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033:伯爵家への疑念












 エルザから借りたロープで男たちをまとめて縛り上げ、部屋の中央に置いて監視する。

 まあ、うちの流派でごく稀に利用される捕縄術を使っているため、よほど縄抜けの心得がある奴でもなければ抜け出せないのだが。

 ちなみにこの技、あえて抜け出せる隙を残している技法で、縄抜けするには足関節をいくつか外さなければならない。

 要するに、体にダメージを与えた上で逃がし、その後を追って隠された敵陣を一網打尽にすることを狙うという中々合理的な業である。



「この人たち、なんで中央に固めたんですか?」

「見張るためにな。こいつらは重要参考人だ。相手の出方にもよるが、色々な意味で目が離せない」



 あの連中の対応から察するに、伯爵令息とやらがこいつらの救出に動く可能性は低く見積もっていいだろう。

 だが、伯爵とやらがどう動くかは現状では予想がつかない。

 救出か、或いは処分か。何にせよ、今の状況を放置することは伯爵家にとっての打撃となる以上、何らかの手を打ってくる可能性は高い。

 面倒だが、騎士団に引き渡すまでこいつらを守ってやらねばならないのだ。


 リノはすでに騎士団に向かって移動している。

 最悪途中で襲撃を受け、死に戻ることになったとしても、復活地点はこの街の石碑だ。

 ここから移動するよりはむしろ移動距離が短くなることだろう。

 この王都で異邦人が現れたのは、俺たちが初めてのはず。つまり、連中はまだそれほど異邦人に関する情報を持っていない。

 今の状況ならば、騎士団への連絡を完全に遮断されることはないだろう。

 とりあえず向こうは問題ないとして――



「この人たちを監視するのはいいんですけど……門はいいんですか?」

「構わんよ。監視対象が増えちまったし、少ない人数を更に分散するのは悪手でしかない。その代わり、手緩い手を使うのはここまでだ」



 現状、残っているメンバーはすべてこの部屋に集めてある。

 前回と同じリビングの中央だが、既にテーブルやらは邪魔にならないように壁際に寄せてある。

 窓は鍵を閉めた上でカーテンを引き、外から内部の様子が見えないようにしてある。

 これは他の部屋も同様だ。この状況で最も怖いのは予想外の方向からの奇襲であり、できるだけ相手にイニシアチブを握られないようにしたい。

 外から情報を手にする手段はいくつかあるだろうが、視認情報に頼れない状況は多少は有利に働いてくれることだろう。

 さて、俺の予想では、そろそろ何らかの動きがあるはずなのだが――



『おにーさん、来たよ。三人、軽装の盗賊っぽい感じ』

「――! よくやった、連中の侵入より先に部屋まで戻ってきてくれ」

『りょうかーい!』



 チャット越しに響いたくーの声に頷き、俺は既に抜き放っていた太刀を持ち上げる。

 室内ではあるが、そこそこに広い部屋だ。振るうのに苦労はしないだろう。

 俺が太刀を動かしたのを見て震え上がる私兵どもは放置し、俺はエルザの方に声をかけていた。



「リリーナの目は塞いでおいてやってくれ。今回は手加減をしている余裕はない」

「……承知いたしました」



 敵の実力がどの程度であろうとも、これほど護衛対象がいる状況では手加減などとは言っていられない。

 純粋に俺と相手のみの戦いであれば制圧することも可能だろうが、下手に生かして反撃を食らうことは避けねばならないのだ。

 故に、今回は殺す。余分な手出しなど許すつもりはない。静かに決意を固めた所で、屋根の上から周囲を監視していたくーが部屋の中まで戻ってきていた。



「帰還しました!」

「御苦労。次の任務はリリーナたちの護衛だ。流れ弾に気をつけろ」

「りょーかいでっす!」

「くーちゃーん? 私がリーダーだって忘れてない?」



 本当に素直な子供であるくーの様子に苦笑しながら、俺は目を細めて意識を集中する。

 鍛え上げ、研ぎ澄まされた五感。その全てを利用することで、より広い範囲の情報を己の中へと飲み込んでゆく。

 これもまた、久遠神通流が術理の一つ。ただしそれは、敵を打倒する業ではなく、己の肉体を制御する法。

 その術理によって、俺は確かに、こちらに近づいてくる三人の気配を掴み取っていた。

 ここまで広げた・・・のは久しぶりだが、ゲームの世界でも問題なく使えるようで何よりだ。



「素直に裏口から入ってきているな。カーテンを閉めていたから、こちらが警戒しているのを理解しているか」

「……あの、何でわかるんです?」

「気配だ」



 雲母水母の言葉に端的にそう返しつつ、俺は掴んだ気配の動向を探る。

 裏口の鍵をピッキングでこじ開けた侵入者は、そのままゆっくりと屋敷の中を移動してくる。

 探るような足取りだ。向こうはまだ、こちらの位置に気付いていないのだろう。

 これならばこちらから仕掛けることも可能だったかもしれないが、今更方針を転換するのも難しい。

 このまま素直に迎撃しておくべきだろう。



(実力はあるな。そこの私兵連中とは比べ物にならない……となれば、こいつらは伯爵とやらの子飼いか?)



 別勢力と言うことはあり得ないだろうが、それだけの手駒がいるなら最初から使っておくべきだ。

 今までそうしていなかったのは、恐らく伯爵令息に彼らを動かす権限が無かったからだろう。

 救出か、口封じか。後者だった場合はかなり面倒なことになるが、それは相手の出方次第だろう。

 気配がこの部屋に近づき――一度、動きが止まる。どうやら、向こうもこちらの気配に気づいたようだ。



「そろそろ来るぞ」

「っ、はい」



 雲母水母たちに告げて、俺は足音を立てずに気配の方へと移動する。

 どうやら、分かりやすく扉から入ってくるらしい。

 まあ、屋敷の中からでは他に入り口もないので、それも当然なのだが。

 太刀を霞の構えへ、かちゃりと鍵が開く音を聞きながら、俺はするりと前に出る。

 次の瞬間、扉は勢い良く蹴り開けられ――扉の前にいた男の眉間を、俺の突き出した切っ先が貫いていた。



「が、ぎ――?」

「まずは一人」



 男の死体を蹴り飛ばして太刀から引き抜き、俺は後ろへと跳躍する。

 出来ればこのまま廊下で戦いたい所ではあるのだが、小回りの利かない太刀では少々難しい。

 俺が太刀を構え直すのと同時、残る二人が部屋の中へと飛び込んでくる。

 仲間の死にも動揺した様子はない。相手に対する評価を一段階上げながら、俺は二方向に分かれた内、私兵たちの方へ向かった侵入者へと突撃していた。



「そっちは任せた!」

「了解です!」



 リリーナの方へ向かった相手は雲母水母たちに任せつつ、滑るように侵入者へと肉薄する。

 こちらの排除よりも私兵たちの方へ向かったことから、こいつらの狙いが暗殺であることは明白だ。

 一瞬で四人殺せる手段があるのかどうかは知らんが、近付けさせる訳にはいかない。

 接近した俺に対し、向こうも警戒はしていたのだろう、即座に反応してナイフを投擲してくる。

 刃が濡れているのは、恐らく毒だろう。中々殺意が高い対応に感心しながら、俺は太刀で受け流してナイフを地面に叩き落とす。

 構えをほとんど崩すこともなく対処されたことに驚いたのか、相手が僅かに目を見開いているのが見える。

 そこそこに技量はあるようだが、このタイミングで動きを止めるのは頂けないな。



「っ――《パリィ》!」



 短剣を構えて、侵入者はスキルを発動する。

 室内では回避系の効果が薄いからこその選択だろう。

 尤も――俺に対してそれは悪手でしかないのだが。


 斬法――剛の型、竹別。


 振り降ろされた刃は、ガードのために差し出された短剣に吸いつくように押しつけられる。

 受け流そうと短剣を動かしているが、無駄なことだ。

 円運動の垂直を捉えた時点で、この圧から逃れる術など存在しない。



「おおおッ!」

「が――ッ!?」



 短剣を上から押し切り、暗殺者の体へと刃を届かせる。

 袈裟掛けに斬り裂かれた男はたたらを踏み――返す刃にて、その首を断ち切られていた。

 確実に殺したことを確認し、俺はもう一人の方へと視線を移動させる。

 相手は雲母水母とくーによって足止めを受けている状態だ。リリーナたちの前には薊が立ちはだかっており、いつでも魔法を発動できるように準備している。

 状況は安定だろうが、相手は暗殺者。思わぬ手を用意していると考えるべきだ。


 歩法――烈震。


 足元で爆発したような音を立て、俺は暗殺者の方へと突撃する。

 その音に気を取られたのか、相手は僅かに硬直してこちらへと意識をずらしていた。

 相対しているのが俺の門下生たちであったなら、この一瞬であの男は仕留められているだろう。

 だが、素人の女子供にそこまで求めるのは酷というもの。俺はそのまま、男へと向かって刃の切っ先を突きだしていた。


 斬法――剛の型、穿牙。


 俺の体重を切っ先に乗せた突きは、男の防具を紙のように貫き、その体を貫通する。

 遠くにいた相手が一瞬で接近し、己を貫いたのだ。驚愕も一入だろう。

 背後が木材の壁であることは分かっているので、そのまま貫通して壁に縫い付け、太刀から手を離して小太刀を抜き放っていた。

 周囲には他に敵の気配はない、相手はこれで全てだろう。

 おかしな動きをしたらすぐさま首を裂けるように小太刀を突き付けながら、男へ対して殺気を放ちながら問う。



「伯爵家の者だな。何故口封じに動いた」

「…………」



 男は痛みに脂汗を掻きながらも沈黙を保っている。

 腹を貫かれている割には大した精神力だ。やはり、専門の訓練を受けた人間だと考えるべきだろう。

 しかし、そうなると対処が面倒臭い。何しろ、ここには拷問用の道具など用意していないのだ。

 仕方ないと嘆息し、俺は左手を相手の胸に当てながら声を上げた。



「これはフェイブ伯爵による指示だな?」

「……」



 反応はない。だが、これは予想できていた質問と言うことだろう。

 まあ、令息があの程度の人間しか使えない以上、訓練された暗殺者を動員できるのはまず間違いなく当主か、それに近い人間のみだ。

 この質問は、相手の心に余裕を――言いかえれば、隙を生ませるためのブラフ。

 本命は、この次に控えている質問だ。



「伯爵は悪魔との繋がりがあるな?」

「――!?」



 ピクリと、男の胸が震える。驚愕と緊張で、横隔膜や手足の筋に反応を示していたのだ。

 この質問は想像の域を超えない――と言うより最早妄想の領域にある仮説だったのだが、この反応は見逃せない。

 あの下っ端の使いっ走りすら口封じに殺そうとしたということは、伯爵にはそれだけ踏み込まれたくない事情がある可能性が高い。

 先ほど考えていた、何故伯爵令息がシュレイドの死を知っていたのかという疑問を含め、可能性の一つとして考えていたのだが――



「事実だとしたら、それは国への――いや、人類に対する裏切りだな」

「――……ッ」



 俺の言葉を聞き、暗殺者が僅かに顎を動かす。

 その動きに、俺は僅かに嘆息してその場から後退していた。

 含み針などの可能性も考えていたが、恐らくこれは違うだろう。

 俺が離れた直後、男は僅かに痙攣し――がくりと脱力して、動かなくなっていた。

 体重を貫通した太刀で支えていることになり、尋常ではない痛みが走るはずだが、それに対する反応はない。

 その様子に俺は嘆息して、突き刺さったままの刃を抜き取っていた。

 念のため脈も取ってみたが、結果は予想通り。やはり、今飲み込んだのは毒だったようだ。



「……厄介な。まさか、ここまで訓練を積んだ暗殺者を持っているとはな」

「く、クオンさん……その人、その……」

「ああ、自殺したよ。これを躊躇いなくやれる奴はそうそういないんだがな」



 嘆息して、男の死体をインベントリに押し込む。

 エルザは未だリリーナの両目を覆ったままだ。死体だけはさっさと片付けなければなるまい。

 残る二人分の死体も片づけ、とりあえずは問題ないことを確認して声を上げた。



「エルザ、もういいぞ」

「できれば血も片付けていただきたいのですが……」

「いくらなんでもそこまで万能じゃないっての」



 俺の返答に対してエルザは軽く肩を竦めると、リリーナの目を覆っていた両手を離していた。

 ようやく視界を取り戻したリリーナは、明るさに慣れるようにしばし目を瞬かせて――血痕が広がるリビングの光景に息を飲んでいた。

 不可抗力とはいえ、少々ショッキングだっただろう。



「こ、これ……」

「済まんな、あまり血が飛び散らない斬り方にすべきだったか」

「い、いえ。守って貰ったのだし、そこまで注文をつけるつもりはないわ」



 死体が無かったおかげか、リリーナの様子は幾分か冷静だった。

 まあ、女の身なのだから、血ぐらいは見慣れているということか。



「とりあえず、何とかなりましたけど……これからどうするんですか?」

「基本は待機だな。まあ――」



 雲母水母の疑問に対して、肩を竦めながら声を上げる。

 そのまま窓際まで移動し、少しだけカーテンを開いて外の様子をのぞき見る。

 こちらに視線が向いた様子もなし、とりあえず今は監視している人間はいないようだ。

 まあ、こちらよりも目立つ一団が門の前までやってきているから、こちらに気づかれなくても不思議ではないだろう。



「騎士団もやって来たことだし、退屈な待ち時間はなさそうだな」





















■アバター名:クオン

■性別:男

■種族:人間族ヒューマン

■レベル:13

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:16

VIT:14

INT:16

MND:14

AGI:12

DEX:12

■スキル

ウェポンスキル:《刀:Lv.13》

マジックスキル:《強化魔法:Lv.10》

セットスキル:《死点撃ち:Lv.11》

 《MP自動回復:Lv.6》

 《収奪の剣:Lv.8》

 《識別:Lv.10》

 《生命の剣:Lv.9》

 《斬魔の剣:Lv.4》

 《テイム:Lv.3》

 《HP自動回復:Lv.5》

サブスキル:《採掘:Lv.1》

称号スキル:《妖精の祝福》

■現在SP:8






■モンスター名:ルミナ

■性別:メス

■種族:フェアリー

■レベル:7

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:4

VIT:7

INT:22

MND:16

AGI:14

DEX:9

■スキル

ウェポンスキル:なし

マジックスキル:《光魔法》

スキル:《光属性強化》

 《飛行》

 《魔法抵抗:中》

 《MP自動回復》

称号スキル:《妖精女王の眷属》

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― 新着の感想 ―
クオンさんの動きは超人の域に達してますよね⋯⋯。 これより強い爺がいるとか、ターミネーターかな。
[良い点] 自爆しなくて(汗)良かったね( ´ •̥ ̫ •̥ ` ) そこまでされると、さすがに引くよね(汗)
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