345:テイマーギルド
書籍版マギカテクニカ3巻、本日発売となります。
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国境の街アルケント。帝国の領地の中では辺境に属する場所だろうが、街の規模は決して小さくはない。
国境にある街だからこそという点はあるだろうが、その割にはあまり要塞化されている様子はなかった。
それは恐らく、隣の国が中立国家であるアドミス聖王国だからだろう。
アドミス聖王国は、この大陸においては調停役のような役割を担っていた。女神の加護を持つその権威は非常に高く、同時に制限も多かったらしい。
ともあれ、聖王国側は決して戦争を仕掛けるようなことは無く、それ故に帝国側も防備を充実させてはいなかったのだろう。
それでも、防衛戦をするには十分すぎる規模を有しているようであったが。
「いやぁ……めっちゃ注目されてますね」
「見ただけで亜竜か真龍か分かるもんなんだな」
そんな街の通りを歩く中、俺たちは人々の視線を一身に集めていた。
原因は言わずもがな、広い通りをのしのしと歩いているシリウスである。
結構な巨体であるのだが、中央通りは広いお陰で、シリウスが歩いていてもそこまで邪魔にはならない。大型の馬車が通っているのと同じぐらいの感覚だ。
しかしながら、その正体は女神の眷属たる真龍であり、その真龍と契約するこの国にとって、シリウスは決して無視できるような存在ではない。
ついでに言うと、未知の部分が多い真龍について注目しているプレイヤーも多く、プレイヤーからの視線もかなり集めている状況だ。
尤も、当のドラゴンは視線などまるで気にしていない様子であったが。
(中々暢気なんだよなぁ、こいつ)
戦闘時にはかなり積極的であるが、普段はかなりのんびりとした性格だ。
先ほども、立ち止まっている間に他のプレイヤーにべたべた触られていたが、特に気にした様子も無かった。
まあ、下手に動くと相手の手を斬ってしまう恐れがあるというのも事実であるが。
ともあれ、こののんびりとした性格のお陰で、こうして街中でも安心して歩かせられるのはいいことだ。
流石に、次に進化したらサイズ的に厳しくなるだろうが。
「で、さっきの話って結局何なんですか? テイマーギルドに行って欲しいとかどうとか」
「新しいクエストが出てな。内容はまだ全く分からんが」
受注したクエストの説明文を読んでも、今の状況しか説明されておらず、内容については何一つ分かっていない状況だ。
果たして、テイマーギルドで何を聞かされることになるのか。
龍育師の話も気になるが、それ以上に気になるのはクエスト名そのものだ。
《銀龍の傷痍》――銀龍とは恐らく、この国に住まう龍王、銀龍王のことを指していると思われる。
例え外れていたとしても、その配下の真龍たちが対象とみて間違いないだろう。
そして傷痍となれば、そのドラゴンが何らかのダメージを受けているということか。
(アドミス聖王国に公爵級が現れたことを考えると、こちらにも同等の戦力が来ていたとしても不思議ではないか)
公爵級やそれ以上が相手になった場合、果たして龍王とて無事で済むのか。
この国での戦いを目にしていない俺には、想像することしかできない内容だ。
その辺りの情報も、この先である程度把握することができるだろう。
石碑については解放したし、あと用事があるのはテイマーギルドだけだ。
「しかし、シェパードから存在は聞いていたが、その後全く気にしていなかったな」
「私たちは当事者でもないけど、貴方一応テイマーでしょ?」
「必要性を感じなかったんだよ……何か購入する予定があるわけでもなかったしな」
セイランの鞍や手綱にしても、エレノアに注文すれば十分だったからな。
まあ、今装備している手綱については、イベントで手に入れたアイテムなのだが。
俺はテイマーと言っても多数のテイムモンスターを保有しているわけではないし、育成そのものに興味があるわけでもない。
ルミナやセイラン、そしてシリウスを仲間にしたのも全ては成り行きだ。
俺自身、あまりテイマーとして分類される自覚は無いのである。
だからこそ、初めて訪れるテイマーギルドには、少々興味を引かれていることも否定はできない。
果たして、テイマーが集まるその場所は、一体どのような施設であるのか。
マップに記されている建物はすぐ近くであるが――
「あっ、あれじゃないですか?」
「おお? 結構でかい建物だな」
緋真が指差していたのは、高い塀に囲まれた広い敷地を持つ建物だ。
どうやら、建物の裏手に広いスペースが開いているらしく、非常に広大な土地を有していると思われる。
これまでの都市にはこのような目立つ施設は見受けられなかったから、このテイマーギルド――或いは、この国のテイマーギルド特有の立地なのだろう。
テイマーがそこまで盛んというイメージも無いのだが、龍育師なる職業もあるようだし、何かしら重要な立ち位置なのかもしれない。
とりあえず、門はかなり広いし、シリウスも入口手前までなら入ることができるだろう。
どう考えてもドラゴンが関連している話であるし、シリウスは従魔結晶に戻さず待機させておくこととしよう。
そう考えながら敷地内に入ると、建物の中から慌てた様子の職員が飛び出してきた。どうやら、窓からこちらの姿を発見したようである。
「や、やはり真龍! 龍育師の方ですか!?」
「いや、こちらは異邦人なんだが……済まない、龍育師という職業のこともよく知らないんだ」
「異邦人!? 異邦人が何故真龍の《テイム》を!?」
「えーと……公爵級悪魔を倒した報酬に、女神から卵を下賜された」
イベントだのポイントだのリソースだの、どう説明したものかと悩んだ末、全ての責任を女神に放り投げることにする。
どうも、女神はこのゲーム世界の管理者であるようだし、イベントでの取得についてはそう間違った説明ではないだろう。
俺の言葉を聞いた職員はしばし呆然とした様子で立ち尽くしていたが、何とか俺の言葉を飲み込んだのか、いっぱいいっぱいな様子ながらも俺たちを建物内へと招き入れた。
「と、とりあえずこちらへ……マスターを呼んできます」
「了解。シリウスとセイランはここで待っていてくれ」
「グルッ」
「クェ」
特に異論はない様子で、シリウスとセイランは入り口近くの地面に伏せる。
何やら感動した様子でそれを眺めていた職員は、俺たちの視線に我に返ったのか、急ぎ建物の中へと移動していく。
その後に続いて、ロビーの片隅にある机へと案内された俺たちは、建物の奥へと消えて行った職員を見送りつつそこに腰を下ろした。
「結局、龍育師って何なんですかね?」
「言葉の通りだと、ドラゴンを育成しているテイマーなんでしょうけど」
「俺達やアルトリウス達のように、自力でドラゴンを孵化させるのか、或いは既存の真龍を《テイム》するのか……というか、この国だとそんなことが可能なのかね?」
「――生憎と、誰にでも許されている訳じゃないのよねぇ」
と――相談していた俺たちの間に、おっとりとした声が割り込む。
視線を向ければ、そこには少々ふくよかな体格の女性が、淡い微笑みを浮かべながら佇んでいた。
その後ろには先程の職員が立っている辺り、どうやら彼女がこのギルドのマスターなのだろう。
「初めまして、異邦人のテイマーさん。私はアルケントのギルドマスター、ハオロナと言います」
「どうも。俺はクオン、こっちは緋真とアリス、そしてルミナ」
「ヴァルキリー……いえ、ヴァルハラリッターね。とても珍しい、本当に久しぶりに見たわぁ」
精霊というだけでも珍しいのに、更に希少なヴァルキリー系についても見たことがあるらしい。
思わず感心していると、彼女は更に窓の外へと視線を向けた。
その向こう側にいるのは、寄り添うように座りながらも俺たちの様子を観察しているセイランたちだ。
「ストームグリフォンまで連れているのねぇ。本当に優秀な方なのね」
「成り行きでね。それで、色々と話を聞かせて頂いても?」
「ええ、勿論。こちらとしても、お願いを聞いて貰いたい立場ですから」
どうやら、クエストの話はここで進むようだ。
龍育師という職業、真龍を《テイム》するということの意味、そして――クエストの名前に据えられた銀龍の正体。
気になることはいくらでもあるが、それに時間を使うことを無駄だとは思わない。
何故なら、これこそが、この国における活動方針になる予感があるからだ。
しばらくは時間の余裕もある、この国で過ごすためにも、必要な情報を仕入れていくこととしよう。





