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252:現実世界での出会い












 アルトリウスとの会話があった、その翌日。

 俺、明日香、そして亜里沙の三名は、予告通りやってきた迎えの車に乗って久遠家を出発した。

 まあ、迎えと言うからにはこういった形で来るだろうとは思っていたが――



「……私、こんなリムジンとか初めて乗ったんですけど」

「私もよ……」

「経験はあるが、あの時は護衛だったしな……」



 やってきたのは、なんと黒塗りのリムジンだったのである。

 高級車の中の高級車、乗るどころか見た経験すら少ないようなそれに、俺たちは揃って目を丸くしてしまった。

 アルトリウスの奴め、只者ではないとは思っていたが、まさかこんな車を自由に使えるほどの立場だとは。

 それに、この車を運転している男は、恐らく――



「なあ、運転手の。あんた、多分だがKだろう?」

「ははは、分かりますか。改めまして……新島にいじまけいと申します」

「あ、Kさん! あー、向こうだと小人族ハーフリングだから分からなかったのか……」

「あれだけ身長が違うと、流石にイメージが変わりますからね」



 現実世界における圭は、高いとは言えないが平均的な身長だ。

 顔の造作は変わっていないため、きちんと見れば気づくこともできるだろうが、やはり随分と印象が変わるものだ。

 まあ、向こうとこちらでほぼ身長の変わっていない奴もいるわけだが。



「……今、何か変なことを考えなかった?」

「別に。ところで、いつぐらいに到着するんだ?」

「高速は降りましたからね、もう少しですよ」



 新島の言う通り、リムジンは既に高速を降りて一般道に入っている。

 降りたのは、高層ビルが密集しているオフィス街の辺りだ。

 俺たちにとってはあまり縁のない場所であり、こちらに来たことのない明日香は物珍しそうな表情で窓の外を眺めている。

 この辺りに来たということは、どこかの会社に招待されるのだろうか。

 ますますアルトリウスの正体が分からなくなってきたが……まあ、到着すれば分かることだろう。

 やがて、新島が運転する車は減速し、一つの高層ビルの前で停車した。

 どうやらテナントではなく一社で利用しているビルらしい。これだけの高層ビルを丸ごと一つオフィスにするとは、かなりの規模を持つ会社であるようだ。

 ビルの壁面には会社のロゴが張り付けられており、その名前を見ればここが何の会社であるかは――



「……嘘、逢ヶ崎グループ?」

「逢ヶ崎っていうと、主に電機系で、他にも色々な領域に手を出してるあそこか」

「そ、そうですけど、MTの製作チームのAURAはこの逢ヶ崎グループの所属ですよ!?」

「……つまりここって、MTの製作会社ってこと?」



 動揺した様子の明日香の言葉に、俺と亜里沙は目を見開いて再びビルを見上げた。

 成程、どこかで見覚えがあるかと思ったが、ゲームを起動するときに表示されるロゴであったか。

 俺としては、普通にどこかの喫茶店か何かで話をする程度のイメージであったのだが、まさかこんな所に連れて来られるとは。

 しかし、それよりも気になるのは――



「おい……アルトリウスは、まさか」

「それを含めてお話ししますので。これを持って、どうぞこちらに」



 言いながら新島が差し出してきたのは、首にかけるタイプのカードキーであった。

 表には『GUEST』と記載されている。どうやら、これはこの会社における社員証の代わりとなるもののようだ。

 色々と気になることはあるが、ここで立ち往生していても仕方がない。

 俺たちは、先導する新島の後に続き、逢ヶ崎グループのビルの中へと足を踏み入れた。

 どうやらかなり新しいビルであるらしく、随所にある設備はどれもこれも真新しい物ばかりだ。

 フラッパーゲートをゲストカードで潜り、いくつも並んでいるエレベータから上層階へ。

 扉を開けるのにも一々カードを使いつつ、辿り着いたのは小さめの会議室であった。

 その中にあったのは二人の人影――その姿に、俺は思わず眼を見開いた。



「アルトリウス……それにエレノアか」

「お待ちしていました、久遠さん」

「二人も連れて来たのね、クオン。まあ、パーティで活動しているんだからその方が良いか」



 爽やかな笑みを浮かべた青年と、レディーススーツを纏った女性。

 若干異なる点があるとはいえ、二人の印象は見知ったアルトリウスとエレノアのそれと合致した。

 どうやら、アルトリウスは彼女のことも呼びだしていたようだ。

 色々と気になることはあるが、とりあえずは空いている席に腰を下ろし、改めて声を上げた。



「初めまして、と言うべきかな。俺は久遠総一。隣にいるのが本庄明日香、そして東雲亜里沙だ。よろしく頼む」

「何だか不思議な気分だけどね……私は江之島えのしま麗亜れいあ。改めて、よろしくお願いするわね」

「はい、よろしくお願いします。僕の名前は、逢ヶ崎おうがさき竜彦たつひこです」



 アルトリウス――否、逢ヶ崎の言葉に、俺はピクリと眉を跳ねさせた。

 わざわざこのオフィスビルまで呼び出してきた以上、関係者であることは間違いないと思っていた。

 だが、まさか――



「やっぱり貴方、逢ヶ崎会長の関係者だったのね」

「逢ヶ崎グループ会長、逢ヶ崎竜一郎は僕の祖父です。そういう貴方も、江之島商事の社長令嬢でしょう?」

「後継者は兄だし、社長令嬢と言った所で大した意味があるわけじゃないわよ」

「おいおい……ビッグネームばかりだな、どうなってるんだ」

「それ、先生も人のこと言えないと思いますけど」



 横から半眼で見つめてくる明日香の視線はスルーしつつ、改めてアルトリウスとエレノア――逢ヶ崎と江之島を観察する。

 どちらもゲーム内とそれほど変わりがあるわけではないのだが、やはり多少は勝手が違うのか、雰囲気が固い印象だ。

 しかし、ある程度立場のある人間であろうとは思っていたが、まさかそんな上流階級の人間ばかりとは。

 まあ、二人の能力からして、そう言われれば納得できるものでもあるのだが。



「……まあでも、納得はしたわ。流石にそういうアプローチでゲームを調整しているとは思わなかったけど」

「おん? どういうことだ?」

「彼の……アルトリウスの役割よ。要するに貴方、ゲーム内で影響力を確立することで他のプレイヤーの行動指針となって、プレイヤーの動きをある程度操作しているんでしょう」



 江之島の言葉に、俺は思わず眼を見開く。

 確かに、ゲーム内におけるアルトリウスの発言力は大きい。

 常に最前線に立ちながら、多くの情報を他プレイヤーとも共有しているのだ。

 『キャメロット』が発信する情報を元に行動するプレイヤーは多く――逆に言えば、『キャメロット』の情報によってプレイヤーの動きはある程度制御されてしまっているのだ。

 そして、その『キャメロット』のマスターと一部の幹部は、恐らくこの逢ヶ崎グループの人間。

 つまり――



「貴方たちは、プレイヤーの中に潜んだある種のゲームマスター。そう考えれば、これまでの行動もいくらか納得できるわ」

「成程……現地人との融和路線には、そういう背景もあったわけか。しかし、そりゃフェアじゃないな」



 いくら仕事とはいえ、他のプレイヤーと混じってゲームをプレイしているのだ。

 こいつらだけ運営側の情報を持っているのは、決してフェアであるとは言えないだろう。

 しかし、逢ヶ崎は俺の言葉に対し、苦笑を浮かべながら首を横に振った。



「ははは、確かにそう思われても仕方がありませんが……契約上、僕ら現地チームは運営、制作情報を得られないことになっています。初めから知っていたら、もっと回避できたことが色々とあったでしょう?」

「む……まあ、それは確かに」



 初めから分かっていれば最初の悪魔との戦いもあれだけ詰まるということは無かっただろうし、高位の悪魔との遭遇ももっと対策を取れていた筈だ。

 だが、そういうゲームマスターとしての役割を果たすのであれば、そういった情報はあった方が良い筈なのだが……契約とは、一体どういうことか。

 まあ、流石に会社の情報であるし、そこを明かしてくれるとは到底思えない。色々と事情がある、という程度の認識で十分だろう。



「とりあえず、お互いの立場は理解できた。だが、今日は顔合わせのためだけに呼び出したわけじゃないだろう? 一体、俺たちに何を伝えようとしている?」

「僕の――いえ、僕ら逢ヶ崎グループの目的をお伝えし、可能であれば協力して頂くこと。それが、今日皆さんをお呼びした理由です」



 堂々と宣言した逢ヶ崎の言葉を吟味する。

 果たして、ゲーム運営の目的とは何なのか。そして、その運営への協力とはどういうことか。

 現状、いまいち要領を得ない話であるが……ここまで来たのだ、納得できるまで話を聞くとしよう。

 俺たちから先を促され、逢ヶ崎は小さく頷いてから声を上げる。



「まず……ゲームが製作された背景から話をしないといけませんね。始まりは、箱庭計画――ミニチュアガーデン・プロジェクトと呼ばれる計画です」



 その言葉に、僅かに目を瞠る。

 箱庭、ミニチュアガーデン。それは、かつて軍曹から手渡された暗号に記されていた言葉だ。

 未だにその言葉の真意は分からなかったのだが、まさかここでその名を耳にすることになるとは。



「箱庭計画とは、コンピュータ上に作り上げた仮想空間内で、天候や災害のシミュレーションを行うことを目的とした、仮想現実モデル製作プロジェクトでした。その主動となったのが僕の祖父、逢ヶ崎竜一郎です」

「……つまるところ、MTの元になった計画ってことか。元がシミュレーションモデルだったとはな」

「大抵の技術はそんなものでしょう? その箱庭計画が発展して、今の形になったってことよね」

「……そうですね。簡単に言ってしまえば、その通りです」



 江之島の言葉に、逢ヶ崎は頷く。

 だが、どうやらそう簡単な話というわけでもないようだ。

 どのような事情があるのかは不明だが、逢ヶ崎の表情からして、何かしら厄介な点があることは間違いないだろう。



「最初は狭い地域から始まり、国一つを作り上げるようになり……物理計算からあらゆる事象を現実と全く同じ動きをするように設定し――途方もない作業を、しかし祖父は着実に進めていきました」

「……とんでもないわね」

「ええ。本当に、途方もない仕事だったと思います」



 どうやら、彼は祖父のことを心底尊敬しているらしい。

 心から誇らしげに語る姿は、普段のアルトリウスには見られないものだった。

 ともあれ、ここまでで特におかしな話があるわけではない。

 MTというVRゲームが存在している以上、それを実現した技術があることは間違いないのだから。



「やがて、地球環境全てを再現し、様々な状況下で気象予測や災害シミュレーションを行えるようになりました。これだけでも十分に有用でしたが、これだけでは確認しきれないことがありました――そこに住まう人々の動きです」

「つまり、今度はAIの作成に手を出したわけね」

「その通りです。いくつかの基底モデルを作成、周囲環境から取り込んだ情報を元に自然成長するAIを構築、それを元に作り上げた人々を用いて避難のシミュレーションなどを行いました」



 徐々に、今のMTに近づいてきたかのような話だ。

 何となく理解はできるが、まだあまりこいつの目的に繋がってくるような話ではない。

 果たして、こいつの目的とは一体何なのか。



「……ここまでが前提。そして、ここから本題に近づいていきます」



 どうやら、先はまだまだ長そうだ。

 軽く嘆息し、俺は椅子に座り直して逢ヶ崎の言葉を待った。












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