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309:閑話・ミリス共和国連邦 中編












 悪魔を倒すという大義名分を周囲に示し、改めて城へと乗り込む。

 事前に手に入れた情報から、ここに伯爵級悪魔が存在することは間違いない。

 だが、兵士たちを無力化して実際に踏み込んだ面々は、その内部の様相に眼を剥くこととなった。



「おいおい、何だこりゃ」

「植物……? 随分と前衛的なデザインの城だな」

「そんなわけが無いでしょう。これも悪魔の仕業に違いないはず」



 城の内部は、至る所に蔦や根が張り巡らされ、まるで廃墟のような様相となっていたのだ。

 外から見る限りでは普通の城だったというのに、内部に足を踏み入れた途端にこれである。

 しかし、一切不審な点が無かったかと言えば、それもまた否であろう。



「あの兵士たちの様子も変でしたしね……」

「洗脳? されてたっぽい感じ」


『《看破》の結果どうだったん?』

『リンカちゃんの枠で見えてたけど、状態に『支配』が付いてたってさ』

『また初見の状態異常かよ』

『伯爵級悪魔えげつな』



 相談する配信者たちの画面では、視聴者がコメントで議論を行っている。

 先ほど城に入る際に襲ってきた兵士たち。これまでと同じように悪魔が化けているのかと思いきや、なんと彼らは人間であったのだ。

 久遠神通流の面々も即座に違和感に気づいて斬りかかることは無かったのだが、それだけに無力化には苦慮することとなった。

 結果、気絶だけさせて縛り上げ、城の内部へと侵入することとなったのである。



「成程……しかし、植物なら分かり易いですね」

「どういうことですか、水蓮さん?」

「これが根や蔦である以上、生えている元があるということですよ。これが続いている方向へ行くとしましょう。そこに、何かしらある筈です」



 水蓮の言葉に、ユキは納得して首肯する。

 それが悪魔の本体か、或いは別の魔物なのか――それは分からないが、元を辿れば何かしらの情報を手に入れることができるだろう。

 素早く意識合わせを行った彼らは、揃って城の中を移動し始める。

 だが――



「――まあ、素直に通すわけがありませんよね」



 斬法――薙刀術、円武。


 通路を通ろうとした瞬間、鞭のようにしなって襲い掛かってきた根に、ユキは即座に翻した薙刀を合わせる。

 半ばで断ち斬られた根は、まるで蛇のように地面でのたうち回るが、元の方は未だに攻撃を行おうと蠢いていた。

 そしてそれと共に、周囲を覆う蔦や根も、一斉に蠢き始める。



「おや……どうやら、手荒い歓迎のようですね」

「どうするよ、水蓮。城ごと焼き払った方が楽じゃねぇのか?」

「まだ操られた人がいるかもしれませんし、そもそも敵の死を確認できないでしょう。ここは――堂々と突破して先に進むとしましょう」

「へっ、成程――それなら、とっとと行くとしようかね!」



 水蓮の言葉に、戦刃は好戦的な笑みを浮かべながら走り出す。

 無論、それと共に周囲の植物は一斉にプレイヤーたちへと向けて襲い掛かってくる。

 しかし、それらは大太刀が翻った瞬間、まとめて断ち斬られて地面を転がることとなった。



「ははははっ! お前ら、自分の面倒は自分で見ろよ!」



 狭い廊下であろうとも器用に刃を振るう戦刃は、どれだけ植物が襲い掛かってこようとも、全て的確に迎撃する。

 そんな彼の刃に巻き込まれぬよう後ろを進みながら、水蓮は後方の様子を確認しつつ声を上げた。



「このまま、敵の本陣まで突撃します。自分の身は自分で守るように」

「後ろ、結構襲われてますけど!?」

「ここまで着いてきた以上は自己責任ですよ。さあ、行くとしましょうか」



 それだけ告げて、水蓮もまた二振りの刃を構えながら走り出す。

 戦刃が目立っているため、大半は彼の方へと向かっているが、それ以外の植物も十分に多い。

 それらを的確に迎撃、斬り裂きながら、徐々に狭まってくる通路を強引に切り開いていく。

 大勢のプレイヤーがいるため、全員が潜り抜けることは不可能だろう。

 それでも、久遠神通流の面々や、一部のレベルの高いプレイヤーたちは足を止めることなく植物に埋まる通路を駆け抜ける。


 やがて、周囲は壁も床も天井も、全てが緑に包まれた異様な空間へと姿を変えてゆく。

 その先にあるのは、かつては玉座の間の入口であったであろう、重厚な扉だ。

 植物によって覆われ、固定されてしまっているような扉。

 ――根や蔦は、その扉の隙間から生えてきていた。



「よっしゃ! 巌、さっさとブチ破ってくれ!」

「お主もできるだろうに。《練闘気》、《鉄身》」



 戦刃の言葉に軽く嘆息した巌は、いくつかのスキルを発動して扉に寄る。

 そして、扉に寄りかかるかのように肩を当て――瞬間、その身が膨れ上がるかのように揺れた。


 打法――破山。


 足元にある根を踏み潰し、その下にある床すら踏み砕いて、凄まじい衝撃が響き渡る。

 重厚な扉は、その衝撃によって内側に向けて拉げ、強引にこじ開けられることとなった。

 瞬間、一同の目に映ったのは、壁面も床も一面が植物によって覆い尽くされた広間だ。

 そしてその奥、元は玉座があったであろう壇上。そこに座すのは、緑色の髪を伸ばした一人の女悪魔だ。

 悪魔は扉を破って入ってきた一同を睥睨し、顔を顰めながら声を上げる。



「ああ……忌々しい、忌々しい。せっかく、ここまで根を伸ばしたというのに……」

「っとぉ……お出ましか」



 根に覆われた玉座に座る悪魔は、親指の爪を噛みながら忌々しげな表情を浮かべている。

 先頭に立つ戦刃は、その視線を一身に受けながら、不敵に笑みを浮かべてみせた。



「野郎共、総員抜刀! 敵はこれまでで一番の大物だ――斬り崩せェ!」



 轟くような叫びと共に、その場の全員が武器を抜き放つ。

 その音を聴きながら、戦刃はいの一番に敵へと駆け――



「――だから、殺してしまうわ。お前たちから得た力で、私はもう一度根を伸ばす」



 ――瞬間、無数の根が槍となって、その場にいた全員に襲い掛かった。

 凄まじい速さで飛来、または足元から襲い掛かる木の根。

 壁から、天井から、床から――余すことなく埋め尽くさんとするその攻撃が、一斉にプレイヤーへと襲い掛かる。

 その様子を玉座の上で眺めながら、悪魔は陰鬱な表情で告げた。



「私は……伯爵級二十六位、ウェルトゥール。お前たちは、私の養分よ」

「――くはははっ! 威勢がいいこったな!」



 ――そしてその表情は、眼前に現れた戦刃の姿によって、驚愕へと変わることになった。

 スキルを発動して光を纏う大太刀は、その肩口へと向けて凄まじい速さで振り下ろされる。

 ウェルトゥールは咄嗟に転げ落ちるようにしながら玉座より退避し――戦刃の一閃は、玉座を真っ二つに斬り捨てた。



「俺は戦刃! 久遠神通流、斬法剛の型が師範代! テメェの首は、我ら『我剣神通』が頂く!」

「っ……異邦人が……!」

「さぁ、テメェは名乗った、俺たちも名乗った! それなら――こっから先は、戦の始まりだってなァ!」



 威勢のいい声と共に、戦刃は再びウェルトゥールへと斬りかかる。

 対し、ウェルトゥールは四方八方から伸ばした根を彼へと向けて殺到させた。

 流石にその量は対処しきれず、戦刃は一方のみを斬り開いて死地から脱する。

 しかし、そこに攻撃が集中するということは、即ち他の面々がフリーになるということに他ならない。

 それを示すかのように、薙刀を構えるユキが舞うように前に出た。

 当然ウェルトールもそれを察知し、彼女を捉えようと蔦を伸ばす。


 歩法――陽炎。


 しかし、緩急をつけた彼女の動きは容易く捉え切れるものではない。

 空を切る蔦を掻い潜り、大きく刃を振るう。


 斬法――薙刀術、輪旋・足削。



「《練命剣》」



 黄金に輝く一閃が、ウェルトゥールの足を狙う。

 その一撃を回避するため、ウェルトゥールは大きく後方へと跳躍した。

 瞬間――その後方に、大柄な影が映る。



「甘いわ。気づいていないと思った?」



 滑るように背後へと回り込んだ巌。しかし、それに対してウェルトゥールは即座に反応した。

 根の槍を伸ばし、巌の巨体を貫こうと放つ。



「――それは、こちらの台詞ですね」



 しかし、それが届くよりも早く、二つの刃を構える水蓮が割り込んだ。

 彼の振るう小太刀は、迫る根を最低限のみ斬り捨て、巌が通り抜けるための僅かな隙間を作り出す。

 そしてその瞬間、巌の巨体は一気にウェルトゥールの眼前へと移動していた。


 歩法――縮地。



「御免……!」



 打法――空絶。


 左の足払いにてウェルトゥールの身を空中に押し上げ、引き絞った右の拳を前進と共に叩き付ける。

 スキルによって鉄の如き強度を得たその体は、拳一つで鈍器にも等しい。

 その一撃を胴に叩き付けられたウェルトゥールの体は、勢いよく吹き飛び広間の中央へと叩き付けられることとなった。



「ぐ……ッ!」

「さてと……挨拶はここまででいいだろう? さぁ、本気でやろうじゃねぇか」



 起き上がるウェルトゥール。その周囲は、刀を構える久遠神通流の一同が取り囲んでいた。

 他のプレイヤーもまた、体勢を立て直しウェルトゥールへと武器を向けている。

 己の置かれた状況を理解し――ウェルトゥールは、再び爪を噛みながら立ち上がった。



「ああ、本当に……苛々するわ。だから――全て、潰してしまいましょう」



 そして――その身より、膨大な魔力が立ち上ったのだった。











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