275:潜入偵察
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戦う意志を固めたところで、里を形成したオーガは安易に攻められる相手ではない。
まずは里の様子を観察するため、アリシェラが先行偵察として出発していた。
川沿いに降下して森の中に潜み、そのまま単独行動を開始したアリシェラは、《隠密行動》のスキルを発動しながらオーガの里の方向へと移動する。
隠れる場所の多い森の中は、アリシェラにとってはホームグラウンドであると言っても過言ではない。
この場所に敵がいるのであれば、例え複数体に遭遇しても勝てる自信が彼女にはあった。
しかし――
「……流石に、この先はちょっとね」
アリシェラは木の上に登り、盆地の内部を観察する。
ここから先は、オーガたちの住処。切り拓かれたその場所には、数多くの敵の姿が存在していた。
上空から観察した際はまばらに見えていた姿も、こうして近寄れば詳細に観察できる。
筋骨隆々とした巨体が闊歩するそこは、危険地帯以外の何物でもない。
■オーガ
種別:魔物
レベル:45
状態:パッシブ
属性:地
戦闘位置:地上
「……ステータスは、以前に戦ったオーガと同じね」
アリシェラは小さく呟き、軽く安堵の吐息を零す。
現在のクオン達から比較すれば、このオーガは既に格下の存在だ。
基本的な能力が高い存在ではあるのだが、それでも苦戦することはないだろう。
ただし、数が多いため、正面から当たることは絶対に不可能であるのだが。
(それに、ただのオーガだけじゃないわね)
視線を走らせて、アリシェラは思わず顔を顰めた。
数は少ないが、明らかに通常のオーガとは異なる姿の敵が存在していたのだ。
巨大な武器を携えた者や、杖を携えた者――体格にしてもより大柄であったり、逆にスマートであったりと様々だ。
■オーガバーバリアン
種別:魔物
レベル:52
状態:パッシブ
属性:地
戦闘位置:地上
■オーガメイジ
種別:魔物
レベル:50
状態:パッシブ
属性:地・風
戦闘位置:地上
■オーガプリースト
種別:魔物
レベル:50
状態:パッシブ
属性:地・光
戦闘位置:地上
「オーガでプリーストって何よ……」
《看破》を使って次々とステータスを確認し、その都度にアリシェラは表情を曇らせてゆく。
恐らくは上位種と思われるオーガたち。そのレベルはクオン達に匹敵する数値まで高まっており、ステータスだけを見れば上回っている可能性も高いだろう。
ただのオーガだけならばともかく、これらは決して一蹴できるような相手ではない。
元より正面から当たるつもりなど皆無ではあるのだが、徒党を組んだこれらのオーガたちと戦えば苦戦は免れないだろう。
可能であれば各個撃破を狙いたい所ではあるのだが、流石のアリシェラであろうとも、この里の中に踏み込んで暗殺して回ることは難しい。
数体を片付けることができたとしても、いずれは発見されてしまうことだろう。
「まあ、隠れるだけなら何とかなるけど……」
多少切り開かれているとはいえ、オーガの里は植物が生い茂っている場所が多い。
木から降りたアリシェラは、草叢に身を隠しながら里の内部へと移動を開始した。
本気で身を隠したアリシェラは、相手が注視してこない限りまず見つかることはない。
建物の壁に張り付き、里の様子を観察しつつ、彼女は静かに思考を巡らせた。
(建物はそれなりに密集してる。土地があまり広くなかったから? 隠れる場所が多いのは助かるけど)
建物の陰に隠れながら開けた場所を観察しつつ、アリシェラは黙考する。
この立地ならば見つかるリスクは高くないものの、大量のオーガを相手に立ち回れるような作戦を思いつく訳ではない。
眉根を寄せつつ、アリシェラは小屋の中を覗き込む。
オーガが住むには少々手狭に感じるが、どうやら寝床として利用している場所のようであった。
(これだけの数のオーガの住まいをきちんと用意してるの? 通常の魔物は運営が……この箱庭世界の管理者が用意しているのよね?)
外部からの侵略者たる悪魔と異なり、魔物たちは元からこの箱庭世界で生まれた存在だ。
元々ゲームとして作られている以上、冒険をする上での敵役である魔物が用意されているのは当然である。
しかし、それらはあくまでもプレイヤーに倒される対象であり、どこからともなくリポップするような張りぼてでしかないとアリシェラは認識していた。
事実、プレイヤーが狩っている魔物たちにはあまり生態らしい生態は確認できておらず、生物としての生態は無いものとして考えられている。
だがこの里のオーガたちは、住居や寝床を作り、生活している様子が見て取れるのだ。
(……つまり、これってステージギミックよね。寝床があるってことは、夜になったら寝るってことでしょう)
そう判断して、アリシェラは小さく笑う。
魔物たちはテイムモンスターを除き、昼夜で出現傾向の変化こそあるものの、眠っている所を確認できるようなことはなかった。
しかし、もしもこのオーガたちが夜に眠るようなことがあるならば、それは多くの敵を一網打尽にするチャンスでもある。
少数で多くの敵を屠る場合、最も有効な手は間違いなく奇襲なのだ。
(今の時刻は夕方……夜まで潜んで、それから攻撃を開始するって所かしら)
尤も、夜には夜でリスクはある。
このような山奥では月の光以外にライトなど存在せず、下手をすれば真っ暗闇の中で戦う必要が出てきてしまうのだ。
夜目が利くであろう魔物たちはともかくとして、肉体的には普通な異邦人たちがその状況下で戦えるかどうかは分からない。
無論、それを可能にする魔法もあるため、決して不可能ではないのだが。
「っと……あれが標的ね」
周囲のオーガたちが道を譲る、ひときわ大きな巨体を持つ魔物。
赤黒い肌をし、巨大な魔物の骨を削りだしたかのような棍棒を背負う悪鬼、ブラッディオーガ。
周囲のオーガたちとは明らかに別格であると分かるその威容に、アリシェラは思わず息を飲んだ。
不意を打ったところで倒し切れる気がしない――その予感に思わず顔をしかめながらも、彼女は標的の姿を注視する。
■《暴食の悪鬼》ブラッディオーガ
種別:魔物・ネームドモンスター
レベル:65
状態:パッシブ
属性:???
戦闘位置:???
明らかに格上、下手をすれば伯爵級悪魔にも匹敵するような怪物だ。
尤も、悪魔のように複数のHPゲージを持っている様子はない。だが純粋な戦闘能力では引けを取らないのではないか、というイメージがアリシェラの中に生まれていた。
少なくとも、レベルだけで見ても圧倒的な差だ。これが配下まで追加されたら、クオンでも直接の戦闘は厳しいかもしれない。
(まあ、クオンの引き出しなら何かしらやってのけるかもって思っちゃうけど……でも、できる限り有利に戦いたい所ね)
一部ステータスが見られず、属性が分からないが、戦闘位置は間違いなく地上だろう。
属性が分からないことは少々痛いが、武器も見えているため、戦い方はある程度分かる。
尤も――
(あんな巨大な武器、正面から戦えるものじゃないわよ)
形状は鉈に近く、刃の部分にギザギザとした棘が付いた、巨大な棍棒だ。
見た目はどちらかというとノコギリのようになっており、かなり凶悪な印象を受ける。
尤も、その巨大さからして、命中した時点で削り取られるどころの話ではないのだが。
クオンどころか、セイランですら正面から受け止めることはできないだろう。
(……でも、クオンならば戦える。ただ、横から邪魔されることは避けたいわね。他を何とかしたいけど……)
ブラッディオーガのみと戦うことができればまだ可能性があるが、他の上位種の横槍が入ると難しいだろう。
何とかして釣り出すか、或いは他の敵を全て殲滅するのか。
どちらもあまり現実的に思えず、アリシェラは小さく苦笑を零す。
(十分ね、撤退しましょうか)
音を立てず、アリシェラはその場から離れる。
するすると木に登り、跳躍して木々の間を跳び交いながら、元居た場所へ。
アリシェラには、それほど有効な作戦は思い浮かんでいない。
できることは殺せる相手を殺すことだけ。であれば、戦いの方針はクオンに任せるべきであろう。
そう考えながら、彼女は森の中に姿を消したのだった。





