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336:竜鱗を裂く











「グルアアアアアッ!」



 全身を岩で覆われたかのような、巨大なドラゴン。

 頑強な鱗と甲殻は、まともな攻撃は通らないだろう。

 まあ、そのおかげで体重が重いのか、翼でもあまり素早く飛べそうな気配はないが。



「とはいえ、このフィールドでは飛ぶもクソもないか」



 石柱で区切られたボスエリアは、この巨体が飛び回るには少々狭い。

 飛行についてはあまり気にしすぎる必要もないだろう。

 それよりも、この頑強な体を使った近接戦に注意を払うべきだ。

 グランドドラゴンは、その巨大な牙で噛み砕こうと大口を開け、こちらへと迫ってくる。

 中々の圧迫感であるが、動きは直線的だ。体がでかいため気を付ける必要はあるが、回避はそれほど難しくはないだろう。


 歩法――陽炎。


 ギリギリまで引きつけてから一気に加速し、グランドドラゴンの噛みつきを躱す。

 それと共にドラゴンの首元へと肉薄した俺は、その首へと向けて刃を振り下ろした。



「『生奪』!」



 俺の振るった一閃はグランドドラゴンの首へと突き刺さり、その鱗を裂いてドラゴンの肉へと傷をつける。

 このドラゴンは確かに頑強だ。今の一閃でも、致命傷を与えることはできなかった。

 逆に言えば、今の俺たちの攻撃力でも、十分通じる程度の防御力であるということだ。


 ディーンクラッドとの戦いで強制解放リミットブレイクを使った俺たちは、当然ながら成長武器の成長段階が一段下がってしまった。

 しかしながら、ディーンクラッドを倒しただけで、その段階の経験値は貯まり切ってしまったのだ。

 素材自体は集まっているので、ディーンクラッドと戦う前の状態まで戻すことはできたが、俺たちはそこからまだ殆ど戦闘を行っていない。

 つまるところ、今は成長武器に経験値があまり貯まっていないのだ。そのため、現状では成長武器の解放を行うことができないのである。

 とはいえ――



「ふッ!」

「はあああああっ!」



 頭をハンマーのように振るってきた一撃を回避しつつ反撃を加え、更に反対側から緋真が刃を振るう。

 そのどちらも、グランドドラゴンには確かなダメージを与えていた。

 甲殻を避け、鱗のみがある場所を狙っているとはいえ、これほど防御に秀でたドラゴンに対して普通に攻撃が通じているのは意外なものだ。

 これは偏に、ディーンクラッドとの戦いに向けてひたすら攻撃力を高めてきた結果だろう。

 このドラゴンの強固な外殻も、ディーンクラッドの防御力と比較すればそれほど大したものでもない。

 無論、だからと言って決して油断できる相手ではないのだが。



「グガアアアアッ!」

「――『生魔』!」

「っ、《蒐魂剣》!」



 唸り声と共に、グランドドラゴンが地に足を叩き付ける。

 瞬間、奴の周囲に向けて放射状に、隆起するように岩の棘が発生した。

 物理的に見えるが、これも魔法による作用だ。であれば、《蒐魂剣》で斬り裂けることは道理。

 俺に襲い掛かってきた岩は斬り裂かれて消滅し、それが消えた隙間へと向けてすぐさま足を踏み出す。

 緋真の方は完全に消し去るには至らなかったようだが、それでもダメージは受けていないらしい。



「クアアアアアッ!」

「せぇいッ!」



 そんな岩の魔法の影響を受けなかった上空のルミナたちは、真上からグランドドラゴンへと向けて飛び込んでゆく。

 セイランの一撃を背中の中心に受け、地面に沈み込むように陥没しつつも耐えたグランドドラゴンは、しかし飛来したルミナの振るう薙刀によって頭を地面まで叩き付けられた。

 その首へと向けて、赤い影が身軽に飛び降りる。



「あんまり時間をかけても仕方ないし、早めに落ちてくれないかしらね?」

「ゴガッ!?」



 防御力を無視したアリスの刃は、グランドドラゴンの防御力をものともせずに突き立てられる。

 そして即座に刃を引き抜いた彼女は、次いで赤いエフェクトを纏う刃をその傷口へと振り下ろした。

 《肉抉》の効果によって弱点属性を付与された首――あそこに最大の一撃を当てるべく、行動を開始する。



「ガアアアアアアアアアアアッ!」



 対し、グランドドラゴンは大きく身を震わせて、背中からアリスたちを振り落とした。

 とはいえ、ルミナとセイランはそのまま空へと舞い上がり、アリスはすぐさま姿を消すだけであったが。

 グランドドラゴンは首を回し、自らに攻撃を当てた者たちへと怒りの視線を向ける。

 そして、大きく息を吸い――その口腔内へと、凄まじい魔力が収束した。



「っ、避けろ!」

「――――ッ!!」



 俺の声と共に、ルミナたちは翼を羽ばたかせてそれぞれ別の方向へと退避する。

 その瞬間、二人がいた場所を、グランドドラゴンの口より放たれたブレスが薙ぎ払っていた。

 イメージにあるような炎のブレスではなく、砂利や小石の混じる砂嵐のブレスだ。

 飲み込まれれば体を削り取られてしまうであろうことは想像に難くない。

 どうやら、ドラゴンのブレスは火と決まっているわけではなく、そのドラゴンの属性によって性質が変化するものであるらしい。



「だが……!」



 ブレスを放っている状況では、どうやら移動することはできないようだ。

 首を動かしてルミナたちを狙ってはいるものの、その場で釘づけにされていることに変わりはない。

 であれば――



「《練命剣》、【煌命閃】」



 餓狼丸の刃へと、全力で生命力を注ぎ込む。

 眩い黄金に輝き始める刃を手に前へと出れば、その気配を感じ取ったのか、グランドドラゴンは僅かに身を硬直させた。

 しかし、ブレスを吐いたままでは素早く動けないのか、俺を捉えようとする動きは緩慢だ。

 それを尻目にドラゴンの体を駆け上がった俺は、射程圏内に弱点部位を捉え、ドラゴンの肩を足場に強く踏み込んだ。


 斬法――剛の型、白輝。


 眩い輝きと共に、空間に軌跡が描かれる。

 直後、生命力の刃は確かな威力を発揮し、グランドドラゴンの首に深い太刀傷を残すこととなった。



「ガッ、アァ……!?」



 流石にこのダメージは堪えたのか、グランドドラゴンは身を震わせて硬直する。

 怯んでいるその状況を、見逃すことなどあり得ない。



「《奪命剣》、【冥哮閃】」



 ついで、刃に纏わり付くのは漆黒の闇。【煌命閃】と対を成す、《奪命剣》のテクニックだ。

 流石に、大量のHPを消費した状態でもう一度《練命剣》のテクニックを放つのは難しい。

 ここで大きくHPを回復しておきたい所だ。

 だが、このテクニックは溜めに若干の時間を要する。その間にグランドドラゴンに復帰されては困るのだが――



「《術理装填》! 《スペルエンハンス》【フレイムトルネード】!」



 ドラゴンが復帰するよりも早く、緋真が飛び込んできた。

 紅蓮舞姫に纏わせているのは、《火炎魔法》のレベル30で習得した【フレイムトルネード】だ。

 炎の中に敵を閉じ込め、持続的にダメージを与える魔法であるが、こちらからは攻撃がしづらくなるため足止めとしての用途の方が便利な呪文である。

 しかし、これを《術理装填》に使用するとまた違った性質を得られるのだ。

 これまでの装填と異なり、この呪文の場合は効果時間が非常に長いのである。



「はあああああッ!」

「ガアアアッ!?」



 俺の付けた傷を狙い放たれる、緋真の刃。

 炎を纏うその一閃はさらに深く傷を抉り、巨大な首に確かな傷を残す。

 だが、それでもグランドドラゴンは倒れない。亜竜とはいえ、ドラゴンの端くれ。

 例え真龍に及ばずとも、その生命力は凄まじいものだ。

 だが――



「しッ!」



 斬法――剛の型、白輝・逆巻。


 先ほどの一撃を逆側からなぞるように、漆黒の一閃が駆け登る。

 《練命剣》に比べればどうしても威力は落ちるが、通常の《奪命剣》よりは遥かに威力が高い。

 その一撃は、俺と緋真の一撃によって大きくダメージを受けていた首へ、正確に三度目の傷を刻んだ。

 大きくHPを回復し、ドラゴンの巨体から跳び下りる。

 これで、もう一度《練命剣》を使うには十分なHPを稼げただろう。



「ゴ、ガ……ァァアアアアアアッ!」



 首の傷は既に致命傷に近く――しかしながら、グランドドラゴンはそれでも怯むことなくこちらへと襲い掛かる。

 こちらへと向かって腕を振るいながら、後方の緋真へは尻尾を使った薙ぎ払い。

 それらの攻撃を、俺は後方へ、緋真は上へと跳躍することで回避した。

 だが、俺たちが着地するよりも早く、グランドドラゴンの魔法が襲い掛かる。

 それぞれへと向けて放たれるのは岩の砲弾だ。巨大な岩塊が直撃すれば、大きなダメージは逃れられないだろう。



「《蒐魂剣》!」

「《蒐魂剣》、【因果応報】!」



 それに対し、緋真は刃を合わせ――斬り裂くことはできたが、威力を殺し切れずに上空へと舞い上がる。

 だが、死んではいない。貫通ダメージは受けているが、それでも到底致命傷には届くまい。

 そしてこちらは完全に斬り裂き、その威力を吸収しながら前へと踏み出した。


 歩法――烈震。



「《練命剣》、【命輝閃】!」



 直後、上空から降り注いだ光がグランドドラゴンの頭に直撃し、その動きを止める。

 上空まで舞い上げられた緋真は包み込んだ風によって体勢を立て直し、そのまま首へと向けて飛び降りて――



「これで――」

「――終わりです!」



 ――黄金と真紅、刃に宿る二つの軌跡が、竜の首を挟み込むように切断したのだった。











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