332:行き先は未だ遠く
ぐらりと、ディーンクラッドの体が傾ぐ。
これまでひたすらに戦い続けてきたこの悪魔も、今回ばかりは終わりだろう。
俺が放った一撃により、ディーンクラッドの胸には大穴が開いている。
致命傷どころか、即死してしかるべき傷だ。しかし、致命傷を負って仰向けに倒れて尚、ディーンクラッドはただ楽しそうに笑みを浮かべていた。
「は、ははは……! 何だ、今のは……見えなかった。気づいたら、君の剣に貫かれていたよ」
「そりゃそうだ……そうでなけりゃ困る」
餓狼丸の刃は、既に普段の白刃へと戻っている。
片膝をつき荒い息を吐き出した俺は、その刀身を横目に見ながら、倒れ伏すディーンクラッドを睨み据えた。
斬法、剛の型が奥伝……甕星・天穿。久遠神通流に伝わる秘奥の一つだ。
正眼の構えから、最小最速の動作で繰り出す刺突は、相手が攻撃を行った後から繰り出し、先に相手を穿つことを可能とする。
後の先を狙うこの一撃は、回避不可能な魔剣とすら称された。
――しかし、それは本来の奥伝、甕星の話だ。
「甕星・天穿は俺とジジイにしか扱えない大業だ。どうせ知ってるんだろう」
「ああ……もう一人の英雄、君の師か。君たちにしか使えぬ業に敗れるというなら、それも悪くない……心から称賛しよう、久遠神通流のクオン。君の勝利だ」
「俺たちの、だ。間違えるな」
「……ああ、そうだったね」
甕星・天穿とは、奥伝の甕星に風林火山の術理を組み合わせた一撃だ。
白影での意識加速、寂静での意識潜航、鬼哭での身体強化、不動での衝撃吸収――これらを組み合わせることにより、更なる速さを突き詰めた一撃こそが甕星・天穿なのである。
つまり、風林火山全ての術理を使えなければならず、久遠神通流合戦礼法の全てを修めた者に道が開かれる、最後の奥伝に当たるものだ。
これは確実に相手を殺すための業であるため、修練においては使用したことは無かった。
故に、門下生たちも誰一人として、これを見たことがある者はいなかっただろう。
「嗚呼、本当に……人間は素晴らしい。どれほど高い壁があろうとも、必ずそれを乗り越える存在が現れる。この地の戦いに参加して、君と戦うことができて、本当に良かった」
「チッ……だから俺は、テメェらが嫌いなんだ」
人間というものの価値を謳いながら、本当に気に入ったもの以外を見ていない。
今回の戦いでも、俺たちにはある程度視線を向けていたが、それ以外のプレイヤーは一切気にすることは無かった。
そして、俺たちと戦うことばかりを気にかけて、一般人を殺すことを作業程度にしか考えていなかった。
《払暁の光》のクソ共と同じ、唾棄すべき性質だ。
俺は震える体に喝を入れて立ち上がり、地面に突き刺していた餓狼丸を抜き放つ。
「価値があるのは俺たちのような人間じゃない。護り、育む人々だ。それらを足蹴にしてきたテメェが、人間の価値を語るな」
「僕は君のような、前に歩み続けた人間にこそ価値があると信じる。残念ながら……君とは、その点についてわかり合うことはできないようだ」
「ああ、俺も、テメェらの考えなんぞ理解したくもない」
永遠の平行線だ。俺はMALICE共の考え方を一切許容しない。
こいつらは唾棄すべき邪悪、滅ぼすべき害悪だ。故に殺意を込め、俺は最後の刃を振り上げる。
「さらばだ、ディーンクラッド。テメェは地獄で、悪魔共が駆逐される様を眺めていろ」
「ああ……君の活躍を、心より期待しているよ」
ディーンクラッドは晴れやかな笑みを浮かべ――その顔面に叩き付けるように、俺の一閃はディーンクラッドの首を斬り飛ばした。
その瞬間、ディーンクラッドの体は塵となって消滅する。
舞い散る黒い塵は空気に溶けて消え去り、俺は深く息を吐き出して――刹那、強い鳴動が響き渡った。
「ッ、何だ!?」
崩れそうになる体を何とか支えながら、俺は周囲へと視線を走らせる。
異常は、すぐさま発見できた。この場所から見れば遥か北――恐らく、北の都市よりも更に向こう側。
その先に天を衝くほどに高い、赤黒い魔法障壁が発生していたのだ。
明らかに異常な状況に、生き残ったプレイヤーたちがざわめいているのを感じる。
そんな俺たちに答えるかのように、天より声が響き渡った。
『――見事だった、異邦人の諸君』
「……!」
出どころの知れない、女の声。
インフォメーションのようでもあるが、これまでに聞こえていた音声とは明らかに違う。
無機質ではない、粘つくような感情を感じる声だ。
『私の名はマレウス――悪魔たちの王』
「ッ、マレウス・チェンバレン……!?」
魔王、悪魔たちの支配者――即ち、この世界におけるMALICEを操る者。
その存在がいることは悪魔共にも示唆されていたが、まさかそれがマレウス自身であるとは露ほども思っていなかった。
理屈としては分からなくはない。ウチの一族や逢ヶ崎竜一郎のように、自身をAI化させることで箱庭計画のサーバ内に潜んでいたのだろう。
MALICEの動きについても、マレウス自身が制御していたと考えた方が納得できる点も多い。
だが何にせよ、倒すべき敵ははっきりした。マレウス・チェンバレン――奴自身を討つ。それですべてのMALICEが止まるのかどうかは知らないが、確実に殺さねばならない敵だ。
『君たちは見事に、我らの侵攻を防いで見せた。公爵級までもを打ち倒すのは、流石に予想外だったよ』
淡々と、しかしどこか喜色を滲ませたその声。
どうやら、この女もやはりディーンクラッドと同じ――否、ディーンクラッドがこの女と同じ思考をしていたのだろう。
人間の価値を勝手に定め、それを他者に押し付ける在り方。ああ、本当に気に入らない。
『我々の侵攻は一段落した。現状、攻撃を仕掛けている国は存在しない。故に、私はここに休戦協定を提案する』
提案、と言ってはいるが、そもそもこちらの意見など聞いている様子はない。
ただ一方的な宣告と何ら変わらないものでしかないようだ。
だが、休戦協定というのであれば、俺たちにとっても決して都合の悪いものではない。
ここまで崩壊したアドミス聖王国の国力を立て直すには、ある程度の時間が必要になるのだ。
この状況で再び悪魔に攻められれば、護り切ることは至難の業となってしまう。
一度、体勢を立て直すための時間は必要だろう。
『この世界の基準で三か月の間、我らが支配した領域に足を踏み入れることはできない。同時に、我らも君たちの領土に足を踏み入れることはできない』
「……相互不可侵の休戦協定か」
『戦いを再開するのは、その後としよう。君たちの戦いを間近で見られる機会を、私はとても楽しみにしている』
思わず、舌打ちを零す。
マレウスにとって、俺たちの戦いは娯楽に過ぎないのだろう。
――必ず吠え面をかかせてやる。その決意と共に、俺は空を睨み据えた。
それが見えているのかどうかは知らないが、マレウスの声は僅かな笑みを零す。
『――では、さらばだ。三か月後、また会うとしよう』
一方的に言葉を告げて、マレウスの声は消える。
北方に見える赤黒い壁は消えることは無いようだが、あれが消えるまでは悪魔からの攻撃は無いということだろう。
とりあえず、これで一段落かと、深く息を吐き出し――
『ワールドクエスト《人よ、祈りと共に輝きを示せ》を達成しました』
『グランドクエスト《人魔大戦》が進行し、準備段階に入りました』
『イベント中の戦闘経験をステータスに反映します』
『イベント報酬アイテムを各プレイヤーのインベントリに格納します』
『イベント成績集計中です。ポイント交換は後日実施可能です』
『レベルが上がりました。ステータスポイントを割り振ってください』
『《刀術》のスキルレベルが上昇しました』
『《格闘術》のスキルレベルが上昇しました』
『《昇華魔法》のスキルレベルが上昇しました』
『《降霊魔法》のスキルレベルが上昇しました』
『《死点撃ち》のスキルレベルが上昇しました』
『《MP自動大回復》のスキルレベルが上昇しました』
『《奪命剣》のスキルレベルが上昇しました』
『《練命剣》のスキルレベルが上昇しました』
『《蒐魂剣》のスキルレベルが上昇しました』
『《テイム》のスキルレベルが上昇しました』
『《HP自動大回復》のスキルレベルが上昇しました』
『《生命力操作》のスキルレベルが上昇しました』
『《魔力操作》のスキルレベルが上昇しました』
『《魔技共演》のスキルレベルが上昇しました』
『《エンゲージ》のスキルレベルが上昇しました』
『《回復適性》のスキルレベルが上昇しました』
『《高位戦闘技能》のスキルレベルが上昇しました』
『《剣氣収斂》のスキルレベルが上昇しました』
『《救国の英雄》の称号を取得しました』
『テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』
『テイムモンスター《セイラン》のレベルが上昇しました』
立て続けに響いたインフォメーションに、苦笑を零す。
どうやら、これで本当に、今回の戦いは終わりとなったようだ。
安堵の吐息を吐き出して、俺はその場に仰向けに倒れる。
そして駆け寄ってくる緋真やルミナたちの気配を感じ取りながら、ようやく餓狼丸を握る手を緩めたのだった。
■アバター名:クオン
■性別:男
■種族:人間族
■レベル:69
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:45
VIT:32
INT:45
MND:32
AGI:21
DEX:21
■スキル
ウェポンスキル:《刀術:Lv.40》
《格闘術:Lv.10》
マジックスキル:《昇華魔法:Lv.4》
《降霊魔法:Lv.31》
セットスキル:《死点撃ち:Lv.45》
《MP自動大回復:Lv.21》
《奪命剣:Lv.33》
《練命剣:Lv.34》
《蒐魂剣:Lv.33》
《テイム:Lv.48》
《HP自動大回復:Lv.21》
《生命力操作:Lv.51》
《魔力操作:Lv.51》
《魔技共演:Lv.33》
《エンゲージ:Lv.14》
《回復適性:Lv.45》
《高位戦闘技能:Lv.10》
《剣氣収斂:Lv.23》
《聖女の祝福》
サブスキル:《採掘:Lv.15》
《識別:Lv.33》
称号スキル:《剣鬼羅刹》
■現在SP:48
■アバター名:緋真
■性別:女
■種族:人間族
■レベル:69
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:47
VIT:30
INT:41
MND:30
AGI:24
DEX:24
■スキル
ウェポンスキル:《刀術:Lv.40》
《格闘術:Lv.24》
マジックスキル:《火炎魔法:Lv.32》
《強化魔法:Lv.37》
セットスキル:《練闘気:Lv.25》
《スペルエンハンス:Lv.22》
《火属性大強化:Lv.20》
《回復適性:Lv.45》
《炎身:Lv.2》
《死点撃ち:Lv.44》
《高位戦闘技能:Lv.23》
《立体走法:Lv.23》
《術理装填:Lv.42》
《MP自動大回復:Lv.15》
《多重詠唱:Lv.13》
《蒐魂剣:Lv.3》
《魔力操作:Lv.34》
《遅延魔法:Lv.29》
《聖女の祝福》
サブスキル:《採取:Lv.7》
《採掘:Lv.15》
《識別:Lv.42》
称号スキル:《緋の剣姫》
■現在SP:49
■モンスター名:ルミナ
■性別:メス
■種族:ヴァルハラリッター
■レベル:17
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:50
VIT:26
INT:56
MND:26
AGI:34
DEX:26
■スキル
ウェポンスキル:《刀術》
《槍》
マジックスキル:《閃光魔法》
《旋風魔法》
スキル:《光属性大強化》
《戦乙女の戦翼》
《魔法抵抗:大》
《物理抵抗:大》
《MP自動大回復》
《高位魔法陣》
《ブーストアクセル》
《空歩》
《風属性大強化》
《HP自動大回復》
《光輝の鎧》
《戦乙女の加護》
《半神》
《精霊の囁き》
称号スキル:《精霊王の眷属》
■モンスター名:セイラン
■性別:オス
■種族:ストームグリフォン
■レベル:17
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:63
VIT:40
INT:40
MND:28
AGI:50
DEX:25
■スキル
ウェポンスキル:なし
マジックスキル:《嵐魔法》
《旋風魔法》
スキル:《風属性大強化》
《天駆》
《騎乗》
《物理抵抗:大》
《痛撃》
《剛爪撃》
《威圧》
《騎乗者大強化》
《空歩》
《マルチターゲット》
《雷鳴魔法》
《雷属性大強化》
《魔法抵抗:大》
《空中機動》
《嵐属性大強化》
《突撃》
称号スキル:《嵐王の系譜》
■アバター名:アリシェラ
■性別:女
■種族:魔人族
■レベル:69
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:32
VIT:20
INT:32
MND:20
AGI:50
DEX:50
■スキル
ウェポンスキル:《暗剣術:Lv.40》
《短弓術:Lv.7》
マジックスキル:《暗黒魔法:Lv.23》
《月魔法:Lv.7》
セットスキル:《死点撃ち:Lv.44》
《隠密行動:Lv.27》
《上位毒耐性:Lv.7》
《アサシネイト:Lv.24》
《回復適性:Lv.40》
《闇属性大強化:Lv.23》
《スティンガー:Lv.25》
《ベノムエッジ:Lv.20》
《無影発動:Lv.10》
《聖女の祝福》
《曲芸:Lv.26》
《投擲術:Lv.15》
《肉抉:Lv.5》
《ミアズマウェポン:Lv.22》
《立体走法:Lv.10》
サブスキル:《採取:Lv.23》
《調薬:Lv.26》
《偽装:Lv.27》
《閃光魔法:Lv.1》
《看破:Lv.43》
称号スキル:《天月狼の導き》
■現在SP:38





