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301:闇夜の満月












「グルァアアアアアッ!」



 強烈なる殺意と共に、マーナガルムがその前足を振り下ろす。

 こちらにはまだ届かぬ距離であるが、無意味な行動などするはずもない。

 直感に従って横へと回避行動を行い――その直後、地を這う黒い衝撃波が俺のいた場所を薙ぎ払った。

 地面に深く爪痕を残すその一撃は、直撃を受ければひとたまりもないだろう。



「ケエエエエッ!」



 しかし、それに怯むようなセイランではない。

 全身に嵐を纏ったセイランは、恐れることなく全身に闇を纏うマーナガルムへと突撃した。

 対するマーナガルムもまた、それを正面から受け止め――嵐と闇が、暴風のように吹き荒れる。

 その真っ只中を突っ切りながら、俺はロムペリアと並走するようにマーナガルムへと接近する。

 セイランを受け止めたことによって足を止めているマーナガルムであるが、その意識は確かに俺たちの方へと向けられていた。

 どうやら、奴は俺とロムペリアが危険な存在であると認識しているらしい。

 尤も、それはそれで構わない。こちらに意識が向いている方が、対処しやすい攻撃もあるのだから。



「はあああああッ!」



 ロムペリアは手刀に赤い魔力を宿らせ、長大な刃を作り出す。

 大剣ほどもある大きさのそれは、しかし凄まじい速さでマーナガルムへと向けて振り下ろされた。

 胴を輪切りにせんと迫るその一撃は、しかしマーナガルムの体から湧き上がる黒い靄によって受け止められる。

 正確には、そこから発した竜の爪のような手が、ロムペリアの一撃を掴み取ったのだ。



(靄だけで防御行動を行ってくる、か。厄介な……!)



 ロムペリアの攻撃は魔法によって構成されたものであるため、掴み取られても破棄すればそれまでだ。

 実際、奴はすぐさま魔法を解除し、反撃の爪を回避しながら魔法をぶっ放している。

 しかし、こちらはそうも行かない。餓狼丸を掴み取られてしまうことは致命的だ。

 とは言え、攻撃しないことには始まらない。それに、一つだけ試してみたいことがあった。



「――『生魔』」



 《蒐魂剣》を、《練命剣》にて強化する。

 もしも先ほどの爪が魔法による効果であるならば、《蒐魂剣》で斬り裂くことも可能かもしれない。

 その上で、奴の肉体そのものにまでダメージを与えた時用に、《練命剣》による強化を重ね掛けしたのだ。

 ロムペリアの方に意識を割いていたマーナガルムは、僅かな一瞬だけ俺に対する反応が遅れる。

 無論、爪による防御は発生して俺の一閃に対する迎撃を行ったが、一瞬だけ動きが遅い。

 これならば、掴まれずに刃を引くことも可能だろう。そう判断した瞬間――俺の一閃は、迎撃に現れた爪を斬り裂き、更にはその下にあるマーナガルム自身の肉体までも深々と斬り裂いていた。



「ガアアアアアアアッ!?」

「――――ッ!?」



 予想外のダメージに、俺とマーナガルムは同時に驚愕を零す。

 相手はそのダメージに驚き、すぐさま反射的な攻撃行動へと移ってきた。

 体を震わせて衝撃波を発し、俺の体を押しのけた後に鋭い爪で横薙ぎの攻撃を放ってくる。

 俺は衝撃波の威力に逆らうことなく乗り、後方へと大きく跳躍して距離を取りながら、周囲にいる全員へと鋭く声を上げた。



「コイツは生身の魔物じゃない! 存在そのものが魔法だ!」

「成程、そういうこと……!」



 先ほどからどれだけ斬っても血が出なかったため、そういう生き物なのかと勘違いしていたが……こいつはそもそも生物ではない。

 少なくとも、今俺たちの目の前にいるマーナガルムは、何らかの魔法によって形作られた存在だ。

 だからこそ、傷を負っても血が出ることは無かったし、生物的な弱点も持ち合わせてはいなかった。

 有効なダメージを与えられたのは、アリスの《傷穿》によって弱点を付与した箇所だけだったのだから。

 だが――種が割れたならば話は単純だ。



「《蒐魂剣》ッ!」

「ガアアアアアッ!」



 マーナガルムはこちらを危険と見て、ロムペリアよりも俺の方へと注意を向け始める。

 それは何よりも、《蒐魂剣》が有効な攻撃手段であることを示していた。

 咆哮と共に、奴の周囲に浮かび上がる黒い魔力。鋭い爪牙と化したそれは、まるでミキサーのように渦を巻きながらこちらへと向けて放たれる。

 いかな《蒐魂剣》とはいえど、これを正面から斬り払うことは不可能だろう。

 だが――



「光よ、撃ち貫け!」



 後方より放たれた光の魔法が、一瞬だけマーナガルムの魔法を押し留める。

 その瞬間に射線上から離れた俺は、再びマーナガルムへと肉薄した。

 しかし、それでも尚こちらを捉えている黄金の瞳。マーナガルムは、膨大な魔力を纏わせた左前足を振り上げ――



「――緋真さん、ここ!」

「《斬魔の剣》、【緋牡丹】ッ!」

「グガァッ!?」



 ――残る右前足へと、アリスが刃を突き立てた直後、緋真が炎を纏う一閃を叩き込んだ。

 《傷穿》による弱点付与と、《斬魔の剣》による魔法破壊。その合わせ技は、俺の一撃には及ばぬまでも、マーナガルムに確かな痛撃を与えることに成功していた。

 例え魔法によって作り上げられた存在であろうと、物理的にそこに存在している以上、重力の影響は受けざるを得ない。

 片足を上げ、もう片方で踏ん張っている現状、地面についている足にダメージを受ければバランスを崩すのは当然だ。



「妬けるじゃない……そっちばかり見ているなんてねえッ!」



 そしてその瞬間、ロムペリアが真紅の魔力を爆裂させた。脇腹に強烈な一撃を叩き込まれ、マーナガルムは横倒しに地面へと叩き付けられる。

 その背を足場として跳躍した俺は、マーナガルムの顔面へと向けて刃を振り下ろした。


 斬法――柔の型、襲牙。


 狙う先はマーナガルムの黄金の瞳。

 輪郭が捉えづらいため、狙いやすい場所がそこしかないのだ。

 頭上から真っ直ぐに襲い掛かる俺の一撃に、マーナガルムは大きく反応を示した。

 全力で体を傾け、腹すら晒しながら俺の攻撃を回避したのだ。

 俺の一撃は空を切ったが、その反応には思わず笑みを浮かべる。



「成程、そこがお前の弱点か」



 《蒐魂剣》による一撃は確かなダメージになるようではあるが、あそこまでの過剰な反応は無かった。

 つまるところ、あの黄金の瞳こそが奴の弱点なのだろう。

 であれば、話は簡単だ。あの瞳へと攻撃を確実に命中させられるよう、この怪物を追い詰めるまでである。



「セイラン!」

「ケエエエエエエッ!」



 飛び退るように後退したマーナガルムへ、セイランが追撃を仕掛ける。

 セイランは最早消耗も気にせず、全力で嵐を発生させている状態だ。

 更にはその膨大な威力を前足へと集め、マーナガルムへと向けて打ち掛かる。

 対し、マーナガルムはその黒い魔力を棘のような形状に変化させ、ハリネズミのように体に纏った。

 あの鋭い棘だ、《蒐魂剣》で排除しなければ攻撃は難しいだろう――だが、セイランはそれでもなお、歩みを止めることは無かった。



「っ、おい!?」

「グ……ケェェァアアアッ!」

「ガッ!?」



 セイランは棘を無視し、マーナガルムへと強引に攻撃を叩き込む。

 当然ながら、黒い棘はセイランの体に突き刺さることになった。

 嵐の魔法によってある程度は破壊できていたが、直接叩き付けた腕は傷だらけになり、いくつかは体にも突き刺さってしまっている。

 だが、それでもセイランは怯むことなく、全力の魔法をマーナガルムへと叩き込んでいるのだ。

 その意図を、理解できない筈がない。


 歩法――烈震。



「『生魔』……ッ!」



 強力な魔法が吹き荒れる真っ只中へと飛び込み、刃を振り下ろす。

 今この体勢ではマーナガルムの瞳を狙うことはできない。まずは、その体勢を崩すことだ。


 斬法――剛の型、白輝。



「しゃあああああああああああッ!」



 全力の踏み込みから放つ一閃。それは、セイランの攻撃を踏ん張って耐えているマーナガルムの足を深々と斬り裂く。

 がくりとマーナガルムの体が揺れ、それと共に攻撃がずれたセイランが勢いを殺し切れず、マーナガルムの向こう側まですっ飛んでいく。

 だが、十分すぎる働きはしてくれた。頭を落としたマーナガルムへと向けて、真紅の魔力を滾らせるロムペリアが肉薄する。

 奴も、瞳が弱点であることを理解したのだろう。槍のように鋭い形状の魔法を、マーナガルムの顔面へと向けて振り下ろす。

 しかし、マーナガルムも即座に反応し、鋭い牙の生え揃った大口でロムペリアの体へと噛みつき――その体が、霞のように消え去った。



「残念、幻影よ」



 ――刹那、上空から降り注いだ魔力の刃が、マーナガルムの体へと突き刺さる。

 纏う黒い靄を貫き、その体に突き刺さってはいるが、どうやら威力は軽減されてしまったらしい。

 しかし、それでも動きを鈍らせるには十分だ。俺は近くの木へと鉤縄を飛ばし、大きく跳躍してマーナガルムの頭上を取る。

 そんな俺とすれ違うように宙を駆けてマーナガルムへと向かったのは、右手の刻印を輝かせるルミナだ。


 刹那、その接近に気づいたのか、マーナガルムの体がブレて僅かな黄金の軌跡だけを残しその場から消え去る。

 あの闇の中では使わなかった移動も、今では可能ということだろう。

 しかし、種が割れている今であれば、その移動先を探ることも難しくはない。



「緋真さん、こっちよ!」

「はい――【紅桜】!」



 マーナガルムの出現地点へと向けて、緋真は刀から火の粉を放つ。

 連鎖的に爆発するその攻撃は、ダメージは殆ど与えられないものの、視覚と聴覚を塞ぐには十分な威力を有していた。



「光の槍よ、貫け!」



 ルミナの放つ槍が、姿を現した直後に動きを止めたマーナガルムの背を貫いた。

 強大な威力を誇る刻印の魔法は、マーナガルムの纏う闇すらも貫き、その身を地面に縫い付けたのだ。

 ダメージもさることながら、いかなマーナガルムとて、体を貫かれた状況では逃げることもできないようだ。

 そして――



「――『生魔』」



 ――樹上から飛び降りた俺の一撃は、動きを止めたマーナガルムの瞳を正確に貫いていた。











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