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Magica Technica ~剣鬼羅刹のVRMMO戦刀録~  作者: Allen
MG ~Miniature Garden~

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259:刃を届かせるために












 フィノが使っている工房は、『エレノア商会』の店舗にはほぼ必ず備え付けられているものだ。

 別段、フィノが専用で利用しているというわけではなく、空いていれば誰が使ってもいいらしい。

 店売りの装備の作成や、装備の修理依頼などは店で請け負わなくてはならないのだ。

 すぐ傍に作業場があるのは、理に適った配置であろう。

 フィノが利用するだけあって、施設の設備はかなり充実したものであるようだ。

 俺は生産系のスキルを持っていないため良く分からないが、設備を自慢げに語る伊織からはそのような説明があった。



「急造の支店にまで最新設備を用意するんだから、大したもんだ」

「エレノアさんですからねぇ」



 俺の呟きにしみじみと頷く緋真の言葉に、俺は細く吐息を零した。

 エレノア――江之島麗亜。有名会社の社長令嬢であり、この箱庭世界サーバにおいてはある種の先兵でもある存在。

 彼女は今果たして、どのような景色を目指して動いているのだろうか。

 彼女ほどの知見を持たぬ俺にはとんと理解できない話であるが、俺たちにとって悪いことにはならないだろう。

 別れ際の様子を見るに、凄まじいモチベーションを得られたようであったからな。

 全く、この箱庭世界サーバの商人たちが哀れでならない。



「ここですわね。フィノ、作業は終わっていますか?」

『もうちょっとー!』



 扉の奥からは、やたらと元気のよいフィノの声が響いてきた。

 思わず顔を見合わせつつも、俺たちは扉を開けて部屋の中へと入る。

 そこには、作業台の上に俺たちの武器を並べ、その周りにいくつもの素材を配置したフィノの姿があった。

 ハンマーを掲げた彼女は、成長武器から視線を外さぬまま声を上げる。



「ちょっとまっててね、もうちょっとで終わるから」

「……了解、頼んだ」



 俺の言葉に頷いたフィノは、ハンマーの柄でガツンと机を叩く。

 その音は部屋の中全体に染みわたるように広がり――瞬間、成長武器の周りに置かれた素材たちが輝き始めた。

 素材たちから立ち上った光は、宙に不規則な軌跡を描き、やがてその輝きを武器に宿らせる。

 その後、塵と化して消えていく素材たちを見ると若干申し訳ない気分になるが、そこまで含めての契約であるし仕方がないか。

 自分で集めてきた素材であればそうでもないのだが、この素材は『エレノア商会』持ちだからな。



「ん……よし、終わり。確認してみて」

「感謝する。さて――」



 フィノが差し出してきた成長武器を受け取り、その全体に目を走らせる。

 形状に関しては特に変わった様子はない。おかげでバランスが変わることも無く、相変わらず使い易い刃であるようだ。

 となれば、変わった点はやはりその能力だろう。

 果たしてどのように成長したのか――軽く笑みを浮かべながら、武器の性能に目を通した。



■《武器:刀》餓狼丸 ★5

 攻撃力:52

 重量:20

 耐久度:-

 付与効果:成長 限定解放

 製作者:-


■限定解放

⇒Lv.1:餓狼の怨嗟(消費経験値10%)

 自身を中心に半径34メートル以内に黒いオーラを発生させる。

 オーラに触れている敵味方全てに毎秒0.4%のダメージを与え、

 与えた量に応じて武器の攻撃力を上昇させる。



■《武器:刀》紅蓮舞姫 ★5

 攻撃力:48

 重量:17

 耐久度:-

 付与効果:成長 限定解放

 製作者:-


■限定解放

⇒Lv.1:緋炎散華(消費経験値10%)

 攻撃力を上昇させ、攻撃のダメージ属性を炎・魔法属性に変更する。

 また、発動中に限り、専用のスキルの発動を可能にする。

 専用スキルは武器を特定の姿勢で構えている状態でのみ使用可能。

 →Lv.1:緋牡丹ひぼたん

  上段の構えの時のみ使用可能。

  斬りつけた相手に周囲から炎が集まり、爆発を起こす。

 →Lv.2:紅桜べにざくら

  脇構えの時のみ使用可能。

  横薙ぎの一閃と共に飛び散った火の粉が広範囲に爆発を起こす。

 →Lv.3:灼楠花しゃくなげ

  霞の構えの時のみ使用可能。

  突き刺した相手に特殊状態異常『熱毒』を付与する。

 →LV.4:灼薬しゃくやく

  正眼の構えの時のみ使用可能。

  全身に炎を纏い、ステータスを向上させる。

 →LV.5:朱椿あけつばき

  下段の構えの時のみ使用可能。

  周囲の炎を吸収して、HPとMPを回復させる。



■《武器:短剣》ネメの闇刃 ★5

 攻撃力:44

 重量:14

 耐久度:-

 付与効果:成長 限定解放

 製作者:-


■限定解放

⇒Lv.1:暗夜の殺刃(消費経験値10%)

 発動中は影を纏った状態となり、敵から認識されづらくなる。

 また、発動中に限り、認識されていない相手に対する攻撃力を大きく上昇させる。

 更に、4秒に一度、1秒前にいた場所に幻影を発生させる。

⇒Lv.3:夜霧の舞踏(消費経験値5%)

 《暗夜の殺刃》の発動中のみ使用可能。

 周囲に霧を発生させ、敵からの発見率を大幅に下げる。

⇒Lv.5:無月の暗影(消費経験値10%)

 《暗夜の殺刃》の発動中のみ使用可能。

 2秒間の間だけ体を透過させ、相手の攻撃をすり抜ける。



「……相変わらず、餓狼丸だけはシンプルだな」



 おおよそ予想通りの成長ではあるのだが、現れた説明文の長さの差に思わず苦笑してしまう。

 とはいえ、それぞれが順当に強化されていると言ってもいいだろう。


 餓狼丸は相変わらず、能力の効果範囲と吸収効率が上昇している。

 僅かな数値ではあるのだが、体力の高い上位の悪魔相手には相応の効果を発揮できるだろう。

 当然、吸収限界量と攻撃力上昇限界も上がっている。恐らく、最終的な攻撃力は結構なものになっていることだろう。


 一方で、二人の成長武器は相変わらず新しい能力が生えている。

 緋真の紅蓮舞姫は、いつも通り単発技が新たに出現したようだ。

 新しいスキルである【朱椿】は回復技であり、周囲に散っている炎を吸収することでHPとMPの両方を回復できるらしい。

 その回復量は検証する必要があるだろうが、持続の長い【フレイムピラー】などであれば吸収しやすいだろうし、MPまで回復できる手段は貴重であるとも言える。

 まあ、緋真は《斬魔の剣》を覚えているし、いずれ《蒐魂剣》を使えるようになればその限りではないのだが。


 アリスのネメの闇刃は、以前と同じように経験値消費によるスキルが増えているようだ。

 効果は短時間の透過――たった2秒間だけではあるものの、ありとあらゆる攻撃を無効化することができるわけだ。

 コストの経験値はかなり重いものの、いざという時の切り札になり得るスキルだろう。

 まあ、相手の攻撃に飛び込んでいく度胸が必要なわけだが、アリスに関してそこは問題ないだろう。

 透過ができなくても平気で攻撃に飛び込んできたことがあったからな。



「ふむ……とりあえずは順当か。だが――」

「切り札になり得るほどの性能じゃなかった?」

「……そうだな。ディーンクラッドを相手にするにはまだ足りない」



 あの時、奴に対してはほぼダメージを与えることはできなかった。

 餓狼丸を解放しておらず、《強化魔法》と《降霊魔法》を発動していなかったとはいえ、限界までHPを捧げた【命輝閃】はかなりの威力を持っていた筈なのに、だ。

 やはり、攻撃力の不足は否めない。あの悪魔を倒すためには、もっと強い攻撃が必要だ。

 そのために、打つことができる手は全て打っておくべきだろう。

 俺の言葉に、フィノは小さく頷いて声を上げた。



「次の強化に必要な素材はメモったよ。『エレノア商会』から発行しているクエストボードに載せて、アイテムの収集をしてみる」

「助かるが……いいのか?」

「ん、先生さんを最大限に支援するのがうちの方針だって、会長が言ってたから」

「……成程な。ありがたい、感謝する」



 つまり、それがエレノアなりの戦い方であるということだ。

 何にせよ、その支援は実にありがたい。成長武器の強化は戦闘能力を大きく伸ばせる要素であるからな。

 次いで強力なスキルを得ることであるが、これは伯爵級の悪魔でも狙って珍しいスキルを得ることを狙えばよいだろうか。

 まあ、無記名のスキルオーブのように何でも得られるわけではないのだが……何かしら、使えるスキルはあるかもしれない。

 流石に《魔技共演》程の強力なスキルは無いだろうが、少しでも底上げになるならば御の字だ。



「とりあえず、装備の更新はこれでいいとして……次は行き先だな」

「えーと、伯爵級がいそうなところに突撃するんでしたっけ?」

「そうだな。若干惜しくはあるが、この際子爵級は他のプレイヤーに押し付ける」



 戦う相手としては十分に強敵であるため少々惜しいのだが、この状況では文句も言っていられない。

 時間が限られている今、効率的に動かなければ後が大変なことになる。

 とにかく、俺がやるべきことは上位の悪魔たる伯爵級を排除することなのだ。



「ありがとうな、フィノ、伊織。また頼む」

「あいあい、見たことのない素材を期待してるよー」

「糸素材がありましたら、是非お願いしますわ!」



 ブレない職人たちの様子に苦笑を零しつつ、踵を返す。

 目指すはアルトリウスのいる場所だ。フレンドリストからメッセージを送りつつ、俺たちは『エレノア商会』を後にしたのだった。











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