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266:街の構造












 再び地下道まで退避して、ブラッゾがやってくる気配がないことを確認し、俺たちはすぐさまこの場からの移動を開始した。

 間違っても、奴を地下道に入れるわけにはいかない。ここは、現地人たちにとっての最後の砦なのだから。

 ある程度あの場から移動してから、俺たちは改めて作戦会議を開くこととした。



「さてと……ある程度、仕組みは見えたな」

「はい。あの黒い剣を全部壊せば、街を覆っている霧も晴れるんじゃないかと」

「そうだな。破壊の手立てもあったことだし、調査の成果としては上々か」



 灰色の霧を発生させている黒い剣。

 恐らくは《奪命剣》によるものなのだろうが、どのような仕組みになっているのかは俺にも解析できなかった。

 とはいえ、壊せるのであれば問題はない。全て破壊して、ブラッゾ本人の攻略に移るべきだろう。

 だが、これを行うに当たって、どうしても避けられない問題がある。

 それは――



「問題は、北側をどうするかよね。あっちには地下道が無いし」

「どうするも何も地上を移動するしかないんだが……ブラッゾに捕捉される可能性が高いな」



 俺たちが今通っているこの地下道は、街の南側には広く張り巡らされているものの、北側はその限りではない。

 つまり、気付かれずに目的地付近まで接近することが困難なのだ。

 仮にブラッゾがこちらの位置を察知する方法が霧であった場合、目的地への移動までに、奴は確実にこちらに追いついてくるだろう。

 そうなった時、ブラッゾから逃れつつ黒い剣を破壊することは困難だ。

 何かしら、作戦を考える必要があるだろう。



「とりあえず……剣の位置を予想するか」

「次は南側ですよね? さっきの位置がこの辺りで……」

「私が見たのは、こちらとこちらの方角でした」



 マップを開き、先程黒い剣が置いてあった位置を探しつつ、ルミナが見つけた霧の濃いエリアを確認する。

 彼女の示した方角は、北と西にほぼ垂直な角度を描いていた。

 この立地を見るに、恐らくは街の四か所に剣を配置していると見るべきだろう。

 しかし、そうなると話は面倒になる。全三か所であれば、南のもう一つを破壊した後、全力で移動してもう一つを破壊という作戦を取ることもできただろう。

 だが、四か所ある場合はそうもいかない。三つ目を破壊することができたとしても、四つ目に辿り着く前にブラッゾがこちらを捕捉してくることだろう。



(それに、奴自体も中々面倒なんだよな)



 《奪命剣》を操る悪魔、ブラッゾ。

 純粋な剣の腕も高いが、俺ならば十分に拮抗し得る。ステータスが異常なほど高いというわけでもなく、何とか鍔迫り合いも可能な領域だ。

 ただ純粋な剣士として見るのであれば、俺にとってはやりやすい相手でもあった、

 しかしながら、《奪命剣》に関してはそうもいかない。

 俺もそれなりに扱えるようになってきた自負はあるが、ブラッゾのそれは剣聖オークスから直接継承したものだ。

 俺の知らないテクニックはいくつもあるだろうし、知っているものだけでも相当に厄介だ。

 触れるだけでHPを吸収してくる攻撃は、まともに打ち合うだけこちらが不利になっていくことだろう。



「……となると、アレしかないか」

「先生?」

「いや……とりあえず、南のもう一つを破壊しよう。その後、体勢を整えて……後はスピード勝負だな」



 正直、作戦らしい作戦も思い浮かばない。

 アルトリウスなら何かしら考えたのかもしれないが、俺にできるのは安直な作戦だけだ。

 頭を捻ったところで他に良さそうな作戦を思いつく訳でもないし、ここは直感に従ってやってみることとしよう。

 どちらにせよ、まずは南西の剣を破壊する。全てはそこからとなるだろう。

 覚悟を決め、俺は仲間を連れ立ち、真っすぐ西へと向けて移動を開始したのだった。











 * * * * *











 ラビエドの街の南西部、地下道を塞ぐ石蓋を少しだけ開けて外の状況を確認する。

 どうやら、ここも南東と同じように、濃い霧によって包み込まれてしまっているらしい。

 それでも、南東で最初に見た時よりは幾分かマシであるとは思う。

 やはり、剣の本数を減らすことで霧が薄くなってきているのは確かなようだ。



「よし、出てもいいぞ」



 梯子を上って外に出て、セイランを従魔結晶から外に出しつつ緋真たちに合図を送る。

 この辺りは細い路地が多く、黒い剣を見つけ辛い場所であるが、逆に言えば敵からも見つかり辛い場所でもある。

 まあ、もしもブラッゾが霧を利用してこちらの位置を特定している場合はその限りではないだろうが、その場合は霧さえ晴らしてしまえば隠れられるということでもある。

 何にせよ、さっさと例の黒い剣を破壊してしまうべきだろう。



「お父様、私は上から確認します」

「……いや、この立地ならむしろ逆だな」

「はい? 私も地上から探すのですか?」

「違う違う、俺たちも上から確認するんだよ」



 そう告げて――俺は、建物の屋根へと向けて鉤縄を飛ばした。

 フックは真っ直ぐと上空へ伸び、屋根の縁に引っかかって固定される。

 軽く引いて調子を確認した俺は、そのまま強く地を蹴って建物の壁を駆け登った。

 ここの所あまり使っていなかったが、やはり中々便利な代物だ。



「よし……お前たち、着いて来い」

「無茶言いますね、先生……」



 呆れた様子で緋真が呟いていたが、こいつらとて登れないわけではない。

 アリスは三角跳びの要領で壁を蹴って屋根まで上ってきたし、緋真はルミナの手に掴まって悠々と屋根の上に着地した。セイランに関しては、最早言うまでもないだろう。

 全員で建物の屋上から周囲を観察すれば、成程確かに、霧が濃くなる方向を把握することができた。



「あっちですね……けど、この霧の中をジャンプしながら移動するのはちょっと無理じゃないですか?」

「まあ、このままじゃな。だが……セイラン、吹き散らせ」

「クエェッ!」



 俺の命令に威勢よく応えると、セイランは翼を羽ばたかせ、前方へと向けて力強く風を放った。

 渦を巻く風は周囲の霧を取り込み、そのまま奥へと向けて押し流す。

 無論、全ての霧を吹き払えるわけではないが――足場を確認する程度であれば十分だ。



「よし……行くぞ、遅れるな!」



 直後、俺は屋根を蹴って跳躍し、隣の建物の屋根へと跳び移った。

 そのまま、いくつもの屋根を経由して、霧の発生源へ――まるで柱のように立ち上る灰色の霧の直下へと直行する。

 薄まった霧の中で改めて見てみると、やはり異様な光景だ。

 最近の加湿器にはこのように勢いよく噴出するタイプもあるが、それが巨大になったかのような光景だ。

 とはいえ、だからこそ一度霧を散らしてしまえば位置の特定は容易い。

 霧の根元、そこに黒い剣があることを確認し、俺は一気に屋根の上から跳び下りた。



「《蒐魂剣》」



 前転しながら衝撃を殺しつつ着地、そのまま、目の前にある黒い剣へと向けて居合の一閃を放つ。

 霧の中、光を反射しない一閃は、横一文字に霧を吹き散らしながら黒い剣を両断した。

 瞬間、黒い剣は一瞬で霧散し、周囲に立ち込める霧もまた文字通り霧散し始める。

 これで、街の南半分については霧も晴れることだろう。

 とりあえず上手く行ったことに安堵し――ふと感じた感覚に、俺はすぐさま踵を返した。



「隠れろ!」



 屋根の上の面々にはそう告げつつ、即座に細い路地へと移動する。

 俺はそのまま建物の陰に隠れて息を潜め、気配を探ることとした。

 緋真たちもまた路地裏に身を潜め、息を殺し――耳に、こちらへと駆けてくる足音が届いた。

 この足運び、間違いない。これはブラッゾのものだろう。

 俺たちの気配を察知したらしい悪魔は、破壊された剣を確認して舌打ちを零す。



「チッ……あの連中、思ったよりやりやがるな」



 どうやら、今の奴は俺たちの居場所を察知できないらしい。

 半ば賭けではあったが、やはりあの悪魔は霧を利用して俺たちの位置を把握していたようだ。



「だが、次は逃がしはしねぇ……それで終わりだ」



 再び舌打ちした悪魔は、踵を返しこの場を去っていく。

 その気配が完全に消え去るまで身を隠し――奴が去ったことを確認して、俺は大きく息を吐き出した。



「何とかなったな……賭けには勝ったか」

「先生、大丈夫ですか?」

「ああ、まあ見つかったら囮になるつもりではあったんだが……」



 やってきた緋真に、俺は嘆息交じりにそう答える。

 やはり、霧を晴らし切れていない現状では、ブラッゾを倒し切ることは不可能だろう。

 撤退の時間稼ぎができたとしても、奴を仕留めるにはまだ足りない。

 何とかして、残る霧の発生源を断たねばならないわけだが――



「……流石に、次は待ち構えていそうだな」

「どうします? このままだとちょっと厳しいですけど」

「そうだな……」



 考えはあるが、賭けの部分が大きい。

 となれば、もう少し何かしらの準備が必要だろう。



「……一旦、拠点に戻る。少しばかり、作戦会議をするとしよう」



 告げて、再び地下通路に戻るために歩き出す。

 霧の発生源を断つために――まずは、奴を少しばかり焦らしてやるとしよう。











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