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299:赤き夜












 《化身解放メタモルフォーゼ》によって姿を変貌させたロムペリア。

 それと同時に放たれた赤い魔力は、周囲一帯を不気味な赤い光で包み込んだ。

 それはまるで、降り注ぐ月の光が赤く染まったかのようで――酷く不気味なその光景に、俺は思わず顔を顰めた。

 ――だが、すぐさまそれどころではないという事実に気づき、驚愕する。



「ロムペリア、貴様……!」

「貴様も同じことをしているのだから、こちらがしても構わないでしょう?」



 勝ち誇った表情で言い放つ悪魔に、苦々しい顔で舌打ちを返す。

 ロムペリアがこの赤い領域を展開した瞬間、きつい倦怠感が襲い掛かってきたのだ。

 確認すれば、己のHPが徐々に減っていることが分かる。

 これは餓狼丸による効果だけではない。明らかに、この領域による影響であった。

 どうやら、これこそがロムペリアの持つ《化身解放メタモルフォーゼ》の効果であるようだ。



「吸収効果とはな……やってくれる」



 この赤い領域は、内部にいるものの生命力を吸い取ってロムペリアへと供給し続ける効果があるようだ。

 ブラッゾが使っていた灰色の霧にも近い効果ではあるが、これはただ単純に己のHPを回復するだけではなく、もっと他の効果にも流用しているらしい。

 事実――



「さあ、ここからが本番よ」



 ロムペリアの体が、一気に加速する。

 手から伸びる魔力の刃は更に濃く、まるで血のように。

 横一線に振るわれた魔力の刃は、一直線にマーナガルムへと襲い掛かり――巨狼は、その場で跳躍してロムペリアの攻撃を回避した。

 しかし、ロムペリアの攻撃は手から伸びた魔法による刃だ。その制御は自由自在であり、軽く手首を翻しただけでも、その攻撃の軌道は大きく変わり、空中にいたマーナガルムを捉えていた。

 襲い掛かる紅の刃に、マーナガルムは咄嗟に転移することでその一撃から回避する。どうやら、更に強化されたロムペリアの攻撃に対し、マーナガルムは最上級の警戒を行っているらしい。

 霞のように消える巨狼の体は、黒い闇の渦に飲まれて消滅し――空中に、薄く金色の軌跡が残る。



「……!」



 それが移動した先を視線で追って、俺はようやく理解した。

 金色の軌跡が移動した先、そこで出現したマーナガルムが、即座にロムペリアへと向けて走り始めたのだ。



「《練命剣》、【命輝一陣】!」



 即座に放った生命力の刃は、背後からロムペリアに襲い掛かろうとしていたマーナガルムへと直撃し、僅かにその動きを鈍らせる。

 瞬間、即座に反応したロムペリアは、後方へと魔法を放ちその場を爆破した。

 これについては流石に避け切れなかったのか、マーナガルムは大きく吹き飛ばされ、それでも空中で体勢を整えて着地した。

 その様子を見つめ、HPを回復しつつ声を上げる。



「あれは転移じゃない、姿を消した上での高速移動だ! 瞳の光が僅かに見える!」

「っ、了解です!」



 あの行動は、決してランダムに転移しているようなものではない。

 いかなる方法で姿を消しているのかは分からないが、ただ高速で移動して再出現しているだけなのだ。

 それならば、その移動先さえ見失わなければ何とかなる。

 転移を抜きにしても十分すぎるほどの強敵ではあるのだが、不意打ちが最も危険であることに変わりはないのだ。

 ロムペリアも俺の話を聞いていたのか、勝気な笑みを深くして魔力を昂らせた。



「成程……そうと分かれば、遠慮なく攻めさせて貰いましょうか!」

「ガアアアッ!」



 ロムペリアが両手を広げると共に、空間に放たれた魔力が真紅の刃となり、一斉にマーナガルムへと襲い掛かる。

 一方、マーナガルムの咆哮と共に、奴の周囲では黒い魔力が斬撃となって迎撃する。

 それはまるで、マーナガルムの爪による攻撃が周囲に乱舞しているかのようだ。

 しかしながら、それは決して適当に放たれているわけではなく、ロムペリアの攻撃を正確に撃ち落としていた。

 隙が見つからない、とはこのことか。これまでに戦ってきた二体のネームドモンスターは、何らかに特化した存在だった。

 しかしマーナガルムは、全てにおいて隙が無い。精々、防御力がそこまで高くないことぐらいか。



(いかにして牙城を崩すか、だが……)



 マーナガルムは今のところ、俺たちに対してはそこまで意識を割いていない。

 攻撃をしている俺やセイラン、援護をする緋真はともかく、回復に専念するルミナや姿を隠しているアリスは完全にノーマークだ。

 できればルミナの刻印による魔法を直撃させたい所であるが、流石にそれを見逃されるということはないだろう。

 業腹ではあるが、やはり鍵となるのはロムペリアであるらしい。



「ならば――もう少し、こちらを意識させてやるとするか」



 久遠神通流合戦礼法――風の勢、白影。


 意識が加速する。この暗い中で視界がモノクロに染まるのは中々に厳しいが、今は致し方あるまい。

 餓狼丸のHP吸収は既に完了している。俺の攻撃力は、既に最大限に高まっている状態だ。

 であれば――マーナガルムを斬ることに、最早障害はない。



「――《剣氣収斂》」



 ゲージが溜まり切った《剣氣収斂》を再度発動、ロムペリアに対する迎撃を終えたマーナガルムへと突撃する。

 当然、マーナガルムはすぐさま反応し、その鋭い爪を俺の脳天へと向けて振り下ろした。


 歩法――陽炎。


 しかし、瞬間的に加速した俺はそれを回避、マーナガルムの懐まで踏み込む。

 振るう刃は、その前進の勢いを込めた一閃だ。


 斬法――剛の型、輪旋。



「『生奪』」

「ガッ!?」



 振り下ろした一撃が、マーナガルムの肩口を斬り裂く。

 そのまま更に奥へと踏み込み、摺り足で大きく体を滑りこませながら刃を振るう。


 斬法――剛の型、扇渉。


 その一撃はマーナガルムの左前脚を斬り裂き、僅かに動きを止めさせる。

 しかし相手の様子を確認することはせず、俺はすぐさま次の行動に移った。

 地面に手を着いて勢いを殺し、さらに勢いよく地面を押してバク転する。

 瞬間、鞭のようにしなるマーナガルムの尻尾が俺のいた場所を薙ぎ払った。



「……!」



 このような広範囲の攻撃も持っていたわけか。しかし、それは悪手だ。

 体を大きく動かさなければならない攻撃は、それだけ多くの隙を生むということだ。

 そうなれば当然――



「――隙を見せたわね」

「ガ――!?」



 影から姿を現したアリスが、マーナガルムの後ろ脚へと刃を突き立てた。

 瞬間、マーナガルムの後ろ脚にスキルのエフェクトが纏わり付く。《傷穿》によって弱点箇所を付与したのだろう。

 アリスはすぐさま刃を引き抜いて後退、そのまま姿を消す。直後、上空からはセイランが、そして横からは緋真の魔法がマーナガルムへと殺到した。

 流石にその二つを受けるわけにはいかないと、マーナガルムは姿を消して二つの攻撃を回避する。

 だが、既に種は割れているのだ。



「――そこね」



 ロムペリアが腕を掲げる。荒れ狂う魔力がその腕を赤く染め上げ、巨大な刃を作り上げた。

 腕を振りかぶったロムペリアは、巨大な刃を全力で薙ぎ払う。

 その一閃は、再び姿を現したマーナガルムを正確に捉え――衝撃と共に、大きく粉塵を巻き上げた。

 あの移動は連続しては行えない。今の攻撃は間違いなく直撃したはずだ。

 尤も、それだけで仕留め切れるとは露ほども考えていないが。

 だが、今の攻撃は紛れもなく大きなダメージとなったはずだ。ここで畳み掛けなければ勝機はあるまい。



「ッ……!」



 しかし、その考えに反し、俺は足を止めた。

 強烈な気配と戦意、あの粉塵の向こう側からは、それらが絶えることなく滲み出ていたのだ。

 健在どころではない。奴は――



「オオォ――――――――ンッ!」



 ――刹那、巨大な咆哮が発せられると共に、周囲は一瞬で闇に包まれた。

 ルミナが展開していた照明、ロムペリアの構築していた赤い光。

 それら全てが、一斉に消え去ったのだ。



「何だ……!?」



 視界が黒一色に染まったため、咄嗟に白影を解除して舌打ちする。

 何が起こったのかは分からなかったが、今の咆哮が原因で間違いないだろう。

 咆哮によって、魔法が掻き消されたのだろうか。

 今、周囲を照らしているのは燃え上がる紅蓮舞姫の炎だけだ。

 そんな中――闇の中に、黄金の光が二つ浮かび上がる。

 こちらのことを睥睨する、煌々と輝く黄金の瞳が。



「――――!」



 炎の影で、僅かながらに見えるそのシルエット。

 マーナガルムは――暗闇に紛れるその巨腕を、容赦なく振り下ろしてきたのだった。











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― 新着の感想 ―
[一言] 姿の消し方と言っても オオナズチとかネロンガとかじゃなくて ナルガクルガ希少種みたいなやつですね
[一言] ロムペリアの素体はヴァンパイアかな。
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