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325:人よ、祈りと共に輝きを示せ その4











「――我が真銘を告げる」



 紅蓮舞姫を解放した緋真と共に駆ける。

 目指すは壇上にて玉座に座す、公爵級悪魔ディーンクラッド。

 奴は未だ武器も抜かず、また玉座から立ち上がりすらしていない。

 未だ本気ではないことの証左であるが、こちらが全力を出さぬ理由などない。



「【ミスリルエッジ】、【ミスリルスキン】、【武具精霊召喚】、【エンハンス】、《剣氣収斂》」



 魔法で攻撃力を強化、一気にディーンクラッドへの距離を詰めた俺は、椅子に座ったままのディーンクラッドの首へと向けて刃を放つ。

 しかしその一閃は、奴に届くよりも早く半透明の黒い障壁によって防がれてしまった。

 だが、そのことに俺は僅かに笑みを浮かべる。以前は防ぎすらしなかったが、今は違う。俺の攻撃を防ぐ必要があるということだ。



「いと高き天帝よ、我が灼花の舞を捧げましょう――紅蓮の華が燃え尽きて、天に葬るその日まで!」



 そして、今の俺の攻撃力で届くのであれば――全力を解放した緋真の攻撃が届かない筈はない。

 朗々と歌い上げた緋真の声に反応し、紅蓮舞姫は爆発するように大きく燃え上がる。

 その炎は緋真の全身を包み込み、しかしその身を焼くことなく、纏わりつくように形を変えた。

 それは振袖のようにも見える大きな羽織。しかし、その袖や裾は炎そのものであり、緋真の動きを妨げることはない。

 描かれるのは咲き誇る紅蓮の花々。華々しき戦装束を身に纏い、瞳を赤く輝かせながら緋真はその真の名を告げる。



「咲き誇れ――『紅蓮舞姫・灼花繚乱』ッ!」



 それは、刀身そのものが真紅に染まった炎の刃。

 炎の尾を引きながら、緋真は俺と入れ替わるようにディーンクラッドへと向けて刃を振るう。



「《炎身》! 《術理装填》! 《スペルエンハンス》、【フレイムストライク】!」

「っ、これは……!」



 強制解放リミットブレイクを発動したおかげで、緋真の攻撃力は大きく増している。

 更には、ゼオンガレオスとの戦いでドロップしたスキル、《炎身》を発動しているのだ。

 これはMPを消費し続けながらステータスを上昇させるスキルであり、燃費こそ悪いが強力な強化を得られる代物だ。

 その上で放たれた一閃は、神速の一閃たる白輝。緋真に可能な中でも最高峰の攻撃力に近いこの一撃は――見事に、ディーンクラッドの障壁を打ち破ってみせた。



「ははははっ! 素晴らしい! 君だけではなかったか、魔剣使い!」



 緋真の一閃はディーンクラッドに襲い掛かり――しかし、奴の左腕によって防がれる。

 だが、以前のように無傷ではなく、緋真の刃は確かに奴の腕に食い込んでいた。

 それでも、ディーンクラッドは痛痒を覚えた様子もなく、腕を振り払って緋真を弾き返す。



「ッ……!」

「では、僕からも反撃するとしよう」



 大きく距離を開けさせられた緋真、そして距離を詰めようとする俺に対し、ディーンクラッドの魔法が放たれる。

 黒い闇が凝縮した、ナイフほどの刃。それが、奴の周囲に数十という単位で出現したのだ。

 ひりつくような殺気に、しかし俺は更に前へと足を踏み出す。


 歩法――陽炎。


 降り注ぐ黒い刃は、しかし俺の身を捉えることなく地面へと突き刺さる。

 ディーンクラッドの攻撃力は強大だ。一撃でもクリーンヒットを受ければ、その時点で致命傷を負いかねない。

 しかしながら、単調な攻撃を受けるほど甘いつもりも無い。降り注ぐ黒い刃を全て避け切り、俺はディーンクラッドへと向けて刃を振るった。



「『生魔』!」



 蒼と金を纏う一閃。その軌跡は、再び現れた黒い障壁を斬り裂いて霧散させる。

 それと同時、同じくディーンクラッドの攻撃を回避した緋真が、大きく飛び込みながら紅蓮に燃える刃を振り下ろした。



「【灼薬】……《術理装填》、《スペルエンハンス》【フレイムストライク】、【緋牡丹】!」



 開始直後ではあるが、緋真は既に出し惜しみをしていない状態だ。

 紅蓮舞姫のスキルも遠慮なく使い続け、まるでそれ自体が火柱と化した刃を振り下ろす。

 その一撃に――ついに、ディーンクラッドが玉座から立ち上がった。

 膨れ上がった炎は玉座を両断して燃やし尽くし、しかしギリギリで跳躍したディーンクラッドは、爆発的に膨れ上がった炎を宙返りして回避する。



「【朱椿】、【火日葵】!」



 しかし、回避されることなど織り込み済みであった緋真は、即座に自らがばら撒いた炎を吸収、MPを回復させつつ火球を放った。

 緋真の強制解放リミットブレイクの力は、純粋な威力上昇もあるが、何よりも強力なのは専用スキルの制限が大きく軽減されることだ。

 それなりに長いはずのクールタイムは全て五秒となるため、これらのスキルを遠慮なく発動し続けられるのである。

 百花繚乱をもじった名の由来は、まさにここにあるのだろう。

 上空へと飛び上がったディーンクラッドに直撃した火球は、大きく炎を撒き散らす。

 その衝撃によって、奴は後方へと押し出されたようだ。



「緋真、そのまま押さえろ!」

「勿論です!」



 後方へと移動したディーンクラッドへ、緋真は一気に距離を詰めていく。

 その姿を眺めながら、俺は横の玉座に囚われたローゼミアに対して声をかけた。



「姫さん、頭を抱えてその場にしゃがめ」

「え?」

「アンタがいると本気が出せん、先に避難させる」



 言いつつ、俺は彼女の方へと刃を向ける。

 息を飲んだローゼミアは、俺の指示通りに頭を抱えて体を丸めた。

 彼女がいると、こちらも餓狼丸の解放を行えない。彼女には早々に避難して貰わなければなるまい。



「《蒐魂剣》、【断魔斬】」



 緋真も全力を出しているおかげでディーンクラッドに食らいついているが、あれは消耗を一切考慮していない戦い方だ。

 アルトリウスたちも援護に動いているものの、緋真のカバーをしきれるほどの力はない。早めに援護に戻らなくてはならないだろう。



「しッ!」



 斬法――剛の型、輪旋。


 大きく旋回させた刃にて、彼女を捕えていた結界を斬り裂く。

 使っていたのは先ほど奴が防御に使っていた障壁と同じらしく、今の俺の攻撃力でも十分に破壊は可能だった。

 砕け散って消滅する結界の中から彼女を立ち上がらせ、セイランに合図を送って呼び寄せる。



「悪いな、あんたの王子様じゃなくて」

「い、いえ! 助けて下さり、ありがとうございます」

「礼を言うのはまだ早い。むしろ、ここからが本番だからな……セイラン、彼女を『キャメロット』の連中の所まで送り届けろ。ルミナは護衛だ」

「クェェ」



 降りてきたルミナとセイランは、こちらに気遣わしげな視線を向けてくる。

 確かに、一時的とはいえこいつらの援護が得られなくなるのは厳しいものになるだろう。

 だがそれでも、ローゼミアの無事とは代えられない。彼女は、この国を存続させるにあたって必要不可欠な人間なのだから。



「奴を追い詰めるには、まだ時間が足りない。急いで送り届け、戻ってこい……いいな?」

「……承知しました、ご武運を」



 ルミナは硬い表情で頷き、ローゼミアをセイランの背へと乗せた。

 彼女が手綱を掴んだことを確認すると、セイランは翼を羽ばたかせ、空中へと舞い上がる。

 そして、窓のある壁を魔法にてブチ破り、外へと飛び出していった。

 その様を見送り、俺は改めてディーンクラッドの方へと向き直る。

 奴はちょうど緋真を弾き飛ばし、体勢を立て直したところであった。



「ふむ、彼女の救出を優先したか」

「……止めようと思えば止められただろう。何のつもりだ?」

「いやなに、彼女がいるままでは、君が本気を出し切れない様子であったからね。事ここに至って、彼女のことは最早どうでもいい――君が本気で戦えないのでは、意味が無いからね」

「はっ、いいだろう、やってやるさ」



 どうやら、奴は相変わらず俺にご執心の様子だ。

 ならばいいだろう、こちらも元よりそのつもりだ。

 尤も、作戦上まだ強制解放リミットブレイクを使うわけにもいかないが――まずは、コイツの余裕を削り取ってやることとしよう。



「貪り喰らえ――『餓狼丸』!」



 さあ、ここからが本番だ。

 今度こそ、俺の牙を確実に突き立ててやる。

 その覚悟に応えようとするかのように、餓狼丸もまた唸り声を上げながら黒い闇を撒き散らす。

 その中心で、抑えることのない殺気を解き放ちながら、俺はディーンクラッドへと向けて宣言した。



「雪辱を果たさせて貰う。ここから先は、本気の殺し合いだ」

「嗚呼、そうだとも。僕に魅せてくれ……君の、本気を!」



 歓喜の笑みと共に、ディーンクラッドの魔力が膨れ上がる。

 その圧力を真っ向から受け止めながら、俺は奴へと向けて斬り込んだ。











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