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027:王都へ












 形見の剣と、形見の聖印。まあ、見るからにあのアンデッドナイト・リーダーの遺品とも呼ぶべきアイテムだ。

 奇妙なのは、これが装備アイテムの分類ではないということだ。

 見るからに武器とアクセサリーであるにもかかわらず、このアイテムは装備することができない。

 まあ、手に持って振るぐらいはできるのだが、武器としての性能が表示されない以上、装備品ではないという扱いなのだろう。



「形見、かぁ……これ要するに、誰かに届けてあげろってイベントなのかしら」

「まあ、プレイヤーが使えるアイテムではないみたいですし、他に心当たりもありませんしね」



 俺が表示させたアイテムを目にして、雲母水母とリノはそんな見解を返していた。

 恐らく、それに間違いはないだろう。これが形見と呼ばれる品であるならば、相応しい人間に渡すべきだ。

 問題は、それがだれかということなのだが。



「娘と、団長ねぇ……」

「何か心当たりでも?」

「ああ、このアイテムを落としたアンデッドナイト……シュレイドっていうのか。こいつ、死に際に、娘と団長に済まないと伝えてほしいと言っていたんだ」



 俺の言葉に、四人娘たちは目を見開く。

 まあ、普通に暮らしていたら、今から殺す相手から遺言を聞く機会なんぞあるはずもないだろう。

 何度か経験のある俺自身に対して若干の疑問およびクソジジイに対する殺意を覚えながら、肩を竦めて続ける。



「娘とやらがどこにいるのかは知らないが、団長ってのは要するに騎士団の団長のことだろう。であれば、まだ居場所は分かりやすい」

「でも、団長って言うからには結構立場のある人ですよね。そんなにあっさり会えるんでしょうか?」

「分からんが、まあこの武器自体がシュレイドを証明するものではあるらしいしな。これを出せば話は聞いて貰えるんじゃないか? それに――」



 ちらりと、俺は先ほどの戦場へ視線を向ける。

 悪魔の死体はすでに消え去っていたが、五体の――否、五人の騎士たちの死体は、未だに残ったままだ。

 普段のように死体に触らずともアイテムが出現したため、特に何かをしたわけではなかったのだが……ドロップ品があるのに遺体がそのままというのも奇妙な話だ。

 まあそれはともかくとして、あの仏さんをそのまま野晒しにしておくというのも忍びない。



「彼らも騎士団まで連れて行ってやりたい。それにそうすれば、話も通りやすいだろうしな」

「まあ……それは、私もそう思いますけど。どうやって運ぶつもりですか?」

「それが問題なんだよなぁ」



 最悪、一旦ここに放置して、後で騎士団に回収して貰うという手順もあるのだが……ここはボスエリアであるため、放置したらどうなるか分かったものじゃない。

 どうしたものかと悩みつつ、地面に転がっていたシュレイドの首級を拾い上げ――ふと思いついて、俺はそれをインベントリのウィンドウへと押しつけていた。

 四人娘たちがぎょっとした表情でこちらを見つめる中、シュレイドの首はあっさりとインベントリの画面に吸い込まれ、所有アイテムと化す。



「……自分でやっといて何だが、まさか死体まで入れられるとは思わなかった」

「死体って、一応アイテム扱いなんですね……いつも解体してたから知らなかった」

「ま、まあ……これで遺体を運んであげられますし、結果オーライですよ」



 リノの言葉に頷き、俺は他の遺体もまとめてインベントリの中に収めた。

 あの隊長以外については完全にアンデッドと化していた様子であったが、それでも経緯は変わるまい。

 騎士団まで運んでやった方が、彼らも安心できるだろう。

 死するまでの経緯は千差万別であれど、死した後はみな平等。丁重に弔われるべきだ。

 手に入ったスキルスロット拡張チケットも使用し、準備は整った。



「そんじゃ、先に進むとするか」

「ここから先は誰も行ったことが無いんですよねぇ。あはは、楽しみだ」



 笑顔を浮かべて呟く雲母水母の言葉に同意しながら、俺たちは石柱のエリアを抜けて街道を歩きだす。

 来た時と同じ、踏み固められた土の道。本来であれば人通りも多かったのだろうが、あのボスエリアのせいで人通りなど皆無だ。

 空は相変わらずの曇天であるが、先ほどやってきた時とは逆に、徐々に雲は薄くなっていっている様子である。

 この様子であれば、しばらく歩けば晴れ間が広がることだろう。


 ちなみに、雲母水母は歩きながらウィンドウを操作していた。

 どうやら、例の掲示板とやらに書き込んでいるらしい。

 戦闘中の映像を公開していいかと問われたが、まあ以前にもやっていたことだし、問題は無いだろう。

 そんな彼女を尻目に進むが、街道は来る前とは異なった様相を呈していた。



「ゾンビの姿は見かけないですね」

「あの悪魔を倒したからじゃないの?」



 確かに、あの周囲に突然ゾンビが湧き出していたのは、あの悪魔が原因である可能性は高いだろう。

 であれば、奴を倒したことでゾンビが出なくなったという理由づけは納得ができる。

 ちなみにあのゾンビたちからは、どうも生前の物語というものを感じられない。

 アンデッドナイトたちとどのような差があるのかはよく分からないが……あいつらは触ったら消えるし、どこに連れて行けばいいかの情報もない。

 案外、そういったバックストーリーが微塵もない、運営が用意したただの敵という可能性もあるが。まあ、あまり気にしない方がいいだろう。



「ねぇ、リノ。この先にあるのって、確か王都なんだよね」

「ええ、リブルムで聞いた話だと、そういうことでしたね」

「楽しみだよねー。本物のお城って初めて見る!」

「……本物って言っていいのかな、それ」



 四人娘たちが口々に話している通り、この道の先には王都がある。

 先ほどの形見の剣の情報に書かれていた通り、この国はアルファシアというらしい。

 国の特色などは今の所あまりよく分かっていないが、この先にあるのが最大の都市であることは間違いないだろう。

 それが楽しみであることは事実だが、同時に不安もある。

 この先は完全なる未知、それも日本とは異なる文化形態によって形成された領域だ。

 独自の権力や組織がある以上は、身の振り方にも注意が必要だろう。



「とりあえず、王都についたら騎士団とやらを訪ねてみるか」

「ですね。形見を届けるにも、まずはそっちです」

「色々見て回りたかったんだけどな―」

「くーちゃん、それは後でもできますから。それに、これはどうも一連のイベントになっているように思えますし……」

「これを持っていったら、また何か起こるかもってことか」



 まあ、それが何なのかは今のところよく分からんが。

 とりあえず――



「形見と遺体を持っていって、犯人扱いされて捕まらんように気をつけんとな」

「うへぇ……リノ、任せた」

「はいはい、全く」



 げんなりとした表情で丸投げする雲母水母に、リノは苦笑交じりに頷いていた。

 確かに、面倒であることは否定しないが。

 妙な難癖をつけられたら面倒であることは事実であるし、態度には気をつけておくべきだろう。

 と――ふと気配を感じ、俺は視線を上へと上げていた。



「ふむ、敵か?」

「……おにーさん、前も言った気がするけど、どうしてこっちよりも先に気付けるの? 《危険感知》のスキル無いでしょ?」

「こっちに敵意を向けられてるんだから、気付けんと危険だしな」



 くーの恨めしげな視線から逃れつつ上空へと視線を向ければ、四羽の鳥がこちらへと飛来してくるところだった。

 鳥としてはかなり大きい――猛禽類に属する鳥だろう。

 問題は、その飛行速度が非常に速いことだ。明らかに、普通の鳥が羽ばたきや滑空で出せる速度ではない。


 ■エアロファルコン

  種別:魔物

  レベル:12

  状態:正常

  属性:風

  戦闘位置:空中


 要するに、風を操れる鷹ということか。

 風を掴んで飛ぶ生き物が、自分から風を操れるというのもずるい話だが。

 まあ、何はともあれ戦闘だ。飛んでいるというのが厄介だが、まあなるようになるだろう。



「クオンさん、あいつらの攻撃を撃ち落として貰ってもいいですか?」

「む? ふむ……そうだな、その方がいいか。庇うのは後衛だけだぞ?」

「それで十分ですって。行くわよ、みんな!」



 俺は空中に対する攻撃手段を持たない。連中が下りてくるのを待っているよりは、他の面々に攻撃して貰った方が建設的だ。

 そう判断して、俺は固まっているリノと薊の前に立つ。

 見るからに風を操っているのだ、それを攻撃に転用しないとは考えづらい。

 もしも風による攻撃を行ってきたならば、その時は《斬魔の剣》の出番となるだろう。



「当たれッ、【ファイアボール】!」

「うーん、効くかなぁ……【ウィンドカッター】!」

「……すばしっこいし、纏めてやる。【ダークボルテクス】!」



 飛来するエアロファルコンを、雲母水母たちの魔法が正面から迎え撃つ。

 無論、向こうとて素直に食らうわけではない。相手は機動力に優れる猛禽類だ。雲母水母の放った火球は回避し、くーの風刃についてはそもそも避けもせずに突破する。

 しかし、その直後に発現した薊の魔法は、回避しきれるはずもなかった。

 二人の魔法に若干動きの鈍ったところへ放たれたのは、渦を巻く黒い闇。



「ふむ。薊が攻撃してから他の面々が続くべきだったな」

「……前衛二人、脳筋すぎ」

『うぐっ!?』



 黒い渦は、エアロファルコンたちにダメージを与えながら、その動きを制限している。

 薊の魔法攻撃力の高さもあるが、それ以上に相手の体勢を崩す足止め効果がかなり有効に働いている。

 動きが止まっている今の状況であれば、雲母水母たちの攻撃も当てやすかったことだろう。



「つ、次よ次! 次は薊から攻撃ね!」

「それはいいんだが……それより先に向こうから攻撃が来るぞ」



 渦を巻いていた闇が晴れ、その中から体勢を崩したエアロファルコンたちが現れる。

 ダメージは受けているが、墜落するレベルではない。

 まあ、全体魔法の一発ではそんなものだろう。それよりも問題は、猛禽特有の鋭い視線が、全て薊へと向けられているということだ。

 当然と言えば当然だが、薊は最も危険な存在として認識されてしまったようだ。

 流石に散発的に来る攻撃ならまだしも、集中的な攻撃を撃ち落とすのは難しい。

 小さく嘆息し、俺は左腕で薊を抱え上げていた。



「うひゃっ!?」

「悪いが、ちょいと持ち運ぶぞ。このままじゃ対処が難しい」



 左腕で荷物のように抱え上げ、俺はエアロファルコンたちの姿を凝視する。

 その場でホバリングするように羽ばたくエアロファルコンたちは、一度大きく翼を引き――こちらへと向けて、一度大きく羽ばたいていた。

 瞬間、こちらへと向けて不可視の何かが迫る――



「《斬魔の剣》――はっ!」

「もうちょっと丁寧に運――うぶっ」



 飛来した風の矢を跳躍して回避し、その回避先を狙ってきた矢については《斬魔の剣》を使って斬り落とす。

 急激な動きに荷物のように抱えていた薊が潰れたような声を上げていたが、攻撃を受けるよりはマシだろう。

 攻撃が不発に終わったことに腹を立てたのか、エアロファルコンたちは甲高い鳴き声を上げてこちらへと突撃しようとし――そこに、ルミナの魔法が放たれていた。



「――――!」



 放たれたのは、破裂する閃光。以前ゾンビの群れに放たれたそれは、エアロファルコンたちの中心で炸裂し、閃光で包み込む。

 先ほどの闇の渦ほどの持続時間はないが、威力の高さに加えて目くらましの効果もある。

 閃光に呑まれたエアロファルコンたちは、突撃の勢いを失ってふらふらと飛ぶことしかできなくなっていた。



「……【ダークボルテクス】」



 そこに、続けて薊の魔法が放たれる。

 二度の全体魔法で体力が減っていたエアロファルコンたちは、三度目の全体魔法に耐えられず、その場から墜落していた。

 ぼとぼとと落ちてくるエアロファルコンたちを横目に薊を地面に下ろせば、彼女は恨めしげな視線で俺のことを見上げていた。



『《斬魔の剣》のスキルレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』


「……助けてくれたのは感謝するけど、運ぶのは丁寧に」

「お、おう。済まんな」



 両手が塞がるのを防ぐためとはいえ、片手で運んだのはちょっと乱暴だったか。

 じとっとした視線で睨んでくる彼女には頭を下げつつ、戻ってきたルミナを頭に乗せる。

 どうやら、ゲリュオンを倒したことで経験値を溜めこんでいたらしい。

 この調子なら、どんどんレベルも上がることだろう。

 テイムモンスターの場合、レベルが上がると進化することがあるそうだ。

 どのように進化するのかというのも、楽しみの一つだと言えるだろう。



「さて、先に進むとするか」

「ええ、どんどん進みましょう! 早く王都を観光したいわー」



 剥ぎ取りを終えて上機嫌に頷く雲母水母の様子に苦笑しつつ、俺は彼女たちと共に王都への道を進んでいった。





















■アバター名:クオン

■性別:男

■種族:人間族ヒューマン

■レベル:13

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:16

VIT:14

INT:16

MND:14

AGI:12

DEX:12

■スキル

ウェポンスキル:《刀:Lv.13》

マジックスキル:《強化魔法:Lv.10》

セットスキル:《死点撃ち:Lv.11》

 《MP自動回復:Lv.6》

 《収奪の剣:Lv.7》

 《識別:Lv.10》

 《生命の剣:Lv.8》

 《斬魔の剣:Lv.4》

 《テイム:Lv.3》

 《HP自動回復:Lv.4》

サブスキル:《採掘:Lv.1》

称号スキル:《妖精の祝福》

■現在SP:8






■モンスター名:ルミナ

■性別:メス

■種族:フェアリー

■レベル:7

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:4

VIT:7

INT:22

MND:16

AGI:14

DEX:9

■スキル

ウェポンスキル:なし

マジックスキル:《光魔法》

スキル:《光属性強化》

 《飛行》

 《魔法抵抗:中》

 《MP自動回復》

称号スキル:《妖精女王の眷属》

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ゲーム内でリアルの技術が反映されて技が使えるのはいいと思うのですが殺気が読めるのはちょっと理解の範囲を越えてしまっていて飲み込みづらいです。 気配は歩く音だったり音の反響の仕方など…
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