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315:降り注ぐ焔











 街の中央で屹立した炎の柱と、そこより降り注ぐ火球。

 感じ取れる魔力の規模からも、これを成したのは間違いなく伯爵級だろう。

 しかも、その中でもかなりの力を持つ存在であることは間違いあるまい。

 これほどの魔力を持つ悪魔はディーンクラッドという規格外を除けば、魔法に特化したヴェルンリード以来であろう。

 しかし話を聞く限り、ここの伯爵級悪魔はどちらかと言えば前衛向き。どちらもできるタイプとなると、中々に厄介だ。

 まあ、その考察はともあれ――



「厄介なことをしてくれるものだな……《蒐魂剣》、【断魔斬】!」



 まずは、この炎に対処しなくてはならない。

 近くにいた悪魔を蹴り飛ばして距離を離した俺は、すぐさま刃を構えてテクニックを発動させた。

 今回覚えた三つのテクニックは、それぞれ若干の溜め時間を必要とする。

 発動と共に青い光が餓狼丸の刀身に巻き付くように収束し――その高まりと共に、俺は刃を大きく薙ぎ払った。

 瞬間、まるで上空に筆で描いたかのように、蒼い光の軌跡が刻まれる。

 その軌跡に触れた魔法は、まとめて消滅して俺の魔力へと変換された。

 先ほど大量に魔法を使ったため、その分を回復しつつ、先ほど蹴り飛ばした悪魔の首を斬り裂く。



(単発の威力は大したことはない。が、着弾すると爆発するか)



 俺は《蒐魂剣》で斬り、消滅させたために影響はなかった。

 しかし、防ぐしかない者たちはそれを受け止めるなり避けるなりして、多少なりとも影響を受けることになってしまったようだ。

 なまじプレイヤーが多いため、避けることも一苦労なのだろう。

 結構な数のプレイヤーが被弾し、発生した爆発によって吹き飛んでいる様子だ。

 尤も、威力は致命的なほど高いというわけではない。少なくとも、防御の高くないプレイヤーが受けても即死しない程度の威力ではあるようだ。

 不幸中の幸いではあるが、これだけで全体が壊滅するということは無さそうである。

 とはいえ――前進するのにひたすら邪魔であることは否めないだろう。



「ルミナ、セイラン! 落ちてくる前に上空で迎撃しろ!」

「分かりました!」

「クアアッ!」



 故に、可能な限り邪魔を排除して先へと進む。

 悪魔共を倒すためにルミナたちの戦力を使えなくなることは少々痛いが、ここにいるのは俺たちだけではないのだ。

 迎撃手段を増やし、その分だけ前に進むことに専念する。元を断たねば、この炎も止まることは無いのだから。


 気を取り直し、悪魔共の対処へと戻る。

 方針は変わらない。斬れる奴は斬り、時間がかかるようであれば弱らせて後続に任せる。

 だが――こうなっては、多少無理をしてでも素早く前進するべきだろう。



「《練命剣》――【煌命閃】」



 重心を落とし、脇構えに餓狼丸を構える。

 多くのHPを消費、餓狼丸の刀身には渦を巻くように黄金の輝きが収束し始める。

 それが限界まで高まった瞬間、俺は大きく踏み込みながら一閃を放った。


 斬法――剛の型、輪旋。


 大きく旋回した刃は、空間に黄金の軌跡を描き、こちらへと迫ってきていた悪魔を強引に薙ぎ払う。

 俺の手に対しての手応えは殆ど無い。実際の刃で斬っているわけではなく、放たれた生命力の刃によって斬り払っているだけだからだ。

 しかし、その威力は十分すぎるほどに高い。【命輝閃】よりも高い威力を発揮するその一撃は、前方数メートル圏内にいる悪魔を纏めて両断してみせたのだ。

 溜め時間は気になるが、やはり優秀な攻撃である。



「《奪命剣》――【咆風呪】」



 続けて、返す刀にて漆黒の風を放つ。

 広範囲に広がる呪いの風は、前方に群がる悪魔の生命力を纏めて吸収し、先程消費したHPを回復させた。敵の数が多い時には、このテクニックはやはり便利だ。

 素の攻撃力が上がっているために【咆風呪】の威力も高まっており、悪魔共のHPも結構な量が削り取れている。

 これならば、いちいち急所を狙わずとも殺し切ることは簡単だろう。


 歩法――縮地。


 【咆風呪】をまともに受けたことによる倦怠感は、しかし炎を纏い狂乱する悪魔にはそれほど効果が無いらしい。

 とはいえ、若干ながら動きが鈍っていることは事実。その隙を逃すことなく、俺の一閃は悪魔を袈裟懸けに斬り裂いた。

 そのダメージによって崩れ落ちる悪魔の横を通り抜け、掴みかかろうとしてきた悪魔の腕を躱しながら刃を合わせる。


 斬法――剛の型、刹火。


 カウンターで放った一閃を悪魔に躱せる道理も無し、その一撃によって肩口から腕が飛ぶ。

 普段であれば生き残ることもできただろうが、【咆風呪】によってHPを削り取られていた悪魔には耐えられるものではなかったらしい。

 そのまま力尽きたように倒れる悪魔を尻目に、俺は更に先へと進む。

 やろうと思えば一気に詰めることも可能だろうが、あまり一人で突出しすぎるのもよくない。

 急ぎつつ、しかし着実に、できるだけ広範囲を片付けながら進む――それが理想だろう。



「《練命剣》――【命輝一陣】!」



 故に、広範囲テクニックについてはクールタイムが終わり次第すぐに使っていくべきだろう。

 横薙ぎにはなった飛ぶ斬撃は、先程【咆風呪】によってHPを削られていた悪魔たちを纏めて斬り裂き、消滅させる。

 これによって、エリアには若干の空きができた。つまり、僅かではあるが時間を稼げたということだ。



「《奪命剣》――【冥哮閃】」



 その僅かな時間の間に、俺は餓狼丸の刀身に渦を巻く闇を湛えながら前に出る。

 それと共に放つのは、墨に浸した筆で無造作に線を引くかのようなエフェクトの一閃だ。

 《奪命剣》にしては珍しく、威力そのものの増幅まで施されているこの一撃は、悪魔たちのHPを容赦なく奪い去った。

 通常とは異なり、萎れるように枯れ果てた悪魔たちを踏み砕きながら前へと進み、街の大通りであった場所を踏破する。

 目的地――あの炎の柱の根元が見えるまで、あと少しといった所だろう。


 上空では、降り注ぐ炎をルミナたちが迎撃し続けている。

 どうやら攻撃を命中させれば爆発するらしく、弱い光や風の魔法を放って誘爆させているようだ。

 上からの攻撃に対処する必要が無いだけで、かなり楽なものではある。

 おかげで、この周囲一帯のプレイヤーは、上空からの攻撃を気にすることなく前進を続けられていた。



「しかし……数は相変わらず多いな」



 横合いから穴を埋めるように迫ってきた悪魔を、軽く後退して拳を避けながら心臓部へと刃を突き立てる。

 かなりレベルを上げたおかげで楽に対処できているが、ブラッゾを倒した当初のレベルではきつかったかもしれない。

 そう思えてしまうほどに、この地の悪魔は数が多かったのだ。

 しかしながら、今の俺たちにとってはこの程度など物の数には入らない。

 攻撃を受けてしまえば当然ダメージは受けるだろうが、盲目的に襲い掛かってくる炎の悪魔は単調すぎるのだ。

 流石に、炎属性に対する攻撃手段が乏しい緋真は若干手間取ってはいるようだが、そこはアリスのフォローで何とかなっている。

 しかも『キャメロット』のメンバーも随伴しているし、後れを取ることはないだろう。



「――『生奪』」



 まだダメージを負っていなかった悪魔の首を擦れ違い様に斬り飛ばし、軽く左右に揺れ動きながら攻撃を回避して二体の悪魔のアキレス腱を切断する。

 前へと進むペースは、この街に足を踏み入れた当初から変わっていない。

 悪魔を斬り、空いたスペースへと進み出て、そこで接敵した悪魔をさらに斬る。

 炎を纏う悪魔は血が出ないだけ、普段よりも快適であると言えるかもしれない。

 尤も、その炎の熱はあるため、あまり近づき過ぎるのも困るのだが。



「しかし、そろそろか――《練命剣》、【煌命閃】」



 歩法――間碧。


 するりと悪魔の間をすり抜け、群れの只中へと入り込む。

 それと共にぐるりと刃を翻し、全方位へと向けて【煌命閃】の軌跡を描いた。

 次の瞬間、悪魔たちはまとめて腰から断ち斬られ、炎に包まれて消滅する。



「《奪命剣》――【咆風呪】」



 そして、未だ攻撃が届いていない前方へと黒い風を放つ。

 HPを纏めて吸収して回復、ついでに削れた敵へと斬り込みながら道を斬り開き、ついに悪魔の群れに風穴を開けることに成功した。

 その瞬間、一気に詰めてきたアルトリウスが俺が開けた穴を押し開き、周囲の悪魔の掃討を開始した。



「手際がいいことだな」

「この方が効率がいいですからね。さて――」



 周囲の様子には意識を向けつつも、俺は前方へと視線を向ける。

 巨大な炎の柱――その根元にあるのは瓦礫の山だ。

 灼熱の炎によって赤熱した石材の上、炎に包まれながら腰かける大柄な男が一人。

 丸太のように太い腕、逆立った赤い髪――苛立ちと共に凶相を浮かべる大男は、ゆっくりとその瓦礫の玉座から立ち上がった。



「どうやら、お出ましのようだな」

「はい……あれが、この街を支配する伯爵級悪魔です」



 感じる魔力もすさまじく、また肉体そのものも優れている。

 成程確かに、コイツを相手にするのは苦労しそうだ。

 動き始める悪魔を前に、俺は静かに笑みを浮かべ、刃を構え直したのだった。











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