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326:人よ、祈りと共に輝きを示せ その5











 唸りを上げる餓狼丸を手に、前へと進む。

 餓狼丸の持つ吸収能力は、相手の能力や耐性に関係なく、一定の割合でHPを吸収していく。

 格上相手であるほど効果が高く、ディーンクラッド相手には非常に有効な攻撃手段であると言っても過言ではない。

 尤も、吸収限界があるため当てにできるというわけではないのだが。


 かつてないほどの速さで黒く染まっていく餓狼丸を視界の端に捉えながら、俺は緋真と共にディーンクラッドへと斬りこんでゆく。

 奴は未だ本気を出していないが、だからといってこちらが遠慮してやる理由もない。

 今ここで、削り切れるところまで体力を削ってやることとしよう。



「《蒐魂剣》、【奪魂斬】! 【緋牡丹】!」

「『生奪』!」

「おっと!」



 緋真が振り下ろした一閃がディーンクラッドの障壁を斬り裂き、続いて俺が放った一閃が奴の身を襲う。

 ディーンクラッドは俺の攻撃を腕で防御しているが、それでも多少はHPを削ることができるようだ。

 ディーンクラッドのHPバーの数は四本。伯爵級のことを考えれば一本削り切ったところで《化身解放メタモルフォーゼ》を使うかもしれないが、爵位が異なる以上それに当て嵌まるかは不明だ。

 今はただ俺たちの動きを観察し、時折魔法で攻撃してくるだけだが――このHPを削り切った時にどうなるのか、警戒しておかねばなるまい。



「《練命剣》、【命輝一陣】!」

「《スペルエンハンス》、【ファイアジャベリン】!」



 俺の攻撃を受け、ディーンクラッドは後方へと跳躍する。

 その身を追うように、俺と緋真は遠距離攻撃を撃ち放った。

 生命力の刃と炎の投槍は着地したばかりのディーンクラッドへと突き刺さり、派手な爆発を巻き起こす。

 が――奴が寸前で障壁を発生させたことを、強化した俺の感覚が捉えていた。

 障壁の再生成があまりにも早い。やはり、俺たちだけで攻め切ることは難しいか。

 だが――



「《スペルブレイク》!」

「《スペルエンハンス》、【フレイムピラー】!」

「……!」



 飛来した一本の矢が、ディーンクラッドの障壁に突き刺さり、ガラスを砕くかのように破壊する。

 今の攻撃を放ったのは高玉だ。彼はディーンクラッドの魔法攻撃に対処できる位置を保ちながら、隙を見て援護の攻撃を飛ばしてくれている。

 そして、そこに魔法攻撃を合わせているのがスカーレッドだ。

 基本的に俺たちが肉薄しているため、彼女の攻撃の機会は少ないのだが、彼女は的確に隙間を狙って攻撃を命中させている。

 そして何よりも――



「ありがとうございます! 【朱椿】!」



 彼女の放つ炎の魔法攻撃は、緋真にとって貴重な回復手段だ。

 消耗を度外視した攻撃を繰り返している緋真にとって、MPの回復は大きな課題となる。

 それを解決してくれているのが、スカーレッドの魔法攻撃であったのだ。

 スキルのクールタイムが大幅に縮まった今の緋真にとって、吸収できる炎が増えることは何よりもありがたいことである。

 尤も、吸収されている当の本人は微妙な表情であったが。



「ぬぅん!」

「はああッ!」



 そして、視界が塞がった瞬間に攻撃を繰り出すのは、ディーンとデューラックの二人だ。

 共に成長武器を解放している彼らは、ディーンクラッドからの反撃を受けない絶妙のタイミングを見計らって攻撃を当てている。

 現状、この場にいるプレイヤーは、パルジファル以外の全員が成長武器を保有している。

 尤も、第六段階までの成長を完了させているのは、俺たちを除けばアルトリウスだけであるのだが。

 しかし――



「ははははっ! 君たちも、中々やるものだ!」



 それほどの戦力をもってしてなお、ディーンクラッドの余裕を崩すことはできていなかった。

 奴の放つ反撃で誰も崩れていないのは、事前にアルトリウスが指示出しをしているおかげだろう。

 俺や緋真は自由に動き回ることが可能で、尚且つ俺たちの攻撃の合間を的確に埋めてくれている。

 これが無ければ、『キャメロット』の前衛組が落ちていても不思議はない。



「《練命剣》、【命輝閃】」



 歩法――縮地。


 ディーンクラッドが魔法を放った瞬間を見計らい接近する。

 奴にとってはこの程度、隙でも何でもないのだが、一瞬だけでもこちらに攻撃の矛先が向かないのであれば十分だ。

 放つ一閃は振り返っていたディーンクラッドの肩口に突き刺さり、その背中を斬り裂く。

 だが、確かに刃が通ったにもかかわらず、奴自身の体に傷は無い。

 どうやら、奴の纏う黒い魔力が削り取れるだけで、奴の体に完全には届いていないらしいのだ。

 HPは削れているため全くの無意味ではないのだが、やはりこのままでは厳しい。



「先生!」

「ッ……!」



 反撃とばかりにディーンクラッドが腕を振るい、俺は体を屈めることでその一撃を回避する。

 瞬間、迸った黒い魔力が刃となり、石造りの床に大きな亀裂を走らせた。直撃を受ければひとたまりもないだろう。



「《術理装填》! 《スペルエンハンス》、【ファイアジャベリン】!」



 俺の回避とほぼ同時に、緋真が穿牙を放つ。

 直撃と共に撒き散らされる炎によって、俺も若干のダメージを受けるが、まだ無視できる範囲内だ。

 炎の直撃を受けたディーンクラッドは、その衝撃によってたたらを踏み――突如として現れた赤い影が、奴の首へと刃を突き立てた。



「――――ッ!?」

「随分とクオンにご執心なのね。おかげでやりやすいわ」



 ディーンクラッドの耳元で、アリスは不敵に笑いながらそう告げる。

 無論、奴もまた即座に反撃の魔法を放つが、その一撃はアリスの体をすり抜けて対面の壁を粉砕するだけに終わる。

 透過能力、ネメの闇刃が持つ特殊スキルの一つだ。コストが重いため多用できるスキルではないが、その効果の高さはこの通りである。

 透過の無敵時間を利用して更に刃を押し込んだアリスは、効果が切れる直前にディーンクラッドの体を蹴って跳び離れた。

 流石に今の一撃は効いたのか、ディーンクラッドは離れたアリスへと向けて追撃を放とうとし――



「『生奪』」

「【緋牡丹】!」



 斬法――剛の型、鐘楼。


 魔法を放とうとした腕を、神速の斬り上げにて上向きに弾く。

 黒い魔力の奔流は広間の天井を打ち砕くが、その一撃が誰かに影響を及ぼすことは無かった。

 そして、緋真の振り下ろした一閃は、ディーンクラッドの体を肩口から斬り裂く。

 爆裂する炎は奴の身を飲み込み、そのHPを削り取る。しかし、爆裂する炎に包まれて尚、ディーンクラッドは体勢を崩すことなくその腕を振り下ろした。



「く……ッ!」



 まるで鉄槌のように、頭上から魔力が降り注ぐ。

 緋真はその一撃をかろうじて回避したが、余波によって大きく弾き飛ばされることとなった。

 幸い、大きくHPを削られはしたものの、まだ落とされたわけではない。

 故に――



「《練命剣》、【煌命閃】!」



 緋真が稼いでくれた時間を利用して、最大の一撃を叩き込む。

 溜めを要するこの一撃は、魔法の発動速度が異様に速いディーンクラッド相手には使いづらい一撃であった。

 だが、今であればその溜めも完了できる。眩い光を纏った餓狼丸は、その軌跡を宙に描き――


 斬法――剛の型、鐘楼・失墜。


 こちらを迎撃しようとする腕ごと、ディーンクラッドの体を斬り裂いた。

 立ち込める炎や煙を吹き散らす生命力の奔流は、奴を大きく弾き飛ばし、ついに一本目のHPバーを空にする。

 まずは一つ。手加減をされていたとはいえ、ここまで削り取ることには成功した。



「く、くく……ははははははっ! ああ、素晴らしい。実に素晴らしい! これだから人間というものは面白い!」



 だが生憎と、奴の表情の中には追い詰められた色は無い。

 むしろ、歓喜のみをその相貌に浮かべ、俺たちのことを見つめている。

 この悪魔の打倒に向けて、確実に近付いているはずなのに――未だ、戦慄が止まらない。



「だが、足りない。まだ足りない……この程度では、満足できる筈がない。だから、僕にもっと見せてくれ。人の可能性を、魂の輝きを!」



 刹那、ディーンクラッドの右手に巨大な魔力が集中する。

 攻撃かと思い身構えるが、その魔力はこちらに放たれることはなく、奴が腕を振るうとともに一つの形に収束した。

 それは、黒い刃を持つ長剣。柄に填まった赤い瞳のような宝玉が禍々しい、一振りの剣であった。

 その剣より放たれる威圧感に、俺は思わず息を飲んだ。その魔力、果たして全ての力を解放した紅蓮舞姫に劣るものであるだろうか。



「さあ、ここからが本番だ。君の真の力、僕に魅せてくれ!」



 二本目のHP――ついに本気となったディーンクラッドは、黒い刃を構えてそう声を上げたのだった。











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― 新着の感想 ―
[一言] ディーン・グラッドはドMっとφ(..)
[一言] 次も楽しみに待ってます!
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