317:燃え盛る拳
『キャメロット』の部隊長たちは、このゲーム内においても屈指の実力を持つ。
無論、全員が全員戦闘タイプというわけではないのだが、前線で活躍している面々は、間違いなくトッププレイヤーの一角だ。
特にディーンとデューラック……アルトリウスの側近にして二枚看板とも言える二名については、緋真にも匹敵する実力を有しているだろう。
他にも、奇妙な実力を持つマリンやら、純粋火力の高いスカーレッドなど様々なプレイヤーが集っている。
だが――俺が特に評価しているのは、大楯を構える鎧騎士、パルジファルであった。
「砕け散れェッ!」
「私の楯は……砕けないッ!」
多数のスキル、そしてバフ――それらによって格段に強化されたパルジファルは、ゼオンガレオスの拳を正面から受け止める。
彼女の大楯は、相手の攻撃を受け流すには向かないものであり、正面から受け止める以外に道はない。
だが、ゼオンガレオスの攻撃力はそもそも正面から戦うべきではないものであり、彼女の行動は決して賢いものではないだろう。
しかし――自らが選んだ戦場から一歩も退かぬその姿勢は、実に好ましいものであった。
とはいえ、それほどの防御を見せつけて尚、彼女のHPは徐々に削られてきている。
プレイヤー中最高峰の防御力ですら、ゼオンガレオスを抑え込むには至っていないのだ。
尤も、ほんの僅かであれこの怪物の注意を引いてくれるのであれば、それだけでも十分すぎる働きなのだが。
「《練命剣》――【命輝閃】」
「ッ……魔剣使い、テメェッ!」
「貴様の相手は、この私だ! 《プロヴォック》!」
放つ一閃がゼオンガレオスの脇腹を斬り裂き、緑の血が噴き出る。
横から攻撃を受けたことでゼオンガレオスが激高するが、その意識も強制的にパルジファルの方へと向けられることとなった。楯役として、実に優秀なことだ。
苛立つゼオンガレオスは、立て続けにパルジファルへと拳を叩き付けるが、彼女は決して崩れない。
雪辱と口にしていたが……どうやら、以前コイツに敗れたことは、相当腹に据えかねていたらしい。
ともあれ、彼女が注意を引き付けてくれている間に、できる限り削っておかなければならないだろう。
体力に優れるゼオンガレオスを倒すには、数度斬る程度では足りないのだから。
――そして、それを誰よりも把握しているのは、他でもないこの男だろう。
「輝きを示せ――『コールブランド』!」
陣頭指揮を執るアルトリウスが、ついに己が成長武器を解放する。
黄金に輝く聖剣は、アルトリウスの能力全てをバランスよく強化する能力を有しているのだ。
だが――あらかじめ聞いていたコールブランドの能力は、それだけではない。
「集え、我が同胞よ! 【王旗の導】ッ!」
アルトリウスが掲げた聖剣は、更なる眩い光を放つ。
その光は空中に聖剣をモチーフとしたかのような光のエンブレムを描き、周囲全体へとその光を拡散させた。
聖剣コールブランドの持つ経験値消費型のスキル、【王旗の導】。その能力は、彼が所属するパーティ、およびレイドに対してコールブランドの解放と同じ強化内容を拡散させるというものだ。
パーティに対しては本人とほぼ変わらぬ強化を、そしてレイドに対してはある程度弱体化した強化を与えるが――どちらにしろ、強力過ぎる効果であることに変わりはない。
その消費経験値は、最大蓄積量の半分。実に五十パーセントもの経験値を消費する必要がある。だが、それに見合うだけの効果があることは間違いないだろう。
聖剣の光を受けた『キャメロット』のメンバーたちは、全員が強化を受けてゼオンガレオスへと向かってゆく。
楯役が受け、矢や魔法が飛び、武器を構える者たちが次々とその刃を叩き込み――他のプレイヤーたちもまた、その流れに続いていく。
総力戦だとアルトリウスは言った。つまるところ、数で囲んで叩き潰すこの状況こそが、アルトリウスの狙いだということだろう。
「うざッ、てぇんだよォ!」
「《蒐魂剣》――【断魔斬】ッ!」
無論のこと、ゼオンガレオスもただ黙って攻撃を受けているわけではない。
目の前にいるパルジファルへの攻撃が有効ではないと判断すると、周囲全体に伝播するように巨大な魔法を発動させようとした。
扱いは雑だが、有する力は計り知れない。それを放たれれば、周囲のプレイヤーは一気に吹き飛ぶことになるだろう。
無論、その予備動作を見切った『キャメロット』の面々は次々と距離を取るが、全てのプレイヤーがそれと呼吸を合わせられるわけではない。
故に――ゼオンガレオスの魔力が高まるのと同時、俺は《蒐魂剣》のテクニックを発動した。
斬法――剛の型、白輝。
神速で振り下ろした一閃と共に、蒼い軌跡が空を裂く。
その一閃とぶつかり合うのは、ゼオンガレオスを中心としてドーム状に広がる爆炎だ。
周囲を吹き飛ばさんとする灼熱の炎は、しかし俺の一閃によって霧散することとなった。
「な……っ!?」
「――流石ね」
驚愕に目を見開くゼオンガレオス。それとほぼ同時に姿を現したのは、上空から跳び下りてきたアリスであった。
セイランに掴まっていたと思われる彼女は、跳び下りの勢いと共に防御無視の一撃を首へと突き刺す。そして間髪入れることなくゼオンガレオスの首へとしがみ付き、全く同じ場所へともう一度刃を突き刺した。
一度目は《スティンガー》による防御貫通、二度目は《肉抉》による弱点付与だろう。
一度防御に穴をあけた場所であれば通常の威力でもダメージは通る。そう踏んでの一撃は、ゼオンガレオスの首筋に対して見事に赤いマーキングを付与してみせた。
流石に無視しきれるようなダメージではなく、ゼオンガレオスもアリスへと手を伸ばし――その手が、下から伸びあがった一閃と、そこから生じた爆発によって弾かれた。
「無茶するんですから!」
「でも、チャンスだったでしょう?」
緋真がゼオンガレオスの腕を弾き、その隙に飛来したルミナがアリスを回収する。
一瞬でも遅れていれば、アリスの小柄な体は奴によって握り潰されていたことだろう。
彼女が無事であったことにはひとまず安堵しつつも、俺は改めて状況を分析する。
これだけの攻撃を叩き込んで尚、ゼオンガレオスのHPは三分の一程度しか削れていない。
やはり、的確に弱点を狙って行かなければ素早く体力を削ることはできないか。
今の攻防を見ていたプレイヤーたちも、奴の首に弱点が付与されたことは理解できたようで、特に遠距離攻撃は目に見えて首を狙い始めている。
ゼオンガレオスもそこを攻撃されることは嫌がり、回避に動いてはいるが、おかげで攻撃の手は緩むこととなっているようだ。
「ふむ……一度でも崩せればいいんだがな」
「お、崩す? 崩す? ならあたしにお任せだよ!」
「……ラミティーズか。攻撃に参加しなくていいのか?」
「分かってて聞いてるでしょー?」
俺に声をかけてきたのは、グリフォンに騎乗する一人の少女、ラミティーズだった。
『キャメロット』の部隊長である彼女は、しかし己の部隊の精鋭を引き連れながらもゼオンガレオスに対する攻撃には参加していない。
その理由は――まあ、状況を見ればわかるだろう。現状では、プレイヤーが集中しすぎているのだ。
騎兵部隊であるところの彼女は、当然ながら馬上戦闘に特化している。そのため、閉所での戦闘はあまり得意としていないのだ。
プレイヤーでごった返してしまっている現状では、確かに彼女たちは活躍しづらいだろう。
「でも、攻撃チャンスならあるよ。この後、団長が作ってくれるから」
「成程。なら、それに乗らせて貰うとしようか」
一般のプレイヤーはいざ知らず、アルトリウスならばそれを行うことも可能だろう。
であれば、後はタイミングか。ラミティーズたちがゼオンガレオスを崩した瞬間を逃さないようにしなければなるまい。
「ところで、ストームグリフォンまで進化したのか」
「お? そうそう、気付いた!? いやぁ、師匠さんに教えて貰って助かったよ!」
ラミティーズの跨るグリフォンは、セイランと同じストームグリフォンへと進化している。
どうやら、あの時伝えた条件はきちんと効果を発揮したらしい。
ストームグリフォンならば能力も高いし、ゼオンガレオスにぶつかるにも不足はないだろう。
ならば――
「セイラン、こっちに来い!」
「クェエ!」
上空へと向けて声を上げ、未だに残る炎の柱からの火球に対処していたセイランを呼び寄せる。
正直火球は邪魔ではあるのだが、ルミナ一人でも対処できないことはない。
こちらへとやってきたセイランは己の同族に気づいたが、さして気にした様子もなく俺の傍に体を寄せた。
その様子に軽く笑みを浮かべつつ、俺はセイランの背へと跳び乗った。
「で、具体的には?」
「この後、団長が道を開けてくれる。そしたらあいつに突撃する。簡単でしょ?」
「だいぶ無茶だがな」
確かにアルトリウスなら可能だろうが、ゼオンガレオスに正面からぶつかるというのは中々難しい。
何しろ、今まさに拳の一振りでプレイヤーを何人も吹き飛ばしているような化物だ。
楯役も何とか前線を維持しているが、正面から受け止められるのはパルジファル以外にいない状況である。
そんな化物に正面から突っ込むなど、自殺行為にも近いだろう。
「……仕方ない。援護するから、遠慮なく突っ込め」
「お、期待しちゃうよ? よっしゃ皆、準備だ!」
ラミティーズの号令に従い、彼女の部隊は整列する。
前線で戦うアルトリウスはちらりとこちらのことを確認し――聖剣を振りかざして、周囲に合図を送った。
その直後、『キャメロット』のプレイヤーが左右に割れ、ゼオンガレオスへと一直線に道が開く。
瞬間――ラミティーズは一気に加速した。
「皆行くよ、【ストライクチャージ】!」
更にテクニックを発動して加速、ラミティーズを先頭とした部隊は正面からゼオンガレオスに突撃する。
その背中を追いかけながら、俺は走るセイランの背の上で立ち上がり、餓狼丸を構えた。
疾走の振動を体で吸収し、バランスを保ちながら鞘に刃を納め――ほんの僅かに見えた隙間へと刃を振るった。
「《練命剣》、【命輝一陣】」
「――――ッ!?」
斬法――柔の型、零落。
神速で飛んだ生命力の刃は、ラミティーズたちに気づいたゼオンガレオスの顔面へと襲い掛かる。
威力を高めたわけではないため、大したダメージにはならないが――それでも、一瞬奴の視界を塞ぐには十分すぎる。
そしてその一瞬さえあれば、騎獣が奴の元まで辿り着くには十分すぎた。
六人のプレイヤーが持つ長物がゼオンガレオスに突き刺さり、その体を大きく後退させる。
あれほどの威力を受けて尚、倒れもしないのは驚嘆に値する。だが――
「《練命剣》――【煌命閃】」
勢いに硬直する今、奴に対処する余裕は無い。
セイランの背から跳躍した俺は大きく体を旋回させ、奴の首へと向けて全力で刃を振り払った。
地に足を付けていないため、刀そのものの重さは無いだろう。だが、伸びる生命力の軌跡はその限りではない。
空を裂く黄金の輝きは――大男の首へと、遮られることなく突き刺さったのだった。





