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246:呪いの刃












「生ある者よ、瘴気に蝕まれるがいい!」



 叫びながら、バルドレッドがその刃を振るう。

 瞬間、纏う瘴気が風となって俺たちへと襲い掛かってきた。

 広範囲攻撃、それもかなりの広さを対象としているようだ。広範囲攻撃は威力に欠ける印象だが、伯爵級の攻撃である以上は油断することはできない。



「お前たち、俺の後ろに下がれ――《蒐魂剣》、【護法壁】」



 その攻撃に対し、俺はテクニックを発動しながら刃を足元へと突き立てる。

 その瞬間、足元から蒼い壁が発生し、俺の眼前へとそそり立つ。

 バルドレッドの放った瘴気はそこに正面から激突し――【護法壁】はその攻撃を見事に受け止めてみせた。

 俺を前にして真っ二つに斬り裂かれた瘴気は、しかし他の者たちには中々辛い攻撃であるようだ。

 パルジファルたちが前に出て防いではいるが、やはり全域をカバーするには至らなかったらしい。

 退避が間に合わなかった者達は、その直撃を受けることになってしまった。



「ぐっ……!? 新しい状態異常を確認! 『告死の呪い1』だ!」

「こちらも確認、蓄積型だ! ステ減を確認した!」



 そしてどうやら、こちらにも状態異常を発生させる効果が残っていたらしい。

 だが、聞こえてくる限りではこれまでのものとは名前が異なっているようだ。

 バルドレッド特有のものなのかは分からないが、名前を聞く限りでは普通の呪いよりも危険な効果であるようだ。

 具体的にどのような効果なのかは現状不明。しかし、受けて都合の良いものではないだろう。

 警戒心を高め――瘴気の向こう側から迫ってきたバルドレッドを迎撃する。



「はああああッ!」

「しッ!」



 斬法――柔の型、流水。


 突き立てていた餓狼丸を持ち替え、振り下ろされた刃の軌道を逸らす。

 それと共に前に出た俺は、バルドレッドへと肉薄しつつ左手で小太刀を抜き放った。

 狙うは、奴が瘴気を噴き出している鎧の隙間。そこへと向けて左の小太刀を突き立てる。



「『生魔』」



 瘴気をかき分けるようにしながら突き立った刃は、しかし大したダメージを与えることはできない。

 バルドレッドもそれは分かっていたのだろう、俺の一撃を無視してこちらへと体当たりを繰り出してきた。

 その一撃を勢いに乗る形で受け流し、次いで放たれた槍の一閃を回避する。

 大剣を元にしているためか、凄まじいリーチだ。あれを振り回されたら接近することすら難しいだろう。



(体当たりだけでは呪いにはかからないか。瘴気を利用した攻撃だけか?)



 まあ、普通の攻撃にまで呪いを付与されては堪らないが。

 着地した俺に対し、バルドレッドはこちらへと大きく槍を突き出してくる。

 瘴気を纏うその槍は、流石にまともに受けるわけにはいかないだろう。



「《蒐魂剣》!」



 斬法――柔の型、流水・渡舟。


 槍が纏う瘴気を打ち消しながら軌道を逸らし、槍の上で刃を走らせながら接近する。

 それに対し、バルドレッドは強引に槍を振り上げることで俺の攻撃を弾いた。

 何とも無茶な動きだ。これほど巨大な槍を、そんな風に扱えるのは詐欺だと言いたくなる。



「はああああッ!」

「チッ!」



 振り下ろされた一撃を横にステップして回避し、刃を構える。

 その瞬間、バルドレッドの背後から緋真が襲い掛かった。



「《術理装填》! 《スペルエンハンス》【フレイムストライク】――【緋牡丹】ッ!」

「甘いぞ、炎の娘よ!」



 その一撃に対し、バルドレッドは後ろ手に回した槍の柄で攻撃を受け止めた。

 流石に片手で受け止めきることは難しかったのか、背中を炎で炙られることになったようだが、それでは大したダメージにはならなかった。

 バルドレッドは、更に強引に槍を振るい、俺たちを近づけぬように薙ぎ払う。

 それに対し、俺は体を低く前傾姿勢になりながら、槍の下を潜り抜けるようにバルドレッドへと接近した。



「《練命剣》――【命輝閃】!」



 バルドレッドの横を通り抜けながら、その踵へと向けて刃を振るう。

 鎧の隙間のを狙った一閃は、正確にバルドレッドの踵を斬り裂く。

 その瞬間、バルドレッドは呻き声を上げながら片膝を着いた。

 ダメージは碌に受けないが、それでも体の構造自体は人間のそれと大差ない。

 アキレス腱を切られれば、動けなくなるのは当然のことだ。

 そして、その隙を狙い、『キャメロット』の面々が攻撃を再開する。

 まず降り注いだのは、上に控えていた高玉の部隊だ。



「【ライトミーティア】!」



 まず放たれたのは光属性の魔導戦技マギカ・テクニカ。その威力によって、バルドレッドの纏う瘴気を剥ぎ取る。

 それと共に放たれた他の矢や銃弾も、まとめてバルドレッドの身へと突き刺さった。

 瘴気を剥ぎ取った状態であれば流石にダメージも通るようだが――それでも硬い。

 纏う鎧はやはり頑丈であり、攻撃のほとんどは弾かれてしまっているため、有効なダメージには繋がっていないようだ。



「せりゃあああああああああッ!」



 だが、それで怯むような者たちではない。

 部隊を再編したラミティーズは、射撃攻撃が止んだ瞬間を縫うようにバルドレッドへと突撃した。

 奴の横手を駆け抜けながら振るわれる長物は、いくつものスキル効果を上乗せしながら鎧を打ってゆく。

 さしものバルドレッドも、その威力には体を揺らし、ダメージを受けることとなった。



「小癪な……!」



 だが――それでも、致命傷には程遠い。

 バルドレッドの鎧は頑丈だ。その上、致命傷を与えられる首が存在しないというのが非常に面倒である。

 一応、その辺りに首が浮いてはいるのだが、殆どが兜に隠れているうえ、ああもふらふら浮いていては刃を当てても斬れはしないだろう。

 バルドレッドは足を再生させたのか、苛立ちを交えた様子で立ち上がり――逆手に持った槍に、渦を巻くような瘴気を纏った。

 その量は体から発している量の比ではなく、何らかの攻撃準備であることが窺える。

 先ほどの瘴気による衝撃波の攻撃か。だが、槍を逆手に持ったあの構えは奇妙だ。

 一体、奴はどんな攻撃を行おうとしているのか。警戒しつつ餓狼丸を構えた瞬間、バルドレッドはその刃を地面へと突き立てた。

 そして、次の瞬間――地面に、いくつもの黒い点が発生する。



「ちッ!」



 それを目にした瞬間、俺は舌打ちと共に点のない位置へと退避した。

 その直後、黒い点の発生していた場所に、黒い瘴気の柱が発生した。

 予兆から柱の発生まで、タイムラグがかなり短い。気を付けていれば何とかなるが、厄介な攻撃だ。

 俺や緋真たちは何とか回避できたが、的が大きい騎兵部隊や防御部隊の一部は対処しきれず命中してしまったらしい。

 直撃を受けた者達は、大きなダメージを受けてしまったのもそうだが、それ以上に――



「うわあああああっ!? くそっ、離れろ、離れろ……ッ!」



 一人のプレイヤーの身に、黒い手のようなものが纏わりつき、その体を包み込んでゆく。

 やがて、その肌の全てが真っ黒に染まり――彼のHPは、一瞬で0になってしまった。

 それを見たパルジファルが、苦い表情で声を上げる。



「呪いが5まで溜まると即死だ、注意せよ!」



 どうやら、告死の名に恥じぬ厄介な効果があるらしい。

 元より直撃を受けたらそのまま死にかねないのだが、これは面倒だと言わざるを得ないだろう。

 呪いを解く手段もあるとはいえ、奴はこちらを常に意識している。

 のんびりと呪いを解いているような余裕は存在しない。

 ならば――あまり時間をかけず、短期決戦で決着をつけなければ。



「立て直せ、私が押さえる! 《プロヴォック》!」

「邪魔立てするかッ!」



 バルドレッドが、注意を引こうと前に出たパルジファルへと襲い掛かる。

 大きく振りかざされた槍はパルジファルの盾へと叩き付けられ――しかし、彼女は思い切り踏ん張ってその一撃に耐える。

 受け流すほどの余裕はないのだろう。しかしそれでも、彼女はギリギリ体勢を崩さずに受けきってみせた。

 しかし、最高の防御力を持つパルジファルでさえギリギリとなれば、他のプレイヤーに耐えられる保証はない。

 それに、ギリギリで耐えていたとしても、いつまでも耐え続けられるわけではない。

 上から射撃部隊による攻撃が続いているが、バルドレッドの行動を留めるには至っていないようだ。



「……ならば」



 上の状況を確認して、俺は前へと足を踏み出す。

 パルジファルに意識を集中させているバルドレッドであるが、こちらから完全に意識を逸らしたわけではない。

 だが、それはそれで好都合。パルジファルを攻撃しながら、同時にこちらも近寄らせぬように槍を大きく振り回しているバルドレッド。

 ――その頭上に、小さな影がかかった。



「ここなら、どうかしらね!」

「ぐ、がっ!?」



 それは、上空にいたセイランの上から飛び降りてきたアリスだった。

 彼女はバルドレッドの首の断面、奴の体で唯一露出している場所へと、全力で刃を突き立てたのだ。

 どうやら、そこは流石に弱点だったのか、バルドレッドの体が大きく揺れる。

 しかし、奴はそれでも腕を振るい、離脱しようとしたアリスの体を左手で捕えてしまった。



「ッ、ヤバ――!」

「姑息な鼠風情が、消え失せよ!」



 バルドレッドの腕から瘴気が滲み出る。

 舌打ちし、アリスを救出しようと前に出ようとするが、奴の槍の切っ先はこちらを向いたままだ。

 不用意に動けば、防ぎきれない攻撃が飛んでくることだろう。

 だが、このままでは呪いによってアリスが死ぬ。それを看過するわけにはいかない――そう考えた瞬間、一筋の閃光が走った。



「――ッ!? 貴様――!」



 それは、上空から一直線に舞い降りてきたルミナ。

 光を宿した刃でバルドレッドの左手首を狙ったその一閃は、奴の手こそ落とすことは無かったが、アリスを離させるには十分な威力であった。

 着地したルミナは、空中に放り出されたアリスをキャッチして――バルドレッドが反射的に振るった槍によって、吹き飛ばされて建物の壁へと叩き付けられていた。











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