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338:作業開始












 俺たち、『キャメロット』、『エレノア商会』、『MT探索会』――全ての予定をすり合わせた翌日。

 俺は、予定していた時間ピッタリにゲームへとログインした。

 行動の方針については、全て前日の内に相談済みだ。彼らはその達成のため、俺たちがログインする前から準備を進めてくれているのである。

 アルトリウスからの要請であるとはいえ、かなり世話になってしまっていることに変わりはない。

 正直な所、《強化魔法》系統の使い手を募って対処した方が楽だとは思うのだが、流石に身内以外にこの作業をやらせるのは抵抗がある。

 『我剣神通』の連中もいるが、あいつらは強行軍をしたためにレベル自体はそれほど高くはなく、MPも足りていない状況だ。今回の作業を行うには不向きだろう。



「時間通りですね。待ってましたよ、クオン殿」

「どうも、教授。準備の方は?」

「万全です。いつでも始められますよ」

「ありがたい。それじゃあ、早速始めるとしましょうかね」



 八時間のログインの間、二時間に一度、五分程度の休憩を取る予定ではある。

 要するに現実世界でのトイレ休憩だ。ゲーム内では十五分だが、この間は緋真に作業を交代して貰う予定である。

 つまり、ゲームの中で二十四時間ぶっ続けで作業をするわけではなく、孵化の予定時刻になってもしばらくの間は時間の余裕があるのだが、それでも悠長にしていられるわけではない。さっさと作業を始めることとしよう。


 俺の姿を確認した各クランの面々は、周囲に散らばっているメンバーたちへと作業の開始連絡を送っている。

 その姿を眺めながら、俺はインベントリより真龍の卵と、昨日受け取ったバックパックを取り出した。

 バックパックに入れたままではインベントリに突っ込めなかったのだが――まあ、それは仕方のない話か。



「さて……これだけ手間をかけるんだ、しっかり育てよ?」



 真龍の卵を手に取って掲げると、その上にウィンドウが表示される。

 ここで、何の魔法で魔力を注ぐのかを選択することができるのだ。

 俺の場合は当然《昇華魔法》と《降霊魔法》であるが、どうやら《降霊魔法》は選択できないらしい。

 まあ、こちらは特殊過ぎる魔法であるし、それも仕方のないことではあるが。

 そもそも、俺以外にはこの場にいる誰もが持っていない可能性が高いし、やるのは中々面倒だ。



(……そういう意味では、《月魔法》だったらどんなドラゴンが生まれるのかね?)



 あまりにも長時間の予定となるため、今はまだログインしてきていないアリスの姿を思い浮かべながら、俺は胸中でそう呟く。

 《降霊魔法》以上に、他のプレイヤーが持っている可能性の低い《月魔法》。

 それを使ってドラゴンを育てるのはあまりにも大変だろうが、どのようなドラゴンが生まれるのかには興味がある。

 とはいえ、今はどうしようもないため、忘れておくしかないだろう。

 小さく息を吐き出し――俺は、卵に対する魔力の注入を開始した。



「む……」



 急激に、というほどではないのだが、やはり目に見えてMPが減少し始める。

 《魔力操作》を持っているおかげか、注入する量は上下させられるようであり、俺は躊躇うことなく最大量まで増やしつつ卵をバックパックに放り込んだ。

 直接手に持っていなくても、これだけ近くにあれば魔力を注ぐことは可能である。

 卵の具合を確認しつつ、減りつつあるMPをポーションで回復しながら聖火のランタンの効果範囲外へと足を踏み出す。

 そんな俺の姿を確認し、『MT探索会』と思わしきプレイヤーが大きく声を上げた。



「準備できたぞ! 一匹目、寄せてくれ!」



 そう言いつつ、複数のプレイヤーが引き摺ってきたのは、魔法で眠らされていると思わしき牛の魔物――モノセロスであった。

 俺の前に引っ張り出されたモノセロスへ、遠くから状態異常回復の魔法が放たれ、何事も無かったかのように目を覚ます。

 また何とも妙な手段を取ったものだと思わず感心しつつ、俺は戦闘準備を整えた。



「【ミスリルエッジ】、【ミスリルスキン】、【武具精霊召喚】、【エンハンス】、《剣氣収斂》」



 MPが目的であるとはいえ、折角魔物と戦うのだ、スキルを育成しなければ勿体ない。

 普段戦闘に使っているスキルを発動しつつ目を覚ましたモノセロスの前に出れば、状況を把握したモノセロスは興奮した様子で蹄を打ち鳴らし始めた。

 直後、その額から生える角が白く輝き始め――眩い光の槍が、俺へと向けて撃ち放たれた。



「――《蒐魂剣》」



 無論のこと、その攻撃は俺にとって望む所である。

 迫る光の槍を正確に斬り払い、その魔力を吸収してMPを回復させる。

 が、先程魔法を使ったため、回復量は足りていない。魔法を使いまくってくれればいいが――ここは積極的に魔力を奪っておくこととしよう。


 歩法――縮地。



「《蒐魂剣》、【奪魂斬】」



 モノセロスがこちらを捉え切れていない内に、テクニックを発動した刃でその胴を斬りつける。

 与えたダメージに応じてMPを吸収するこのテクニックは、正直よほどの緊急時以外には使う場面のないものだ。

 俺にはMPの自動回復があるし、大幅に回復するのであればポーションを使えば済む。

 【奪魂斬】はあくまでも、ポーションを使う暇がないような急場を凌ぐための手段でしかない。



「ブモォッ!」

「っと」



 斬りつけられたモノセロスは身震いをし、振るった頭で頭突きを仕掛けてくる。

 鋭い角に刺されればダメージを免れないだろうが、俺はそれを受け流すことなく、大きく後退することで回避した。

 二度、三度と跳躍することで距離を開き、物理攻撃を狙ってくる範囲から離れる。

 当然、魔法以外の遠距離攻撃を持たないモノセロスは、再び光の魔法による攻撃を繰り出してきた。

 今度は、複数の光の槍を放ってくる。本来ならば最低限斬り払って何とかするところだが、今回は回避するのも勿体ない。



「《蒐魂剣》、【護法壁】」



 魔力を吸収する障壁を発生させ、全ての魔法を吸収する。

 複数の光の槍を吸収したおかげで、MPはそれなりに回復できた。

 《降霊魔法》のお陰で相変わらずMPの上限が制限されてしまっているが、卵に魔力を注ぐには十分なようだ。

 モノセロスは魔法が通じないと見ると距離を詰めてこようとするが、ここはこちらから距離を開けて接近戦での交戦を回避する。

 普段であればまずやらないような行動なのだが、今回はあくまでも真龍の卵を孵すことが目的だ。

 遊びを交えるにも、もう少し慣れてからの方がいいだろう。



「《蒐魂剣》」



 再び飛んできた光の槍を斬り、MPを回復させる。

 真龍の卵は常にMPを吸収し続けているため、どれだけ回復したとしても無駄になることはない。

 だが、相手もこちらに魔法が効かないことを把握し始めているのか、魔法を撃つこともあまり積極的ではなくなってきた。

 この辺り、魔物にまで高度なAIを積んでいることの弊害だと言えるだろう。

 ともあれ――積極的に仕掛けてこないのであれば、こちらから吸収しに行くしか道はない。



「戦闘の運び方は考えなきゃならんな、これは」



 歩法――烈震。


 小さく嘆息しつつ、モノセロスへと一気に接近する。

 これまで積極的に動いていなかった俺が近付いてきたためか、モノセロスは一瞬困惑したように動きを止めた。

 そして、その隙を見逃す筈もなく、俺は一気に刃を突き出す。



「《蒐魂剣》、【奪魂斬】」



 斬法――剛の型、輪旋。


 青い燐光を纏った餓狼丸は、大きく弧を描いてモノセロスへと叩き付けられる。

 ディーンクラッドを目標としてひたすら鍛え続けていた俺にとっては、この辺りの魔物は既に格落ちだ。

 《練命剣》を使っていなかったとしても、他のスキルと魔法による強化のみで十分にダメージを与えられる。



「ムオオオッ!」

「よっと……おーい、そっちでこいつのMP残量とかを確認できたりしないか!」



 再び魔力を吸収し、反撃の角と体当たりを回避しつつ、俺は陣地にいるメンバーへと問いかける。

 残りのMPの量に応じて、どのように対処するかを決めたい所なのだ。

 流石に、もうMPが無くなったモノセロスを相手に魔法を待ち構えても意味が無いからな。

 とはいえ、そういったスキルがあるのかどうかは俺もよく知らない。

 もしも無いのであれば、何となく気配で察して対処しなければならないのだが――どうやら、俺の目論見は当たったらしい。



「そいつのMPは今半分ぐらいですよー!」

「成程、助かった! 尽きそうだったら教えてくれ!」



 モノセロスのMP残量を見抜いたのは《看破》か、或いは《鑑定》か。

 何にせよ、あとどれぐらいでMPが尽きるのかを確認できるのはありがたい。

 ここは――



「あんまり逃げ回るだけでも退屈でな、攻めながら行くとするか」



 感覚上、【奪魂斬】のクールタイムを待ちながらでもMPが尽きることが無いのは分かった。

 であれば、相手の魔法を待つよりは張り付いて戦いながら【奪魂斬】を狙って行った方がこちらも退屈しない。

 まあ、これでMPを吸いきる前に倒してしまっても勿体ないが――そこは相手のHPを見て調整していくこととしよう。



「まだまだ先は長いんだ。娯楽も交えて、乗り切るとしよう」



 笑みを浮かべて、モノセロスの攻撃を躱す。

 とりあえずは、コイツのMPを吸収しきってしまうとするか。











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