表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Magica Technica ~剣鬼羅刹のVRMMO戦刀録~  作者: Allen
HW ~Hello World~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/952

030:ランベルク邸にて












 ランベルク邸へと入り、恐らくは居間だと思われる場所へと通される。

 その部屋の中には、一人の少女の姿があった。

 恐らく窓から外の様子を眺めていたのだろう、窓際から離れてこちらへと近寄ってきたのは、茶色の長い髪を揺らす、十代半ばほどの少女だ。

 恐らくは、彼女が――



「お疲れ様、エルザ。ごめんなさい、怖かったわよね……怪我はない? 大丈夫?」

「ええ。問題ありません、お嬢様。この方々に……クリストフ様から遣わされた方々に助けていただきましたので」

「騎士団長様の? そうだったのね……」



 安堵した様子の少女は、メイドの様子を一通り確かめた後、こちらへと視線を向けてくる。

 お嬢様と言うからには大人しそうな人物をイメージしていたのだが、その瞳の力は強い。

 快活で、力強い。どこにでもいそうな町娘――彼女のイメージは、そんな所だ。

 メイドのエルザを助けたことで、こちらにもある程度気を許してくれたのだろう。彼女は、笑みと共に自己紹介をしてきた。



「初めまして、私はリリーナ・ランベルク。シュレイド・ランベルクの娘です。この度は、私のメイドを助けてくれて、ありがとうございました」

「異邦人のクオンと言う。一緒にいるのは――」

「同じく、異邦人の雲母水母、こっちから順番にリノ、くー、薊、そして飛んでる妖精がルミナちゃんです。よろしくお願いします」

「異邦人! あの、女神の使徒だって言う!? 騎士団長様って、そんな方々とも知り合いだったのね!」



 リリーナの反応にちらりとリノへ視線を向ければ、視線に気づいた彼女は苦笑と共に首肯していた。

 どうやら、この世界においてプレイヤーはそういう扱いを受けているらしい。

 女神と言うと、あの神父が信仰していたアドミナ教とやらの神だろうか。

 ……まあ、俺たちの存在は、現地人にとっては色々な意味で異物だ。そういう設定の方が扱いやすいのだろう。



「団長殿と知り合ったのは偶然だがね。だが今回は、その知り合った理由が原因で、このランベルク邸を訪ねることになった」

「……クオン様? クリストフ様からの要請でここに来たと仰っておりましたが?」

「それは間違いなく事実だ。お前たちの助けになって欲しいと言われているのは間違いない。だが――ここに来た本来の目的は別だ」



 視線を細めて、俺はそう告げる。

 何かしらの問題を抱えている彼女には、あまり言うべきことではないのかもしれない。

 けれど、やはり彼の言葉は伝えねばならないだろう。



「お前さんらにとっては、辛い話になるだろう。聞く覚悟はあるか?」

「っ……!」



 俺の言葉に、リリーナとエルザは息を飲む。

 その表情の中には、どこか悲壮な色が浮かべられていた。

 今の話で、ある程度の予想がついたのだろう。彼女の父は行方不明のままだ、その想像が及んでしまうのも無理はない。

 それが事実であると肯定するのは、中々に言いづらい言葉であったが。



「……エルザ、お茶を。皆さんはこちらへ……ちょっと、長い話になりそうだから」



 硬い表情のまま、リリーナは俺たちをテーブルへと案内する。

 そこに並ぶように腰かけながら、俺は俯き気味になってしまった彼女を観察していた。

 この家の中の気配から察するに、恐らくこの家の中に彼女の母親はいない。

 別れたのか、それとも亡くなったのか――ただ外出しているだけならばいいのだが、そうでないなら、シュレイドは彼女にとって唯一の肉親だったということになる。

 彼女の内心を推し量ることはできない。それは、彼女だけに理解できる感情だ。

 だが――少なくとも、今の彼女は、まだ話を聞く覚悟はできていない様子だった。



「……うぅ」



 雲母水母とくーが、居心地悪そうに身じろぎする。

 まあ、明るさが取り柄のこの二人には、この雰囲気は辛いものがあるだろう。

 だが、耐えて貰わねばなるまい。少なくとも、彼女の覚悟が決まるまでは。

 そのまま、しばし気まずい沈黙が流れる。果たして、どの程度の時間だっただろうか――少なくとも、エルザがお茶を用意し終わる程度の時間はかかったようだ。

 テーブルにティーカップを並べ、物静かなメイドはリリーナの後ろにつく。

 そのまま、メイドはリリーナの肩に片手を置き――そこでようやく、リリーナは俯かせていた顔を上げていた。



「聞かせて頂戴……貴方の、話を」



 その表情の中にあるのは、覚悟だろう。

 その話の趣旨を想像し、そのうえで前に進もうとしている。

 であれば、俺もその覚悟に応えねばなるまい。



「結論から言おう――お父上であるシュレイド・ランベルクの殉職が確認された」

「――――ッ!」



 俺の告げた言葉に、机の上に置かれていたリリーナの手がぎゅっと握りしめられる。

 何かを堪えた様子の彼女は、それでも決して俯かず、じっと俺の瞳を見つめていた。

 ――強い少女だ。称賛に値するほどに。



「シュレイドは騎士団の任務にあたり、男爵級悪魔ゲリュオンに遭遇した。奮戦の末に彼らは敗れ、命を落とした」

「ッ……その、悪魔は……?」

「俺が斬った。心臓を抉り、首を落とした。奴はもう、この世にはいない」



 リリーナの肩が震えている。

 許せないだろう、己の手で殺してやりたいと思っていることだろう。

 だが、その相手はもはや存在しない。怒りのやり場を失えば、後に残るのは悲しさだけだ。



「シュレイド・ランベルクは誇り高い高潔な騎士だった。死して、悪魔に支配されてなお己の意思で抵抗して見せた。最期の相手であれたことを、俺は誇りに思う」

「最期、の……?」

「アンデッドと化し、悪魔に支配されていたシュレイドを討ったのは、他でもないこの俺だ」



 その言葉に、リリーナは息を飲む。

 怒りに任せて罵声を発するか――そう考えもしたが、彼女は歯を食いしばって沈黙していた。

 思う所はあるのだろう。だがそれでも、彼女は俺を責めることを選ばなかった。

 その自制と決心に、俺は心底から敬意を表する。



「……彼は最期に、君に言葉を残した」

「…………」



 口を開けば、耐えきれないのだろう。彼女は歯を食いしばったまま、視線で俺に問いかける。

 ギリギリで耐えている彼女に、この言葉は酷かもしれない。

 けれど、伝えなければならないだろう。それこそが、彼の遺言なのだから。



「『済まない』と……君に対して、そう言っていた」

「っ……ふ、ぅ……」



 既に堪え切れなくなっている嗚咽に、俺は小さく息を吐く。

 そして、すぐさま腰を上げ、四人娘たちを伴って机から離れていた。



「少し、話し疲れてしまった。廊下で休んでくる」

「……はい。ごゆっくり、お休みください」



 少し涙声になっているエルザの言葉に頷き、俺たちは廊下の外に出る。

 瞬間――



『っ……ああああああああああああああああッ! お父さん、お父さん……っ!』



 扉越しに届いた悲鳴にも近い泣き声に、俺は嘆息を零して壁に背を預けていた。

 四人娘はと言えば、早くも貰い泣きして身を寄せ合っているような状態だ。

 ルミナは特に泣いてはいないが、リリーナのことが心配なのだろう、少し不安げな様子で扉の方を見つめていた。

 全く、分かってはいたが――



「……損な役回りだな、こりゃ」



 騎士団の連中だって、誰もやりたがりはしないだろう。

 訃報を運ぶメッセンジャーなんか、恨まれるだけで何の利益もないような仕事だ。

 だが……それでも、価値はあった。

 少なくとも、何も知らず前に進めない状況よりはずっといい。そのような停滞を、あの男が望むとは思えない。

 幸い、リリーナは一人ではなかった。傍から見ても信頼しているメイドが側に付いている。

 強い眼をしていたあの少女ならば、きっと乗り越えられるはずだ。



「……クオンさん」

「感情移入するのも無理はないが、酷い顔してるぞ?」

「クオンさんが冷静すぎるんですよ……あんなの見せられたら悲しくもなりますって」



 涙を拭いながら抗議する雲母水母に、俺は苦笑を返す。

 間違いではない、むしろ正しい反応だろう。

 俺が同じようにならないのは、単純に精神を制御する術に長けているというだけの話だ。

 久遠神通流には、相手を攻撃するための業とは別に、自らの肉体を制御する技法がある。

 精神制御はその基礎の基礎だ。己の精神を掌握できなければ、肉体を意思の下に支配することなどできはしない。



「別に共感できない訳じゃないし、悲しくない訳でもないさ。だがまぁ、結局はあいつらが決着をつけるべき話ってだけだ。同情はするが、それ以上の口出しをするつもりはない」

「それは……そうかもしれませんけど」

「割り切れと言うつもりはないが、下手な口出しは余計な悔恨を生む。結局の所、親を失った悲しみなんざ、当人にしか分からないんだ」

「…………」



 納得しきれない様子ではあったが、反論の言葉も見つからなかったのだろう。

 人の心は千差万別。シュレイドとリリーナがどのような親子だったのかすら知らない俺たちでは、彼女の悲しみを想像することすらできない。

 そんな人間の慰めなど、安っぽくしか聞こえないかもしれないのだ。

 小さく嘆息し、苦笑と共に雲母水母へ――そして、他の三人へと告げる。



「……リリーナのことを気にかけるのならば、シュレイドのことを口出しするより、単純にあの娘の味方になってやることだ。心に土足で踏み込むよりは、よほど支えになれるだろうさ」

「味方に……ですか?」

「俺たちは、このゲームの中では立場のしがらみがほとんど無い異邦人だ。誰に肩入れしようと自由だし、それを咎められる謂われもない。打算のない、純粋な味方ってのは貴重なもんだ」



 その辺、俺はどうもビジネスライクに考えてしまうが、こいつらならば問題ないだろう。

 若いからこそ、打算抜きに考えられる。ある意味では、リリーナは幸運であったと言えるだろう。

 もしかしたら、ここにいるのは俺たち以外の誰かだったかもしれないのだから。

 俺の言葉を聞き、雲母水母たちは互いに顔を見合わせる。

 そして、何かを決心したように、互いに頷き合っていた。

 ここに足を運んだのは、イベントの続きだから。ストーリーの先が気になったから――そんな程度であったはずの理由が、確固たる彼女たちの意思に置き換わる。

 その姿を眩しく思いながら――扉の向こう側で、近付いてくる気配を察知していた。



「皆様、お手数をおかけいたしました」



 扉を開けて姿を現したのは、澄ました顔のエルザだった。

 だが、その目は赤く、頬にも僅かに涙の跡が残っている。

 彼女も、紛れもなくこの家の一員なのだ、悲しむのは当然だろう。



「もういいのか?」

「はい……お嬢様がお話をしたいと仰っております」



 小さく頷き、部屋の中へと招き入れる彼女の後に続く。

 先ほどと変わらぬ、部屋の様子。テーブルについているのは、泣き腫らした目のリリーナだった。





















■アバター名:クオン

■性別:男

■種族:人間族ヒューマン

■レベル:13

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:16

VIT:14

INT:16

MND:14

AGI:12

DEX:12

■スキル

ウェポンスキル:《刀:Lv.13》

マジックスキル:《強化魔法:Lv.10》

セットスキル:《死点撃ち:Lv.11》

 《MP自動回復:Lv.6》

 《収奪の剣:Lv.8》

 《識別:Lv.10》

 《生命の剣:Lv.9》

 《斬魔の剣:Lv.4》

 《テイム:Lv.3》

 《HP自動回復:Lv.5》

サブスキル:《採掘:Lv.1》

称号スキル:《妖精の祝福》

■現在SP:8






■モンスター名:ルミナ

■性別:メス

■種族:フェアリー

■レベル:7

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:4

VIT:7

INT:22

MND:16

AGI:14

DEX:9

■スキル

ウェポンスキル:なし

マジックスキル:《光魔法》

スキル:《光属性強化》

 《飛行》

 《魔法抵抗:中》

 《MP自動回復》

称号スキル:《妖精女王の眷属》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マギカテクニカ書籍版第12巻、7/18(金)発売です!
書籍情報はTwitter, 活動報告にて公開中です!
表紙絵


ご購入はAmazonから!


  https://x.com/AllenSeaze
書籍化情報や連載情報等呟いています。
宜しければフォローをお願いいたします。


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ