその動きを見て一瞬違和感を覚えたのだ。
今の、角を前に出して突撃する動作、あれは――
(……穿牙を真似しているのか?)
人体ではないため、どの程度力の収束ができているのかは想像の域を出ないが、今の一撃の理念は穿牙と同じものだった。
切っ先の一点にすべての破壊力を集中させ、敵を貫く。そのために、力の発生点から切っ先までを一直線に伸ばしたその姿勢は、穿牙を意識しているように思えたのだ。
まさかとは思うがこのドラゴン、俺の業を真似しようというのか。
(まあ、普通に考えて難しいんだが)
久遠神通流の業は、あくまでも人間が人間を殺すための業だ。
四足歩行で使用することなど想定していないし、当然ながらドラゴンなんて存在は想定の範囲外だ。
だがそれでも、その性質を全く利用できないということはないだろう。
(角を使った穿牙や、尾の刃を使った輪旋……やれないことはない、か?)
繊細な力加減が求められる柔の型は難しいだろうが、破壊力を集中させる剛の型は案外と合っているかもしれない。
流石に、ドラゴンの体をどう動かせば効率的に力を伝えられるかは分からないし、上手く教えることは不可能だろう。
しかし、ある程度までであったとしても、理念さえ理解していれば自分なりに応用することは可能なはずだ。
そこから先は、シリウスの理解力次第と言ったところか。
(……緋真とルミナの稽古を見学させるか)
柔の型の業はシリウスにとって有用ではないだろうが、剛の型はある程度転用できると思われる。
柔の型についても、もしかしたら同等レベルの巨体を相手にした時に、役に立つことはあるかもしれない。
尤も、そんな怪獣大決戦になったら、こちらもシリウスの動きを気にしている余裕は無いだろうが。
何にせよ、シリウスがより効率よく力を伝える方法を学べるのであれば、更に戦力が増す可能性は十分にある。
果たして、このドラゴンがどのような成長を果たすのか。成り行きではあるが、思った以上に興味をひかれる存在だ。
「グルルルルル……ッ!」
『テイムモンスター《シリウス》のレベルが上昇しました』
シリウスが残るディノラプトルを引き裂いて、戦闘が終了する。
受けたダメージは殆ど無く、群れを相手に完勝と言って差し支えないレベルだろう。
この調子でレベルを上げて、魔法を使う魔物相手にも戦えるようになって欲しいものだ。そこにはまず第三段階への突入が必要かもしれないが。
「……よし、問題ないな。先に進むとするか」
相変わらず魔物の素材は使い物にならない状態であったが、別に今更金を稼ぐ必要もないし、放置することとする。
次なる目的地は帝国の中央。請け負ったクエストの先に何があるのか、それを確かめに行くとしよう。
■モンスター名:シリウス
■性別:オス
■種族:ソードドラゴン・レッサー
■レベル:3
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:32
VIT:32
INT:25
MND:26
AGI:30
DEX:30
■スキル
ウェポンスキル:なし
マジックスキル:《強化魔法》
スキル:《爪》
《牙》
《突進》
《ブレス》
《物理抵抗:中》
《硬質化》
《斬鱗》
《刃翼》
《尾撃》
《魔法抵抗:小》
称号スキル:《真龍》