340:ドラゴンの力
マギカテクニカ第3巻が3/19に発売となります。
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色々と気になりはしたものの、流石に二十四時間殆ど休みなく戦い続けていたため、その日はお開きとなった。
街まで戻るほどの時間もなく、そのまま聖火のランタンを使ってログアウトしたのである。
我ながら無茶をしたものだが、シリウスの姿を見れば、その甲斐もあったと納得できるものである。
そして翌日――ログインした俺たちの目に飛び込んできたのは、相変わらず陣地を構えたままの『MT探索会』の姿であった。
「……昨日からずっと待ち構えていたのか?」
「ははは、このような機会はめったにありませんからね!」
どうやら、シリウスのことが気になってここで待ち構えていたらしい。
今日は街に戻りがてらシリウスの育成をするつもりだったのだが――この調子ではなかなか大変そうだ。
露骨に面倒臭そうな表情をしたからだろう、待ち構えていた教授は若干慌てた様子で首を振る。
「無論、集団でお邪魔するような真似はしませんとも。私と、後は助手を一人連れて行く程度です。真龍の幼生のステータスを要求するようなこともしません」
「ふむ……こう言っちゃなんだが、意外ですね?」
「ソードドラゴンについて気にならないと言えば嘘になります。しかし、貴方との交渉は中々難しい物でしてね」
若干の乾いた笑みと共に、教授はそう口にする。
確かに、俺はあまり特殊な情報を必要としているわけではない。
必要な分はアルトリウスやエレノアから情報を仕入れられるし、『MT探索会』と直接取引をする必要があまり無いのだ。
「とりあえず、その辺りの情報につきましては『キャメロット』とビジネスをさせていただくつもりです。今回は、外から見える範囲で観察させて頂ければと……後は、思いついたことがあれば色々と助言させて頂こうかと」
「それは無料で?」
「無論、その程度で対価は頂きませんとも。クオン殿にはお世話になっておりますからね」
ふむ……まあ、シリウスの戦いぶりについてはいずれ方々に知れ渡る話だ。
昨日の孵化の時点でも動画撮影を許可していたし、ドラゴンが生まれた話は既に周知されている。
これからも遠目に見られることはあるだろうし、見て分かる範囲であれば別段気にすることもないだろう。
「……まあ、それ位であれば。とりあえず、こちらはシリウスが飛べるようになるまでは急いで育てるつもりですが」
「ふむ……確か、翼はありましたが、まだ大きくは無かったですね」
「進化したら飛べるようになるのかは分からん所ですが……とりあえず、飛べないことには空中での戦闘が行いづらいのでね」
以前目撃した真龍は空を飛んでいたことだし、翼もあるのだから、恐らく育てば飛べるようになるだろう。
差し当っては一段階進化させるところを目途にするか。
とはいえ、シリウスは正真正銘のレベル1、すぐにそのレベルまで到達することだろう。
成長もさることながら、進化も中々に楽しみなことだ。
「先生、お待たせしました……あー」
「ここの人たち、まだ帰っていなかったのね」
少し遅れてログインしてきた緋真たちも、教授たちの姿を認めて半眼を浮かべている。
邪魔にはならないだろうが、彼らの情報に対する熱意は相変わらず理解しがたい感情だ。
ともあれ、変に交渉して時間が長引くよりは適当に対応した方がマシだろう。
さっさと出発しつつ、シリウスの様子を確認するとしよう。
そう判断し、俺は従魔結晶から三体のテイムモンスターを呼び出した。
「おはようございます、お父様」
「クアァ」
「今日もよろしく頼む。シリウスは、今日からよろしくな」
「グル?」
シリウスはまだあまり実感が湧いていない様子であるが、今日は頑張って貰わねばならない。
正直、レベル1のシリウスを戦闘に出すことには不安があるため、戦い方は慎重に選ばなければならないだろう。
とりあえず、相手の攻撃を極力潰しながら戦うしかないか。
「よし、出発するか……ルミナ、一体だけの敵がいたら軽く攻撃して引き寄せてみてくれ」
「分かりました、少々お待ちください」
俺の指示を受けて、ルミナは上空に舞い上がる。
今のシリウスを抱えた状態で、複数の魔物を同時に相手にすることは避けたい。
できれば、これまで通りモノセロス辺りを一体寄越して貰えれば、こちらとしても対処が楽なのだが。
とりあえず、索敵はルミナに任せ、北東の都市へと向けて歩き出す。
シリウスの育成もそうだが、アルトリウスの方の卵も気になるのだ。あちらも孵化作業に入っているかもしれないし、様子は見に行きたい。
と――歩き出してから一分と経たず、上空から光の矢が一筋、地面へと向けて放たれた。
ルミナの攻撃を当てられ、こちらに反応してやってきたのは――
「……モノセロスか。都合がいいな」
「えーと……とりあえず、機動力を削ぎます?」
「そうだな、身動きは取れないようにしておくか。セイラン、一旦シリウスの護衛を頼む」
「クェ」
気位の高いセイランにとって、シリウスは舎弟か何かか。
まあ何にせよ、面倒は見てくれるようで安心だ。シリウスの傍で待機するセイランの気配を背後に捉えながら、俺は緋真と共に向かってくるモノセロスを迎撃する。
こいつの動きは嫌というほど見たし、今更警戒するような必要などありはしない。
放ってくる魔法を適当に《蒐魂剣》で斬り裂きながら、俺と緋真は即座にその体へと肉薄した。
「『生奪』」
斬法――剛の型、刹火。
その交錯の瞬間に振るう刃が、モノセロスの左前脚を斬り飛ばす。
それとほぼ同時、反対側から攻めた緋真の放った一撃が、モノセロスの右後ろ脚へと突き刺さった。
両側の足を傷つけられ、モノセロスは力なくその場に倒れ伏す。
とはいえ、まだHPが尽きたわけでもなければ、魔法が使えなくなったわけでもない。
決して安心できる状態ではないが――少なくとも、シリウスにとっても容易い相手にはなった筈だ。
「よし、シリウス! 来い!」
「グァウ!」
俺の呼びかけに応じ、セイランの影に隠れていたシリウスが飛び出してくる。どうやら、中々に好戦的な性格をしているらしい。
とりあえず、モノセロスは緋真に注意を引かせておいて、シリウスに攻撃が向かわぬように注意することとしよう。
俺の呼びかけに答えたシリウスは、勢い良く地を蹴ってモノセロスの方へと《突進》していく。
恐らくスキルを使っているであろうその突撃は、緋真を警戒していたモノセロスの横っ腹へと容赦なく突き刺さった。
「ブモオォ!?」
「グルァアアッ!」
鱗自体が刃のように尖っているシリウスは、その突進だけでモノセロスの表皮を一部削り取ってしまった。
そのまま、シリウスは指先から伸びる鋭い爪を振り下ろし、傷ついたモノセロスの体へと刃を突き立てていく。
流石に悲鳴を上げたモノセロスは、魔法を放ってシリウスを攻撃しようとするが、その魔法は即座に《蒐魂剣》で消滅させる。
《斬鱗》によって相手の防御を削ったところに《爪》による攻撃か。ダメージは与えられるようだが、流石にレベル1では火力不足ということだろう。
「シリウス、一旦下がれ……何か遠距離攻撃は無いのか?」
「グルルッ!」
モノセロスの魔法を何とかしつつシリウスを下がらせ、そう問いかける。
俺の問いに対し、シリウスは何やら自信満々な様子で首肯した。
そして視線をモノセロスへと向け、大きく息を吸い――
「ガアアアアアアアアアアアッ!」
「うおっ!?」
その口より、凄まじい衝撃波が迸った、
斬撃を伴う衝撃波は、地面を斬り刻んで削り取りながら一直線にモノセロスへと殺到し――その白い巨体を斬り刻みながら吹き飛ばした。
流石に大きなダメージを受けたらしいモノセロスは地面に転がり、すかさず突撃したシリウスは、マウントを取るような形で馬乗りになりながら相手の首へと牙を突き立てた。
鋭いその牙は圧倒的な格上のはずのモノセロスの表皮を突き破り、確かなダメージを与えている。
だが、流石に止めを刺すには至らないのか、その状態で苦戦しているようだ。
「緋真!」
「了解、です!」
故に、モノセロスからの反撃が来る前に、緋真にとどめを刺させる。
紅蓮舞姫によって貫かれたモノセロスは、満身創痍であったこともあり、そのまま成す術無くHPを散らしたのだった。
とりあえず、何とかなったことに息を吐き出し――何のインフォメーションもないことに目を見開く。
まさか、たった一体だったとはいえ、これほど格上の魔物を相手にしてレベルが上がらなかったのか?
「お疲れ様です、クオン殿。先ほどの攻撃は……毛色は違いますが、ドラゴンのブレスですかな?」
「あ、ああ……シリウスのスキルの中で該当しそうなのはそれでしょうね」
「成程、ありがとうございます。やはり、属性によってブレスの種類は違うということか……」
ぶつぶつと呟きながら考察に耽る教授は置いておいて、戦闘を終えたシリウスの様子を確認する。
返り血に塗れてはいるが、それらは鱗を滑り落ちて流れて行っている。
上手いこと立ち回ったおかげか、反撃らしい反撃も受けておらず、ダメージは皆無である様子だ。
ひとまずはそのことに安堵しつつ、今回の戦闘からシリウスの性質について考察する。
「まだ力不足であることは否めないが……やはり、ポテンシャルはかなりのものだな」
基本的な攻撃スキルである《爪》、《牙》、《突進》などはそのままだから考慮から外す。
興味深いのは《斬鱗》だ。これは鱗に触れた相手にダメージを与える性質があるようだが、この効果が適用された箇所の防御力が減少していたようにも思える。
これが無ければ、鋭いシリウスの爪でもモノセロスの皮膚を貫くことはできなかっただろう。
そして、極めつきは《ブレス》だ。口から吐き出した、衝撃波のような一撃。
射程、速度共に十分な性能を持っており、また威力もかなり高い。
だが、かなりのMPを消費してしまうようで、今の一撃でMPが半分にまで減少している。
まだMP回復の促進を行うようなスキルは持っていないし、これはいざという時の切り札として考えておくべきだろう。
まあ、もうちょっと成長すれば余裕も出てくるのかもしれないが。
「……とりあえず、もう一戦行くか。流石に次でレベルは上がってくれよ?」
「グァゥ?」
言葉の意味を理解できていないのか、シリウスはどこかコミカルに首を傾げる。
その様子に苦笑しつつ、俺は再び上空へと合図を送ったのだった。





