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265:霧の発生源へ












 住民たちが避難場所として利用しているこの地下通路であるが、実はかなりの広さがあった。

 街全体というほどではないが、南半分の地面の下には通路が張り巡らされていると見ていいだろう。

 そして、この地下通路を通ることによって、ある程度安全に街の各所へ移動することができるのだ。



「地下を移動していても、完全に霧を防げているわけじゃないんだな」

「それでも、地上よりは全然マシですけどね。殆ど減りませんし。やっぱり、霧の濃さが効果に影響してるってことでしょうか」

「だろうな。となると、これから行く先は余計に厄介ではあるんだが」



 今向かっている先は、セイリアが示した霧が濃くなっている地区だ。

 本当に霧の発生源があるのかどうかは分からないが、今の所それ以外の選択肢もない。

 地上に出てあの悪魔に遭遇する可能性はあるが、虎穴に入らずんば虎子を得ずと言った所だ。

 尤も今言ったように、霧が濃くなるとHPダメージの効果も上がると思われる。

 自動回復能力の高い俺だけならまだしも、アリスには少々厳しいエリアとなるだろう。



「霧の発生源って何だと思う? 物? それとも悪魔かしら」

「この霧は奴のスキルと……《奪命剣》と繋がっていると見ていいだろう。であれば、他の悪魔ということはないと思うぞ。まあ、それを護衛している悪魔がいる可能性はあるがな」

「でも、あの霧って味方を効果から外せるんですかね?」

「さあな。まあ、護衛がいなければラッキー程度に考えておこう」



 ブラッゾは単身で街に出現し、配下の悪魔はいなかった。

 奇襲のために単身乗り込んできた可能性もあるが、奴自身の出自に何か理由があるようにも思えるのだ。

 ブラッゾは元人間であり、どのような経緯かは分からないが悪魔へと変化した存在だ。

 更に言えば、奴は伯爵級の地位を簒奪したと語っていた。恐らくは、伯爵級悪魔を己の手で殺し、その地位を奪い取ったのだろう。

 悪魔同士でそのような行為が行われているというのは知らなかったが、そんな無茶な経歴では配下が付いてこなかったとしても不思議ではない。

 悪魔の世界も世知辛いものだが……奴らがどんな文化を構築していようが、全て斬ると決めた以上はどうでもいい話だ。



「よし……確か、出入り口はこの辺りだったな」

「えーと……ああ、あそこの通路の角に梯子がある筈ですよ」

「あそこか。外に出たらセイランを出してやらねばな」



 通路はそこそこ広いためセイランも通れただろうが、地上に出るための穴はそうも行かない。

 いちいち出し入れする手間を考えると面倒だったため、地下にいる間はセイランを従魔結晶に入れていたのだ。

 別に従魔結晶の中では眠っているような感覚であるらしいため、退屈しているということはないだろうが、コイツだけ入れっぱなしというのも寝覚めが悪い。

 今回はあまり暴れさせてやれないだろうし、適度に外へは出しておいてやりたい所だ。

 それに――セイランの能力は、この状況では中々優秀かもしれないからな。



「よし……俺から上がる、気を付けて来いよ」

「はい、お願いします」



 意識を集中させ、周囲の気配に気を配りながら地上へと梯子を上る。

 一応、片手には小太刀を抜き、いつでも戦闘できるようにしながら地上へ。

 力を込めて石蓋を押し開け、外の景色を確認してみれば、そこには濃密な霧に包まれた街並みがあった。

 どうやら、確かにこの近辺は霧が濃くなってきているようだ。

 軽く周囲を見回した俺は軽く息を止め、周囲の気配に意識を集中させた。

 耳を澄まし、周囲の音に意識を傾ける。だが、あるのはただ静謐な街並みばかり。動くものの気配は一切感じ取れなかった。



「……よし、大丈夫だ。上がってこい」



 石蓋を完全に押し開け、街中へと身を乗り出す。

 地下からは最初に空を飛ぶルミナが、次にアリスが登り、最後に緋真が穴を抜け出した。

 地下への入口は早々に塞ぎ、改めて周囲の状況を確認する。



「確かに、霧が濃いな」

「HPの減りも増えてるわね……これは結構きついわ」

「ブラッゾがどうやって外に出た人間を感知しているのかもわからないからな、奴に感づかれる前に調べるぞ」



 どういう仕組みなのかは分からないが、奴は外を出歩く人間を感知しているように思える。

 おおよそ、この霧を利用した仕組みなのだろうが……奴と接敵してしまっては調べるどころではない。

 急いで周囲の確認をするべきだろう。俺は従魔結晶からセイランを呼び出し、全員へと改めて告げた。



「よし、全員離れすぎない程度に散開。霧が濃くなる方向を探ってくれ。より濃くなる方向へと向けて移動するぞ」

「分かりました」

「了解」

「私は空から確認します」



 俺の言葉に従い、全員がこの場から広がるように移動する。

 ルミナとセイランは空からであるため、より方角は確認しやすいことだろう。

 俺もなるべく広めの道に出るようにしつつ、より霧が濃い方向を探すこととした。

 最初に街に入ったころは十メートル程度先までは見ることができていた。

 しかし、今はそれの半分ほど――単純に考えれば、街の入口辺りよりも二倍近く霧が濃いことになる。

 これは、ただ偶然ということはないだろう。やはり、この辺りには何かがある可能性が高い。

 と――そこに、頭上からルミナの声が響いた。



「お父様、見つけました! あちらの方角です!」



 どうやら、やはり空からは分かり易い状況であったらしい。

 逆に言えば、それほどあからさまに霧が放出されているということなのだろうが。

 果たして、そちらの方角には何があるのだろうか。



「よし、全員戻ってこい! ルミナ、そっちの方へ案内してくれ」

「分かりました!」



 全員が集合したのを確認し、ルミナが発見した方向へと移動を開始する。

 進み始めてからすぐに分かったが、こちらは確かに霧が濃くなってきているようだ。

 まるでコンクリートの壁のように広がる霧に、思わず眉根を寄せながらも真っ直ぐ進む。

 徐々に濃くなる霧に、思わず息が詰まるような錯覚すら覚えるほどだ。



「うぇ……そろそろ餓狼丸のスリップダメージよりきつくなりますよ」

「お二人とも、回復します」



 減り始めた緋真とアリスのHPを、ルミナが甲斐甲斐しく回復する。

 まあ、自動回復能力の高い俺には必要のない措置ではあるのだが。

 だが、俺の回復力と比較しても、このダメージ量はあまり平然としていられるものではない。

 現状、ダメージ量は回復量と拮抗している程度だと言えるだろう。俺の回復量でさえそれなのだから、自動回復を持っていない者にとっては辛い状況の筈だ。



「戦力的な意味ではなく、純粋に厄介だな。ここまで面倒だと、敵がいなかったのは幸運か」

「貴方がそこまで言うなんて、大概な物よね」

「俺とて、不利な状況下で戦いたいわけではないさ」



 アリスの言葉に軽く肩を竦めつつ、濃い霧の中を進む。

 そろそろ、離れた位置にいる仲間の姿すら見づらくなり始めているレベルだ。

 少し距離を置いたらあっという間に逸れてしまうだろう。

 周囲の気配には気を使いつつ――ふと、妙な空気の流れが発生していることに気が付いた。

 それまでは風など無かったのに、突如として空気の流れを感じたのだ。

 眉根を寄せつつも、空気が流れていく方向へと足を向け――霧の中に、何かがあるのを発見した。



「これは……」

「これが、霧の発生源……?」



 何の変哲もない道端、そこに見慣れぬ物体が突き刺さっていたのだ。

 見た目はブラッゾの持っていた剣に似ているが、これは柄まで含めて全てが黒く、尚且つどこか輪郭がおぼろげだ。

 そんな黒い剣は、周囲の空気を吸い込みながら灰色の霧を空へと向けて噴き上げていた。

 どうやら、これが霧を発生させている装置であるようだ。



「発生源は見つけましたけど、これどうします?」

「ふむ、《奪命剣》の……【命喰牙】に似ているな。霧を発生させる効果なんぞ無い筈だが」

「まだ知らないテクニックかしら?」

「分からんが、元が《奪命剣》だというのであれば話は速い――『生魔』」



 この剣の正体は気になるが、あまり悠長にしている時間もない。

 俺は即座に《蒐魂剣》を発動し、地面に突き刺さっていた黒い剣を斬りつけた。

 瞬間、大した抵抗もなく黒い剣は両断され――次の瞬間には、黒い煙となって消失していた。

 それと同時、周囲の霧はあっという間に薄れ、晴れていく。

 と言っても、全ての霧が晴れた訳ではないのだが。



「よし、上手く行ったようだな」

「ダメージもほとんど無くなりましたね。地下と同じぐらいのレベルですよ」

「よし……ルミナ、もう一度上空に上がれ。遠景から霧の濃い方向を探してくれ、急げよ」

「分かりました!」



 俺の言葉に従い、ルミナは翼を羽ばたかせて上空へと駆け上がる。

 あまり時間をかけると、ブラッゾに感づかれてしまう可能性が高い。

 急ぎ空へと登ったルミナは周囲の状況を確認し、すぐさま地面まで降下してきた。



「お父様、あちらとあちらの方角です」

「えっと……地図で見ると、北と西ですかね」

「了解だ、ある程度分かっただけでも十分だな……帰還するぞ」



 ある程度の指針を手に入れ、さっさと踵を返す。

 恐らく、これと同じ霧の発生源がいくつかあるのだろう。

 方角も分かったならば、場所もある程度の類推はできる筈だ。

 小さく笑みを浮かべ――俺たちは即座にこの場から退避したのだった。











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